第210話 卒業課題発表会
一月二十日。
今日は『卒業課題発表会』の日。
魔導具科のみならず、他の科でも各所で課題を発表するため、一年生と二年生はお休み。
なのに朝一から校門にティミナたちが集まり、激励に来てくれたのは、本当に嬉しかった。
「セレナ先輩、マリーナ先輩!」
「はっ? ティミナたちなんでいるの? 今日は休みでしょうに」
「何水臭いこと言ってるんですか。研究室の先輩の発表会に来ないなんて、そんな失礼なことするわけないですよ」
……あれ、去年のブレヴィス先輩とルディ先輩の時は、私めっちゃ休んでたけど。
マリーナも一緒だったので、二人とも失笑で返すしかなかった。
ごめん、先輩たち。
「私たちのことはいいから、みんなは黎明祭の準備頑張りなさい。大丈夫、研究室メンバーで優秀賞独占してきてやるわよ」
「じゃなかったら研究室入れませんからね」
「このっ、ティミナのくせにっ!」
ティミナの頭に手を置き、髪の毛をわしゃわしゃする。
それをさも嬉しそうに受け入れるティミナの顔に、いい後輩を持てて良かったと、つい頬が緩んでしまった。
「それじゃあ、行ってくるよ!」
「はい!」
ティミナたちはこれから来るリディアたちを待つそうだ。
見れば校内外ところ構わずに似たような集団があるので、同じようなことがあちこちで起きてるのだろう。
「なんか、いいわね、こういうの。寄付金頼りのあの頃なら、考えつかなかったんじゃないかしら、こんなやり取り」
「そうねぇ……って、マリーナ、なに卒業みたいな空気出してるのよ。まだ二ヶ月あるんだからね!」
「だーってえ、セレナいじめられなくなっちゃうじゃん」
「もういじめるとか隠さなくなったわね、親友……」
私の言葉にてへっと舌を出すマリーナ。
なんか婚約者問題が片付いてから、やけに子供っぽい態度が増えてきてるのは、やっと解放された反動だろうか?
まあ明るくなったのならいいことだと思う。
◇◆◇
私たちは発表会場の魔導具実習室へと足を踏み入れた。
いつも見慣れた教室。
今日は仕切りが外され、二つの実習室が繋がれている。
まるで、初めて来たような錯覚を覚えた。
クラスの仲間達はやはりピリピリしている。
これが通らなかったら卒業出来ない。
中には私たちに向けて鋭い視線を投げかける人も。
私たちも魔導具の最終チェックをする中、リディアたち三人がやって来た。
「おっはよー! 寝れた?」
「まあね。黎明祭出てたら、こんなの大したことないわよ」
「さっすがー。男できると違うね、リディア」
「それはアンタもでしょ!」
そうだった、つい隣にレオンがいないので、いつも通りのからかいを出してしまった。
すると用務員さんが大きな椅子を台車に乗せ、二人がかりで運んで、教室のすみに置いた。
「もしかして、あれ?」
「そ。かなり大きくなっちゃったけど、けっこう良かったわよ」
「へー。後で使わせて」
「いいわよ。もう五人くらい予約入ってるから、その後でね」
「うわっ、大人気じゃん!」
聞けば先生たちが何人か試したいとお願いしてきたらしい。
疲れてるんだろうなぁ。
こういうのが安く普及出来るといいんだけど。
しばらく話したり、魔導具チェックを続けていると、教室前方のドアが開く。
レオニス先生を先頭に、魔導具科を担当する先生たちが入ってきた。
みんなの手が止まり、自然と姿勢も正され、前を向く。
レオニス先生が教卓につき、他の先生方は両脇に並べられていた椅子に着席し、ノートを取り出した。
ゴクッ……。
誰かの喉が鳴る。
誰もがピクリとも動かない教室を前に、レオニス先生が口を開いた。
「この後に及んで言うことはない。皆が三年間学んできた成果を見せてもらう。言わずもがなだが、未達と評価されたら留年だ。心して望むように」
「はいはーい、先生」
「なんだ、セレナ。さっさと進ませろ」
「卒業課題のテーマ、あらためて聞かせて」
「はぁ? この期に及んで何を……。『未発表のオリジナル魔導具の開発と製作』だ」
「OK、あんがと」
「まったく」とかつぶやきながら、レオニス先生は教卓の上に資料を並べる。
他の先生方も同様だ。
事前に提出している課題の仕様書などだろう。
「では、発表番号一番……」
こうして発表会が開始した。
◇◆◇
「次、セレナ」
「はーい」
「返事は短く!」
「はいはい」
初等学校みたいなやり取りをしながら、私はその場に立ち、水筒を手に説明を始める。
すると、レオニス先生から指摘が入った。
「様々な飲み物をというが、水筒単体で叶うものではなかろう。そこは減点するぞ?」
「いいですよ。じゃあ追加でそれを叶えるものを持ってきますけど、ちゃんと加点してくださいね?」
「……いい、いらん。減点はなしだ」
分かってるくせにわざわざ指摘しないでほしい。
お気に入りの紅茶の粉末を、自分用にたくさん作ってたの知ってんだからね?
一通りの説明が終わると、拍手をもらう。
しかしそれをかき消すような、大きな声が私の体を打った。
「それはお前だけで作ったもんじゃないだろ。違反だ!」
はぁ?
