表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
笑顔を創る魔導具師セレナは、今日も世界をつないでいる  作者: 八坂 葵
第9章 初めて込める想い

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

191/277

第191話 いつまでも共に 後編

「……お前、何でそんな口開けてんだ?」


 はっ!

 ホントだ、口開いてた。

 あまりの緊張に知らずに開けてたらしい。

 慌てて口を閉じた。


「今日は借りてきたネコみたいに大人しいな。いつもの魔導具バカはどこに行ったんだ?」


 カチン!


「だっ、誰が魔導具バカよっ! 人がせっかく一生懸命水筒作ってきてやったのに、なんて言い草よ!」

「ハハッ、それだよそれ。そうじゃなきゃ俺だって調子狂っちまう。いつものお前でいてくれ」


 ……うわぁ、ノセられたわ。

 完全に手の平の上で踊らされた。

 ちっくしょお、ルーカスのくせに!


「ふんっ、冒険者のクセによくこんなところ借りられたわね。王都一のレストランって知ってるわよ、ここ」

「まあな、俺のために色々頑張ってくれたんだろ? 俺もただもらうわけにはいかなかったからな。それなりに苦労はさせてもらったさ」

「あんたさ、よくクソ真面目って言われない?」

「グレッダさんにもタブラさんにもよく言われるよ。いいんだ、俺はそれで納得してるんだからな」


 ふーん、相変わらず芯の通ったことするのね。

 少しルーカスのことを見直した。


「で、出来たんだろ? 見せてくれないか?」


 私は席の横に置いていた袋を持って、ルーカスの隣に行こうとしたら、手で止められた。

 ルーカスが素早く席を立ち、袋の中から箱を取り出す。


「こんなに丁寧にしてくれたのか? 悪かったな、気を使わせちまって」

「いいのよ。ほら、開けて見てみてよ」

「ああ」


 ルーカスは包みを破らないよう、丁寧に包装をはがしていく。

 細かいなぁ。

 私なら破っちゃうけど。


 ようやく箱にたどり着き、ルーカスが蓋を開けると、中には黒い水筒が一つ。

 ハニーミルクと、ダージリンの粉末の入った茶色い小瓶が添えられていた。

 ……というか、私が入れたから知ってるけど。


 ルーカスは水筒を手に取り、しげしげと眺めている。

 ワンタッチで蓋を開け、すぐに飲めて、そのまま蓋を押して閉められる簡単な機構。

 夜でも目立たないよう、つや消しの黒で覆われた外装。

 そして、衝撃を緩和するための衝撃吸収材と、水筒に施した硬化付与。

 どれもルーカスの希望を叶えられたと自負している。


「よく、ここまで……。その小瓶はまさか?」

「そ。水やお湯を入れるだけでハニーミルクとダージリンが出来る粉末。どうせ水の魔石は持ち歩いてんでしょ? この中に粉末を入れて、水入れて、温かいのが飲みたけりゃ、こっちにスイッチ入れて、上に上げて固定。冷たいのがよければその逆ね」

「試してみていいか?」

「ふふっ、どうぞ、お好きに」


 子どもみたいにワクワクした顔を浮かべて聞いてくるルーカスに、思わず笑ってしまった。

 ルーカスは水筒に白い粉末を入れて、水の魔石を使って水を入れた。

 蓋を閉め、軽く水筒を振って温かい方へスイッチを入れた。


「どのくらいで温かくなるんだ?」

「あ、試してなかったけど、一分も待てばいいんじゃない?」

「お前なぁ、そういうところが……」

「愚痴は後で聞くわよ。まずは試してみなさい」


 憮然とした表情で引き下がるルーカス。

 すると、開けていた飲み口から薄く湯気が見て取れた。


「あれ? もう沸いた?」

「お前なぁ、そんなに早く……なんだと?」


 ちゃんと湯気と分かる程度にまでなっていた水筒を持ち、ルーカスはそれを口に当てて、ゆっくりと傾けていく。

 どう?

 どうなの?


