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セカンドライフ  作者: 禁中並イエローハット
13/18

やめてくれ

 俺は今、宿泊先付近の公園に来ている。

 子供たちが若さを発露させているのを眺めつつ、ただ漫然と呆けていた。


「・・・」


 いや、好きで呆けているわけではない。

 俺とて戦いが迫っているのにそんなお気楽精神でいられるほどイカれちゃいない。

 トリスが来ないのだ。

 俺は相手の方から来ると算段を立てていたが、少しばかり怪しくなってきた。

 いやでも、「私と話したければ自分で見つけてごらんなさあい」って事でも流石にあるまい。

 あるまい。

 あるまいにしても、待っていろってわけでもあるまい。

 だって来ないし。


「はぁ・・・」


 困った。

 何というか、ここ最近こういう事ばっかだ。


 公園の真ん中から飛び交う喧騒は、もはやバックグラウンドミュージックに成り下がっていたが、子供たち、というかガキ大将のようなガキが引き連れているガキ共が視界に映ると、ミュージックはともかく、バックグラウンドでは無くなった。

 ここ最近は荒んだ話題ばかりだったので、この極めて牧歌的な光景に心惹かれていたのだ。


「いけー!」


 ガキ大将の掛け声が聞こえたかと思うと、どうやら球遊びをはじめたらしく、宙に球が行き交った。


 あの子供がその子供に球を当てれば、こんどはこの子供が、と言った具合の乱戦が展開されている。

 その様を脳天気に眺めていると、少し場は様相を変えていった。

 ヒートアップしている。

 遊びというには剣幕が過ぎている。

 その証拠についていけなくなってきた者たちから順に、球に恐れはじめていった。


 そして、やはりといかなんというか、怪我人が出た。

 女の子だ。


 おいおい泣き出しちまったよ。 

 はっ、仕方ねえなぁ。

 こういう時にどう対応できるかで男は決まるぜ?


 おぉ、

 偉いなぁ。

 ガキ大将が慰めてる。

 やるじゃねえか。

 すげえぜ。


女の子(エマ)一人救えない俺より、ずっとな」

女の子(エマ)一人救えない私より、ずっとな」


 ん?


 と、声の先を探って横を向くと、そこに彼女が───



 ───トリスがいた。






 ※






「いやアンタ、何してたんですか」

「・・・すまない」


 ─すまないじゃ済まないですよ。


 そう返しつつ、俺は肘をついた。

 なんだかな、詰問すべしと息巻いていたのが、少々阿保らしくなっていた。

 いや、とはいえ決めた事。

 やるべきだろう。


「なんで、あんなことを言ったんですか?」


  主語は抜けて、おまけに代名詞という文章。

 わかりづらい事この上ないだろう。


 だけど、この場においては十分な言葉だった。


「・・・」


  答えは返ってこない。

 沈黙が答えという奴か?

 だとすればやめてほしい。

 俺にそんな事を察する能力はないのだから。


「トリスさん?」

「・・・ああ」


 ああ、じゃないよ。

 困るなぁ反応に。


「なんでもいいので、話してみてください、納得できるかもしれません」


  俺の念押しとも駄目押しとも言える後押しで、トリスは覚悟したような顔を作った。


「・・・わかった」


 彼女は、憂い気な所作を作ったと思うと、緩慢に口を開いた。


「私は、ここ数日、エマと良好な関係を築けていたな」

「そうですね、あなたが昨日壊しましたけど」


 つい、毒を吐いてしまった。

 よくないかもしれないが、これくらいは我慢してもらおう、相応の事はしているのだから。


「正直、嬉しかった。

 もう二度とは、あの子と触れ合う機会は失われていたと、思っていたからな」


 明後日の方向を見ながら、今日のトリスはそう語る。

 昨日の言とは違いつつも。


「ならば、何故?」


 端的に、そう聞いた。

 言わなくたって、そのまま語り出すだろうからな。


「・・・私は本来、エマと触れ合う権利など、持ち合わせちゃあいないんだ。

 だってそうだろう。

 まともに責任も持たず家族を捨て、間接的にとはいえ、エマの父親を殺したのだからな」


 ─どうだ、嘘は言ってないだろう?