振り返ると、たぶんほとんど話したことのないクラスメートが、目を吊り上げて私を指さしている。
「俺は見たぞ。黎明祭の日に、もう出来上がってる水筒を受け取ってたのを」
「そうよ。それに私が回路を引いて、付与を施した。何が違反なのよ」
「お前は『水筒』を作ってないじゃないか!」
あー、なるほど。
一から作るなら水筒すらも自分で作れということか。
バカみたい。
「じゃああんたは使ってる素材全てを自分で掘り出して作ったわけ? 違うでしょ。言い掛かりもはなはだしいわ」
「俺達はそれでもきちんと形を一から作ってる。お前は形すらも他人任せじゃないか」
「はぁ、黎明祭の権威もまだまだだね。じゃあ先に崩そうかな。レオニス先生、はい」
私が手を差し向けると、非常に苦々しい顔をしながら、
「『未発表のオリジナル魔導具の開発と製作』だ! 何度も言わせるな!」
「はい、ありがとうございます。で、分かった?」
「はぁ? 何がだ?」
「課題テーマのどこに『たった一人で』なんて条件あった? あんたが勝手に思い込んでただけでしょ?」
先程から文句ばかりの彼の口が、そこでようやく止まる。
そう、別に学校は生徒だけでなんて厳しいことは課していない。
どういう形であれ、作ればよいのだ。
そこに気づけるかどうかで、この課題の難易度はかなり違ってくる。
幸い私は場数を踏んでいたおかげで、すぐに気づけていた。
だからマリーナの融雪装置も手伝ったし、それを見てレオニス先生が咎めることもなかった。
「あとね、魔導具師だからって狭めることなくない? 水筒なんて鍛冶屋さんが専門、中に塗り込む薬剤なら薬師さん、私たちはそれを預かって、魔導具師としての仕事をすればいい。その方が、使う人だって嬉しいはずよ」
「セレナはそれで男捕まえたもんね」
「マリーナ、茶々いれるなっ!」
私は水筒をその男の子に放り投げた。
キャッチした男の子はいぶかしげな表情で私を見てくる。
「あげるよ、それ。使ってみて。プロの作った水筒だから使いやすいはずだよ」
「こら、セレナっ! 課題作品を勝手にやるな!」
「うっさいなー。また作って出せばいいでしょ」
「ダメだ! それは卒業式で発表させてもらう。その代わり落華摘粉も一緒にだ」
ツカツカと男の子の席へ行き、水筒を取り上げると、教卓へ連れて行く。
「あっ、ドロボー!」
「キサマ、留年させてやろうか?」
「先生も迂闊よねー。ここ、研究室じゃないよ?」
周りからはヒソヒソと「やだ、レオニス先生が?」とか「本当は怖かったの?」とか、主に女子生徒からの声が上がってる。
先生はしまった! という表情だが、もう遅い。
「ま、卒業前に本性知ってもらえて良かったんじゃない? いつもの怖い先生の方が、らしくて好きだよ」
「おぉっ、レオニス先生、あなた研究室で一体何を教えてたのですか!」
「先生、これは問題ですよ」
あら?
マリーナを見ると、机に突っ伏して、知らんぷりを決め込んでいた。
周りの先生たちはレオニス先生を囲み、ああだこうだと責め立てている。
えーと……。
「じゃ、じゃあ発表終わりまーす」
小さな声でそれだけ告げて、ゆっくりと席に座る。
そしてマリーナを見習って、私も寝たフリを決め込んだ。
あの後、レオニス先生に掴み起こされ、好きだよ発言が勘違いと分かり、発表会が再会されるまで約二十分。
発表会自体はその後つつがなく進み、優秀賞も私とマリーナ、リディアで独占した。
卒業式で優秀作品として紹介される予定だが、私は落華摘粉と一緒という条件がついた。
よし、これでティミナ達に顔向けが出来る。
そして会の締め、レオニス先生からの挨拶。
「あー、くだらん騒ぎがあったが、皆課題をクリアしてくれたことを嬉しく思っている。だが、これからが魔導具師としてのスタートであるということを忘れるな」
するとレオニス先生がチラリと私に視線を送ってきた。
ん、なんだろ?
「ちなみに来月、王都で黎明祭の決勝が開催される。昨年優勝者のセレナも参加する。この課題の出来だ、また優勝するだろう。勉学に余裕のあるものは、是非ともその腕前を見に行って欲しい」
こっ、こっのぉ〜!
仕返しか? 仕返しだよねっ!
何も気づかず、期待の眼差しを向けてくるクラスメートの視線が痛い。
隣のマリーナは真顔で話を聞いている風だが、頬がひくひく動いてる。
あんたもお仕置きするからね、後で。
こうして無事に幕を下ろした『卒業課題発表会』。
研究室でティミナたちから祝福を受け、マリーナにお仕置き(ハリセン&くすぐり)し、遅れて顔を出したレオニス先生と壮絶な口喧嘩……。
あれ、私今日何してたんだっけ?
魔導具は一人で作るものじゃない。セレナの思想が広がっていけば、もっと大きな産業に発展していきそうです。
って、「好きだよ」はダメだよね、セレナ……。
次回、第211話「夢のある魔導具」
卒業課題をクリアしたクラスメートたち。授業の雰囲気は緩みっぱなし。そこへレオニス先生が冷水をかけてきます。




