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笑顔を創る魔導具師セレナは、今日も世界をつないでいる  作者: 八坂 葵
第10章 学ぶ時間の終わり

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第205話 本質を掴む

「おお、セレナ嬢。よく来てくれた」 


 私はオーギュスト様にカーテシーをしながら、


「お久しぶりです。いつもアミーカを気にかけてくれてありがとうございます」


 と伝えた。


「ほっ、さっきグレッダに叫んでたのとはまったく違うな。切り替えが上手いのは貴族として必要な技術だ。成長しているな」


 そう言って微笑んでくれる。

 うん、やっぱりオーギュスト様が一番貴族っぽいね。


「ところで来てもらったのは他でもない、粉末の件なのだが、あれは酒はできるのかね?」

「お酒は……魔導具で凍らせられなくて。何か別のアプローチが必要みたいなんですけど。ほら、私学生だからあまり出来なくてですね」

「そうだったな。いや、済まない。王が好きな酒を粉末にして、料理に使えればと思ってな」


 あ、あっぶなぁ。

 出来てたら王様案件だったよ。


「い、いやー、残念だなぁ。お役に立てなくて」

「ふふ、嘘はまだまだだな。そういう時は黙っていることも一つの手だぞ?」

「なーんか沈黙苦手でつい……」

「さて、では二人へのヒントだな。アミーカ嬢、現段階で構わない。これをどう使おうと考えてる?」


 アミーカは少し考えて


「例えばセレナと話してたのは、生姜焼きのタレの代わりに粉末をかけることで、タレまみれにならずに、肉と味付けが均等に味わえるかと思います」


 と答える。

 オーギュスト様はその答えに目を閉じて、一つ頷くと、私に向けて聞いてきた。


「セレナ嬢も同じ考えか?」

「はい。……とは言っても私は生姜焼きのアイデア以降は、基本的にアミーカにお願いしてたので」

「ふむ、そうか。では一つ。その方法はソースでもさほど変わらないのではないか? 大切なのは粉末だからこそ活きてくる味。ソースにはない粉末の利点。それを考えてみるといい」


 オーギュスト様はそう言うと、エプロンを外して会場へと向かった。


「ソースにはない、粉末の利点?」

「うーん。たぶん水分があるかないかだと思うんだけど。水分がないからこそいいものって何だろう?」

「アミーカは学校で料理してて、そういうのなかったの? 水分がなければ出来るのになぁって料理」


 するとアミーカは調理場の脇に置いてあったカバンから、学校の教科書であろう本を取り出して、机に広げた。

 パラパラとめくられていくページを隣で見ていると、教科書に書き込まれたメモや赤いラインなど、アミーカの努力の跡がうかがえた。

 初等学校の頃、王都で経験したことを何一つ漏らすまいと、必死にノートをとっていた彼女の姿が重なった。

 そして、サラダのページを開いた時に、アミーカの手が止まる。


「セレナって、サラダ食べる時何で食べてる?」

「え、フォークだけど」

「違うっ! 味付け」

「あぁ。でも寮ならオリーブオイルとハーブ塩。お店ならドレッシングじゃないかな」

「そうよね。それなら……」


 アミーカが突然動き出し、大きな平皿を置き、そこに葉野菜や生ハム、チーズやローストされたクルミを砕いたものを、お皿の外周に沿って配置していく。

 まるで葉野菜で作られたリース型のベッドで、チーズや生ハム、クルミたちが寝てるようだ。

 そこに霧吹きを持ってきて数回噴射し、胡椒を振る。


「セレナ、今ハニーミルクの粉末って持ってる?」

「あ、ああ。レオンが持ってるかも。ちょっと待ってて」


 私は急いで会場に戻り、レオンに確認すると、部屋にあるとのことなので、調理場に持ってきてもらうよう伝える。

 調理場で待つと、ほどなくレオンがやって来た。


「これでいいか?」

「うん、ありがとう、ルーカス……あ! レオン様、でしたね」

「やめてくれ。セレナの親友だろ? レオンでいい」

「じゃあせめてさん付けさせてくださいね、レオンさん」

「ああ、それで構わねぇ」


 アミーカは先程の皿の上からハニーミルクの粉末を振りかけていく。

 なるべく全体に、でも厚くなり過ぎないように。

 皿を見つめるアミーカの視線は真剣そのものだった。


 むくり。

 私の胸の中で『魔導具を作りたい!』という欲が湧き起こる。

 何を、というのは特にない。

 ただ、プロの目で手を動かすアミーカに触発された。

 やっぱり、アミーカには負けたくないんだな、私は。

 初等学校の頃から変わらない青さを感じて、思わず笑みがこぼれた。


「出来た! 二人とも試食してくれる?」


 葉野菜を包む生ハムを噛み締めると、ハニーミルク粉末が口の中の熱で溶け、甘みがふわりと広がる。

 生ハムの強い塩気と旨味が絡み合い、最後に葉野菜の苦味が全体を上品に引き締めた。

 一つ一つの味が絡み合い、最後に全体としてまとまり、胃の中へと落ちていく。

 食べた途端に私のお腹がぐぅ、と鳴った。


「うっ! ご、ごめん、食べた後に」

「ふふっ、いいのよ。コース料理のサラダは胃を刺激して、食欲を高める役割があるの。セレナ、まだどうせ何も食べてないんでしょ? だとしたら、このサラダは役割を果たしてるってことよ」


 そこへオーギュスト様が戻ってきた。

 調理台の上に置かれたサラダに視線を向け、ふっと微笑む。

 そしてエプロンをして、調理場の奥へと戻っていった。


「ひとまずは……ってとこかな?」

「だね。セレナ、私は来月いっぱいかけて、これの完成度を高める。だから年明けはもう大丈夫だよ」

「分かった。まだ調理残ってるの?」


 アミーカは調理場を見渡す。

 奥で何かの作業をしてるオーギュスト様以外は、みんな少しずつ周りを片付け、最小限の準備だけを残しているようだ。


「ううん、もう大丈夫。あとはしばらくして料理が減ってきたら、都度動けばいいから」

「じゃさ、バルドさんたちのところ行こう。せっかく来てくれてるのにアミーカいないんじゃつまんないよ」

「ふふっ、そうだね。行こう」



 私たちは手を取り合い、会場へと小走りにかけていく。

 ……後でレオンに俺を置いてくなと、少し怒られちゃったけど、ま、仕方ないよね?


 お酒の粉末が出来たら、それだけを舐めちゃう人も出てきそうですね(笑) そしてアミーカの姿にやる気を触発されたセレナ。やはり二人は「コンビ」だなぁと思わされます。

 

次回、第206話「心からの激励」


 バルドさん、フローラさんを交えてアミーカと話していると、会場に戻ってきたカイルを見つけ、セレナはレオンを連れてカイルのところへ。沈んだ表情は怒られたからばかりではないようで……?

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