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セカンドライフ  作者: 禁中並イエローハット
12/18

親子

 トリスと俺の左腕と右腕を、遅まきながら治癒魔術で再生させた後、もはや第二の故郷とも言える宿に帰ってきた。

 まあ、俺の場合故郷の記憶はないので第一の故郷だが、ほぼ実家だ。

 しかし実家か、実家ってほど馴染んでるわけではないので、そう言う辺り、やはり所詮は比喩なのだな。

 どうでもいいことだが。

 

「おかえり、お母さん、お兄ちゃん!」


 可憐さを振りまいて、エマは出迎えてくれた。

 正直溺愛したい。

 すごくかわいい。

 ねえトリス?


 と、横を見ると、なんだかトリスの表情には、苦々しげなものがある。


 なんだ・・・?

 うちのエマの可愛さに不満でもあるのか?

 もしそうだって言うんなら流石のトリスでも許さないよ?


 まあ、冗談はさておき、何か、思い詰めたかのような暗さを抱えていた。


 どうしたと言うのだろう。

 この太陽の様な可憐さの前に、そんな陰のある表情ができものなのか。

 少しは照らされろよ。

 いや、照れているのか?

 なら許すこともやぶさかではないといったところだが。

 

 うーん、不安材料だ。

 まあだからと言って、なにができるかと言えばなにもできないのだが。


「ねえ、二人で何やってたの?」


 そんな思考をよそに、エマはそう尋ねてきた。

 まあ、気になるだろうな、彼女には何も言わずに出てきたわけだし。


「ん、ああ、ちょっとね」

「ちょっとってなにさー?」

「んー、いやー・・・なんて言うかな、ねえトリスさん?」

「─────────」


 え、あれ?

 反応してもらえないぞ?

 割と無視って傷つくんだよ? トリスさん。


「────エマ」


 深呼吸の様な溜めの後、物憂げに名を呼んだ。


「なぁに?」


 気づいていてか、それともいないのか、異変には触れずエマは応えた。

 トリスは、エマの目を見据え、何かを覚悟したかの様に佇んでいる。 


 やはり、様子がおかしい。

 いったいなんなのだ。


 まあ、そんなに重く捉える必要もないのか。

 エマとトリスは和解できていたのだ。

 これに必要だったエマの意思だって、既に俺は確認済みだ。


 トリスだって、あんなに楽しそうに釣りをしていた。

 いや、釣りを楽しんでたわけじゃないのか。

 帰り道はとても楽しげではあったから、やはり俺の醜態が効いたのだろう。

 ふはは、どうだ。

 俺にだってできる事はあるのだよ。


 ・・・。

 まあ、あほくささは否めないが。

 あんなに楽しげな帰り道をしておいて、まだ和解してないなんて、そんな事はあるまい。

 そこまで行けばもはやただのいじっぱりだ。

 

 だって、あの時のトリスとエマは、間違いなく親子だったのだから。


 そうだよな?トリスさん。


 答えを求める様に、トリスの顔を見た。


 彼女は、少しの沈黙の後、もう幾度か思索を繰り返している様子だった。


 そして───切り出した。



「お前、もう、私と関わるな」



 







 な・・・っ


「なんで?!」


 先に声を発したのは、エマだった。

 その声はうわずっている。

 そりゃあそうだ。

 意味不明すぎる。


 流れもなにも、脈絡すらも皆無といえる。

 訳がわからないよ。


「なんで、なんで今更になってそんなこと言うの!?」


エマは続けた。

 しがみつく様に、縋り付く様に。


 助けを、求める様に。


「そうですよトリスさん、なんでそんな結論にまで至るですか・・・」


同調して、追い討ちをした。

 いや、本当にわからないのだ。

 聞きたくもなる。


「─────────」


 問いかけへの返答はなく、必然、沈黙が場を制した。

 胃が、痛い。

 俺の事ではないのに、どうしてこんなに締め付けられるんだ。


「エマ、お前は、お前の父親が死んだ原因を知らない」


 唐突に、不意をつく発言だった。

 だが。トリスの澄まし顔からは、なにも読み取れない。

 

