第193話 先輩としての責任
「じゃあまずはセレナの相談から聞いちゃおっか?」
『至福の甘み』に入り、注文を済ますとアミーカがそう切り出した。
お言葉に甘えて私は粉末を使った料理のことについて聞いてみる。
「あぁ、いくつかは試作してるけど、まだこれ! っていうのはないかなぁ。三月までに完成させればいいから、そんなに急いではないんだけどさ」
「アミーカ、ちなみに今年の黎明祭の大会要項見てる?」
「ううん。今年は出るつもりなかったから、何も見てないよ」
「そうだよねぇ……。なんかごめんね、うちの後輩が」
たぶんそんなことではなかろうかと、私あらかじめ街中で手に入れてた黎明祭のチラシを鞄から取り出し、アミーカに見せる。
読み進めていたアミーカの目が、チラシ下段の一点で止まり、途端に顔がゆがみ、固まった。
「セレナ、ナニコレ?」
「なんかねぇ、私を黎明祭から逃がさないために、そんな規則を作ったらしいんだけど……考えてみたらアミーカも対象じゃんって今朝気づいて、慌てて持ってきたの」
「前年度優勝者の出品については一月末……って、あと一ヶ月しかないじゃん!」
「ごめんねぇ。今度地面にめり込むくらい頭下げさせに来るから」
というか、今考えたらルーカス、もといレオンも対象じゃないか、これ?
ティミナたちめ、私を逃がさないためにかなり巻き込んでくれたな。
「でね、私は落華摘粉って、粉末製造機を出そうと思ってて、ただ、その……ちょっと優勝しないとまずそうな雰囲気になっちゃって」
「優勝? なんでよ、別に今年はセレナはそもそも出なくていいくらいなんだから、結果なんて気にしなくていいでしょ?」
「そこは……ちょっと今度教えるよ。あまり迂闊に言えるような内容でもないから」
「うん? まぁ、そういうなら聞かないでおくけどさ」
ルーカスと付き合うことになったまでは言えるけど、優勝しなくちゃいけない理由についてはルーカスがレオンだということを説明しないと通らない。
さすがに協力を依頼する以上、アミーカには伝えておかなきゃいけないだろう。
「かと言って、落華摘粉は別に去年みたいな魔導具の革命とかに繋がるような技術ってわけでもなくて、だからそこに別の価値を付けようかと思ったの」
「あぁ、だから私の料理の進捗を聞きに来たわけね。落華摘粉が新たな料理のジャンルを開拓する! みたいな宣伝文句が欲しかったわけだ?」
「さすが、話が早いね、親友」
「じゃあセレナ、冬休み中こっちで私のお手伝いね。今回はさすがにちょっと怒ってるよ、私」
いつものニコニコ笑顔に隠れながら、こめかみに青筋が浮かんでいるのは、きっと気のせいではないだろう。
ティミナたちには後で仕返しをするとして、アミーカには私からちゃんと謝っておかないとダメだな。
「……はい、グレッダさんのロックボア料理対決の時くらいに、一生懸命手伝わせてもらいます」
私はテーブルに頭をこすり付けて、アミーカの手伝いを了承した。
◇◆◇
「ところで、フローラはどういった用件? さすがにファンだから連れてきましたってことはないでしょ?」
「あぁ、そうね。彼女、将来的に料理に役立つ魔導具を中心に開発をしたいって頑張ってくれてるんだけど、セレナの落華摘粉の話を聞いたら、自分もそれ以上のものを作ってみたい! って、スープの粉末飲料の魔導具に取り組んでるんだけど……行き詰ってるのよね」
「はい……コーンスープとかなら、落華摘粉とほぼ同じ仕組みでいけるんですけど、ミネストローネみたいな、具がしっかり入ったスープは、削っちゃうと、具が残らないんですよね」
これ、スープが行けちゃうなら、そのうちご飯とかもいけちゃうかもしれないな。
そうすると、本気でバルドさんに怒られそうだ。
……まぁ、そこまで私は研究する気はないので、怒られるなら私以外の誰かさんになるだろう。
