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仲直りとアイスクリーム

コンビニを後にした俺達は、夜の風吹く田畑の横のあぜ道を縦一列に並んで歩いていた。


横にある畑の方からは、鈴虫の鳴き声が聞こえ、鼻につく匂いは若干の土臭さを含むものだったが、夜風のひんやりとした空気と、草の湿った匂いがそれを上書きしていて、不思議と不快な匂いではなかった。


そんなこんなで並んで歩いていると、傍から見たら古いRPGみたいな配列だが、実際はそういうものではない。


先頭には花奈、次いで樹が。


その後を二メートル程離れて俺が続いて、殿を務めるのがコンだった。


後ろを振り返ると、先程買ったアイスと花火の入ったポリ袋を、右手でしっかりと握りしめ、左手には胸から下げた相棒こと、小物入れのポチ丸に手を添えて胸元にぎゅっと抱き止めていた。


「大丈夫か?重くないか?」


そう尋ねると、コンは首を横に振り短く「大丈夫じゃ…」と、囁く様な小さな声で返事をしてきた。


ふむ、全然大丈夫に見えないのだが…。


やはり、緊張感がそうさせるのだろう。


コンビニから歩いてもう五分程経っただろうか?


樹も先ほどから後ろをちらっと振り返り、何かを話したそうにしているが、決行には至らない様子で、コンと目が合うとプイっと目線を反らしてしまう。


気まずい沈黙が訪れる中、痺れを切らし口を開いたのは先頭を歩く花奈だった。


「あーもう…ほら、樹っちゃん良いの?ついちゃうよ?」


ド直球ストレートなその問いかけに、尚及び腰になっている樹は「ええ、そうね…」と、うやむやな返事を繰り返す。


「歩きながら、話そうって言ったじゃん!ほら、ちゃんとコンちゃんに向き合いなよ!」


と、花奈は歩みを止め樹の方へと向き直ると「ほ~ら~!」と、樹の手を取ってこちらに歩み寄る。


「っわ、ちょっと…花奈ちゃん!ちょと、まってぇ~!」


と、小柄な花奈が身長百八十センチ以上もある樹を無理やり引っ張っている構図はちょっと面白かった。


しかし当の本人である樹はそれどころではなかった様子で、しきりに「たんま、ちょっとまって!ねえ、花奈ちゃん!?」と、尚も往生際が悪い。


しかし、その様子を見ていたコンは俺の後ろにしがみつくように隠れると、一度シャツの裾をポリ袋を持った上から、ぎゅっと強く握りしめた。


袋の中のアイスの冷たさが手の平に伝わってくる。


それはまるでコンの心中とリンクしているみたいで、よく見るとコンも小刻みに震えていて、自信満々だった先ほどの様子とは打って変わって、立派な耳も尻尾も垂れ下がっている。


見かねて俺は向かってくる二人を見据え、尚臆病であるもう一人の当人であるコンの頭をぽん、と軽く撫でてやる。


「ほら、ばあちゃんも言ってたろ。大丈夫だ、行ってこい」


優しく諭すような口調で伝え、コンの頭をもう一度ぽんと撫でて、身体を横にずらす。


その際にポリ袋を受け取り、コンの右手をフリーにしてやる。


すると強制的に樹とコンは向かい合う形になるわけだが…。


「その…コンちゃん?」


先に樹が呼びかけると、ビクッ!と、尻尾と耳が震える。


コンの目線は地面に向いていて、まだ直接顔を見て話すのは難しいようだ。


樹はそんなコンを見下ろす形ではあるが、コンに声を掛けた時点で先ほど口にしていた弱気な言葉とは裏腹に、覚悟を決めて話すと言った電話口での雰囲気を纏い真剣な表情をしていた。