 自嘲気に、口元を歪めた。


 要は彼女、自分がエマの父親、即ち夫を殺したも同然と、そう考えていたのだ。

 それを、出来るだけエマの心を離すように換言したのだ。


 ─私が殺した、と。


 全く、馬鹿げている。

 正直苛ついてきた。


 互いに互いを許しているのに、互いに互いへ贖おうとしている。


 これじゃ道化だ。


「貴女は、それで良いんですか?」

「良くはない、だが、これで正しい」


 俺の苛立ちは、声に出ていたと思う。

 それでも彼女は、そう言い抜いた。射抜いた。


 迷いの中でも、真っ直ぐに。


 思考を数巡させる。

 これで良いのかと、これで正しいのかと、


 良いわけがない。

 正しいわけがない。


 だけど、それでも、彼女は己を曲げないだろう。

 否、真っ直ぐにならないだろう。

 一度曲げたことは通すのだ。 

 ある意味では、殺し屋らしい。


「最後に聞きますが、戻る気は?」


 最終確認を取る為、一縷の希望を掴む為、尋ねておかねばならなかった。

 尋ねなければならなかった。

 だけどまあ、予想は付いている。


 そう思い、前方を眺む。

 どう答えるかだけを知る為に。


「無い」


 その言は、虚空に吸い込まれていった。

 全くもって、愚かしい。






 ※






 最後、トリスの師匠と戦う為の作戦を聞き、その後解散した。


 大胆な作戦だと思ったが、それなりに勝算もあると思う。

 出来るだけ不可避に不可避を重ね、重ねに重ね。

 重箱の隅をつつくような弱点を作り出した。


 人間にはどうあがいても実現不可なことはある。

 そこをどうにかして突く、そういう作戦だ。


 こういう事を聞く限り、やはり彼女はプロなのだ。

 だけど、その彼女をプロたらしめているプロは彼女の師匠だ。

 油断はできない。


 だから、ありったけを。

 あり得る限りのありったけを。

 彼にぶつけるとしよう。


 俺とて、能力自体は遥かに他を凌駕している。

 これは大きなアドバンテージだ。

 有効に使おう。


 だがまあ、これが通用するか否かは、やはり、取らぬ狸の皮算用だ。

 考えたって仕方がない。


 やはり、試す他ないのだ。

 テストと実践を同時並行では意味もない気はするが、やらざるをえまい。


 閑話休題。


 俺は、いつもの宿屋に帰った。

 エマはいつも通り、俺を出迎えてくれた。


 可愛らしい。

 愛らしい。

 だけどトリスは、だからこそ突き放したのだろう。


 トリスの気持ちも、理屈も、双方理解の範疇だ。

 だけどやっぱり、どこか悔しい。










 その晩、いつも通り二人で食事をしに、一階の食堂へと降りた。


「これ美味しいぞ、エマ」

「だね」


 他愛もない、ありふれた会話。


「あ、ごめんそれとって」

「はいっ・・・と」


 どこにでもある、凡庸な風景。


「私これ嫌ーい」

「がんばれよ、あとちょっとだろ?」


 日常のような、普通の掛け合い。

 

 だけども、彼女の目は、

 それでも、少女の目は、


 エマの目は、死んでいる。


 今にも、吐いてしまいたい。

 本当は何にも美味しくなどはない。

 味なんてもうわからない。


 この現状から、俺は逃げたくてたまらない。

 だけど、逃げる事など、出来はしない。


 正直、地獄だ。


 その目を、やめてくれ。

 哀れで、

 憐れで、

 憐憫で。


 もうどうしようもなく、終わっている。

 終わり過ぎるほどに、途方もなく。


「ねえねえ!お昼に出かけたんだけどね、とっても面白いことがあったの!」


 もう、無理をしないでくれ。

 息をするのも、辛くなる。

 一呼吸が逐一痛いんだ。


「ね!すごいでしょ?こんな事なかなかないよー!」

 

 やめてくれ、俺をもう、追い詰めないでくれ。

 死にたくてたまらない。

 やり直したくてたまらないんだ。


「それでねそれでね!今度はこんなことがあったの!」

 

 畜生。

 畜生。

 畜生。

 畜生。

 畜生。

 畜生。

 畜生。

 畜生。


「お兄ちゃんも」


  辛い。    

                          死

にたい。



 

   助けてくれ。


          



「やっぱり」


   泣きたい。


       殺してくれ。             死にたい。


  


         吐きそうだ。



「そう思う?」


 

 死にたい。 

 


          死にたい。

          

    死にたい。         死にたい。



   死にたい。     死にたい。



         死にたい。

にたい。


          

                 死にたい。


       死にたい。











         




           死にたい。










   「ああ、本当に───────そう思うよ」

 

 



 


 









 







































 





 

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