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第五章 空っぽの天国③ Living Dead Lives②

「来てみたものの…時間、早過ぎた…気がしないでもない…」

 国道255線沿いのコンビニと言えど幾つもある。とりあえず渡辺から聞いた情報で、一番目撃例が多い店に来ているのだが…。

「だって、ゾンビって夜出るもんじゃないのか? いや、映画なんかだと昼間っからウロウロしてるか。そもそも本当にゾンビかどうかも分からんしなぁ…」

 今はコンビニの駐車場にバイクを停め、ブリトーを齧りつつ缶コーヒーを啜っている。しかしいつまでもこうしていれば今度はこっちが不審者だ。間も無く小学生の下校時刻なのだ。

「うーん…来てみていきなり『はい、いました、ゾンビです』ってわけにはいかんよね、そりゃ…まずは取材の基本、聞き込みから行ってみますか。まぁ『ここら辺でゾンビ出ますか?』って聞いても白い目で見られるのがオチな気もするけど…」

 さて、再び店内へ入り、カレーパンと缶コーヒーを手に取り、レジへ。幸い、他に客はなく、気の良さそうな、店長かオーナーと思われるおじさんがレジ打ちだ。とりあえず他の客に白い目で見られる不幸は避けられそうだ。

 支払い時に意を決して聞いてみた。

「あのーすみません、なんか、この辺でゾンビが出るって聞いたんですけども、それって本当ですか? あ、すみません、まずは私、こういう者でして」

 名刺を差し出す。アルバイトとは言え記事を入稿している以上、その辺はちゃんとしろとのことで、編集部で作ってもらったものを持ち歩いている。

「あー、マンスリーさん。うちにも置いてますよ」

「どうもありがとうございます」

 タケシは一礼をする。

「ゾンビさんね、来ますよ」

「…へ?」

 あまりにもストレートに望んだ答えが返ってきて、驚きのあまり声が裏返った。

「なんか最近、話題になってるんですかね、そう言って探しに来る人、多いんですよ。ゾンビさんって言っても寡黙なだけで、普通に買い物して行かれますからね。店の中や外で暴れれば そりゃぁ私どもも気にはかけますが、買い物していくだけならただのお客様、売上の一部ですからね。あ、いらした。いらっしゃいませー」

(えーッ? このタイミングで来んの⁈)

 と、 そりゃぁタケシは驚いたものだが、店長の様子を見るに平気のへの字だ。どうにも珍しいことではないらしい。

 タケシはレジから離れ、様子を伺う。

「タバコ。86番。一つ」

(しゃべったっ!?)

 先ほど寡黙と聞いていたのでこれには驚く。しかもお会計はスマホ払い。ITに長けたゾンビ、なのか?

「ありがとうございましたー」

 そしてお行儀よく自動ドアからスッと出ていった。今タケシの中でゾンビの概念が激しく揺れている。

「今日はしゃべりましたねぇ」

 このおじさんも大概肝が座っている。売上のためなら人はこうもなれるものなのか?

「お客さん、見ました? ゾンビさんたちは、なんか知らないけど、おでこに六角形のシールみたいなの、貼ってるんですよ。だから簡単に見分けがつくんですね」

 見逃した。いや、いきなりゾンビ来店におしゃべり機能の披露もあれば度肝を抜かれるのも無理はないが。

 しかし、この肝っ玉店長に釘を刺された。

「お客さん、尾いて行こうなんて思っちゃイカンですよ?」

「どうしてです?」

「どうやら彼らはそっちの山の中にある、カルト宗教の施設へ入って行くって話らしいんですよ。シューニャデーヴァって、聞いたことありません?」

「ああ、知ってます。こんなところにあったんですか」

「あったと言うか、1年…2年くらい前、ですかねぇ。山奥の土地を買い占めて、何が建つやらと思ったらカルト宗教の施設ですってよ。いやー、こりゃ参ったななんて言ってたら、ゾンビの皆さんが買い物に来てくれて、むしろ売上良くなったりでね。何だかねぇって」

「はぁ…そうなんですか…」

 今、話題に上がったシューニャデーヴァ。近年勃興してきたカルト教団として話題になったことがある。寄付金などはうるさくないのだが、とにかく教団施設内に入った信者が戻ってこないそうだ。近々、その行方の知れなくなった入信者家族を中心に訴訟を起こすとの話も出ている。

「あ、情報、ありがとうございます」

「はい、毎度どうも」

 今日初めての客に「毎度どうも」はないだろう? 商売ならこれが普通の挨拶なのか? …などと思いつつ店外へ出てみると、店裏手にさっきの『ゾンビさん』が歩いているのが見えた。

 取材なのだから当然

「尾けるか」

 となるわけだが、もう一つ、肝っ玉店長が言った『額の六角形』というのが気になる。もちろん先ほど見落としたからなのだが、以前ルミに見せられた、ガイストから出てきた板というのも六角形だったからだ。

