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笑顔を創る魔導具師セレナは、今日も世界をつないでいる  作者: 八坂 葵
第10章 学ぶ時間の終わり

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第204話 宴の人々

「セレナ嬢」


 乾杯のすぐ後、私はグレッダさんに呼ばれる。

 まあ、勝手に話しちゃったし、謝らなきゃいけないと思ってたから、ちょうど良かった。


「グレッダさん……」

「ありがとう、セレナ嬢」

「へっ?」


 予想外の感謝に、間抜けな声を上げてしまった。

 怒られこそすれ、感謝されることはないと思うんだけど。


「俺はセレスに怖くて尋ねられなかった。仕事に支障がでるやもしれん、下手をしたら辞められてしまうかもとな。そこをいとも簡単に乗り越え、こうして幸せな時を迎えられたのは、セレナ嬢のおかげだ。本当にありがとう」


 グレッダさんは深々と頭を下げ、セレスさんまでもがそれにならう。

 あまりに予想と反した出来事が続き、私の頭はパニック状態だ。


「ちょ、ちょっと、やめてよ。私が勝手に……」


 そこまで言ったところで、後頭部にスパーン!という音とともに、衝撃が走る。


「あいたっ! 誰よっ!」


 振り向くと目をつり上げたリディアと、ニヤニヤ顔のマリーナがいた。


「セレナ、あんたうちらだけじゃなくて、伯爵様にまで公開処刑みたいな真似して、何してんのよぉっ!」


 再度振り下ろされたハリセンを何とか避け、私はそのまま逃げ去ることにした。

 追いかけてくるリディアに向かって手を伸ばした。


風壁(アウラムールス)

風解除(ソルウェ・アウラ)


 なっ!?

 リディアとの間に風のバリアを入れて、足止めするつもりが、瞬時に破られた。

 動揺してる隙に、リディアからの渾身の一撃が頭頂部を襲う。


 バゴッ!


 激しい痛みに私は頭を抑えて、そのまましゃがみ込んだ。


「いったぁーい!」

「セレナ、ワンパターン過ぎ」


 リディアの後ろからひょこっと顔をのぞかせたマリーナの手元に、緑色に輝く風の魔石が握られていた。


「マリーナ、いつの間にあんな魔法を?」

「ん? ちょっと前かな。セレナよくあの手で逃げるし、捕まえる時に使えるなーって思って」

「親友捕まえるために魔法覚えないでよねっ!」

「お前ら。グレッダの屋敷であまり騒ぐな。迷惑だ」


 いつの間に近寄っていたのか、私の後ろからレオニス先生がそう注意してきた。

 そう言えば先生には伝えておかなきゃいけないことがあったな。


「あ、先生。私、卒業したらベーネさんの工房で働くことにした」

「そうか。まあ侯爵家との繋がりも強まったようだしな。お前がそう決めたなら、あとはその道で頑張れ」


 言葉短くそれだけを言って、去っていく。

 先生……。

 ――そんなんじゃ誤魔化されないよ?

 朝さっさと逃げた恨みは。


「パパー、レオニス先生が今日は朝まで飲みたいってさー」


 ママとパステルさんの間で板挟みになり、肩身狭そうにしていたパパに声をかけると、一気に元気になった。


「おおっ、レオニス! グレッダ、お前も来い! 祝い酒だ、飲み明かすぞぉぉっ!」


 席を瞬時に立ち、レオニス先生へと迫るパパ。

 こちらへ逃げてくるレオニス先生の袖を掴み、私は先生を止める。


「セレナ、貴様ッ!」

「朝、逃げてくれたよねぇ? だから罰として朝までコースでよろしくね」


 その隙にパパが追いつき、レオニス先生の手を引き連れて行った。


「お達者で〜」


 ハンカチをひらひらと振って先生を見送った私は、ママたちのところに遊びに行く。


「おもちゃ取っちゃってごめんね〜」

「まったくよ。せっかくパステルさんと楽しく追い込んでたのに」

「はは、マリエッタさん、だいぶ楽しそうでしたもんね」


 本気で残念そうなママに、どこかホッとした表情のパステルさん。

 これは、パパの過去えぐってたな?

 昔は気にしてないとか言ってたけど、やっぱりママ、嫉妬深い?


「あ、パステルさん。ちょっと勤め始めてからになると思いますけど、調合の件、お願いしていいですか?」

「ホントっ!? ありがとう。いつでも連絡待ってるから。あ、住所書いておくわね」

「なーに、あんた師匠とパステルさんと……レオンくん、だっけ? 初仕事で三股とか生意気じゃない」


 拳で私の頭をグリグリしてくるママの手を払う。


「ママだってパパから少し習ってたでしょ? 一緒じゃない」

「へ? 私習ったことないわよ?」

「は? だって昔パパに習った時に、ママにも教えたって言ってたよ」


 ママは目線を上げて人差し指を顎に当てて考え込む。

 あれ?

 これ本気で覚えてなさそう?

 その時、ポンと手を叩いた。


「ああっ! アンタ拾った日よ。その日から習うってなって、朝調合だけして、昼から森で素材採集。そしたらアンタ拾ったから、そのままなし崩しで習うヒマなくなったの」

「えっ、じゃあ調合は?」

「出来ない、出来ない。いくら私でも一回やったくらいで覚えらんないわよ」


 えぇー!

 せっかくママみたいに……とか思ってたのに。

 すると空気を読んだパステルさんが、残念そうな声で聞いてきた。


「セレナちゃん、やっぱりやめとく?」


 うーん。

 でも出来たほうが楽なのは確かだし、それに……作れるようになったら、完全にママを超えられるよね!


「いや、やります! ママを超えられるチャンスだもん」

「ほぉ〜、言うようになったじゃない。パステルさん、知ってる? 初等学校の時、この子博物館で友だちと大泣きしてたのよ」

「かっ、関係ないじゃない、そんなの」

「『アミーカが私の何を知ってるのよ!』とか被害者ヅラしてさ。あー、あれは見てらんなかったわ」

「もー!!」


 ママの膝を叩くと、ちょうどそこへクスクス笑いながらアミーカがやってきた。


「懐かしいですね。あの時は私も泣いちゃって恥ずかしかったです」

「ほら、これが余裕ある大人の女よ。やっぱりアミーカちゃんには敵わないのかしらね」

「マリエッタさん、セレナはセレナでいいところいっぱいありますよ」

「……アミーカ、なんか悲しくなってきたからやめよ」


 私の表情に色々と悟ったアミーカは苦笑いを浮かべる。

 なんか、いいもん。

 頑張るもん。


「あ、セレナ。オーギュスト様が呼んでるから少しいいかな?」

「オーギュスト様? うん、分かった」



 私はアミーカとともに調理場へと向かう。

 そこで私たちは黎明祭(プリマルクス)に向けたヒントとなることを聞くことになるんだ。


 グレッタに感謝され、リディアに殴られ、レオニスをハメて、ママにからかわれ、セレナは大忙しでしたね(笑)

 

次回、第205話「本質を掴む」


 オーギュスト様に呼ばれたセレナは、落華摘粉フロス・プルヴィスの相談を持ちかけられますが……。

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