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笑顔を創る魔導具師セレナは、今日も世界をつないでいる  作者: 八坂 葵
第10章 学ぶ時間の終わり

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第209話 立場ごとの常識

 グレッダさんの屋敷での宴会も無事に終わり、私たちは次の日、それぞれの場所へと帰っていった。

 とは言っても、私はどうせあとひと月もしたら、黎明祭(プリマルクス)決勝のために、また王都に行かなきゃいけないので、正直別れって気分でもない。

 おかしいな、初等学校のこの時期は、もう少しのんびりしてたはずなんだけど……。


 で、帰って来て割とすぐに新学期が始まり、私たち三年生は目前に迫った卒業課題の発表会に向けて、各自準備に余念がなかった。

 そんな中、私はあることに気づく。


「あれ? そういえば私、カリウスとリディアの卒業課題知らないよ?」


 今日は実習室で作業を進める私たち。

 研究室は黎明祭(プリマルクス)の追い込みで忙しいので遠慮したのだ。


「私はセレナの足マッサージの機構を借りて、背中のマッサージが出来る椅子よ。言ったじゃない?」


 リディアがそう話してくるが、まったく記憶にない。

 いつ、そんなこと言ってたっけ?


「リディア、覚えてるわけないじゃない。あの時真っ赤になって布団被ってたんだから」

「まあ、私もそれ狙って聞いたところもあるからね」

「えっ、何。いつの話よ」

「子どものつ・く・り・か・た。の時よ」


 一気に顔が燃えるように熱くなる。

 周りの男子も女子も、面白いようにこちらを振り返り、マリーナじゃなくて私へ注目を向ける。


「ちっ、違っ、私じゃ……」

「セレナー、彼氏できたからって、こんなところで子作りの相談は、はしたないよ?」

「マリーナっ!!」


 ザワザワッ!


 男子の反応は様々だ。

 ニヤニヤして友だちと話してるのもいれば、顔を真っ赤にしてる者。

 なぜか涙を流してる人もいた。


 そして、女子は……うん、まあやめとこう。

 一時間ほど記憶がなかった。

 そういうことにしておいて欲しい。

 その日帰ってから、マリーナと一切口を聞かなかったほどにはきつかった。

 さすがに泣いて謝ってきたから、寝る前には許してあげたけど。



 次の日。

 さすがにいたたまれくなり、私たちは研究室へと逃げてきた。

 他のみんなは私がいないことで、代わりに話を聞かれるので逃げてきたらしい。


「で、昨日は誰かさんのせいで聞けなかったけど、カリウスは何作ってたの?」

「俺はこれだ」


 カリウスが見せてきたのは、細い手持ちの筒。

 持ち手は一つで、その先が二つに分かれている。

 長さとしてはペンの二倍まではいかないくらいだろうか。

 振ってもヒュウヒュン音が鳴るだけ。


「なに、これ?」

「レオンから……」

「しっ! よそではルーカスね」


 カリウスの迂闊さは怖い。

 なにせ迂闊にマルクスの想い人をリディアだと私にバラすくらいだ。

 ……私とのこと、他で言ってやしないよな?


「あ、ああ。ルーカスが生きのびることが冒険者の責務だというからな。生き延びるための魔導具を作ってみた」

「これが?」

「そうだな……少し外に出るか」


 そう言ってカリウスが研究室を出ていくので、付いていく。

 出掛けにマルクスたちも誘ったら、全員がみんな付いてきた。

 あのね、黎明祭(プリマルクス)の準備とかいいの、みんな?



 カリウスは魔導演習場のすぐ近くまでやって来た。

 隣には運動用のグラウンドがあるが、今は誰の姿も見えない。

 カリウスは足を止めて先程の筒を取り出し、何やら悩んでいる。


「どーしたのよ?」

「いや、どの方向なら被害が少ないかと思ってな……まあ大丈夫だろう」

「え、被害? ちょっと、カリウス、待っ……」


 私の言葉が終わる前に、カリウスはグラウンドに筒を向け、カチリとスイッチを入れた。

 途端に筒から強烈な光が放たれ、ゴウゥゥッ!と、力強い風が迸る。

 風は土を巻き上げ、砂嵐のようにグラウンドを駆け抜けて、遠く先にある学校の外壁にぶつかり、ドオォォンッ!という衝突音をあげた。

 私が横に手を伸ばすと、親友から望み通りのものが手渡される。


「ふむ、威力は抜群だな」

「言うことはそれだけか、このバカリウス!」


 スパァァァァンッ!!


 お? なんか威力が強い?

 ハリセンを受けたカリウスは、バランスを崩して、膝から崩れ落ちた。

 私のハリセンなら、つんのめるくらいで膝をつくなんてあり得ない。


「マリーナ、もしかして『硬化付与』した?」

「ええ、護身用武器として使いたかったからね」

「そんな凶悪なもん渡すなぁっ!」

「えー、セレナが欲しがったくせにぃ」


 こ、こいつは……。

 カリウスは頭をおさえてすぐに立ち上がってきた。


「お前が見たいというから見せたのだが」

「程度ってもんがあるでしょ! それ強弱くらいはあるのよね?」

「いや、これだけだ」

「付けなさい、今すぐ、何より、一番早く! 街中でこんなの間違えてぶっ放してみなさい。あんた捕まるわよ。常識を知りなさい、常識を!」


 納得のいかない顔で「あぁ」と返事をするカリウスだけど、森の中でもこの威力は犯罪じゃないのか?

 まあコンセプトは分かった。

 要は目眩ましをして、風で怯ませ、その間に逃げる。

 だからって……ねぇ。

 冒険者の常識が分からない。

 ちょっと今度黎明祭(プリマルクス)終わりにレオンを連れてこよう。

 学校で死傷者が出る前に……。



 こんな日が続くとすぐに『卒業課題発表会』がやってくる。

 そして案外私の言ったことは、まだまだ広まってないんだなと思わされた。


 カリウスの魔導具、セレナが持ってたら護衛いらないんじゃ?(笑)

 久々の仲間内のおバカ回。こういうの書いてるとほっこりしてしまいます。


次回、第210話「卒業課題発表会」


 さあいよいよ締めに向けたイベントの一つです。発表する場で何が起きるか、どうぞお楽しみに!

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