 真偽を確かめるべく、タケシはバイクを押しながら『ソンビさん』の追跡を開始した。



 山の中にあるのだから当然だが、道は上り坂だ。そこを998CCのバイクを押しながら登るのだ、そりゃキツイ。

「ハァッ、ハァッ…まだか…ちと…バイクはどこかに置いて行くしかないな、こりゃ。店長さんにお願いして置かせてもらえばよかった…」

 後悔先に立たず。仕方なく道中の目立たないところを選んでバイクを停める。手持ちであるったけの盗難防止ロックを掛けて。

 そして再び後を追って歩くが、曲がった先に大きな門が見えた。思いの外、バイクを停めた地点からは近く、タケシは拍子抜けする。

 さて問題はこの後だ。

「正面から『ごめんください』か、忍び込む、か…どうする?」

 自分自身に問うてみた。

「『お宅のゾンビさん見せて下さい』で入れるとは思えん…侵入、だな」

 白い壁の建物が見える敷地は、見渡す限りずっとフェンスで囲まれているようだ。木々の茂みの中を目立たぬように歩き回り、人の気配も薄そうでフェンス上に木の枝が覆い被さっているポイントを見つけた。

 えっちらおっちら木を登り、枝を伝って侵入に成功する。幸い、誰かに見られた様子はない。

「さて、ゾンビさんはどこかしら…ん?」

 人の気配にサッと身を隠す。大きな、おそらくは母屋と思われる建物とは別に、プレハブの小屋、というには大き過ぎる建物。そこから木箱が次から次へと運び出されるのが見えた。そしてその木箱には見覚えが。

「横浜の倉庫で見たヤツとよく似ている。いや同じ? …まさか…ヘブン…?」

 身を隠しつつ、接近。プレハブの出入り口とは逆の方に、一つだけ窓があった。やや高い位置あり、目が届かない。そこでスマホのカメラを使って無造作に数枚撮ってみた。そこに写っていたのは

「実験室?」

 ビーカーやフラスコが幾つも並ぶ。

「これ…工場っ⁈」

 撮った一枚に、大きな透明の容器に白い粉が注ぎ込まれているものがあった。

「つまりここは…ヘブンの工場…か?」

 踏み込むか?とも思ったが、ここで思い出したことがある。

 林の存在だ。

 そもそもタケシは自身でも言っている。強大な悪を潰すには個人の力では無理がある。自ずと公権力を頼りにせざるを得ない。そして今は、その公権力と強いパイプがあるのだ。これを使わない手はない。何より向こうがその情報を欲しているのだから。


プルルル… プルルル…


 電話を掛けてみる。呼び出し音がもどかしい。



 林の携帯が震える。ディスプレイには『風音タケシ』の文字。

「タケシ君か。どうした?」

〈林さん。今、オレ、エンプティヘブンの工場の前にいます〉

「な、何だってぇぇぇ⁈ ちょ、ちょっと待ってくれッ! 梅木ーッ! 梅木はいるかーッ!」

「梅木先輩は今トイレです!」

「今すぐ呼べッ! クソでもしてるなら個室から引きずり出して来いッ!」

「は、ハイッッッ!」

「済まない。場所はどこだ? 君は今、どこにいる?」

〈今、255から少し入った山のアッ(ガッガガッ)〉

 携帯を落としたのか大きな雑音、そして

「どうした? おい、どうした? タケシ君? タケシ君ッ?!」

 タケシからの応答がない。

「林さん、お待たせしましたー」

「バカヤローッ! 遅ェッ!」

「ヒィッ?!」

 珍しい。これほどまでに狼狽する林を見るのは梅木は初めてだ。

「梅木ィッ! 255から少し入った山、で何を連想するッ⁈」

「え、えっとえっと、あ! カルトのシューニャデーヴァが教団施設を2年前に作って」

「それだッ! 車回せ! 総員、今すぐ出る準備をしろッ! 銃携帯! 梅木! バズーカは無いのかッ!?」

「流石にありませんっ! 銃対に要請出しますかっ?」

「バカヤローッ! そんな悠長なこと言ってられるかッ! SATからモスバーグ借りてこいッ! スラッグ詰めて持って行くッ! 防弾防刃ベストも着込んでおけッ! 高橋ッ!」

「はいっ」

「今から言う番号、キャリアに問い合わせて電話機の現在地またはその電話機が最後に発信した場所を特定させろ!」

「了解!」

「中川君ッ!」

「はいっ!」

「中井、松田、開成の各署へ連絡を取れ! 君はここに残り、各署と俺たちの通信ハブをやってもらう!」

「分かりましたっ!」

 未だ事情を掴めない梅木が問う。

「林さん! 何をする気ですか!」

「何を…? 戦争だッ!」


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