怠惰な店番とパーフェクトビッグバンセット
途中羽虫が飛び掛かってコンの顔面を直撃したり、野良猫が餌を求めて寄ってくるとコンが威嚇し始めるなど、イベントはあったが特に問題なくコンビニへと辿り着くことが出来た。
家から歩いて十分ほどの場所にある二十四時間営業のどこにでもあるようなコンビニだ。
市街地の中にしては広い駐車スペースで、時折トラックに乗ったガタイの良いオッサン達の休憩スペースとして重宝されていたりする場所だ。
「ほら、コンこれがコンビニだ。二十四時間朝も昼も夜も休まず開いてる店だぞ~」
と、蛍光灯の明かり照らす店内を指さして説明すると、コンは「おー?夜なのに明るいぞ…?スケスケで中が見えるが…祭りか何かか?」と、首を傾げていた。
「違う違う、これは電気っていう夜でも明るい便利なものだよ」
そう言うと、いちいち興味深々といった様子のコンは自分の顔が映るガラス窓の前に立つと、手をグーの形に握り、コツコツと軽く叩いてはその感触を確かめていた。
「うむむ…わしの顔が映っておる…何故じゃ?」
光の反射で少しのっぺりとした顔のコンが映っている窓ガラスは鏡の様になっていて、それが不思議なのかコンは自分の頬を引っ張ったり、両手で挟み込んだり、相棒のポチ丸を掲げてその後ろに隠れたりと、一通りリアクションをして見せた。
「それは光の加減で鏡みたいになってるだけだよ…そんなことより、ほら!アイス買うんだろ?早く中に入ろう」
俺がそう言って、入口の扉を押し開くと店内からひんやりと冷たい冷気が流れ込んできた。
「あ、こら…待たぬか!行くぞ、ポチ丸!」
と、鏡とにらめっこしていたコンもこちらの様子に気が付くと、相棒のポチ丸こともふもふな小物入れを大事に抱きかかえ、俺の後に着いてきた。
俺の後ろに隠れる様に、着いてくるコンは入店時に鳴る軽快なBGMと、やる気のなさそうな店員の「いらっしゃっせ~」という気の抜けた挨拶にビクッ!と、反応していたが、それよりも店内に立ち並ぶ商品に目を奪われ物珍しそうに周囲を物色していた。
「うおおお…なんじゃここは…凄いぞ、物が一杯ある…これ全部、何かの道具なのか?」
と、物珍しそうにするコンは入ってすぐの所にある栄養ドリンクのコーナーに釘付けになっている。
「赤…牛?怪物…?マムシ…?すっぽん…?な、なんじゃこれ…何に使うか分からんが、何やら物騒な名前じゃ…」
「それは飲み物だよ。飲みすぎは良くないが、まあ現代人の必需品みたいなもんだ」
そう言いながら入口近くにあった緑色の籠を手に取ると、特に好んで飲んでいるエナジードリンクの銘柄を一本籠にぶち込む。
風呂から上がってまだ何も飲んでいない事を思い出し、思わず手に取っていた。
「に、人間は…ううう、牛や、怪物を…飲む…のか?あわわわわ…」
コンはぶるぶると身震いして、頭に手を当てると何を想像しているのかその場にしゃがみ込んでしまった。
そんな様子を見て苦笑し、頭を軽くぽんぽんと撫でて声を掛ける。
「まあ、ただの飲み物だって。それよりほら、アイス買うんだろ?アイスはそこの…ほら、ガラスの戸が付いてる箱の中だ。好きなやつ選んでいいぞ」
と、アイスの箱を指さすとコンは立ち上がると目を輝かせてそこへ向かって突進して行った。
「ぬっ、あれか…?あれなのじゃな?よし、待っておれ今行くぞ~!ポチ丸~」
「全く…、おいこら走ると危ないぞ!」
と、後からコンを追いかける。
アイスの冷凍ケースの前に来ると、必死に背伸びをして中を覗き込んでいるコン。
「んしょ…んー!」
しかし残念ながら身長が足りず、結果何度も何度も背伸びをするので、ケースによじ登ろうとしていたので止めた。
「登んな!」
ぺしっ!と、サラサラの髪の毛が靡く頭頂目掛けて軽く手刀をかます。
「うおっ!なにするのじゃ!やめぬか!今忙しいのじゃ!」
と、言い放ち、右手で頭頂部を抑え、冷凍ケースとの格闘を中断しこちらへ向き直る。
「すまんすまん。ほら、そっち向いて」
と、冷凍ケースを指差す。
「ん?わしは忙しいと言うのに…全く、仕方のないやつじゃ…ほれ、これでよいか?って…何をする離せぇ!」
渋々といった様子でコンは再び冷凍ケースの方へ向き直る。
そこへ近づくと、コンの両脇におもむろに手を差し込みスッと持ち上げる。
「こら、暴れるな…ったく、これで見えるか?」
眼前に色とりどりのアイスのパッケージがある事に気付いたコンは目を輝かせて見渡しており「ふぁぁぁ…!」と、感嘆の超えをあげていた。
「うお!これがあいすくりーむ?というやつか…しかし、聞いてたより美味しくなさそうじゃ…どれもてかてかしておるし…堅そうじゃ…」
しかし、パッキングされたアイスを見てガックリと肩を落とし自慢の尻尾を不満げに控えめに揺らし、尖った耳も落胆の色を見せて垂れ下がっている。
「違う違う、これは商品が汚れたり乾燥したりしないように薄い膜に包まれてるんだよ。ほら、絵が描いてるだろ?これが商品の中身だよ。王道で言えばチョコレートにバニラにイチゴ…変わり種で言えばスイカ味なんてのもある」
そういうとパッケージを怪訝そうに眺めるコン。
しかし、パッケージの写真を見ると尻尾や耳も元気を取り戻しブンブン、ぴこぴこと、揺れていた。
「ほぉ…そうなのか…つまり、この絵に描かれているのが本体なのじゃな?」
「そうだ」
「うぅぅぅ…どれも、これも違っておって良く分からんのじゃ…」
コンはそう言うと、万歳の要領で手を上に掲げ、腕からストンと落ちると地面に着地した。
「コン?」
すると、コンは俺のTシャツの裾を右手でクイクイと引っ張り、上目遣いでこちらを覗き込む。
「うむ、考えても分からぬのじゃ!おぬし、すまんが選んではくれぬか?」
期待の眼差しを向けてくるコンは、口をきゅっと結びこちらの反応を伺っている様子だ。
「何でも良いのか?」
「ふふっ…!おぬしが選んでくれたものならきっと良い物じゃろう?期待しておるぞ?」
屈託のない笑顔を向けられ、責任重大な任務を与えられてしまった。
全く、久那妓さんといい、コンといい…唐突に難題を押し付けるのは神の習性なのか?
