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笑顔を創る魔導具師セレナは、今日も世界をつないでいる  作者: 八坂 葵
第10章 学ぶ時間の終わり

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第195話 感謝の示し方

 私とレオンは落華摘粉(フロス・プルヴィス)用の買い物を終えて、お昼ご飯を食べにレストランへとやってきた。

 普段ならもっと軽食で済ませてしまうのだが、これから一気に落華摘粉(フロス・プルヴィス)を仕上げたいので、しっかり食べておきたかったこと。

 あとは、ルーカス呼びで話すのが出来そうにないので、個室のあるここにしてもらったのだ。


 ちなみに、今日は一日レオンが付き合ってくれるとのことなので、キアネアちゃんにはケーキ代を渡してお休みをあげた。

「ゆっくり休んでね」と伝えた時の、彼女の嬉しそうな微笑みが印象的だった。


「ふーん、本当にセレナに懐いてんだな。いっそ卒業後は個人的に雇うか?」

「えっ! そんなの出来んの!?」

「まああまり普通じゃねぇけどな。例がないわけじゃねえ。だけど……高ぇぞ?」

「うーん……分かった! アドルフォス家からキアネアちゃんをもらえばいいよ。ってことで、ちょーだい」

「出来るかっ! 兄上に知られたらなんて言われることか……」


 ちぇっ、いい案だと思ったのに。

 レオンとのお付き合い記念とか言ったら、案外くれそうな気もするんだけどな、カイル様なら。


「さて、何にする? ここはステーキが有名だが、昼時はハンバーグが安めだし、おすすめだぞ?」


 沈黙の箱(ピクシスムータ)を付けて話すレオン。


「あんた本当に侯爵家なの? 言ってることが貧乏くさいわよ?」

「あのなっ、普段は冒険者なんだ。家からだって援助とかは基本受けないようにしてる。今日だってグレッダさんのおごりじゃなければ、こんなところに来るわけねぇだろ」

「ふーん。これさ、さすがにもらいすぎてて嫌なんだけど。どうしたらいい?」


 私はグレッダさんからもらった、都合金貨四枚の入った袋――一枚は使って銀貨と銅貨になってるけど――をフリフリと振って、レオンに見せた。

 ジャラジャラと少しうるさい音が響く。


「おいおい、金貨は柔らかいんだからな。傷つくから振るのはやめとけ。……なら、グレッダさんが喜ぶものを贈ったらどうだ? さすがにそのまま金を返すのは失礼すぎるからな」


 グレッダさんが喜ぶものねぇ。

 お酒も料理もグレッダさん以上のものを知ってる自信はまったくないし、喜ぶもの、喜ぶもの……あっ。


「ねぇ、レオン。王都から手紙だけ早く届ける方法とかってある?」

「あん? 速達便があるだろ? 手紙専門の。少し割高だけどな」

「よし、それじゃあそれ使おう!」

「手紙? グレッダさんに何を呼ぼうって……あ! お前、まさか」


 レオンも気づいたようだ。

 ついでに言うと、私の計画はもう一段先にあるけど、こっちは向こう次第なので、確実なことは言えない。


「これならグレッダさん、きっと喜ぶよ。ついでだからレオニス先生も……あー、もういいや、全員呼んじゃおう!」

「おっ、おい、セレナ。泊まるところは? グレッダさんのためのなんだろ? 屋敷借りるわけにはいかねぇぞ?」

「え、何で? たぶん泊まったほうがグレッダさん喜ぶよ。あんなに広い屋敷なのに全然使えてないんだから」

「それはまあ、そうだが……」


 まあそうは言っても、私の勝手で進めるわけにもいかない。

 グレッダさんに確認、各所に連絡、あとは……アミーカだな。


「ふふっ、楽しくなってきたなー」

「お前ってやつはまったく。のんびり俺と過ごそうって発想はなかったのか?」

「あ……ご、ごめん。やっぱりやめるね」


 こんな展開に慣れてないので、いつも通りに考えてしまった。

 もうちょっとこういうことを勉強しなきゃだ。

 私が顔を下に向けると、レオンが大笑いした。


「ハッハッハッ、いいんだよ。俺はそういうセレナだから好きになったんだ。二人の時間は少しずつ重ねていけばいいさ。だろ?」

「……もー! だったら思わせぶりに言わないでよねっ! 真面目に考えちゃったじゃない!!」

「いや、本心でもあるさ。どっちもな。だから今年はみんなと過ごしたらいい。高等学校最後の年末だろ?」


 っ……!

 そうだ。

 そうだった。

 もう、あと三ヶ月もしたら、終わっちゃうんだ。


「俺とは卒業後にいつでも会える。お前は、今しか深められない関係を大切にしろ」


 紅茶をすすりながらそう言ってくるレオンに、私は気になっていたことを聞いてみた。


「ねぇ、この間の結婚の話もそうだけど、レオンってあんまりお付き合いに引っ張られないというか、けっこうドライな言い方するよね? 何で?」


 カップをソーサーに戻し、私から視線を外して少し上を向く。

 思い出すかのようにレオンは話し始めた。


「ギルドで聞いてるとな、付き合ってる俺を、私を差し置いて、友だちを優先した。許せないみたいな話をたまに聞くんだ。けどよ、そのパートナーの人生はそいつのもんだ、違うか?」


 まあ、いくら付き合ってるからと言って、相手の行動を縛るのはちょっと違う気もする。

 私は軽く頷いた。


「だからな、俺はいつか付き合うやつには、そういう負担をかけたくない。そう思って、そいつのために一番いいと思う選択肢を言うようにしようって決めてたんだ。だからじゃねぇか?」

「ふーん。まあ、理屈は分かったんだけどさ」

「何だよ? まだ文句があるのか?」

「少しは……レオンからの引き止めの言葉、欲しかったな」


 拳を口に当て、わずかに下をうつむく。

 きゅっと肩を寄せて、恥ずかしそうにしている感じを出してみた。

 何でも男を落とすテクニックらしい。

 マリーナから聞いたやつで、私が覚えてるわずかなものの一つだ。

 本当に効くのかね、こんなの。

 すると、レオンの顔にうっすらと赤みが差す。


「もっ、もちろん、本心を言えばお前と過ごしたいさ。だが、仲間との思い出を作ってほしいのも本当で、その、あの……」


 一生懸命言葉を探すレオンに、私は思わず笑いだしてしまった。

 まさかこんなに効くとはね。

 でも、『お前と過ごしたい』。

 そう聞けたことが、何よりも嬉しかった。


「てっ、てめえ、引っ掛けたな?」

「へへーん、こんなのに引っ掛かるレオンが悪いんだよ。『もっ、もちろん……』だって。うわぁ、恥ずかしっ!」

「こいつっ!」


 レオンが立ち上がって、こちらへ一歩進んだ時、ノックの音がした。

 きっと注文を取りに来たのだろう。

 レオンがドアを開けると、そこにはレストランの人が。

 そして、その後ろを通りがかる女性に、私は見覚えがあり、すぐに声をかけた。


「あれっ? あの……」


 年末大パーティーが確定しましたね。グレッダさんの確認? そんなのセレナが決めたら通るんです(笑)

 

次回、第196話「予想外の道」


 セレナが見かけたのは、初等学校以来の懐かしいあの人。久しぶりの再会から示された予想外の道に、セレナの反応は?

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