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笑顔を創る魔導具師セレナは、今日も世界をつないでいる  作者: 八坂 葵
第10章 学ぶ時間の終わり

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第202話 未来の可能性

 私はレオンの手を引き、屋敷の外へ出て、少し離れたところで手を離した。


「ふぅ、これくらい離れれば大丈夫でしょ」

「いきなり何だってんだ、分かるように説明しろ」

「あのね、カイル様に何かちょっとしたものでいいから、結婚祝いみたいなの贈れないかなって思って」

「結婚祝い? まだしてないのにか?」

「こういうのは気持ちでしょ。ねぇ、カイル様の好きなものって何?」


 レオンは目を閉じてうーん……と深く考えこんでしまった。

 あまり実家に帰ってないって言ってたから、案外知らないのかもしれない。


「兄上な、あれでいて案外こだわりがないんだ。そりゃ表向き、貴族としての姿勢を崩すことはないんだがな」


 そう言うと、胸元から手彫りだろうか、木の彫刻が先についたネックレスを取り出した。


「これ、兄上からもらったんだ。つい最近だぞ。いくらしたと思う?」

「んー、こんなの詳しくないからなぁ。でも、すごく洗練された線じゃなくて、不器用だけど一生懸命に彫った。そんな気がする」

「さすがだな。これな、王都の庶民のエリアで見つけた、子どもが彫った作品なんだ。まあ串焼き一本程度の値段だ」


 子どものお小遣いで買えちゃうそのネックレスを、侯爵家の次期当主が購入する。

 というか、そんな人が貴族街から離れて自由に王都を歩き回るって……私ならやめてほしいなぁ。

 どちらの立場に立ったとしても。


「まさに本質を見るってところね。で、カイル様はその子の何が気に入ったわけ?」

「目だとさ」

「目?」

「あぁ。本人目の前に言うもんじゃないかもしれんが、セレナに似てたんだとよ、目の輝きが」


 カイル様の前では主に濁った目しかしてなかった気がするけど、目悪いのかな?


「まあ、そんなわけで、何が? と聞かれると、何でも好きだし、全てが嫌いなんだよ、兄上は」

「なんてめんどくさい……」


 しかし今の話で一つ思いついたことがある。

 全然プレゼントでもないし、むしろ私が嬉しいだけのものなんだけど。


「ねぇ、キアネアちゃんって、アドルフォス家に来てどれくらい?」

「なんだよ突然。キアネア? あー、五年はいるんじゃねえか? セレナと初めてあった時にはもういた気がするからな」

「五年か」


 あとは本人に聞いてみたいけど、今日いるかな?

 とりあえず試しに手を二回鳴らしてみる。

 するとレオンが即座に後ろを振り向き、上を見上げる。

 彼の「はぁ……」という溜息と同時に、キアネアちゃんが私の前に飛び降りてきた。

 毎回どこに登ってるのか不思議で仕方ないけど。


「キアネアちゃん、私卒業したら王都に来るから、たぶん護衛の任務終わっちゃうと思うんだけど、その後ってどうするの?」


 すると、私とレオンを交互に見比べる。

 首をひねり、私の耳元に口を寄せてきた。


「……レオン様のこと、好きなの?」


 ちょっ、ちょっと耳元でそれ聞かれると、ドキッとするな。

 私はチラリとレオンを見て、キアネアちゃんの目を見て頷いた。

 あー、顔が熱いっ!


