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セカンドライフ  作者: 禁中並イエローハット
11/18

決着

 ─トリス視点


 アイツ(名無し)から引火した炎が、か細くも図太く燃え残ったが、なんとか水魔術で消火して、窮地を脱した。

 いや、そんなことはいい。


 妙なのだ。


 ほんの少しだが、奴の雰囲気が変わった。

 覚悟の様な、決意の様な。

 そんな様相を僅かに感じ取らせる。


 だが、多少上記を逸するならば、見たところ精神は落ち着いている様子だ。


 解らない。

 解せない。


 理解の外に位置するものというのは、いつでも天敵足りうる。


 私の人生は常に闘争の最中にあった。

 そういう機微には聡い。


 そしてその機微が、コイツが、私の天敵足りうると警鐘を鳴らしている。


 ()()()


 全身全霊を、

 この体躯を遍く総ての全身全霊を以って、アイツ(名無し)を迎撃してやろう。


 来い。

 この命は─────


「────数多の『暴』を統べている」


 刹那、奴が構えた右手から光柱が発せられた。

 万物を灰塵に帰すような、圧倒的な死。


 それが、地を抉りながら、淡々と対照()をつけ狙う。


 相対し、肉薄し、追い縋る。


 闘争の権化の様なその光輝は、粉塵を巻き起こし、一帯を煉獄に変えた。


 ≪ドガアアアアァァァァン!!≫



 ─名無し視点


 手応え、はあった。

 眼前は光で塞がっていたから、正直よくは見えなかったが、当たっていた様には見えた。


 どうだ。


 流石に、流石にダメージくらいは入っただろう。

 これでトリスもきっと認めてくれる。

 これで俺だって────戦えると認めざるを得ないだろ!

 本来なら考えるまでもないことだったんだ。

 そもそも論として、化け物とは言っても人間なのだ。

 ()()()()()()()()なのだ。


 心配はしていたが、やはりあんな怪光線、避けられるはずがあるまい!


 ───────いける。


 いけるいけるいける!



「はっ・・・」



「はははは・・・!」



「ははははははははははは───────は!?」



 俺の眼には、映っていた。

 黒煙を纏った死神が、宙を悠然と飛翔する姿が。

 地を這う爆煙から、抜け出してきたであろうトリスの姿が。


「安易に視界を技で塞ぐから、死角を容易くつかれるのだ」


 死神の言う死角は、どうやら説得力が違うらしい。

 眼前の光で視界は塞がり、全くもって気がつきはしなかった。


 完全なる意識外に、死神は鎌を忍ばせていた。


「くっ!!」


 慌てて、構えた右手を上方修正する。

 そして心を落ち着けつつ、荒く狙いを定め、

 撃っ─────


「一撃」


 刹那、


 何か、何かが、一閃された。

 それだけがわかった。


 あまりに疾く、遥か遠くの領域のそれが、


 何かを斬っていた事が。


「あ"あ"っ"! ・・・ゃああああああああああ!!!」


 斬れていたのは、

 千切れていたのは、


 不吉の六角を刻む、俺の右腕だった。


 脳を焼く激痛が走る。

 キャパシティを遥かに超えたその痛みは、容易く思考を鈍くした。


 頭が、回らない。

 俺は何をすればいい?


