表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
笑顔を創る魔導具師セレナは、今日も世界をつないでいる  作者: 八坂 葵
第10章 学ぶ時間の終わり

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

210/271

第210話 卒業課題発表会

 一月二十日。

 今日は『卒業課題発表会』の日。


 魔導具科のみならず、他の科でも各所で課題を発表するため、一年生と二年生はお休み。

 なのに朝一から校門にティミナたちが集まり、激励に来てくれたのは、本当に嬉しかった。


「セレナ先輩、マリーナ先輩!」

「はっ? ティミナたちなんでいるの? 今日は休みでしょうに」

「何水臭いこと言ってるんですか。研究室の先輩の発表会に来ないなんて、そんな失礼なことするわけないですよ」


 ……あれ、去年のブレヴィス先輩とルディ先輩の時は、私めっちゃ休んでたけど。

 マリーナも一緒だったので、二人とも失笑で返すしかなかった。

 ごめん、先輩たち。


「私たちのことはいいから、みんなは黎明祭(プリマルクス)の準備頑張りなさい。大丈夫、研究室メンバーで優秀賞独占してきてやるわよ」

「じゃなかったら研究室入れませんからね」

「このっ、ティミナのくせにっ!」


 ティミナの頭に手を置き、髪の毛をわしゃわしゃする。

 それをさも嬉しそうに受け入れるティミナの顔に、いい後輩を持てて良かったと、つい頬が緩んでしまった。


「それじゃあ、行ってくるよ!」

「はい!」


 ティミナたちはこれから来るリディアたちを待つそうだ。

 見れば校内外ところ構わずに似たような集団があるので、同じようなことがあちこちで起きてるのだろう。


「なんか、いいわね、こういうの。寄付金頼りのあの頃なら、考えつかなかったんじゃないかしら、こんなやり取り」

「そうねぇ……って、マリーナ、なに卒業みたいな空気出してるのよ。まだ二ヶ月あるんだからね!」

「だーってえ、セレナいじめられなくなっちゃうじゃん」

「もういじめるとか隠さなくなったわね、親友……」


 私の言葉にてへっと舌を出すマリーナ。

 なんか婚約者問題が片付いてから、やけに子供っぽい態度が増えてきてるのは、やっと解放された反動だろうか?

 まあ明るくなったのならいいことだと思う。


 ◇◆◇


 私たちは発表会場の魔導具実習室へと足を踏み入れた。

 いつも見慣れた教室。

 今日は仕切りが外され、二つの実習室が繋がれている。

 まるで、初めて来たような錯覚を覚えた。


 クラスの仲間達はやはりピリピリしている。

 これが通らなかったら卒業出来ない。

 中には私たちに向けて鋭い視線を投げかける人も。


 私たちも魔導具の最終チェックをする中、リディアたち三人がやって来た。


「おっはよー! 寝れた?」

「まあね。黎明祭(プリマルクス)出てたら、こんなの大したことないわよ」

「さっすがー。男できると違うね、リディア」

「それはアンタもでしょ!」


 そうだった、つい隣にレオンがいないので、いつも通りのからかいを出してしまった。

 すると用務員さんが大きな椅子を台車に乗せ、二人がかりで運んで、教室のすみに置いた。


「もしかして、あれ?」

「そ。かなり大きくなっちゃったけど、けっこう良かったわよ」

「へー。後で使わせて」

「いいわよ。もう五人くらい予約入ってるから、その後でね」

「うわっ、大人気じゃん!」


 聞けば先生たちが何人か試したいとお願いしてきたらしい。

 疲れてるんだろうなぁ。

 こういうのが安く普及出来るといいんだけど。


 しばらく話したり、魔導具チェックを続けていると、教室前方のドアが開く。

 レオニス先生を先頭に、魔導具科を担当する先生たちが入ってきた。

 みんなの手が止まり、自然と姿勢も正され、前を向く。


 レオニス先生が教卓につき、他の先生方は両脇に並べられていた椅子に着席し、ノートを取り出した。


 ゴクッ……。


 誰かの喉が鳴る。

 誰もがピクリとも動かない教室を前に、レオニス先生が口を開いた。


「この後に及んで言うことはない。皆が三年間学んできた成果を見せてもらう。言わずもがなだが、未達と評価されたら留年だ。心して望むように」

「はいはーい、先生」

「なんだ、セレナ。さっさと進ませろ」

「卒業課題のテーマ、あらためて聞かせて」

「はぁ? この期に及んで何を……。『未発表のオリジナル魔導具の開発と製作』だ」

「OK、あんがと」


「まったく」とかつぶやきながら、レオニス先生は教卓の上に資料を並べる。

 他の先生方も同様だ。

 事前に提出している課題の仕様書などだろう。


「では、発表番号一番……」


 こうして発表会が開始した。


 ◇◆◇


「次、セレナ」

「はーい」

「返事は短く!」

「はいはい」


 初等学校みたいなやり取りをしながら、私はその場に立ち、水筒を手に説明を始める。

 すると、レオニス先生から指摘が入った。


「様々な飲み物をというが、水筒単体で叶うものではなかろう。そこは減点するぞ?」

「いいですよ。じゃあ追加でそれを叶えるものを持ってきますけど、ちゃんと加点してくださいね?」

「……いい、いらん。減点はなしだ」


 分かってるくせにわざわざ指摘しないでほしい。

 お気に入りの紅茶の粉末を、自分用にたくさん作ってたの知ってんだからね?


 一通りの説明が終わると、拍手をもらう。

 しかしそれをかき消すような、大きな声が私の体を打った。


「それはお前だけで作ったもんじゃないだろ。違反だ!」


 はぁ?

