表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
笑顔を創る魔導具師セレナは、今日も世界をつないでいる  作者: 八坂 葵
第10章 学ぶ時間の終わり

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

194/274

第194話 冒険者の流儀

「グレッダさん、お金貸してっ! 必ずすぐ返すから」


 ギルド最奥のギルド長応接室。

 グレッダさんとレオンが目の前に座る中、私は座る前に開口一番頼み込んだ。

 もちろん腰と同じ高さまで頭を下げるのも忘れずにだ。


「おいおい、セレナちゃん。いきなりどうした? せめて理由と金額くらいいってくれねぇと分からないぞ?」


 ごもっとも。

 私はアミーカとの話を伝えて、落華摘粉(フロス・プルヴィス)を作るのに必要な金額を伝える。

 すると、レオンが大笑いした。


「アーッハッハッハ、セレナ、お前大会要項読んでなかったとか迂闊過ぎんだろ。俺なんか早々に辞退申請したぜ」

「う、うるさいわねっ! 普通出る予定のないものになんか目通すわけないでしょ!」


 あのムード満点の空気はどこへやら。

 私もレオンもいつも通りの関係で話している。

 まぁ、こっちの方が緊張しなくていっか。


「あったまきた。帰ったらティミナに言って、レオンの辞退申請破り捨てさせてやるんだから」

「そんなこと出来るわけ……」

「私は辞退申請出したら破り捨てるつもりだったって、目の前でハッキリ言われたわよ? しっかり仕返ししたけど」

「……さすがに冒険者としての仕事があるから勘弁してくれよ? 俺は一度優勝して箔がつけばそれでいいんだ。兄上たちも喜んでくれたしな」


 私は、そう話す私たちの姿を不思議そうに見つめるグレッダさんの視線に気付いた。


「どうかした?」

「いや、仲がいいのは知ってたが、こう、レオン呼びで、カイル様たちの話を当たり前にしてるのが、なんか不思議でな。レオン、何でセレナちゃんなんだ?」

「そういうのは本人がいないところでやってくれる? また蹴るわよ?」

「す、すまん。……あー、金は構わんぞ。というか、蒸気のゆりかご(クナ・ヴァポリス)の売上をちょうど送ろうとしてたからな。それから引いておくさ」

「まだ売れてるの!?」


 蒸気のゆりかご(クナ・ヴァポリス)は私が十一歳の冬に考えた魔導具だ。

 販売はそれからしばらく経ってからだけど、もう二年以上は経ってるはず。

 それなのにまだ売上があることに正直驚いた。


「そりゃ発売してすぐに大売れしたわけじゃないからな。こういうものは徐々に広がるもんだ。王都の街灯だってまだまだ旧式が多いだろ?」

「そっちは、ほら、変えたばっかりだからかと思ってたけど」

「いや、少しずつ導入して、その効果を見ているのさ。どのくらい明るさに違いがあって、国民の反応はどうか、犯罪は本当に減ってるのかをな。新しいものはそういうもんだぞ」


 そっか、『慣れる』ための期間が必要なんだ。

 そうすると水筒もすぐには冒険者には広まらないかも。

 少し不安に思っていると、レオンが声をかけてきた。


「水筒なら、少なくとも王都は心配ないと思うぞ?」

「なんで?」

「俺が自慢するからな」

「何よそれ。……ま、まあ、ありがと」


 なぜか顔が熱くなる。

 するとグレッダさんが「くくっ」と笑いを漏らした。


「セレナちゃんも女性の顔をするようになったんだな。成長してるのが見られて、なんだか嬉しいぞ。ルキウスもきっと喜んでるんじゃないか?」

「うーん、喜んでた……かな。その後、怒りだしたけど」

「セ、セレナ、もしかして俺のことを認めてもらえてないのか?」


 レオンの顔が青くなり、か細い声で聞いてくるものだから、思わず笑ってしまった。


「アハハッ、違う、違う。レオンの前にカリウスとの話があったでしょ? それにパパだけ気付いてなくて、バツが悪くなって怒っただけよ。レオンとのことは嬉しいって言ってくれたよ。……まだレオンって知らないけどね」