「二撃」


 続いてそれは、俺の肩から左腕を切り離した。


「ぐぎッ"ッ"ッ"!!!」


 両腕が無くなった。

 双方の鋭利な切り口からは、紅色の鮮血が噴き出した。


 地に着いたものから順に、血の池を着々と形成していった。


 それでも、それでもなんとか気を保ち、再びトリスと相対した。


 今まであった物を突然失ったので、バランスが取り辛く、とてとてと、体勢を少し崩しながら。


 そうしている間に、

 トリスはまたも、

 刃を天に掲げていた。


「三撃─────!!」


 そして最後の、最期の惨劇は、頸動脈を軽く撫でた。


 其処を飛び出した鮮血が、

 笛のように、チープな音色を奏でていた。


 血溜まりの中へと悪趣味な滝が降り落ちた。

 先刻からの出血は、余りに甚大だった。


 もう、意識も朦朧だ。

 所詮はただの人間。

 覚悟も決意も、泡沫の如く脆弱だ。


 駄目だ。

 無理だ。

 終わりだ。


 もう治癒魔術をかける気力もない。


 きっとこのままじゃ、助けたい人も助けられず、のうのうと死にゆくだけなのだろう。


 あれだけ言い張っておいて、すぐにこれじゃあざまあない。

 情けない。

 仕方ないけど、情けない。


 結局下を這いつくばるだけ、何もできちゃあいない現状。

 死にたくなる。

 まあ、俺の意思とは無関係に、今まさに死んでいくところだが。


 はっ、馬鹿馬鹿しい。

 どうせ死ぬのなら、エマとトリスをすくって死にたかった。

 わかってる、こんな情けない強さでそんなことを言うのは、傲慢だと言うことくらい。


 でも、俺だって、俺みたいな奴だって、人を救えるって言いたいじゃないか。

 胸を張って、大手を振って。


 ・・・もう、諦めよう。

 どうせ無理だ。

 死ぬのだから。


 なんともなしに、トリスを見る。


 勝者らしく、天を仰いでいた。

 それを見て、俺は下を向いた。


 本当に、情けない。



 ・・・。



 ・・・・・・。



 ・・・いや、待て、



 ()()()()()()()


 つまり彼女は今、上を向いている。

 ()()()()()()()()()()()()()俺と違って、上を向いている。


 それはつまり、()()()()()()()()()



 ならば、



 ならば─────────!



「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!!!」



 俺は気力を振り絞り、治癒魔術を自身にかけ、全快する。


 客観的な光景としては、トカゲの再生を見ている気分なのだろうな。

 左右同時に腕が生えてきた。

 圧力がかかるからなのか再生時に血が吹き出してしまい、断面だったところからそれ以降は、紅く濡れていた。


 その瞬きの間に、瞬く間に、トリスは攻撃体制を整えていた。


 だけど今回は俺も同じく、右手をトリスに向け切っていた。



 ≪俺の右の手のひらが仄かに光る≫


 ≪それに呼応する様に刃がぐんと振り下ろされる≫


 ≪光は次第に姿を球体へと変貌させる≫


 ≪刃は腕を切り落とすまでの間合いを三寸に詰めている≫


 ≪閃光を経て光は光柱と化している≫


 ≪刃は肌に触れて表面細胞を潰している≫




 刹那─────腕が吹き飛んだ。



 鮮血を撒き散らし、空の青とコントラストを作り出しながら。


 それは誰のか、左右のどちらか、



 答えは、見るまでもない。





 俺とトリスの───────右腕と左腕だ。







 ※







「これで俺だって戦えるって認めてくれますね?」

「は? 認めないが? 」

「なんでだよ!」


 俺はさっきの戦いで認められて喜んでいたのだが、

 確認を取ると、どうやら認識に差があったらしい。


 どういう事だ・・・。

 あれだけ死力を尽くして尚認めてもらえんのか。

 めちゃくちゃ頑張ったんだけどな・・・。


「私が認めると言ったのは、師匠との戦いに参加する事であって、戦える事じゃあ無い」


 ・・・?

 同じことでは?


「断じて違う」


 また思考を読まれた!

 いやほんと、どんな技術だよ。


「師匠はな、いつもとてつもない不吉を撒き散らしている

 今は抑え方を理解したらしく、基本そんな事はないが」

「そ、それが?」

「撒き散らしている、とさっき言ったろう?

 実はこの時点で、かなり不吉を抑えているんだ。

 威力が分散されるからな」

「な、成る程」


 わかったような、分からないような


「『水』が蒸発しても、つまり水蒸気が周りにあったところで湿っぽいだけだが、

 個体になるまで凝固した氷を投げられたら痛いだろう?」

「はい」

「師匠はそれを、『不吉』で再現できる人なんだ」


 ・・・成る程。

 つまり分散されてる不吉を一点に集中させる事で、技にまで昇華しているという事か、


「要するに、その一点集中された不吉に耐えられるだけの気合いがある、そう認められたわけですか?」

「そういう事だ」


 マジか・・・。

 という事はその不吉に耐えながら、サポートに回れということか。


 戦いにはお呼びではないと。

 どんだけ強いんだ、師匠とかいう人。




 気が滅入るなぁ、だけど、まあ、頑張るしかないのだろう。

 ならば、頑張ろうじゃないか。

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