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『逃げろ!』
律儀にも、とげとげの紙幣を置く箱の上に、圭吾は千円札を二枚出した。それも走りながら。
あの時、僕が代表して、支払った時とは違う焦り方。
ヒートアップしてくる走り。店主と警察が追いかけてくる。
やばいやばいやばい。
その三文字が追いかけてきた。
足元に絡みついてくる。上り坂。
絡みつかれた。僕をずりおろそうとしてくる。
まずいまずいまずい。
今度はその三文字に切り替わった。
それでも足元に絡みついてくる。上り坂が少し緩くなる。
息を切らす。肩で息をする。ぼんやりと体力がなくなるのを、足掻きながら感じる。無駄。
間も無く肺の奥が冷える。倒れ込んだ。圭吾、頼む。お前だけでも逃げてくれ。
ぼんやりと、空へ祈った。
澄み切った青空。
ところが圭吾は立ち止まると、僕を待ってくれた。
差は縮まっていく。圭吾の顔が険しくなった。10m、9m。圭吾走り出す。
8m、7m。僕も走り出した。間も無く歩道橋に差し掛かった。熟年の女性とすれ違う。驚いたそぶりも見せずに女性は歩道橋を降り切ったが、警察が爆走するのをみて顔を歪めたらしかった。
僕は歩道橋を降りるのには自信がある。脳の奥で、おでこの古傷がフラッシュする。あの痛みは鮮明に覚えている。
山を駆け下って、作った傷だ。
そこが痛む。
めまい、転倒。
起き上がる。
警察との差は数段。
足音が追いかけてくる。
なぜか眠たい。
眠気、警察。ラーメン屋の店主は追いかけるのを諦めたようだったが、応援を呼んでいるようだった。「食い逃げ」という言葉が聞こえた。
僕たちは食い逃げはしていない。
そうだよな、と圭吾の方を向いた。
そして、僕たちの絆は永遠だ。
犬が鎖で繋がれているように永遠だ。もちろんこれにはメリットとデメリットがある。
デメリットは十分に味わった。だからメリットをくれよ。
あの甘いみつは、もう売り切れなのか?
僕たちは、味わえないのか?
犯罪者という烙印を押された僕たちを、らいがぼんやりと見ている。
そんな気がする。




