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セカンドライフ  作者: 禁中並イエローハット
14/18

最終決戦

 家族とは、なんなのだろう。

 家族の定義とは、なんなのだろう。


 血の繋がりか?

 愛情の有無か?


 だけど彼女たちは、エマとトリスは、双方それを持っている。

 ならば、彼女達は家族足りえないのか?

 

 それは、違う。

 違うとは思うが、確証はない。


 だってそうだろう。


 世にある家族では、親が子供を虐待し、子供が親を殴っても共に暮らすのに、エマとトリスは、互いに互いを想っても、それでもいつも違う場所。


 おかしくはないなだろうか、間違ってないだろうか。


 いや、そもそも正しさなんてないのかも知れない。

 答えなんて望むべくもないかも知れない。


 ならば、間違えてやろう。


 せめて最低の正解より、最高の過ちを。


 誇り高き、紛う事なき不正解を。


「叩きつけてやるよ、お師匠さん」


 全ての決着は、ここで着く。













━トリス視点



 不吉だった。


 幾度の邂逅を経ても、それはやはり変わらない。

  

 不変だったし、普遍だった。


 あいも変わらず、恐ろしい。

 

 勝てる気はしない。

 勝った事がない。


 この体には、数多の敗北が刻まれている。

 正直なところトラウマだ。

 

 師匠には恩もある。

 そして未だ、返せる兆しも見えやしない。

 

 人道は外れたが、別の道を開拓してでも返すべきものだ。

 今から宿へと戻ってエマを殺しても消えない大恩を背負っているし、そうすべきだとも思っている。


 ━━━━━さて。


「死んでもらおうか━━━━━師匠」











 私は睥睨して、師匠は睨めつけた。


 曇天が立ち込めて、暗雲が押し寄せる。


 わかりやすいくらいの不吉演出だ。

 全く、人一人で天候すら動かすのかこの師匠は。


「さて、改めてあの時の返事を聞こうか」


 的外れな事を師匠が言う。

 最早その段階にはないと言うのに。


 もう全て、決定事項だ。


「エマを殺すか、私を殺すか」


 殺し屋にとって、これ以上ない質問文だ。

 ある意味どちらも正解だろうな、職業柄。


「聞かなくたって、知っているだろうが」


 ━アンタ以上に私を知る者なぞいないと言うのに。

 

 冗談めかして、それでも本気でそういった。


「ふん、確かにな」


 ━残念だ。


 対して師匠は、表情一つ変えずにそういった。


「なあ」

「なんだ」


 ぶっきらぼうで、いつもと同じの返事。

 何度も聞いた、日常の一部。

 私を救った、助け出してくれた、その人の声。


「アンタのことが大好きだ」

 

 嘘偽りなく、純粋に。


 本当に━━━━━大好きだ。


 実を言うと、今も変わらず。


 それを聞くと、少し驚いたような顔をして、それと同じくらい、悲しそうに影を落とした。


 そして、師匠は口端に微笑を浮かべ━━━━・・・


「私もだよ」


 ・・・━━━━━朗らかに、そう宣言した。


 そしてその言の葉を皮切りに、戦いの火蓋は、切って落とされた。









「だああああああああああああ!!! 」


 開幕を示唆する様に、火花が四散した。

 

 逆手で持ったナイフ。

 いつも通りの、幾千幾万と繰り返した斬撃。


 そしてやはりいつも通りに、幾万幾億と同じ結果。


 どうやったって、師匠には届きはしないのだ。


「ふん! 」


 師匠の中段蹴りが腹に命中した。

 後方へと飛ばされ体制を崩したが、受け身をとってその場を凌ぐ。


 が、師匠がそんな隙を見逃すはずもなく、間髪入れずに叩きに来た。

 土を蹴って豪速で迫っている。

 そうしてくるのはわかってたいたから、素早く刃で構え迎えうつ。


 間合いに這入られた。


 刃の持ち手に力を入れる。

 師匠の意識を手元に集めるためだ。


 もくろみ通り、師匠の意識を誘導は成功した、が。

 もくろみ通らず、師匠の攻撃は手首に当たった。

 予想より遥かに攻撃が早かったのだ。

 

 だが、肉を切らせて骨を断つ、だ。


 私もまた下段蹴りを命中させていた。

 しかし実力差というのは、こういう所でものを言う。


 脛のあたりに蹴りが入ったのだが、私が衝撃を加えた方向と同じ向きに脚を曲げたことで、遥かにダメージが軽くなってしまった。


 受け流されてしまったのだ。


 肉を切らせたのに、薄皮一枚断てたかも怪しかった。

 だがまあ、師匠相手なら上出来だ。


 師匠はぐっと腰を貯めた後、掌底で下顎を揺らした。

 視界が、ブレる。


 それどころか、頭の中で光が明滅しているのがわかった。

 危険だ。

 これが組手なら、ここらでやめていることだろう。

 だが、やめない。

 終わらないし、終わらせない。

 だってこれは、殺し合いなのだから。


「はっ! 」


 掌底で大きく隙を作った私目掛けて、またも追撃が襲う。


「な━━━━━! 」


 気がつくと、体躯に拳型に歪む(ひず)んだ穴が、五、六箇所点在していた。

 そして一挙に貯めた衝撃を開放するかの如く、腹部が鋭く圧っされた。


「ぶっ! 」


 お世辞にも様にならないうめき声をあげ、無様にも遥か後方へと着地した。


 今回は、受け身では誤魔化しきれないダメージが入った。


「が━━━━━━━ッハ! 」


 肺から空気が、衝撃と共に吐き出された。

 意識がトビかける。

 視界が、今度は白んだ。

 モヤがかかったように、曖昧に、不安げに。

 