「・・・? ど、どう言うこと・・・?」

「し、知ってますよエマは、周囲からの迫害で精神を病んで、そのまま・・・だよな?エマ」


 答えとして、こくこく、と相槌が返ってきた。

 やはりそうじゃないか。

 突然なにを言い出すんだこの人は。


 意図が、わからない。


「それは、お前が見ている範囲での出来事だよ、エマ」

「な、なにを言って・・・!」

「世の中はね、お前の視界に映るものだけでできちゃいない。お前と、お前以外の全てで成り立っている。構成されている。そしてお前は、その構成員の中の端役に過ぎない。

おまえの視界になにが写ろうと、絶え間なく未知は蠢いているのさ」


 ─そして端役は、物語に介入はできないんだ。


 そう、付け足した。


「な、なにを言ってるのかわからないよ・・・」

「だろうな」

「ねえ、お母さんどうしたの・・・?エマ何かした?」

「してない」

「じゃあどこが駄目なの? お父さんの事を責めに来たこと・・・?」

「違う」

「なら、なら一緒にいたって───!」





「──────駄目だと言っている!!!!」



 金切声が、空を裂いた。

 金ではなく縁を切るこの状況で、それは余りに空虚に響いた。


エマは、力なくへたり込んでしまった。

 目に涙を浮かべて。

 

 彼女はもう、とうにキャパシティを超えている。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「──────────いいかげんにしろよ!!トリス!」


 気がつけば、叫んでいた。

 もう、訳がわからない。


「アンタ・・・なにがしたいんだ!なにを言いたいんだよ!」


 すると、喚く食用豚を見下ろす様に、冷徹に睨め付けた。

 煩わしいものを見るような、三白眼で。


 ─教えてやろう。


「・・・は?」

「ならば、教えてやろう」


 絶対零度の呼気を漏らし、射止めるように宣言した。



「エマの父親、つまり私の夫は─────私が殺した」









 トリスは、その後宿を出て行き、どこかへ去っていった。

 行方は不明だ。


 どうすればいいのだろう。

 俺のすぐそばには、未だえずいているエマがいる。

 この子をこんな目に合わせたのだから、当然トリスを問い詰めねばならない。

 

 だけどしかし、現状彼女をさがしうる手段は、俺の手持ちにはない。


 彼女は殺し屋。

 隠密行動には、きっと長けている。


 俺のような素人に見つけられるわけはない。

 だが、だからといって諦めていいということでもない。

 

 ・・・。

 

 それにしたって、エマの父親を、トリスが殺した?

 彼女も言っていたが、それはつまり自分の夫を殺めたという事。

 あり得るのだろうか。

 あの、家族愛しさ故に傷ついて、家族愛しさ故に頑固な、あのトリスが、自分の家族を手にかけられるのだろうか。


 否。

 断じて否だ。


 彼女と関わった期間が長いわけではないが、それでも、密度は高かったように思える。

 人となりぐらいなら掌握済みだ。

 そしてその掌握した人となりから察するに、彼女は決して家族を殺せはしないのだ。

 いわば、神域。

 断じて侵されるべきではない、不可侵の間。


 それ故、彼女は己が師匠と対峙した。

 それ故、俺は彼女と共に戦うと決めた。


 そう、共に戦う約束をしたのだ。


 ・・・。


 ・・・・・・ん?


 というか、一緒に戦うのだから、それについての話し合いぐらいは当然行うよな。


 と、いう事は、俺がわざわざ動かなくても、時が来たら彼女から訪ねてくるだろう。

 恐らく、エマがいない時を見計らって。

 

 ならば、その時に話し合うとしよう。

 きっと彼女にも考えがあるはずだ。

 それが納得できるものなら、エマに謝らせて無理やりにでも幸せになってもらう。


 これは決定事項だ。

 絶対に譲ってやらない。


 しかし、そうでなかった時は?

 彼女の意見が、納得できるものでなかった時は?


 決まっている。


 どれだけ死に瀕しようとも、ぶん殴ってからエマに謝らせて幸せになってもらう。


 乱暴だし、痛いだろうし、辛いだろうが、

 だがそれでも、そうであろうとも、これもまた、決定事項なのだ。

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