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争奪戦と風物詩

コンビニから戻ると、アイスは夏の熱気にやられて半分溶けかけていたが、エアコンの効いた室内で食べるアイスは格別だった。


「うまぁあはあぁ~……!」


と、俺が選んだ大福もちのアイスを頬張るケモミミ幼女のコンは、ニコニコと笑顔で樹や花奈の分…はたまた、母さんやばあちゃんの分のアイスも一口ずつ貰い、その度に大げさなリアクションで喜んでいた。


その一口は殆ど一個分と大差ない程の大きさだったのは言うまでもない。


「のうのう!どれもうまいのう!」


蒸し暑かったので俺はソーダ味の棒付きかき氷のアイスを選んだのだが、そちらをジーっと見つめて涎を垂らし、俺の顔色を窺っているコンは餌を前にした子犬モードで尻尾と耳をフリフリ、ぴこぴこと動かしていた。


「のう…四季よ!そのぅ…そっちのも…うまそうじゃのぅ?いや、さぞうまいに違いないっ…!」


と、留まることを知らない食欲を発揮し、ついに俺の眼前一メートル程の所にまでやってきた。


「おい、さっき自分の分も食ったろ…それに他四人分くらいペロッと平らげたのは誰だ?」


図星を突かれて一瞬しかめっ面でのけぞるコン。


しかし、すぐに気を取り直したのか、それとも単純に気にしていないのかコンは更に距離を縮めると尻尾をゆらゆらと揺らしてにじり寄ってきた。


「うぐっ!し、しかし!ほら、あれじゃ!この、あいすくりーむ?というやつが強かに美味しくて…そのぅ…ああもう!四の五の言わずにそれもよこさぬか~!」


と、勢いよく飛びついてくるケモミミ幼女。


「よっと!危ないじゃねーか!何しやがる!」


それを華麗に躱すと、しゅたっと地面に着地して方向転換。


そして再びこちらに飛び掛かってくる。


「ぐぬぬ…なかなか手ごわいやつじゃ…その、青いあいすくりーむもよこすのじゃー!」


と、八重歯をむき出しにして俺を壁の方へと追い詰めるとじりじりと距離を詰めるコン。


全くこいつときたら…。


まあ、この程度で喜んでくれるなら安い物だ。


たかだかアイス如きでムキになるのも大人げないと、何とも冷めてしまった…。


俺は両手を上に上げて降参のポーズを取る。


「はぁ…ほら、急いで食うと頭キーンてなるから、ゆっくり食うんだぞ…」


と、袋を開けてまだ一口しか食べていなかったアイスをコンに渡す。


「むふふふ…初めからそうしておれば良いものを…いっただっきまーす!あぐっ!」


と、俺からそれを受け取るとすぐに口の中へ放り込んでしまった。


と、思う程今日だけで相当の食糧を食べているはずだ。


何とも恐ろしい。


この、大食い幼女め!


半ば奪い取る様な形で俺から勝ち取ったソーダ味のアイスを「あぐっ、あぐっ!」と、勢いよく食べ進めていくコン。


途中溶けて雫が垂れていたが、そこも丁寧に舌を這わせて嘗めとっており、結局最後の一口まで全部持って行かれてしまったのだった。


「ん~…うまぁ!なんじゃこれー頭がキーンってするぞ!…じゃが、うまいのじゃあ!」


言わんこっちゃない。


だからゆっくり食べろと言ったのに、結局その注意も無駄だったみたいだ。


この際奪われたアイスはもう諦めてしまおう。


何事にも興味を持って、食い付く姿勢は素晴らしいのだが、こうも食い意地が張っていると、この小さい体のどこに吸い込まれているのかと疑問に思ってしまう。


まあ見た目は幼女とはいえ、年齢的には八十超えてるとしたら、もはやババアなのだが、身体的にはまだ九歳か十歳くらいの身長だ。


遅れてきた成長期でエネルギーが必要なんだな…きっとそうに違いない。


と、何とも感慨深くなってしまった俺は先ほど買ってきた”大連打三十連発パーフェクトビッグバンセット”と書かれたパッケージを取り出す。


七色の鮮やかなフォントで書かれたそれは、迫力を出す為かパッケージにナイアガラの滝の様な枝垂れ花火や、目玉であろう手持ちの三十連発花火なんかがデカデカと描かれていた。


「母さん、バケツあったっけ?」


と、母さんに尋ねると「ええ、外の倉庫にあったはずよ。取ってくるわね」と、バケツを取りに行ってくれた。


樹と花奈はばあちゃんと一緒に座ってテレビを見ていた。


丁度夜のニュースが流れていて、それを見ながら雑談している様子だ。


ニュースでは基本的に全国区のニュースが流れていて、高速道路で事故だとか、空き巣が逮捕されただとか、そういうニュースばかり流れていた。


ローカルニュースに切り替わっても、オフィス街の交差点で交通事故があったとか、飛び降り自殺があったとか、コンビニで強盗があったとか、そういう暗いニュースばかりだった。


「全く、物騒なもんだねえ」


と、ばあちゃんがローカルニュースに切り替わったタイミングでうんざりした感じでそう呟いた。


「はぁ…世の中どうなってんだい。全く、あたしがその場に居たら犯人とっ捕まえてやるのにねぇ…」


全く世の中物騒だな…と、ばあちゃんと同意見なのだが、それ以上にそっちかよ!


