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笑顔を創る魔導具師セレナは、今日も世界をつないでいる  作者: 八坂 葵
第10章 学ぶ時間の終わり

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第192話 料理との連携

 イブニングドレスから、普通の格好に戻り、私はベーネさんの下宿で一人ぼーっとしていた。

 レオンと別れたのはついさっきのこと。

 あの後、『蒼玉の輝き』の特製フルコースを堪能しながら、お互いの生い立ちや、色んなことを話した。


 まあ色々あったが、何よりショックだったのは、彼が第二夫人の息子で、そのお母さんがすでに亡くなってしまっていたということ。

 てっきり怖い奥さんと聞いていた、カイル様のお母さんと同じなのだろうと思ってたから、まさか亡くなってるとは思わなかった。


『だから、ハニーミルクは大切な思い出の味なのさ』


 寂しそうにそう笑った、レオンの顔が頭から離れない。

 幸いというか、第一夫人のリヴィア様は、分け隔てなくレオンも愛してくれてるそうなので、それだけが救いといえば救いだった。

 兄弟とも仲が良いので、ひとまず家の居づらさみたいなものはないそうだ。


 でも、ママが死んじゃったら。

 私はどうなるんだろう?

 あんなに強く生きられるのかな?

 それに澪だって、いつ消えちゃうか分からないし。

 私の心に黒いもやが広がりそうになった、その時、空気を読まない声が聞こえてきた。


(ちょっと、まだ大丈夫って言ったでしょ! 人を勝手に消さないでよねっ!)


「ふぅ……どうなるのかなぁ?」

(へぇ、そういう態度に出るなら、こっちにも考えがあるわよ?)


 すると、頭の中で『カチリ』という音が聞こえたかと思うと、ついさっき聞いた……いや、言った言葉が流れてきた。


『あなたが好きなの、ルーカス。私の出来る限り、最高の技術と想いをこの水筒には込めてある。……受け取って、くれるかな?』


「澪ぉぉぉぉっっ! あんた何してくれてんのよっ!」

(へへっ、まいったか)


 こ、こいつぅ……。

 はぁ、もういいや。

 たらればを考えだしたらキリがないし。


(そうそう。せっかく想いが通じ合ったんだから、今日のところは素直に喜んでおきなさいよ)

「本当に澪は単純なんだから……ねぇ、参考までに聞いておきたいんだけど、私とレオンがキスしてる時って、あなた何してたのよ」

(いやー、ドラマの名シーンを特等席で見られるなんて、案外この体も悪かないわよね)


 ……ちょっと今から、澪を懲らしめに行ったほうがいいかもしれない。


(い、いいじゃない、それくらい。聞かれなきゃ言うつもりもなかったんだし。ときめきに飢えてるのよ、私は!)

「はぁ、初等学校の時からそれ言ってたもんね。まあ澪の元気になるならいっか」

(それよりセレナさ、黎明祭(プリマルクス)頑張らなくて大丈夫なの?)


 ん?

 突然黎明祭(プリマルクス)とは、澪らしくない。

 私が乗り気でないのなんか、分かってるはずなのに。


(あのさ、レオンくんと付き合うってことは、カイル様との繋がりがまた強くなるわけよね? しかも弟の専属魔導具師に就く以上、半端な成果では認めないとか言い出さないかな?)


 …………


「いっ、言いかねない、あのニッコリ笑って人を刺しそうな、あの人なら」

(あのさ、一応レオンくんが慕ってるお兄さんよ?)

「そんなの関係ないよ! あー、どうしよう。そんなにポンポンと技術革新なんて出来るわけないじゃん!」


 私が頭を抱えてベッドに倒れ込むと、澪が自信なさげに聞いてきた。


(……例えばなんだけどさ、他分野の技術を革新する魔導具としての売り込みはどうなの?)

「他分野?」

(うん。セレナ、粉末使って新しい料理のスタイルみたいなの、アミーカちゃんと話してなかった?)

「話してた。……そうか、そう言う視点なら落華摘粉(フロス・プルヴィス)は、価値が跳ね上がるんだ」


 そうなると、アミーカとの連携が必要になるけど、まだ王都にいるかな?