「そう」


 キアネアちゃんは私を引っ張って、レオンの隣に立たせる。


「セレナの好きな人なら、いい」


 と、レオンと私の目の前でキアネアちゃんは声を出してくれた。


「ほ、ホントにしゃべっただと!」

「だから言ってるじゃない。信じてなかったの?」

「いや、家の者でもアトラ以外じゃ俺が初めてだぞ、コイツの声聞いたの」

「コイツって言わない! キアネアちゃん、よ」


 私の言葉に顔をしかめつつも、「悪かったよ」と素直に謝ったから、許してあげよう。


「セレナの護衛、終わるの?」

「うん、前にカイル様、私がウルヴィスで遠いから護衛付けたって言ってたし、王都に来るなら終わると思うよ」

「……やだ、な」


 キュっと胸が締め付けられるような声で、キアネアちゃんが答えてくる。

 私にはその一言で十分だ。


「よし、キアネアちゃんもらおう!」

「バッ、バカ、お前正気か? ってか兄上のプレゼントは?」

「だから、これ」


 そう言って私はキアネアちゃんを抱きしめた。

 すると見せつけるみたいに、キアネアちゃんはレオンにピースサインをして見せた。


「子どもの目の輝きに価値を見いだせる人なら、キアネアちゃんをまた元の仕事に戻して、誰とも話さないなんて道を選ばせはしないでしょ?」

「まあ、それは、そうかもしれねぇが……」

「キアネアちゃんがよりよい道を歩ける、そんな選択肢を提示すること。それが私からのプレゼントってことで」

「うーん、理屈は分かるんだけどよ、なんかセレナの都合のいいように、言いくるめられてる気がするんだよな」


 ちっ、さすがにマリーナ並に鋭いな。

 彼女なら言いくるめてるまで言い当てるだろうけど。


「まぁ、とは言えそれだけじゃなんだから、花束の一つでも買っていこっか。せっかくだからキアネアちゃんも一緒に行こ」

「キアネアに、俺か? お前は相当贅沢な護衛の中歩けるわけだな」

「へへー、安心できていいでしょ?」

「私、守る。まかせて」

「うん、よろしくね、キアネアちゃん」


 こうして私たちは結婚のお祝いの花束を作ってもらい、そのまま屋敷に帰ってきた。

 玄関前に見慣れない馬車が停まっていて、屋敷に入ると、ちょうどすぐ目の前でカイル様とテレージア様が談笑していた。


「おや、レオンにセレナ嬢、おかえり。ん? キアネアも一緒とは珍しいね」

「あ、ちょうどいいところに!」


 私はテレージア様の前に行き、持っていた花束を渡した。


「これは?」

「へへっ、カイル様から結婚の日取りが決まったって聞いたから、せめてものお祝いです」

「まあ! 嬉しいわ、ありがとう、セレナさん」


 テレージア様は花束をお付きの人に渡すと、私の頬に自分の頬を寄せてきた。

 ふわぁ、すべっすべ!

 私の頬のせいで、テレージア様の頬が傷つかないか心配になってくる。


「聞けばレオン様とお付き合いされているとか。庶民の方のそれは私にはよく分かりませんが、うまくお話が運び、あなたのお義姉さんになれたらいいですね」


 っ……!

 その手があったか!


「よし、レオン。結婚しよう!」

「するかっ! 動機が不純すぎるだろうが!!」

「えー、だってテレージアお姉ちゃんとか呼んでみたいじゃん」

「お前、貴族なめてるだろ。もし結婚したとしても、呼び方は『テレージアお義姉様』か、『お義姉様』だ。『ちゃん』とか言うわけねぇだろ」


 あーー!

 そうだった!