と、心の中でツッコミを入れつつ、ライターと蝋燭を探して戸棚を開ける。


「お、あった…」


久々に帰ってきたが、勝手知ったる実家である。


多少の配置換えはあったものの、昔から置いてある物の場所は変わっていなかった。


「ばあちゃん、これ借りるけどいいよな?」


そう言ってターボライターと、蝋燭を掲げて見せると、ばあちゃんは視線だけ動かしてそれを確認すると、右手を上げて手首を二、三回サッサと払う様に動かして「持って行きな」と、ジェスチャーで答えた。


「さんきゅー」


と、俺も短く返事をすると、さっそく準備に取り掛かる。


蝋燭受けとして、近くにあったアルミで出来たキャンプやレジャーで使う様な皿を一枚持って玄関へと向かって行く。


玄関先では、丁度母さんがバケツを持って来てくれていてすぐに準備に取り掛かれた。


「これでよかったかしら?」


と、青色の深めのバケツを準備してくれた母さんに感謝。


「ありがとう、助かる」


それも受け取り、両手いっぱいに荷物を抱えてしまって、歩き辛かったが、一度荷物を俺の車のボンネットに置き、バケツだけ持って外の手洗い場の蛇口から水を汲む。


半分ほど水を溜めて、それを持って荷物の所へ戻ると、母さんが声を掛けてきた。


「ふふふ…懐かしいわね。昔は良くこうして、近くの子達も一緒に集まって花火…したりしてたっけ…」


と、ボンネットの上に置きっぱなしにしていた”大連打三十連パーフェクトビッグバンセット”を手に取ると、指でなぞる様にツーと滑らせていく。


「ああ、そうだね」


と、短く返事を返すとバケツを設置して、蝋燭とライターとアルミ皿をその横に置く。


ジュボ!と、ライターは音を立てて、強力な炎の柱を出現させると、それを蝋燭の先に近づける。


チリチリと蝋の焦げる匂いと、細く黒い色の一筋の煙が立ち込めると、橙色の優しい明かりが蝋燭に灯った。


暫く蝋燭を燃焼させて、溶け落ちる蝋を集める。


アルミ皿の上に五百円玉程の大きさの蝋が溜まったら、そこへ蝋燭を立てる。


まだ熱を持っている蝋はぐにゅりとした感触がして、中央を窪ませしっかりと蝋燭を固定することが出来た。


さて、これで準備は完了だな。


そう思った頃にリビングにて相変わらず騒いでいる当の本人達を呼ぶ。


「おーい、準備できたぞー?」


そう声を掛けると、第一声でリビングの方から「なんじゃ!なんじゃ!?」と、コンが叫ぶ。


その後タタタタと、廊下を掛ける音がこちらに近づき、玄関先からは見知ったケモミミと尻尾が顔を出していた。


「なんじゃ!敵襲か!?」


と、素っ頓狂な事を言うコンに苦笑しつつも返事をする。


「違う違う…ほら、とりあえず皆連れてきてくれ今から花火をするんだ」


「花火ぃ…?はなびっ!!」


と、一瞬きょとんとした顔を浮かべるコンだが、すぐに耳と尻尾をピコンと立てて激しく揺れ動かし、目を輝かせる。


「分かったのじゃ!」


と、言い残しそのまま首を引っ込めると、リビングの方へダダダダ!と、爆走していく。


「あらあら…」


と、見送る俺と母さん。


母さんの「あらあら…」には、幼子を見守る様な優しい意味合いが含まれているんだろうなと、表情から推察できた。


「さて、とりあえずパッケージはコンに開けてもらうか…」


と、最後に”大連打三十連発パーフェクトビッグバンセット”の封を開けやすい様に少しだけ切り込みを入れておく。


後は皆が出てくるのを待つだけだ。


そうこうしている内に、リビングからは騒がしい声とドタバタとした足音が響いてくる。


「ハル、樹、花奈!花火じゃ!花火!ばーん!でどっかーんでずどどーん!なのじゃ!皆来るのじゃ!」


と、キャッキャとはしゃぐ声が心底楽しみにしていたのだと実感させられる。


「ほら、早く行くのじゃ!」


と、コンは再びドタバタと足音を立ててこちらに戻ってきた。


「呼んできたぞ!ばーんでどっかーんでずどどどーんじゃ!」