 よくはわからないが、多分良くないなにかが身体に起こってる。


「焔の(意思)よ、

 其が顕現すは紅蓮の(かいな)

 彼方を穿つ双星より、その酷烈を示すが良い。」


 早口で詠唱を済ませると、右足の靴に仕込んだ、私の火属性魔石が反応した。

 この石は、わたしが持つ中でも最大級に強い効果を持つ物だ。

 きっと、()()()()()()()()()()


 唐突な詠唱に、攻撃を警戒してのことだろう。

 師匠の勢いに怯みも見て取れた。


 が、別にそれが目的な訳ではない。


「━━━━━なっ!」


 師匠は、どうやら眼前の光景に目を疑っている様子を見てだった。


 それも、仕方ないだろう。


 なんせ私の身体から、師匠から受けた傷が消えていたのだから。


 わけがわからない、という感じの顔はしていたが、考えても無駄と判断したのか攻撃を再開してきた。


 予備動作も無く、ナイフを私に投げつけた。

 鋭い直前の軌道を描き、足元辺りを目掛けて飛んでくる。


 それを仕方なく横に飛んで避けた。


「・・・・ッ! 」


 私の動きは予測されていたらしい。

 私が横へと着地し前方を見れば、ナイフが眼前に迫っていた。


 だが首を咄嗟に捻った為、結果頬を掠めるだけに終わった。


「お前は、危機が迫る時右に避ける。

 いつか直せと言っただろう」


 師匠は、この修羅場においても師匠だった。

 この期に及んで、ミスの解説をされるとはね。


「御高説どうも・・・! 」


 私は意趣返しのようにナイフを投擲したが、逆手に握られたナイフで軽く撃ち落とされた。


 何本常備してんだか。


「ッ! 」


 師匠は、一本だけ危なげに撃ち落とした。

 

「よし! 」


 実は初発に二、三本並列させて飛ばしたのだが、その真ん中のナイフの影に、つまり真後ろに、もう一本ナイフを投げておいたのだ。


 師匠の視点なら、3本しかないナイフを撃ち落としたら、魔法の様にもう一本現れた様に見えることだろう。


 何本常備してんだか、っていうのは、私が言えた事じゃないな。


「やる様になった」


 小声で呟く様に、師匠は褒めた。

 

 その言葉が、この状況下でも嬉しくて、少し情けない。

 が、それも束の間。


 ナイフの刃で光を反射させ、剣戟を誘って来ている。

 無論断る理由はない。


 白刃を光らせて、私もそれに応えた。


「だっ! 」

「ぬん! 」


 戦闘開始時の再現の如く、刃と刃が火花を発した。


 恐らくその後は、周囲から見れば剣戟の残像がカーテンの如く私と師匠を覆っていた事だろう。


 が、徐々に、徐々にだが、一定のパターンが生まれ始めた。


 師匠は防御をしなくなった。

 いや、ヤケクソになったという意味ではない。


 防御する必要が、無くなっていたのである。

 転じて私だが、防御しか、しなくなっていた。


 受け流すので、いっぱいいっぱいだった。

 時折受け流すのを失敗し、頬を掠め、腹を抉り、足を裂かれた。


 ひたすらこのパターンで、徐々に、徐々に。


「ぐっ・・・! 」


 ジリジリと後ろへ追いやられ、やられにやられ。

 背後を見れば、断崖絶壁背水の陣だった。


 ここで戦うのは、あまりに危うすぎる。

 私にとっても、 ━━━━━━━師匠にとっても。


「水の(意思)よ、

 其が顕現すは混濁の狂騒。

 彼方を穿つ彗星より、その苛烈を示すが良い。」


 左足に仕込んだ水属性魔石が起動した。

 これもまた、私が持ちうる最大級のやつだ。


「師匠」


 今までにないくらい、誇らしげに笑顔を向ける。


「私の勝ちだ」


 足から風魔術を放ち、空を突く様に飛翔した。


 出来なかったはずの、上着要らずの飛行。

 それを私は、たった今、実行した。


「なに!? 」


 驚愕の様子の師匠は、思わず視線で私を追いかけた。

 首の可動域を全て使って、余す事なく、

 

 ━━━━━━━━上を見た。



「つーことは! 足元が見えてねーって事だ!! 」



 名無しの声が聞こえると共に、師匠の足元、つまり崖が、海へと崩れ落ちた。


 名無しの土魔術が解除されたからだ。


「━━━━━━━━チッ!! 」


 師匠は舌打ちしたかと思うと、私と同じように飛ぼうとした。

 これでは、このままでは意味がなくなる。


 落とせなくなってしまう。


 あくまで、()()()()()()()


「!!?」


 師匠の真下には、既に足元を焼くほどの位置に迫っていた。

 

  ━━━━━━━名無しのあの技が。


「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!! 」


 師匠は、その圧倒的な光輝に呑み込まれ、消え去った。

 激しい断末魔の残響を、虚空に置き去りにしたまま。

 

 なんとか、落とせたらしかった。


 ━━━━━━━━━我が師の命を。

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