 振り返ると、たぶんほとんど話したことのないクラスメートが、目を吊り上げて私を指さしている。


「俺は見たぞ。黎明祭(プリマルクス)の日に、もう出来上がってる水筒を受け取ってたのを」

「そうよ。それに私が回路を引いて、付与を施した。何が違反なのよ」

「お前は『水筒』を作ってないじゃないか!」


 あー、なるほど。

 一から作るなら水筒すらも自分で作れということか。

 バカみたい。


「じゃああんたは使ってる素材全てを自分で掘り出して作ったわけ? 違うでしょ。言い掛かりもはなはだしいわ」

「俺達はそれでもきちんと形を一から作ってる。お前は形すらも他人任せじゃないか」

「はぁ、黎明祭(プリマルクス)の権威もまだまだだね。じゃあ先に崩そうかな。レオニス先生、はい」


 私が手を差し向けると、非常に苦々しい顔をしながら、


「『未発表のオリジナル魔導具の開発と製作』だ! 何度も言わせるな!」

「はい、ありがとうございます。で、分かった?」

「はぁ? 何がだ?」

「課題テーマのどこに『たった一人で』なんて条件あった? あんたが勝手に思い込んでただけでしょ?」


 先程から文句ばかりの彼の口が、そこでようやく止まる。

 そう、別に学校は生徒だけでなんて厳しいことは課していない。

 どういう形であれ、作ればよいのだ。

 そこに気づけるかどうかで、この課題の難易度はかなり違ってくる。

 幸い私は場数を踏んでいたおかげで、すぐに気づけていた。

 だからマリーナの融雪装置も手伝ったし、それを見てレオニス先生が咎めることもなかった。


「あとね、魔導具師だからって狭めることなくない? 水筒なんて鍛冶屋さんが専門、中に塗り込む薬剤なら薬師さん、私たちはそれを預かって、魔導具師としての仕事をすればいい。その方が、使う人だって嬉しいはずよ」

「セレナはそれで男捕まえたもんね」

「マリーナ、茶々いれるなっ!」


 私は水筒をその男の子に放り投げた。

 キャッチした男の子はいぶかしげな表情で私を見てくる。


「あげるよ、それ。使ってみて。プロの作った水筒だから使いやすいはずだよ」

「こら、セレナっ! 課題作品を勝手にやるな!」

「うっさいなー。また作って出せばいいでしょ」

「ダメだ! それは卒業式で発表させてもらう。その代わり落華摘粉(フロス・プルヴィス)も一緒にだ」


 ツカツカと男の子の席へ行き、水筒を取り上げると、教卓へ連れて行く。


「あっ、ドロボー!」

「キサマ、留年させてやろうか?」

「先生も迂闊よねー。ここ、研究室じゃないよ?」


 周りからはヒソヒソと「やだ、レオニス先生が?」とか「本当は怖かったの?」とか、主に女子生徒からの声が上がってる。

 先生はしまった! という表情だが、もう遅い。


「ま、卒業前に本性知ってもらえて良かったんじゃない? いつもの怖い先生の方が、らしくて好きだよ」

「おぉっ、レオニス先生、あなた研究室で一体何を教えてたのですか!」

「先生、これは問題ですよ」


 あら?

 マリーナを見ると、机に突っ伏して、知らんぷりを決め込んでいた。

 周りの先生たちはレオニス先生を囲み、ああだこうだと責め立てている。

 えーと……。


「じゃ、じゃあ発表終わりまーす」


 小さな声でそれだけ告げて、ゆっくりと席に座る。

 そしてマリーナを見習って、私も寝たフリを決め込んだ。



 あの後、レオニス先生に掴み起こされ、好きだよ発言が勘違いと分かり、発表会が再会されるまで約二十分。

 発表会自体はその後つつがなく進み、優秀賞も私とマリーナ、リディアで独占した。

 卒業式で優秀作品として紹介される予定だが、私は落華摘粉(フロス・プルヴィス)と一緒という条件がついた。

 よし、これでティミナ達に顔向けが出来る。

 そして会の締め、レオニス先生からの挨拶。


「あー、くだらん騒ぎがあったが、皆課題をクリアしてくれたことを嬉しく思っている。だが、これからが魔導具師としてのスタートであるということを忘れるな」


 するとレオニス先生がチラリと私に視線を送ってきた。

 ん、なんだろ?


「ちなみに来月、王都で黎明祭(プリマルクス)の決勝が開催される。昨年優勝者のセレナも参加する。この課題の出来だ、また優勝するだろう。勉学に余裕のあるものは、是非とも(・・・・)その腕前を見に行って欲しい」


 こっ、こっのぉ〜!

 仕返しか? 仕返しだよねっ!

 何も気づかず、期待の眼差しを向けてくるクラスメートの視線が痛い。

 隣のマリーナは真顔で話を聞いている風だが、頬がひくひく動いてる。

 あんたもお仕置きするからね、後で。



 こうして無事に幕を下ろした『卒業課題発表会』。

 研究室でティミナたちから祝福を受け、マリーナにお仕置き(ハリセン&くすぐり)し、遅れて顔を出したレオニス先生と壮絶な口喧嘩……。

 あれ、私今日何してたんだっけ?


 魔導具は一人で作るものじゃない。セレナの思想が広がっていけば、もっと大きな産業に発展していきそうです。

 って、「好きだよ」はダメだよね、セレナ……。


次回、第211話「夢のある魔導具」


 卒業課題をクリアしたクラスメートたち。授業の雰囲気は緩みっぱなし。そこへレオニス先生が冷水をかけてきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