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えもえもとスイカと線香花火

お盆を車のボンネットの上に置き、自身もスイカを一つ齧りながらコン達の様子を伺っていたばあちゃんに声をかける。




「なんだい?スイカもう一個欲しいのかい?」




と、茶化すように言われるが、俺は首を横に振る。




「いや、そうじゃなくて…その昼間の件なんだけど…仙狐水晶の件で協力して欲しい事があるんだけど…」




と、尋ねると何やら神妙な顔をしてばあちゃんは頷く。




「ふむ、詳しく聞こうかね?」




「実は…」




と、俺は昼間あった出来事をばあちゃんに伝えた。




掃除してたらミニ社が壊れていた事。




仙狐水晶が盗まれた事。




久那妓さんに聞いたら直近で来てたのが四人で市長さん、地主さん、寿司屋の政さん、そしてばあちゃんだったこと。




久那妓さん曰く仙狐水晶が無くなったのは一昨日の深夜だということ。




これらをなるべく分かりやすく、かいつまんで説明すると、ばあちゃんは「そうかい…」と、頷くと「うーん…」と、眉間に皺を寄せて、神妙な面持ちで続けた。




「んで、どうして欲しいんだい?」




と、質問を受け入れてくれる様子だ。




「ああ、その直近で来た三人にアポイントはとれるかな?」




と、俺が尋ねるとばあちゃんはこちらを見据えて続けた。




「そうさね…まあ、皆顔なじみだから声を掛ける事は出来る…。明日には声を掛けてみるけど…何て言うつもりだい?まさか、仙狐水晶が無くなったので誰か知りませんか?なんて直接訪ねるつもりじゃないだろうね?」




ぶっちゃけそのつもりだった。




図星を突かれたことにドキッとしたが、手がかりが無いのだから片っ端から当たるしかない。




こればっかりは総当たりしてみて、何かわかれば儲けもんくらいに思っておく他無いだろう。




「いや、まあ…その通りなんだけど…一昨日まであったのは確かだとして、一応それとなく探りを入れてみたら何か無くなった理由が分かるかもしれないじゃん?」




「そう上手くいくもんかね?」




うん、微妙なところだ。




やっぱり素直に話した方がいいかもしれない…。




心の中でちょっとだけ反省しつつ、続ける。




「正直どうなるか分からん。久那妓さん曰く直近で訪ねてきたのはこの三人とばあちゃんだけだって話だし…何も手がかりがない状態だから、探すの協力してもらうなりなんなり何か進展があればいいなーって感じだ…」




