第211話 夢のある魔導具
『卒業課題発表会』も終わり、三年生のクラスはとても緩みきっていた。
なにせ課題を全員クリアということは、卒業が確定したということ。
残りの授業はもはや消化試合でしかない。
授業をしていても上の空、いつもよりも多いコソコソ話、ひどいのになると思いっきり寝てる者まで。
……ねえねえ、卒業時の成績ヒドくなってもしらないよ?
そんな中、あの陰険メガネが悪い笑みを見せた。
「お前達、卒業が決まってかなり余裕のようだな。俺から一つ課題を出してやろう」
あの発表会の日で素がバレた先生は、もはや研究室と態度が同じだ。
ティミナたちの話では、二年生のクラスではまだ猫を被っているようなので、卒業までにバラしてやろうと思ってる。
で、もちろんあとはのんびり過ごせると思ってたみんなからは、不満の声が上がる。
中にはあからさまに机に突っ伏したり、天井をを見上げる者も。
「まあそうだろう。なので、タダでやれとは言わん。ちょうどこの前黎明祭の話をしたな? 課題に真剣に取り組むなら、交通費、宿泊費を負担して、お前ら全員連れて行ってやろう」
……
静まり返る教室。
しかし一瞬後には、
「うおぉぉっ、マジですか先生!」
「うわぁ、私王都行けるの!?」
「やったぁ、タダだぜ、おい!」
教室中が歓喜の声で溢れかえる。
様子を見る感じ、乗り気でないのは研究室メンバーくらいだ。
「はーい、せんせー」
「なんだ、セレナ?」
「その間の授業どうするの? 往復四日、一日泊まりとしても、最低三日は授業休まなきゃだけど?」
「どうせこんな腑抜けた授業をするくらいなら、タメになる一日を経験したほうがよかろう? すでに校長含め諸先生方からも許可を得ている話だ」
今回やけに手回しが良すぎるな。
何か裏で動いてるものがあるんだろう。
そこは後で聞くとして。
「私、もともと参加だから何の旨味もないんだけど?」
「そこについては後ほど話し合わせてもらおう。なに、悪いようにはせん」
ますますもって気持ちが悪い。
先生が『悪いようにはせん』だって。
いつもなら押さえつけてこようとするはずなのに。
「課題は、『後輩たちに残すモノ』だ。最後くらい先輩としてカッコつけてやれ。以上だ」
ちょうどチャイムが鳴り、先生は教室を出ていく。
私たちも実習室から教室へと移動を始めた。
道中の話題はもちろん課題のこと。
「後輩に残す……ねぇ。どこまでを言ってるんだろ?」
「どこまでって何よ。一年、二年しかいないじゃない?」
リディアが突っかかってくるが、レオニス先生のあの言い方が少し気にかかる。
「これからウルヴィスを目指す初等学校生も、広く捉えれば『後輩』じゃない? なーんかあの人、そういう仕掛けを考えてそうで気になるんだよね」
「けど、在校生のために動くのが、一番先輩らしくないかい?」
マルクスの言うことも一理ある。
というか素直に考えれば、それが普通の答えだ。
「まあどっちにせよ私は初動あまり動けないから、みんなよろしくね。来週には王都に行かないといけないから」
黎明祭まで日はあるが、アミーカと最終調整もあるし、これは伝えるつもりはないけど、ティミナたちのサポートのためにも近くにいてあげたほうがいいだろう。
「そうよねー、セレナはルーカスくんと片時も離れたくないものね」
「そーいうことじゃないっ!」
◇◆◇
その日の放課後、さっそくクラスのみんなで残り、課題について考えることに。
私の考えを伝えたところ、見事にクラスが真っ二つに割れた。
在校生向け対未来の入学生。
こんなので戦っても仕方ないので、まずはそれぞれに対して『残すモノ』を考え、より納得出来るモノを出した方を作ろうということになった。
「もう! セレナのせいで面倒になったじゃない」
寮に帰り、着替えてクッキーをパクついていると、マリーナからしっかりと文句を言われる。
そう言うならバチッとした答えを出して欲しい。
「いやさ、さらに混乱しそうだから黙ってたんだけど、あれでいいのかね?」
「何よ、まだ何か仕掛ける気?」
「人をいたずらっ子みたいに言わないでよね。違くて、あんな『どっちか』みたいなものを後輩のためって、納得すると思う?」
「……そうね、先生のまだまだだなって顔が目に浮かぶようだわ」
そうなのだ。
みんなの話を聞きながら、どちらかを切り捨てるみたいに思えてきて、そこがとても引っかかっていた。
……実はお腹が空いてたから、早く帰りたくて言わなかったというのはヒミツだ。
私はあらためてクッキーに手を伸ばす。
「うーん……夢?」
「夢?」
「あぁごめん、単なる思い付きだけど、何か夢を感じさせる魔導具ならいいのかなって。ここで学べばああいう魔導具が作れるかも? 今からでも頑張れば、あれを目指せるかも? みたいな憧れが必要なのかなって」
「だいぶふわっとしたこと言ってくれるわね。ただ、まあ言わんとするところは分からないではないけど」
そう言ってマリーナは紅茶を注ぎ、私の前に置いてくれる。
「ありがと」と、礼を伝えて私はそれを一口。
「ねぇ、今回私たち関わらないほうが良くない?」
「まあそうね、私も少しそう思ってきてたところ。研究室で力をつけた私たちは、学校の平均ではないものね」
「うん。だから話し合いには参加するし、作業のアドバイスはする。でも手は動かさない。そうした方がいいと思う」
「つまりみんなは後輩のために何かを残し、私たちはみんなに考え方を残すってことね。うん、私は賛成よ」
あとはみんなが変にずるいとか言い出さなきゃいいけど……。
しかし悪い予感は当たるもので、やはりクラスのみんなから文句が上がり、それはそれは面倒なことになってしまう。
そこで活躍し、場をまとめたのは、意外すぎる人だった。
消化試合もしっかり学ばせようという、レオニス先生の親心、ならぬ教師心。セレナたちはまた変なことを考えているようですが?
次回、第212話「自分自身の誇り」
セレナたちからの提案へ怒りの声をあげるクラスメート。自分たちも同じように参加すると言いかけたセレナを救ったのは、あの意外な人でした。