後半は身振り手振りで体を動かし花火を再現している様子だが、手持ち花火ではそんなポテンシャルはない。


残念ながもしかしたら期待外れになってしまうかもしれない。


そう懸念していると、ぞろぞろと後ろの方から皆がやってきた。


玄関から出てくると、俺が手に持っていた物を見て花奈は口を開く。


「あれ~四季っちやるじゃーん!コンちゃんの為に課金して花火買うとか!完全に入れ込んでるじゃ~ん!」


と、からかってくる花奈に無視を決め込み、コンに”大連打三十連発パーフェクトビッグバンセット”を手渡した。


「あ、無視は酷いー四季っちいけずー!」


と、ぶーたれているギャルを再度無視して、コンにパッケージの開け方を説明する。


「ほら、ここの切れ込みを引っ張って開けるんだ。さっきのアイスの封を切るのと同じ要領だ。出来そうか?」


と、尋ねるとコンはニパッっと笑って「まかせるのじゃ!」と、意気揚々に張り切っていた。


コンは俺から受け取ったパッケージのビニールに手を添えて、豪快に封を切る。


横一線にビニールを引き千切ると「ん?ところで…これで、どうするのじゃ?」と、頭にクエスチョンマークを浮かべてパッケージの袋とにらめっこをしていた。


「ほら、コンちゃん花火はその中身よ!その棒の先っぽにひらひらが付いてるソレ!」


「おお、これか!」


と、コンは袋から花火を数本引き抜くと、目を輝かせて匂いを嗅いだり、感触を確かめたり、先っぽを齧ろうとしていたが、流石にそれは全員が止めた。


「あのなあ…その先端にほれ…そこの蝋燭で火を付けるんだよ。こんな感じでな…」


と、俺が袋から一本試しに取り出して火を付けると、先端からは蛍光色の緑や赤や白などの様々な火花が躍り出る。


「わわわ!なんじゃ!ひゅーんでどーんで、ばこーん!ではないが…これはこれで綺麗じゃの!」


と、コンは手持ち花火もお気に召した様子だった。


燃焼時間は大体10秒くらいだが、皆で楽しむにはこれでも十分だ。


「ほら、コンちゃんも!」


と、樹が蝋燭の方へと手招きすると、コンも中から俺が最初に選んだものと同じものを取り出して恐る恐るといった様子で蝋燭に近づけ、花火の先端に火を付ける。


ちりちりと、先端の薄い紙が焼けこげると、それを口火にして火薬に着火する。


「わはぁぁ…!!」


と、コンは自分で持っている手持ち花火を感慨深そうに眺めていた。


緑赤白と色が変化して最後には燃え尽きてしまうと、白色の煙が仄かに立ち込める。


その先端をコンはじっと凝視しており、しゃがんで動かない。


「おい、どうした?終わったならそれはこっちのバケツに…」


「うむ…」


と、俺が声を掛けるとコンは伏せていた顔を上げ、蝋燭の傍のバケツへ差し込む。


どうしたのだろうか?


花火はお気に召した様子だったが…何か考え事でもしているのだろうか?


「何でもないのじゃ…」


と、ちょっとだけ元気がなくなった様に見えたが、次の瞬間には何事もなかったかのようにニコリと笑っていた。


「そ、それより!四季よ!この花火というものは凄いの!ザーって光ってじゅぼおおって燃えていて…その、綺麗じゃった!」


「ああ…」


そんな様子に気付かない花奈はマイペースに次の花火を差し出してくる。


「ほら、コンちゃん!じゃっじゃ~ん!みてみて!こんなのもあるんだよ!へっへーん目玉商品なのだ!」


と、本来は設置して使うであろう三十連打の名に恥じない大振りの筒状の花火をコンに手渡し、いつの間にか手にしていたライターで直接導火線に火を付けた。


「あ、おいこら!それは置いて使うやつ!」


俺が注意するのもそこそこに、花奈はコンと一緒にそれを手で固定して夜空に向かって差し出した。


「四季っちカタイこと言いっこなし無し~!ほら、コンちゃんみてなーくるぞー?」


と、そんなやり取りをしている間に徐々に導火線は短くなり、やがては筒の中へと消えていき、そして…。


ヒューン!パンッ!ヒューン!パパン!パラパラパラパラ…!