 ゴクリ。

 ルーカスの喉が鳴る。

 目を閉じていたルーカスの目尻から、一筋の涙が流れた。


「あぁ、これだ。子どもの頃に飲んでた、母上が作ってくれたミルク。懐かしい……」


 そしてもう一口。

 うん、うんとうなずき、ルーカスは目を開けた。

 そして座っていた私に、いきなり抱きついてきた。


「セレナ、ありがとう! これだよ、俺が飲みたかったのは! ありがとう、本当にありがとう!!」


 あわわわわっ、分かった、分かったから離れてちょーだい!

 私の胸が破裂してしまう。

 はーなーれーてー!!


 私の心の声が聞こえたわけではないだろうけど、ルーカスはすぐに離れてくれた。


「す、すまん! つい嬉しくて。悪かった、いきなり抱きついちまって」

「い、いいの、いいの。そんなこともあるよ」


 私は何を言ってるんだ?

 あー、なんかもう、また頭ぐちゃぐちゃになったじゃんかぁ!


 なんとなく気まずい空気が流れる中、ルーカスが咳払いをしたので、思わずそちらへ顔を向けた。

 すると、ルーカスは私の隣に立ち、そのまま跪いた。


「何してんの、ルーカス?」


 とりあえず彼の方を向いてみる。


「誤解せずに聞いて欲しいんだが」


 そう前置きをするルーカス。

 まだ彼の意図が読めない。


「俺がセレナに専属魔導具師を依頼したのは、紛れもなくお前の腕を見込んでのこと。それには嘘偽りはない」


 え、ちょっと。

 その出だしは何?


「だがその後もお前と関わる中で、お前は言ってくれたな、何かを隠して生きるのは辛いし、疲れるからやめようと。あの言葉が俺には突き刺さった」


 ああ、そんなことも言ったかな。

 うん、なんか知らないけど突き刺さったのね。


「それ以来この言葉使いをさせてもらっているが、同時に俺の中にお前の存在が住み着いた。そして日を追うごとに大きく、重くなっていったんだ」


 ほぅほぅ、住み着く?

 私、ルーカスの中に住み着けるほど、そんなに小さくないと思うけどな。

 ……ダメだ、これはもう誤魔化しようがない気がしてきた。


「だからお前が水筒を持ってきてくれたら、お前に伝えようと思っていた言葉があるんだ」


 マズい、もうマズい。

 そうだ!

 私は水筒を手に取り、ルーカスに見せた。


「ルーカス、魔導具師ってね、自分が作った魔導具に名前を付けることがよくあるの。もちろんこれにも名前をつけた。なんだか分かる?」

「あ? んー、『命の水』とかか?」

「ルーカス、名付けのセンスあるね。だけど違うんだ。他の水筒は別に名前をつける予定なんだけど、この最初の一本。ルーカスのために作った一本は、これだけの名前があるの」

