第196話 予想外の道
「もしかして、パステルさん?」
私の声に金髪のその女性が顔を向ける。
「えっ……と、すいません。どちら様でしたっけ?」
「あー、あの時ほとんど顔合わせてませんもんね。セレナです、ルキウス・シルヴァーノの娘の」
「え、ええっ!セレナちゃん? すっかり女らしくなったね。どうして王都に? また家族旅行?」
「いえ、ちょっと高等学校の卒業課題関連で用事があって」
「そっか、あの時まだ初等学校の二年生だったよね。そりゃ女らしくもなるよね。ここへは誰かと来てるの?」
「あ、はい……」と、私はちょっと言葉を濁しながら、室内で注文をしているレオンへ目を向ける。
ひょいと顔を出して様子をうかがったパステルさんは、「へぇ~」という声を出して再び廊下に戻った。
そして肘で私のことをつついてくる。
「ちょっと、ちょっと。女らしくなったと思ったら、もうあんなの捕まえて。ルキウスが泣くんじゃない、こんなの知ったら」
「あー、パパには紹介してないですけど、一応好きな人がいるとは伝えてありますよ」
「ふーん。それを許すあたり、少しは大人になったのかな、あいつも」
元カノらしい気安さでパパを評するパステルさん。
すると私たちの横を一礼してレストランの人が去っていった。
「セレナ、その方は?」
あ、ルーカスモードになったな。
じゃあ私も合わせないと。
「うん、王都で薬とかの研究してるパステルさん。パパの昔の同僚で元カノ?」
「「ぶっ!」」
レオンとパステルさんが同時に噴き出した。
うんうん、口に何も含んでなくて良かったね。
レオンは、私のことを手でちょいちょいと呼び寄せてきたのでそちらに行くと、
「セレナ、そういうプライベートなことを初対面の人に言っちゃダメですよ。失礼にあたりますからね」
「ルーカス……くん、よね? 私、何度か冒険者ギルド行ってるから、普段のあなた知ってるし、無理しなくていいわよ?」
……
レオンの演技って、ルーカス=レオンを含めて、実は相当みんなにバレてるんじゃないだろうか?
こんどギルド行ったらアンケートを取ってみるのも面白いかもしれない。
「そ、そういうことなら。……てめぇ、失礼なことしてんじゃねぇっ!」
さっきまで穏やかだったレオンが、急に私のほっぺを両側に引っ張って、ヒドイことを言ってきた。
「ご、ごえん。ごえんってばぁ~ 」
私たちのそんなやり取りを見て、クスクス笑い出すパステルさん。
「ふふっ、あなたたち仲いいのね。よくお似合いだわ。……セレナちゃんは卒業後は王都に?」
「はい、ベーネさんの工房でお世話に……あ、まだそれ聞いてなかった」
「お前なぁ……」
レオンが心底呆れたようにため息をつくが、一応二年生の頃に話半分ではあるがスカウトを受けてるので大丈夫だとは思ってる。
「まぁそこがダメならうちで雇ってやるから安心しろ」
「『うち』? ルーカスくん、もしかして貴族なのかしら?」
あーあ、これは私のせいじゃないからね。
だいたいレオンも「しまった!」っていう顔してるし。
貴族のくせに隠し事下手とかまずいんじゃないの?
「なんかそうらしいですよ。私にもまだだって、教えてくれないんですけど」
「へぇ。案外高位貴族の出だったりしてね。……しかし王都か。セレナちゃん、もしあなたが良かったらだけど、工房で働きながら調合のこと学んでみない?」
「えっ、調合ですか?」
ちょっと予想外のスカウトがきたぞ。
魔導具のことならこれでも十年近くの経験があるから、ある程度自信はあるけど、調合はほとんど未経験だ。
初等学校時代にパパに少し習ったくらいだし。
「そう。『魔力酔い止め』を無事販売出来たのはいいんだけど、こう、切羽詰まった目標がなくなっちゃってね。私もけっこういい歳になってきたから、せめて技術を継いでくれる子を探してるんだけど、なかなか……ね。ルキウスの娘のあなたなら、才能ありそうだし」
「でも私、別にパパの子どもじゃなくて、森で拾われた子だから血は継いでないですよ?」
「あぁ、知ってるわよ。ルキウスの手紙に書いてあったもの。セレナちゃんを拾ってからのルキウスの手紙には、毎年セレナちゃんのことばっかりだったわよ?」
その言葉に、私が頬を掻いて顔を横に向けると、レオンが目を丸くしてこちらを見ていた。
「どったの?」
「……お、お前実子じゃなかったのか? それなのにあんなに親と仲良く?」
「あー、まあ王都でも有名な変わり者二人の夫婦だからね。だからじゃない?」
最近パパとママのことを知ってる人にはこれで通すことにしている。
いや、別に何か事情があるわけじゃない。
二人の優しさや愛情を真正面から説明するのは、さすがに私が恥ずかしいからだ。
そういうのは当人に任せることにしてる。
どうせパパなら喜んで一晩かけて語ってくれるだろう。
「でもね、親子なんて血の繋がりは関係ないんだなぁって。後から聞いたけど、あの時のあなたたち。あなたもアミーカちゃんも、初等学校生なのに下手な職人よりプロだったって」
「そんなこと言われてたんですか?」
「ええ。私の周りでは、あの後しばらくはあなたたちの話題で持ち切りだったのよ。ルキウスとマリエッタさん、二人のプロ意識は受け継がれてるんだなって感じたわ」
うーん、知らぬは当人たちばかり……か。
そんな話初めて聞いたな。
「ま、良かったら考えるだけ考えておいてよ。なんなら王都に来た後でも構わないし。どうせ魔導具作るなら、薬剤とは切っても切れない仲だから、覚えておいても損はないわよ?」
あー、そうか。
たしかママもパパから教わって自分で作れるとか言ってたな。
ちょっとこれについてはパパにも相談してみよう。
「分かりました! たぶん冬休み終わったら、次来るのは卒業したらになっちゃうから、もし早めに気持ちが固まるようなら手紙書きますね。……あ、そういえばパステルさん、年末ってお暇ですか?」
「えっ? ええ、特に予定はないけど」
「まだ未定なんですけど、グレッダさんの家でみんなでパーティーするってなったら来ません? グレッダさんの許可が出て、そこから呼べるだけ呼んで、年末から年始にかけて大騒ぎしようっていうだけの会なんですけど」
「あなたも相変わらず無茶苦茶ね。……いいわよ。もし会が決まったら声かけてくれる?」
私の説明にパステルさんが少し渋い顔をしながらも了承してくれた。
これでパステルさんとママに挟まれて、パパも少しは大人しくなるに違いない。
「それじゃ、私はこれで。いつまでも二人の邪魔しちゃ悪いからね。ルーカスくんも怪我しないように気をつけてね」
「はいっ! ありがとうございます」
こうしてパステルさんは去っていった。
まさかの調合を学ぶお誘いだったけど、どうしよう。
工房で働いて、レオンの専属魔導具師やって、そんなにヒマあるかな?
しかしそんな不安を抱えながらも、私の心の奥底で沸き上がった興味は、いつまでも消えることなく胸に残り続けた。
パステルさんとはどこかでこういう繋がりを作りたかったので、ようやく話が出せてホッとしました。セレナが道を選ぶかはまた別ですけどね(^_^;)
次回、第197話「呆れる契約」
ベーネ工房に戻って、さあ製作だ!となった瞬間、レオンに猫扱いされるセレナ。いったい何が!?