ばあちゃんにしてみれば、知り合いにあらぬ疑いを掛けるわけだから、気分的にあまりいい気はしないだろう。




「まあ、報告はしないといけないからね。一応それとなくあたしの方から皆に話を聞いておこうか?」




正直な所ありがたい話ではある。




面識がない人に直接疑いをかけて、回るのは非常にめんどくさい。




それこそ本来ならそういう捜査も警察の仕事なのだが、今回ばかりは警察も役に立たないと来ている。




その中に犯人がいたとしても、知らぬ存ぜぬで通してしまえば俺達に調べる方法はないのだから、正直望み薄ではある。




「んー…まあ、俺が直接聞くよりは何か聞けそうだなぁ…」




と、少し悩んだがそこはばあちゃんにお願いすることにした。




「分かった。んじゃ、頼むよばあちゃん!」




俺がそう言うと、ばあちゃんは「ま、あんま期待すんじゃないよ?」と、言って了承してくれた。




まあ、その件はばあちゃんに任せるとして…。




正直ばあちゃんが仙狐水晶を盗んだとは考え難いが、一応ばあちゃんも山に来ていた人の内の一人だ。




確認はしないといけない。




「一応ばあちゃんにも聞いときたいんだけどさ?いつ頃山に行って何してたんだ?」




俺がそう言うとばあちゃんは面倒くさそうに答える。




「ま、そうさね…今年の掃除の準備をするつもりだったからねえ…その為の道具を置きに行ったり、鳥居や社の修繕箇所の確認作業だね」




「それって一日中かかるのか?普通点検が終わったらそのまま掃除したりとかしないのか…?」




まあ古い建物だったからそれこそ修繕の必要も出てくるだろう。




建物自体もそうだが、外の鳥居もとなると、一か所ずつ見て回るしか点検の仕様がないので、確かに時間はかかりそうだ。




「そうもいかないんだよ。場所が場所だからね、業者の人も車で入っていくのが難しいんだ。だからほら、社務所に道具が一杯あったろ?見てなかったかい?」




「いや、見てなかった。正直あったかもしれないけど必要な物を探すのに手一杯でそこまで目に入らなかった」




「はぁ…全く探偵なんだから、そのくらいはしっかりと観察しておいておくれよ。ま、とにかく四日前の昼に山で修繕箇所の点検なんかをして、後片付けやらなにやら終わって帰る頃にバイクに轢かれたわけだ」




痛い所を突かれてしまうが、まああの時は正直暑すぎて、観察どころじゃなかったから…と言い訳しつつも、スマホを取り出し、操作する。




「それは何時頃か覚えてる?」




メモ帳を開いて、ばあちゃんの返事を待つと、ばあちゃんは二、三秒くらい考え込むとすぐに答えてくれた。




「まあ大体夜の十時頃だねえ。点検を終えて業者と打合せと確認してからだから…大体そのくらいだったはずだよ」




一応スマホのメモ帳にメモを取りながら聞いていく。




昼から初めて夜の十時頃に終わるって…相当な作業だったのだろう。




まあ、あの山に登って行く必要がある為、確かに道具の準備や修繕箇所の確認を念入りに打合せする必要はあるだろう。




車や重機は基本的に入っていけない様な場所だから、それだけ手間もかかるのだろう。




「何か変わった事は無かった?」




「いんや、その時は特になかったさね…」




うーん…やはりばあちゃんは何も知らなさそうだ。




殆ど今と変わらない情報しか集まらなかったし、もう特に聞けることはなさそうだ。




結局明日の連絡待ち、ということになるのか…。




「分かった。まあ、また何かあったら連絡するよ。ばあちゃんも何か分かったら連絡よろしく」




俺はそう言うと、会話を終了させた。




「あいよ」




と、ばあちゃんも短く返事をするとはスイカを一つ掴み取り齧りつく。




「ぐぬぬ…こうなるとまた八方ふさがりだ…」




腕を組み、首を傾げ目を閉じて「うーん…」と、唸る。




しかし、いくら考えても結局のところどうしていいのか、いい案は浮かばなかった。




そうこうしていると、玄関口から花奈と母さんが出てきて、お盆にプラスチック製のコップと中にはコーラやオレンジジュースや麦茶といった飲み物を入れて運んで来てくれていた。




ご丁寧に氷まで入っていて、キンキンに冷えてそうだ。




「おまたせ~四季っち―ほら、そんな難しい顔してないで、これでも飲んでリフレッシュ―!はいどーぞ!」




と、花奈はコーラの入ったコップを手渡してくれた。




手渡されたコップは外気との差で結露が出来ており、表面は薄っすらと湿っていた。




ひんやりとした感触と、水滴のしっとり感で持っている手の熱も徐々に和らいでいく。




「さんきゅー」




軽く礼を言って、一口それを飲む。




氷入りのコーラが食道を通り抜けると、冷たい感触が胃の中まで届いたのが良く分かる。




「一杯三百円です!」




と、花奈がふざけた調子で手を差し出してきた。




しかも微妙に高ぇし!