と、発色の良い青や赤や緑や白の色とりどりの光の玉が空へと放たれる。


「わ、わ!なんじゃ、なんじゃ!?」


と、コンは発射される花火に驚いてはいるが、決して手は離さず、花奈と一緒に夜空に向けて光の奔流を放ち続けていた。


しばらくして、三十発分の弾丸を発射し終えると筒の先端からは白い煙が立ち込めて終了の合図を告げた。


「あー楽しかった!意外と楽しいねこれ!もっと買っておけばよかったかも?どうだったコンちゃん?」


と、花奈はニヒヒと悪びれた様子もなく笑い、空になった筒をバケツに放り込む。


コンは放心状態というか、いまだに余韻に浸っている様子だった。


「おーい、コンちゃん?もう終わっちゃったけど…ほら、もっと違うのもあるよーー?」


と、花奈の声でようやく我に返ったのか「はっ!」と、息を吐くとこちらに振り返り目を輝かせていた。


「うおおおおお!!すごいのじゃ!今のは凄いのじゃ!ドーンでばこーんで、ずどどどーんとは違うけど、ちっちゃい球がドドドドで…とにかく凄いのじゃ!」


今までにないほどに興奮状態のコンは、フリフリと尻尾と耳を揺れ動かし花奈の方へとぴょんとジャンプすると、袋の中に入ってる花火を興味深そうに眺めて、次はどんなものがくるのか、と期待の眼差しをこちらに向けていた。


「ふふふ…ほら、コンちゃん時間はあるからゆっくり楽しみましょ?これなんてどうかしら?ねずみ花火っていうんだけど」


グルグルとひも状の火薬の詰まった紙が纏まっているやつだ。


樹はそれを地面に設置すると一本手持ち花火を手に取って、蝋燭で火を付ける。


「ちょっと危ないからそうね、そこの車のとこまで離れててね?」


「わかったのじゃ!」


と注意すると、コンは素直に頷き言われた場所に退避すると、樹はねずみ花火に火を付け始めた。


パシュッ!ジュゴオオオ!


と、激しい光と音を放ちながら、その場を高速で回転するねずみ花火。


コンは一瞬ビクッ!と驚いてはいたが、グルグルと光を放つそれに興味津々で目が離せない様子だった。


「うおお…なんとも、なんとも…魅惑的な動きをするやつじゃあ…ふふふ…あれは食えるのかのぅ…?」


と、涎を垂らしそうになっていたが、そこは「おいおい…」と、首根っこを捕まえて止めておいた。


他にもトンボ花火や、ロケット花火なんかもあり和気藹々と花火を楽しみ過ごしていると、ばあちゃんがお盆にスイカを乗せて持って来てくれた。


「スイカ切ったよ!ほら、コン様もどうぞ。みんなでお食べ?」


と、袋の中身も少なくなり、ひと段落着いたところで声を掛けてくれた。


「あら、お母さん、すみません準備して頂いて…」


と、母さんは口元に手を当てて申し訳なさそうにするが、ばあちゃんは気にした様子も無く、手に持ったお盆を差し出して綺麗に切り分けられたスイカを差し出してきた。


「ほら、冷えてるよ。あんたも食べな?」


と、差し出されたスイカを手に取ると確かに冷え冷えで美味しそうだった。


「スイカじゃあ!ハル、ありがとうなのじゃ!」


と、開口一番にスイカに飛びつくコンはお盆の上に載っているスイカを両手で掴み取ると、汁が飛び散るのもお構いなしにシャクシャクと音を立てて咀嚼し始めた。


「うむ…うむ!ひゃっこくて、あまあまなのじゃあ…!」


と、種も取らずにそのまま齧りついていた。


「お、確かにこれは美味しいわね!すごい甘いわ~」


と、樹も一つスイカを手にしており、齧りついていた。


花奈もスイカを取ると、指先で器用に種を除いては齧りつきコンと一緒になってニコニコ笑っていた。


「うわーこれめっちゃ美味しいっす!あ、自分飲み物入れてくるっす!四季っちのお母さんコップ借りてもいっすか?」


と、ここでも気配りスキルを発揮し先ほどコンビニで買った飲み物の袋を持って尋ねる。


「あらあら…確か幾つか使い捨てのコップがあったから…それ持ってくるわ!ちょっと待ってて?」


と、母さんは家の中へ。


「あ、自分も手伝うっす!」


と、何を手伝うのかは知らんが一緒に家の中へと入っていた。


「さて…粗方遊びつくして残りは…あ、丁度いいかもしれないな」


と、花火の残りを確認すると数本の手持ち花火と、細い紙の束が二束程入っているだけだった。


楽しい時間はあっという間に過ぎてしまう。


ちらっとスマホの時計を確認すると、時刻はもう二十二時を回っていた。


そういえば、久那妓さんに頼まれた件…ばあちゃんに聞かないといけないことがあったのだが…丁度いいタイミングだ。


忘れる前に聞いておこう。


「ばあちゃん、ちょっといいかな?」


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