「コンちゃん…あのね…」


と、樹が口を開くと、いつのまにか俺の手を放し、それを遮るように一目散に樹の方向へ向かってコンはダダダ…と、駆け出す。


突然の出来事に誰も反応できず、あっという間に樹との距離が詰まり、コンは樹の腰の辺りに飛び付く様に抱きついた。


一同が一瞬の出来事に呆気に取られていると、顔を上げたコンが瞳に今にも零れそうな程涙を浮かべ、樹を見上げていた。


そして開口一番に言い放つ。


「ごめんなさい、なのじゃ!」


「え?」


唐突に放たれた一言に、樹も俺も困惑する。


「コンちゃん?」


樹が腰に抱きつくコンを、なだめる様に引き剥がす。


そこには鼻水を垂らし、瞳からはダイヤモンドの様な小さな雫が零れ落ち、ツーっと頬を伝っていた。


「ど、どうしたの…?」


狼狽える樹はコンの肩をそっと抱き寄せると、優しく背中を撫でていた。


すると、コンはイーっと歯を食いしばりながら、しかめっ面で必死に耐えていたが、今にも関が切れて泣き叫びそうなそんな様子だった。


「ご、ごべんなざい、なのじゃああああ…!!」


一度言葉を解き放つと、そこからはすぐで、コンの涙腺は崩壊し碧眼の瞳からは大粒の涙が零れ落ち、泣き崩れてしまった。


「ちょ、ちょっと…コンちゃん?どうしたの?泣いてちゃわかんないわよ…?」


これには流石に樹も困惑した様子で、泣いているコンの目線に合わせてしゃがみ込む。


地面に膝をつき、両手で眼を擦って大泣きしているコンを見つめる樹。


「うわああああああん!」


「その…コンちゃん?どうしてごめんなさいなのか、聞かせてもらえるかしら…?」


と、困惑しつつも優しく微笑む樹を見ると、コンはもう一度飛びつき、樹の胸に顔を埋める。


「ぐすっ…ひっく…その、たちゅき…ごええええええなさあああいいいいい!」


「びえええん!」と、漫画やアニメなら効果音が付きそうな勢いで、三度みたび泣き叫ぶコンに樹は「…全く、先に謝られちゃったわ…」と、毒気を抜かれた様な顔をしていた。


「うぇ…ぐすっ…ひっく…ズズズ…!」


と、樹のシャツで鼻をかむコン。


そんな様子のコンに一切腹を立てた様子を見せず、コンが泣き止むまで樹は頭を「よしよし…」と、撫でては宥めていた…。


時間にすれば一分くらいだろうか?


その程度の時間だったが、コンはまだ鼻を啜ってはいるが、どうやらようやく落ち着いてきたみたいだ。


涙と鼻水と汗と涎と…顔からの分泌物を全て出し切って、それらでぐちゃぐちゃになっていた顔を、もう一度樹のシャツに擦り付けると、それらを拭って樹を見据える。


ひとしきり泣きじゃくった後、コンは樹の顔を見つめ、無言で言葉を待っていた。


「……」


「その、コンちゃん…?お話、いいかしら?」


と、樹が尋ねるとコンはコクリと首を縦に振った。


しおらしいその様子に先ほどまでの天真爛漫な様子とのギャップで驚いてしまったが、まだ少しだけ緊張しているらしく、先程から耳の先端がピクピクと小刻みに揺れ動いていた。


「コンちゃんが先に謝ってくれてびっくりしたんだけど、私の方も謝らなきゃいけないのよね…ごめんなさい、本当なら先に謝るのは私の方なのにね」


と、樹は真剣な眼差しをコンへと向けて、右手で頬を掻き、眉を寄せて少し口角を上げて不器用な笑みを浮かべた。


「そ、そんなことないのじゃ…わしが、あの時素直に食べておれば…」


と、コンは言う。


しかし、それを遮る様に樹は続けた。


「いいえ、コンちゃん。あれは私が完全に悪かったわ。無理強いするつもりはなかったのだけど、なんか変なのよね…急に妹を思い出しちゃって…それでね。えっとね、だから、ごめんなさい。ちゃんと謝らせてくれるかしら?」


と、樹はコンの口に指を当てると目線を合わせたまま首を左右に振り、頭を下げ、謝罪をする。


「……」


「……」


無言で見つめ合う二人。


しかし、それは一瞬だった。


「ぷっ...!」


「ふふっ!」


二人同時に吹き出してしまった。


「ふふっ、変ね…」


「…そうじゃな」


二人はそれからも互いに笑い合い、夜の散歩道にはケモミミ幼女とオカマの笑い声が響き渡っていた。


「じゃあ、これで仲直りね?」


と、樹が手を差し出す。


「のじゃ!」


と、堂々とした態度でコンもそれを握り返す。


互いに手を繋ぐと、スッと立ち上がり二人はこちらを見渡すとニコッと微笑む。


「さっ、待たせてごめんなさいね…行きましょうか?」


「いくのじゃ!」


と、すっかり元気を取り戻した二人は、仲良く並んで歩き出す。


樹もコンも互いに顔を見合わせて、目を細めており、先程までの張り詰めた雰囲気は一切感じられなかった。


「うぅ…よかったぁ~。樹っちゃん仲直りできて…ほんとよかったぁ~」


と、何故か花奈が涙を流して狼狽えていた。


「いや、まぁ…一件落着なのか?」


と、樹とコンを見守る俺と花奈。


スタスタと先頭を歩く二人に置いていかれないように、俺らも互いに顔を見合わせて「ふっ…」と、息を吐いてその後姿を追いかけた。


「おい、コン!そんなに振り回したらポチ丸吹っ飛ぶぞ~!もっと大事に扱え~!」


樹に手を繋がれてそれをブンブンと振って元気良く歩くと、胸元に引っさげたモフモフの小物入れことポチ丸が、その動きに合わせて大きく揺れる。


「うお!そうであった!すまぬ、ポチ丸!大丈夫か!?」


「あらあら…すっかりお姉ちゃんね…」


と、二人して背中に声を掛けると夏の夜道を駆け出していたのだった。



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