「金取るのかよ!」




顔は笑っているので本気じゃないと思いたい。




「んなわけないじゃん!はい!お金?」




花奈はにんまりとゲスい笑みを浮かべ、口角を上げて猫の口みたいな形にするともう一度催促してきた。




「取る気満々じゃねーか!」




と、ツッコミを入れると花奈は猫の口のままひらひらと手を振っていう。




「冗談なんだから、本気にしないでよ~!」




と、言いつつ他の皆に飲み物を配る。




「はい、コンちゃんと樹っちゃんもどうぞ!」




と、花奈はコンと樹にもの飲み物を手渡すと自分もコップを一つ取ってコンと樹と一緒にしゃがみ込んだ。




「花奈ちゃんさーんきゅ!」




「さーんきゅ!なのじゃ!」




樹も目じりを下げ、額の汗を手で拭うとコップを受け取ると軽く礼を言ってそれに口をつける。




コンも樹をまねて額を拭いコップを受け取ると口をつけた。




「ひえひえ、あまあまなのじゃ~!」




「そうね、冷たくて美味しいわ~」




と、二人も飲み物を受け取ってそれを味わっていた。




そんな三人の様子を呆然と立ち尽くして眺めていると、花奈が顔を向けてくる。




「まあまあ、そんな怖い顔しても良い考えは思いつかないって!ほら、もっとリラックスして~!」




飲み物を配り終えた花奈は再び俺の所へ戻ってくると、人差し指を立てて左右に振るとからかう様にそう言った。




まあ、癪ではあるが実際その通りである。




行き詰ってしまったのは事実なのだから、ここは花奈の言う通り少し落ち着いて、休憩するのも必要かもしれない。




俺は受け取った液体をゴク、ゴクッ、と喉を鳴らして一気に煽ると、炭酸飲料特有のチリチリとした刺激が喉を通過し、後味は甘ったるいが、良く冷えていて爽快だった。




「はぁ…」




どっと疲れが押し寄せて、一気に老け込んだ気分だったが、今日はもう考えるのは止そう。




そう思い、俺は地面に置きっぱなしになっていた花火の袋から線香花火を取り出して、紙束をバラすと、皆に配り一本ずつ手に持ち、短くなった蝋燭で火を付けた。




「んじゃ、これでラストだな…」




花火の〆は大体線香花火だ。




派手さや華やかさこそないが、淡く光るその輝きや、終わりの瞬間の切なさが何とも言えず、地味だけど俺はそれが好きだ。




昔まだ幼かった頃に、家族や友人と一緒にやった花火の最期に、誰が一番長く線香花火を続けられるかで競争したり、一気にまとめて燃やして瞬殺したり、と楽しかった記憶がある。




多分、そういう思いで補正も多少あるかもしれないが、その記憶が蘇り、今でも線香花火が好きなのはそういう理由かもしれない。




「あ、そうそう、上手上手!ゆっくり、ゆっくりよコンちゃん!」




樹の言う通りに蝋燭で火を付けると、最初は燃える一本の筋だった線が、徐徐に丸みを帯びていく。




「おお!…こうか?」




右手でそれを持ち、揺らさないようにしっかりと固定して、じーっとそれを見つめるコン。




チリチリと火薬の焼ける匂いと赤い火の玉が出来ると、次いでパチパチと赤い火花をまき散らしながら火の玉は徐々に大きさを増していく。




「なんだか…その、儚いが…綺麗じゃ…」




コンはその光の迸ほとばしりに目を奪われていた。




淡く光る蝋燭の優しい色味と、橙色の線香花火の明かりが合わさって、コンや樹の顔を照らす。




不覚にも、伏し目がちに花火へと視線を向けるコンの姿は、とても神秘的で、何より綺麗だと、心底思えた。




「そうねぇ~…線香花火ってなんか沁みるというか…エモいわよね」




樹もコンの隣で線香花火に火を付ける。




パチパチと弾ける火薬の音と光を二人で眺めていて、夏の夜の静けさも相まって何とも言えない雰囲気だ。




「えもい?」




聞きなれない単語にコンは首を傾げ、オウム返しの様に樹に聞き返す。




「情緒があるって事よ」




と、樹は左手の人差し指を立てるとパチンとウィンクをしながら答えた。




「ん~?」




と、よく分かっていない様子で、コンは目を丸くして首を傾げていた。




言いえて妙だが確かに、こういうのをエモいと言うのだろうか?