 貴族、めんどい。


「うぅ、残念。レオン、別れましょう」

「アホかっ! ぜってぇ逃さねぇからな」


 そのセリフは犯罪者だよ、レオン。

 そして私たちのこんなやり取りを微笑みながら眺めているテレージア様は相当強い。


「ははっ、楽しそうで何より。セレナ嬢、ありがとう。わざわざこのためにでかけてくれたのかい?」

「うん、私じゃカイル様の好みが分からなくて。だからレオン連れてったんだけど……」

「俺じゃ兄上の好み、よく分からなくてさ。結局花束になっちまった。すまないな、兄上」

「いいさ、こういうのは気持ちが嬉しいものだよ。レオンもありがとう」


 レオンの肩に手を乗せると、カイル様はキアネアちゃんに視線を向け、その後私を見た。


「ところで、キアネアはどうしたんだい? 屋敷の中で護衛も何もいらないだろうに」

「あぁ、カイル様へのプレゼントです」

「プレゼント……とは? 彼女はうちの者だから、プレゼントも何も」

「カイル様、この子の声聞いたことあります?」

「いや、ない。アトラ以外話さないからね」


 私はキアネアちゃんの前に行き、彼女の目を見つめた。


「キアネアちゃん、私に向けて話す形で構わない。他の人にも声、聞かせられるかな?」


 彼女は顔をしかめてうつむいてしまう。

 彼女がそれを嫌っていることは十分承知の上だ。

 けど、だからと言ってこのままじゃ、キアネアちゃんに笑顔が戻らなくなってしまいそうで。

 これを出来るのはきっと私しかいない。

 だから……。


「お願い。私もあなたと一緒にいたいの」


 その言葉に彼女の顔がパッと跳ね上がる。

 私を見つめる彼女の目には、ひどく驚いた表情が浮かんでいた。


 そう……か。

 さっき私は、キアネアちゃんからヤダという答えはもらったけど、私がキアネアちゃんを必要とは言えてなかった。

 だから不安だったのか。

 あー、もっとちゃんと想いを口にしていかなきゃダメだな、私は。

 ガシガシと頭を掻く。


「さっきは言えてなかったね、ごめん。せっかく知り合えて、お話も出来るようになったのにお別れは私もイヤなの。だから、私のそばにいてくれないかな?」

「いい……の?」


「ほ、本当に話しただと!」


 カイル様のひどく驚いた声が聞こえる。

 セリフがレオンと似てるのは、さすが兄弟だね。


「うん。私はそうして欲しい」

「うれ、しい……」


 私の胸に飛び込み、声を殺して泣くキアネアちゃん。

 彼女の初めて見せる涙に、私はただただ背中をさすり、頭を撫で続けた。

 そして、カイル様へ顔だけを向ける。


「輝いた目を持つ、未来の可能性が好きなんでしょ? 五年かけてアトラさん以外と話せなかった彼女は、一年経たずに私と話せてる。私が責任を持って、彼女を明るい未来へ繋いでみせる! それが、私から可能性大好きなカイル様へのプレゼントよ」


 カイル様の隣でレオンがネックレスを見せて、「わりぃ、兄上」と謝っている。

 それで全てを察したようだ。


「なるほどね、そう言われてしまうと弱いな。だが彼女には今までの仕事の情報を知られてしまっていてね。そうやすやすと渡すわけにはいかないんだ」


 あ……。

 あれ、どーしよう。

 言っていいのかな?

 でもアトラさんに口止めはされてないしな。

 いっか、言っちゃえ。


「あー、それ、ちょっと言いにくいんですけど……覚えてないそうです、過去の仕事」

「覚えてない? そんなバカなことがあるかい?」

「残念ながら、ホントみたいです。アトラさんと一緒に確認して、その後アトラさんだけでも確認したらしいんですけど。仕事はついて行った、言われた通りにやった、だけらしくて、場所も内容も覚えてない、と。アトラさんも憔悴しきった顔をしてましたよ。ここまで無関心だと思わなかったって」


 カイル様とレオンが、口を開けてぽかーんとしてしまってる。

 まぁ、私も初めて聞いた時は同じ顔をしていたろうから、気持ちは分かる。

 あとは彼女が仕事を始めたのが比較的最近だったからということもあるだろうけど。

 それにしたって……ねぇ?


「ちょ、ちょっと色々確認だけさせてくれ。返事はその後でいいかな?」

「はい、お気持ち、よく分かりますから」


 力なく頷き、カイル様はテレージア様に支えられつつ、去っていった。

 私はレオンと顔を見合わせ、お互い力ない微笑みを交わす。

 とんでもないことをしてくれていた銀髪の少女は、そんな混乱などどこ吹く風で、いつの間にか泣き止み、きょとんとした顔でカイル様を見送っていた。


 キアネアの仕事への態度が酷すぎましたね。いや、むしろ彼女らしいか(笑)

 

次回、第203話「はじまりの合図」


 グレッダが帰宅。どうやらギルドの依頼をこなしていたそうですが。セレナは気になっていたことを聞きに、グレッダさんの部屋を訪れます。

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