6
いったん死体は元の場所に埋め、目立たない程度の印をつけておいた。これで普通の登山客に発見されて、連日報道、といった最悪シナリオは避けられた。
そしてタクシーをもう一回呼び止めた。幸運なことにラーメン屋で頼人と待ち合わせした時と同じ運転手で、圭吾を見ると相変わらずの無表情だった。
僕たちが向かっているのはどこかというと、アパートだった。誰のアパートかって? 大家のだ。
そして、そのおんぼろアパートの店子は頼人だった。やはり借金の取り立てについてぴーちくぱーちくと騒ぐ輩で、僕と圭吾で、そいつらを封じ込めてほしいというのが頼人からの提案だった。
圭吾のキャリーバッグの中を開けると10万円が入っていた。僕はその千円の札束からこっそり1枚だけ抜き取ってポケットに入れた。奴らもたったの千円で口を酸っぱくしてドアをけ飛ばす輩ではないだろうし、頼人だって千円くらいは返済できるだろう。
「ハァ………………。ほんとに頼人も面倒に育ったな」
圭吾が窓を見ながらぼやく。こんな暴力団がらみのことも、圭吾にとっては日常茶飯事なのか、と思うと、僕の住んでいる世界が急にちっぽけに思えてきた。
タクシーは間もなくアパートに着いた。僕はしばらくどこにアパートが経っているのかわからなかった。なぜならアパートは少し大きめの一軒家が集まるセレブの住宅街にひっそりとたたずんでいたからである。
サイズもやはり隣の家と変わらず、合掌造りと昔の家らしい平らな造りとの中途半端な屋上の瓦はかなりほこりをかぶっていた。
一室はミニチュアみたいに小さいのだろうと思った。築四十一年らしいそのアパートの、27号室に頼人はいるそうだ。1階に10部屋で、3階建て――つまり30号室までしかないから、いちいち3桁や4桁にする必要はないらしい、と頼人が事前に説明していたのをやっと思い出した。
エレベーターはなく、埃が舞い上がって時々せき込む。プライバシーとやらをまるで考えていない設計は、いつ窃盗者に入られてもおかしくないというより、むしろ窃盗されたい人しか住まなさそうな家で、このおんぼろに棲んでいるのは頼人と家出してきたもう一人の中学生だけだという。大家はとうの昔に逃げ出しており、来年取り壊しが決まっていた。
「一週間後に暴力団が入居するらしいんです。毎晩ドアをけ飛ばされて――。ああ、勇気の借金肩代わりなんかしなければよかった」
つまり、やさしさが故にこのちっぽけな頼人は破滅したということか。
狭い階段にハイヒールの靴音がかつかつ響く。僕と圭吾は暴力団から頼人を守る、いわば護衛になっていた。