エモーショナル…情緒的とか感情的とかそういう意味だった気がするが、今確かにこの場面だけ見れば情緒的であり、エモいであっているかもしれない。




「良く分からんが…その、何となくわかるぞ!」




何となくニュアンスは伝わったみたいで、コンもこの状況を楽しんでいる様子だった。




「まだそんなに時間は経ってはおらぬが…ぬしらと過ごした今日は、間違いなくわしは楽しかったし…えもえも、なのじゃ!」




コンは口角を一杯に上げてにんまりと笑うと、皆の顔を見渡し、一人一人の顔を確認していた。




多分皆同じ顔をしていただろう。




樹も花奈もばあちゃんも母さんも俺も…皆笑顔で、ニコニコと笑っていて、心の底から今、この時を楽しんでいるのが一目で分かった。




「良く分からんが、エモいのじゃ!」




覚えたての単語を繰り返す様はまるで幼子の様だが、皆もその様子を咎めることなく「そうだね~」とか「そうね」と、頷いていた。




「よくわかんないかー!まあ、でも何となくでいいんだよ!そうそう、スイカが冷たくて美味しいのも、花火が綺麗なのも、夏こうやって友達と花火するのもみーんな、みーんなエモい!なんだよー!」




「おいおい、スイカ美味しいはエモいとは違うだろ…」




「なにいってんのー、そんなの何となくで皆で楽しい、美味しいを共有できたらそれはもうエモいでいいじゃないの!」




「そういうんかよ…」




「そういうもんよ」




「ねー?」




「のじゃ!」




と、話している内にコンの持っていた線香花火の火球が唐突にポトンと落下し、足元に黒いシミを作る。




「あ…」




「あ…終わっちゃったわね」




次いで樹の線香花火もポトリと火球が落下する。




終わってしまうと何ともあっけないそれに、何とも感慨深い気持ちになってしまったが、それは何かが終わってしまう時には自然と感じるもので。




楽しい事もいつかは終わりが来ると、教えてくれている様だった。




「終わってしまったの…」




終わっても尚、右手に花火の残滓を持ったまま、座り込んでいるコンは、その先端をまだ見つめていた。




「そうね…。よっこいせ!」




そう言うと、樹は立ち上がり、終ってしまった線香花火をバケツに放り込むと、膝をパンパンと軽く叩はたいて埃を払い、花奈に声を掛ける。




「花奈ちゃん、もう遅いから送って行くわ。そろそろお暇しましょうか?」




と、言うと花奈は「そだねー」と、短く返事を返すと後片付けモードに入っていた。




「何か今日片付けばっかな気がするー、だるー!あ、お母さんこれはどこに捨てたらいいすか?」




と、愚痴はこぼしていたが、花火の残骸の入ったバケツを持つと母さんに尋ねていた。




「あらあら…それは、明日纏めて捨てておくから、水かけてそこに置いててくれたらいいわよ~」




と、母さん。




そんなやり取りを尻目に、俺も腰を上げて片付けを手伝う。




「ほら、コン…それ」




と、バケツの方を指さして促すと、コンは動かない。




「…」




「どうした…?」




と、声を掛けると、コンは後ろを振り向き立ち上がる。




「おっと、忘れておった!ポチ丸、ワシの分のスイカがまだ残っておったはずじゃ!それを残してしまうと罰が当たってしまうぞ!ほれ、突撃―いくぞー!」




と、燃え殻を大事そうに抱え、急に走って玄関の奥へと消えて行った。




「あ、こら!急に走るなっての…」




俺はとっさの出来事に追いつけず、コンを見送る形になってしまったのだが、樹と顔を見合わせると「まあ、好きにさせてあげたら?」と、諭されてしまった。




「はぁ…」




と、息を吐く。




あいつなりに考えがあっての事なんだろうと、深く考えるのはやめた。




というか、考えたところで答えなどでない。




分からないならいっそ、好きにさせてやるべきだと、心の中でそう思った。




「ま、いいか」




と、一人納得して蝋燭やらコップやら使った道具を纏めてゴミの分別をしながら、後処理をするのだった。




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