「どういう名前だ?」


 私は、水筒の底を見せた。

 それは文字を焼き付けた後に、あらためて黒く染める薬剤を上から塗り、目立たぬよう、しかし必ずそこにあると分かる程度に刻んだのだ。


「『いつまでも共に(センペル・テークム)』。私の作った魔導具をいつまでも使い続けてくれるように。そんな願いを込めて」

「セレナ……」


 つぅ、と涙が頬を伝う。


「あなたが好きなの、ルーカス。私の出来る限り、最高の技術と想いをこの水筒には込めてある。……受け取って、くれるかな?」


 涙に負けぬよう、私は精一杯顔をつくり、ルーカスへ微笑む。

 ぎゅっと握られた拳が小刻みに震えているのが分かる。

 私の顔を驚いた表情で見つめていたルーカスは、横を向いて、ハァとため息をついた。


「お前は、何で人が告白しようとする直前で告白しちまうんだ。俺の緊張を返しやがれ」

「へへっ、そう思ったから私から言ってやったんだよ。まいったか」


 涙を流しながら、今度こそ本当の笑顔をルーカスへと向けた。

 ガシガシと頭を掻くルーカスは立ち上がり、私を立たせ、ギュッと強く抱きしめてきた。


「あぁ、まいったよ! してやられた。やっぱりお前は人の迷惑を顧みない『暴風娘』だよっ!」

「なによっ……んんっ!」


 気がつけば私はルーカスに唇をふさがれていた。

 目の前に目を閉じたルーカスの顔が広がる。

 ほのかに香るオレンジの香水の香りが鼻腔を抜けていく。

 あぁ、ルーカスが、本当に……。

 私も目を閉じて、彼を強く抱きしめ返した。

 私の体に伝わってくる彼の体温に、ただただ幸せを噛みしめた。


 ◇◆◇


「しっかし、いつからだよ」

「んー、よく分かんないんだよね。はっきり気付いたのはちょっと前。水筒作ってたら、あ、好きだって気付いたからさ」

「何だそれは。あー! 女から告白させたなんて知れたら、兄上からなんて言われるか」

「へぇ、お兄さんいるんだ? それにしてもルーカス変な言葉使うよね。母上だの、兄上だの。貴族みたい」


 するとルーカスは少し迷う顔を見せた。

 だがすぐに決めたみたいだ。


「まあグレッダさん始め、何人かは知ってるからな。絶対に周りに言ってくれるなよ」

「うん? なんのこと?」

「ルーカスは冒険者としての名前。俺の本名はレオン。レオン・アドルフォスだ」


 …………


「は?」


 アドルフォスって、あのアドルフォス?

 いやいや、まさかね。


「えーと、お兄さんの名前は?」

「二人いるが、お前が聞きたいのはこっちだろう? カイル・アドルフォスは俺の一番上の兄だ」

「カイル様の……弟?」

「そうだ」

「侯爵家の、三男?」

「そうだ」


 ……え、え?

 この場合どうなるの?

 不敬罪とかで処刑?

 パパは、ママは?

 一族郎党皆殺し?

 私は椅子を降りて、床に深々と土下座する。


「ど、どうか、パパとママの命だけはっ! 私はどうなってもいいので!」

「待て待て待て、どうしてそうなった」

「だ、だって、侯爵家、不敬罪、一族郎党……」

「なんでそんな不穏な発想をする! それが通るならグレッダさんへの発言でとっくに不敬罪だろ、お前は」


 ルーカスは私に近寄って抱き上げて立たせた。


「まったく、兄上の贈ったドレスをさっそく汚してくれるな。せっかく俺が選んだんだからな」

「えっ、これルーカス……あ、いや、レオン様が選んでくださったのですか?」

「やめろ、その気持ち悪い敬語は。名前はレオンで構わないが、敬語はやめろ、敬語は」


 ……なんか馬鹿らしくなってきた。

 だいたい黙ってたレオンが悪いじゃないか。

 私、何一つ悪くないよね?


「じゃあそーする。騙してたレオンが悪いんだからね」

「気持ちいいくらいに切り替えが早いな、お前は」

「うん、よく言われる。で、私はこの先どうしたらいいわけ?」

「別に」

「別にぃっ!?」

「ああ、ここを出たらルーカス呼びでいて欲しい。俺と二人の時や、兄上やグレッダさん相手ならレオン呼びで構わない。いずれ、もし結婚ということがあれば、敬語も覚えてもらうことはあるが、まぁ、今はいいさ」


 結婚っ!?

 あ、ああ、でもそういうこともあるのか。

 あれ、でも。


「貴族って普通、婚約者とかいるもんじゃないの?」

「俺は冒険者として生きるつもりだからな。そこは遠慮させてもらった。いずれグレッダさんの後を継ごうと考えてるからな」

「えーと、結局私はどうしたらいいわけ?」

「だから好きにしろよ。俺のことを好きでいてくれるなら、いずれ結婚を考えよう。気に入らなきゃそれで終わりだ」


 その言葉に私はジト目でレオンを睨む。


「なんか、告白したばかりの相手に冷たくない?」

「そうか? 俺は少なくともセレナを手放すつもりはないぞ? 『いつまでも共に』なんだろ?」

「……バカ」


 ランタンの優しい光が照らす室内。

 私とレオンの影が再び一つに重なる。

 この先どうなるか、私にも全く読めない。

 ただ、この想いだけは大切にしたい。

 彼の香りをそばに感じながら、私はただそれだけを思い続けた。


 ルーカス、もといレオンと無事結ばれることとなったセレナ。これからの二人にもご注目ください。

 

次回、第192話「料理との連携」


 ベーネさんの下宿に戻り澪と話すセレナ。すると澪から意外な指摘を受けて大焦りします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