 彼女がどこまで何を思いついたか聞いておきたい。


(まだまだ王都に残ることになりそうね)

「アミーカがいればの話だけどね」


 高等学校の場所はこの間行ったからなんとなく分かる。

 あとは寮がどこにあるかだけど……。


(ふふっ、いつものセレナに戻ったのはいいけど、焦りすぎよ。明日工房の誰かに聞いてみればいいじゃない)

「そうだね、それじゃ今の私に出来ること。それは……寝よう!」


 頭の中で澪がコケた音が聞こえた気がした。


 ◇◆◇


 翌朝、まずは朝ごはんの時にベーネさんとクラリスさんに場所を聞いてみた。

 するとクラリスさんが知っているとのこと。


「っていうか、マリーが通ってたから知ってるのよ。あの子、王都に家あるけど、ほら、仲良くなかったじゃない? だから寮に入ったんだって」

「ええっ? よく親がお金出してくれましたね」

「特待生……だっけ? なんか勉強は出来たみたいだからね」

「特待生? 何ですか、それ?」


 どうやら入学前の初等学校の成績と素行、入試の成績が良ければ、学費が全て無料になる仕組みらしい。

 寮の場合は半分負担をしてくれるそうなので、ママはこの工房でバイトをして稼いでたそうだ。


「そんな仕組みが。なんでうちの学校にはないんだ……あぁ、寄付金で運営してたせいか」


 もらったお金で運営して、それでも苦しかったのだ。

 特待生なんて制度を作って、儲けを削るわけがない。


「じゃあ師匠、ご飯が終わったら、セレナちゃん案内してきますね」

「ああいいよ。今日は余裕があるからね。クラリスものんびりしてくるといい」

「ふふっ、私の楽しみを取らないでください。すぐに帰りますよ」


 こうして私はクラリスさんに案内されて、女子寮へとやって来た。

 クラリスさんへお礼を伝えて、ここで別れる。

 受付にいた寮母さんらしき人に、名前と用件を告げて、アミーカを呼んでもらうよう伝えた。

 すると、寮母さんは、手元に並んだボタンのようなものをポチッと押す。

 程なくしてルームウェア姿のアミーカが降りてきた。


「セレナっ? どうして王都に?」

「ちょっとアミーカに聞きたいことがあってね。時間ある?」

「うん、大丈夫だけど……あぁ、ちょうど良かった。私もセレナに聞きたいことがあるの。ちょっと準備してくるから待ってて」

「分かった」


 アミーカを待つ間、私はさっきのボタンについて聞いてみた。

 ボタンと部屋のベルが魔導回路で結ばれており、ボタンを押すとベルが鳴る仕組みらしい。

 へぇ、初めて見たけど、たしかにこういう大勢がいる場所では便利かも。

 ……ちょっと帰ったら考えてみよう。


 トントンと階段を降りる音が聞こえてきて、アミーカが私服に着替えて降りてきた。

 もう一人、初めて見る子を連れている。

 銀色の髪をした、すごく大人しそうな子だ。

 アミーカの袖を掴んで、下を向いて歩いている。


「お待たせ、この子はフローラちゃんね。魔導具科の二年生で、去年のセレナの活躍を見て、ファンになっちゃったんだって」

「ア、アミーカ先輩、ご本人の前でやめてください。……恥ずかしいです」


 ぞわっ。

 私のイタズラしたい心が疼いたが、さすがにアミーカの後輩相手にはまずいだろう。

 グッと我慢する。

 しかし、自分の母親と同じ名前の後輩とは、複雑じゃないんだろうか?


「分かった。よろしくね、フローラ。で、どっかいいお店ある?」

「セレナ……人に用事があるなら、あなたが探しておきなさいよ、まったくもう」


 そう言いながらもメモ帳を取り出し、お店を探してくれるアミーカは、本当に頼りになる。


「ベーネさんのところにお世話になってるなら、朝ごはんは食べてるわよね? じゃあこのお店にしましょう。個室もあるカフェだから、ちょうどいいわ」

「何て名前?」

「『至福の甘み』よ」


 ……系列店か?

 まぁいいや。


 こうして私たちはカフェに向かって歩き出した。

 今回の話し合いで、また一つ楽しい魔導具が生み出されることになる。

 レオン……というか、冒険者たちが喜びそうだ。

 私の水筒もますます活躍の場を広げてくれそうな気がしてきた。


 「レオンと付き合うなら、連覇くらいはしてもらわないとねぇ」

 カイル様がニヤニヤしながら言ってくる顔が目に浮かびます。きっと優勝しなくても気にしないくせに(笑)

 

次回、第193話「先輩としての責任」


 アミーカとのお話。まずは確認から。セレナが渡した黎明祭のチラシに、アミーカの顔が固まります。

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