「そうしたら、今フローラが考えてる魔導具の仕組みを、紙に書いて教えてくれる? そうしたら私もちょっと考えてみるよ。具を残しながらお湯を入れるだけでスープが出来上がる方法」
「いいんですか? 私、セレナさんと同じ学校でもないし、知り合いでもないし……」
そう言ってうつむくフローラ。
あー、面倒くさいな、こういうの。
私は席を立ちあがって、フローラのそばに寄り、手を取り強引に握手させた。
「はい、じゃあこれでもう友達ね」
「セレナさん……ありがとうございます!」
フローラは席から立ち上がり、勢いよく頭を下げてお礼を言ってきた。
「フローラ、もっと自信持ちなさい。あんたは初回黎明祭の調理師部門と魔導具部門の優勝者と肩並べて話せてんのよ。それに、今まで私の魔道具を見て感心する人はいても、それを超えようなんて気概を持った人はあなたが初めて。他の誰がバカにしても、私があなたを認めてる。それだけは覚えときなさいよ」
「へぇ、セレナが初めて先輩っぽく見えるよ。どしたの? 悪いものでも食べた?」
「アミーカ、人がせっかく頑張って考えたセリフ、台無しにしないでくれる?」
そんなやり取りを見て、フローラがクスクスと笑った。
「ふふっ、セレナさん……いえ、セレナ先輩、ありがとうございます。すぐには無理かもしれませんけど、今の言葉を忘れずに頑張ってみますね」
「うん、頑張って。応援してるよ」
私は立ち上がって、彼女に手を差し出すと、今度は彼女から手を差し出し、握り返してきた。
少し力強く感じられたそれに、この子なら大丈夫。
そういう予感がした。
「で、セレナ。料理の方なんだけど、粉末の魔導具はどうするの? ウルヴィスに置いてきちゃってるんでしょ?」
「ほえ? また作れば良くない? どうせ作り方は頭の中にあるんだし」
「お金は?」
「親友っていいわよね。こういう困った時に助けてくれるから」
私が冗談でそう言うと、アミーカは少し困った顔をした。
どうやら本気でお願いされたと勘違いしたようだ。
「ちょ、ちょっと、冗談に決まってるでしょ。グレッダさんに借りるわよ。どうせギルドのための魔導具だし、あの人なら喜んで出してくれるから」
「あー、良かった。気軽にお金せびってくるから、親友やめようかと考えてたよ」
「そこまでっ!?」
と、とりあえず私のやらなきゃいけないことは、素材揃えて落華摘粉の二号機を作ることからかな。
……いや、待てよ。
こっちを初号機にしておかないと、黎明祭でなんかケチが付きそうな気がするな。
よし、ウルヴィスのは私のプライベート落華摘粉ってことにしよっと。
な、なんなら、アイツにくれてやってもいいわけだし……。
すると、アミーカの目が鋭く私を捉えた。
「ねぇ、今セレナ、恋する乙女の目してたけど、もしかしてさ……」
「なっ、何言ってんのよ。落華摘粉をどこで作ろうかなって考えてただけだよ」
「ベーネさんの工房あるのに? 相変わらず嘘が下手だよね」
「あっ、そ、その話だけど、ちょっと明日また。私、一度ギルド行ってくるから。また明日の朝、寮行くね!」
それだけを言って、私は逃げるように部屋を出た。
いつもなら止めそうなアミーカも、明日の約束をしたので、今日のところは見逃してくれたようだ。
さて、ちょっとギルド行って、レオンとグレッダさん掴まえないと。
二人ともいてくれるといいんだけど……。
少しだけ不安な気持を抱え、私はギルドへの道を歩き始めた。
アミーカの鋭さは、学校の中で貴族から余計な横槍を入れられないために磨かれた注意力になります。
次回、第194話「冒険者の流儀」
うまくグレッダさんとレオンをつかまえられたセレナ。ギルド最奥のギルド長の応接室で、セレナが放った一言目とは?