 最後の言葉に、まだ少し不安げな顔だが、きっとパパなら大丈夫。

 もし許さなかったら、駆け落ちするとか言えば、泣いて止めて認めてくれるだろう。


「まあルキウスのことだから、セレナちゃんが強く出れば認めざるを得ないだろうさ。何せ溺愛してるからな、セレナちゃんのことを」


 グレッダさんにまで見抜かれてるんだから、パパも相当だよね。


「あっ、あとさレオン。アミーカに正体バラしていい? あの子ならきちんと言っておけば大丈夫だから」

「別にそんなに秘密にしてるわけじゃねぇから構わないが……理由だけ聞いてもいいか?」


 私が優勝しないといけない理由、アミーカにも頑張ってもらわないといけないことを伝えると、レオンの顔が少し曇る。


「んー、たしかに兄上はそういう傾向はあるからな。もしお前がそれを重く感じるなら、優勝しないでもいいよう、俺から口を利くか?」

「もし、レオンのことを話したらマズイってことならお願いしたけど、話していいなら大丈夫。私とアミーカが組んだ時の力は、グレッダさんが一番知ってるもんね?」

「ああ、それにセレナちゃんの怖いところもな」


 古い話を持ち出してくれる。

 たしかにグレッダさんを本気で怒ったけど、あれはグレッダさんの口下手が悪いって、オーギュスト様も認めたじゃないか。


「そうか。セレナが頑張るなら、俺も出てみるかな」

「えっ、もう辞退申請したんでしょ?」

「破り捨ててくれるんだろ?」


 レオンはニヤッと笑う。

 この、負けず嫌いの……もうっ!


「分かったわよ、手紙書いて伝えといてあげるから」

「わりぃな。またみんなで優勝して、グレッダさんに祝ってもらおうな」

「おいおい、レオン。今度はそっちでやってくれよ。アドルフォス家の方がいい飯が出せるだろう?」

「グレッダさんを捕まえておけば、もしかしたらオーギュスト様が来てくれるかもしれないのを期待してるんですよ」

「こいつめっ!」


 グレッダさんに頭を抱え込まれながら、「ははっ!」と笑うレオンに、二人が本当に昔からいい関係を築いてきたのだということが分かる。

 気がつけば、私は目を細めて笑顔を浮かべていた。


 ◇◆◇


「さて、と。私はそろそろ帰るね」

「もう帰るのか?」

「うん、早く落華摘粉(フロス・プルヴィス)作らなきゃいけないからね」

「そうか……グレッダさん、たしか今日は大した依頼なかったですよね?」

「ああ」


 短い返事を返すと、グレッダさんが腰の袋――おそらくお金の入った袋――を外して、レオンに渡した。


「買い物に付き合ってやるんだろ? これでまわってくるといい」


 レオンは中を軽く確認して私に渡す。

 中を見てみると、金貨がたくさん。


「こっ、こんなにいらないって。一枚あればお釣りくるよ」

「そうか? じゃあ二枚取って後は返してくれ。その一枚で飯でも食ってくるといい。これから昼時だしな」

「ねぇ、庶民感覚知ってるよね? なんで?」

「ハハッ、嬉しいだけさ。俺が小さい頃から見てきたレオンが、俺の親友の娘と付き合うことになるなんてな。ちょっとした祝いだよ」


 そういやこういう人だったね。

 パパと久しぶりに再会しただけで、王都の高級酒場『金の太陽』で豪快に奢る人だった。


「ありがとう、グレッダさん。そういうことなら喜んでもらっとくね。あ! ついでになんだけどさ……」


 私は落華摘粉(フロス・プルヴィス)の設計図を取り出し、グレッダさんに渡す。


「これ、冒険者のみんなが粉末飲料飲めるために、ちょっと大きめの『工場』作ってみない?」

「『工場』? 工房とは違うのか?」

「工房だと、なんか小さいイメージだから、『工場』ね。今試してる最中だけど、粉末飲料、製造後に密閉性の高い小瓶で一ヶ月は持ちそうだから、どこにどの規模でどのくらい作るかは任せるけど」


 グレッダさんは図面とにらめっこをして、難しい顔で考え始めた。

 そして図面を折りたたむ。


「ちょっとこれを借りて持ち帰らせてくれないか? こうなると国での『事業』になる。カイル様にも相談をして……」

「そしたらグレッダさんの手柄にならなくない?」

「うん? どういう意味だ」

「あのね、私もグレッダさんには色々してもらって感謝してるのよ。だから、これをグレッダさんの名前で冒険者ギルドからあがった要求に応えたっていう形にする。それが国の全てに広まったら、発案者のグレッダさんの評判も上がるんじゃない? って考えたの」


 グレッダさんは、私の言葉に驚きの表情を見せた。


「そんなことを考えてくれてたのか?」

「まあね。粉末飲料の発案はレオンだったけど、全国のギルドを賄えるだけのものとなると、私じゃ無理だから。グレッダさんなら出来るでしょ?」

「ああ。まあいきなり全国は無理でも、少しずつならな」

「それでいいよ。私の水筒はレオンにあげちゃったけど、ギルド用の水筒は、私が卒業したら図面あげるから、ギルドで作ってもいいし、他に任せても……」


 そこまで言うと、私の言葉を遮るように、グレッダさんが手の平を突き出してきた。


「いや、そういうことなら水筒は蒸気のゆりかご(クナ・ヴァポリス)と同じ様に買い取らせてもらう。図面を買い取り、その後は売り上げの一部をセレナちゃん……いや、もう『ちゃん』じゃないな。セレナ嬢へ支払わせてもらおう」

「まぁ、それでいいなら」

「ところで、そっちの水筒は、何か名前をつけるのか?」


 レオンの質問に、私はすぐに答えた。

いつまでも共に(センペル・テークム)』を渡した後、レオンと話しながら決めていたからだ。


「うん、こっちはもう決めてあるよ。魔法瓶(ベアータ)、粉末飲料全般を粉末飲料(ミコー)ね」

「うん、うん。どちらも覚えやすくていい名前だな」


 そう言うと、グレッダさんは腰の袋から、さらに二枚の金貨を取り出し、私の前に置いた。


「これは手付金だ。その魔導具への期待と、必ず俺のところに持ってくるという約束のな」

「こんなことしなくても持ってくるって!」

「卒業したらこちらに来るのにまた金がかかるだろう? その足しにでもしてくれ。理由はつけたが、単に嬉しいのさ。セレナ嬢の心遣いがな」


 まったく。

 どうしてこう、お金で解決したがるのか。

「ありがとう」でいいじゃんか。


「セレナ、もらっておけ。グレッダさんは単に嬉しいだけじゃねぇ。お前が金で苦労しないようにと心配でもあるんだ。もらった分、またそれ以上の働きで返せばいい。それが、『冒険者の流儀』ってやつさ」


 知らないよ、そんな流儀!

 ……と、言いたいところだけど、まあ言いたいことは分かった。

 もらった分、しっかり返していこう。


「よし、それじゃあさっさと行くか」

「そうね。作る時間も欲しいし。グレッダさん、色々ありがとね」

「あぁ、二人でしっかり楽しんでこい。冬休みは短いからな」


 そうだ、短い期間で結果を出さなきゃいけない。

 私には遊んでるヒマなんてないんだ。

 思わず拳を握り込んでいたら、レオンに背中を叩かれた。


「眉間にシワが寄ってるぞ? 余裕がないときこそ笑顔でいろ。それが……」

「『冒険者の流儀』?」


 彼のセリフを取ると、笑いながら頭をワシャワシャと撫でられた。


「もうっ! 髪ぐちゃぐちゃになるでしょ!」

「ハハッ、わりぃ」


 そう言ってレオンは早足で進んでいく。

 私も彼に遅れないよう走り出す。

 いつもと違う、レオンへの気持ち。

 心に広がる温かさに、私は自然と笑みがこぼれた。


 お金貸しての一言から生まれる金貨四枚。今の感覚で郊外に広めの一軒家を建てられる程度の土地をもらったと考えてもらえればと思います。

 グレッダさん、あげすぎ(笑)

 

次回、第195話「感謝の示し方」


 買い物を終えた二人は、午後に備えてレストランで昼食へ。余りまくってるお金について、セレナはレオンに相談すると……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