「分かった。ちょっと待ってろ」
「あい、なのじゃ!」
コンはそう言うと、右手を上げてニコリとほほ笑み元気良く返事を返した。
さて、頼まれたからには真剣に考えなくてはならない。
責任重大だ。
初めて食べるアイスという未知の存在に興味深々のコンだが、もとは狐である。
ふむ、ならチョコレート系は避けた方がいいか?
動物にチョコレートは良くない…って、ネットで見たことがある。
なら、無難にかき氷?
いや、ここはやっぱり…。
一瞬頭の中で自問自答を繰り返し、良さそうな物を選択する。
ケースの中身にあるのはどこのコンビニでも大体置いてそうな無難な商品。
外は餅に包まれて、中身は甘いバニラの香りとコクが人気のあのアイスを手に取った。
「じゃ、これにするか」
と、赤と白のパッケージの雪だるまが描かれた二個入りのアイスを籠に入れると、コンはぴょんっとその場でジャンプする。
籠の中を覗こうと必死でジャンプするコンは、どうやら選んだものに興味津々のご様子だ。
が、しかし。
籠の中が見える高さまでは飛べなかったので、すんなりと諦めた様子だ。
「ふふっ…。期待しておるぞ?」
妖艶にほほ笑むコンは正直可愛いと、思ってしまった。
一瞬心奪われドキッとしたのは内緒だ。
そんな内心を隠すべく、一度めをつむり再びケースに視線を向け、頼まれていた人数分のアイスを籠へと詰め込んでいく。
まあ、これが気に入らなければ別の物も食べてもらおう。
そういった魂胆もあったが、それは悟られないように数種類のアイスを籠にぶち込む。
ソーダ風味のかき氷の棒付きのやつ、チョコとバニラのソフト、イチゴのかき氷と練乳のかかってるやつ、デカいスイカの形やつ、無難にバニラ単体のシンプルなやつ。
一人一個当たる計算で、籠に詰め終えるとなにやら満足そうな顔をしたコンがこちらを眺めていた。
「どうした?」
「ふふっ…。いや、なに…こうして実際に人間の暮らしを体験してみると、人間とはかくも興味深いなと、思っただけじゃ!」
「どこがだよ…」
「ふふっ!おぬしには分からぬよ…ほら、せっかく選んだのじゃ、早く帰って食べようぞ!」
「はいはい…」
そう言って選んだ商品を持って、レジ前へ行くとコンがまた裾を引き呼び止める。
「のう、四季よ…あれは、なんじゃ?」
そう言うと、レジの横に置いてあるひと際目立つパッケージの商品を指さした。
そこには”大連打三十連発パーフェクトビッグバンセット”と七色の鮮やかなフォントで書かれた夏の風物詩が陳列してあった。
「そっか、これも見た事ないのか…これは花火っていうものだよ」
「ん?花火なら知っておるぞ?あの、夜空にドーンとでっかく音がなってぱっと開くやつじゃ!」
手を大きく広げて「こーんな大きなやつじゃ!」と、ジェスチャーするコン。
しかし、そこまでの大作はコンビニには流石に売ってないので説明する。
「ああ、確かにそれも花火だが、こっちは手持ち用のやつだよ。あれは打ち上げ花火って言って、お祭りや何かめでたい事なんかがあった時に上げるんだ」
「手持ち用?」
コクンと首を傾げてこちらを覗き込むコン。
「そうだ。まあ、説明するより実際にやってみた方が早いな。これも買うか」
そう言って籠に”大連打三十連発パーフェクトビッグバンセット”を放り込む。
「よいのか?」
「ああ、いいぞ」
ちらっと見えた値札には、二千六百円と少々お高めな値段が見えてしまったが、この際だそれには目をつむろう。
ばあちゃんから貰った分より大分足が出てしまったので、俺は財布から千円札を三枚程取り出してコンに渡す。
「ほら、これもポチ丸の中に入れとけ」
新たに三枚追加でお札を受け取ると、コンは素直に受け取り、ポチ丸のチャック部分を器用に摘まむと、ジジジ…と、音を立ててそれを開く。
「うむ、ポチ丸、しっかりと守るのじゃぞ~?」
と、コンはお札をポチ丸へと押し込むと、チャックを閉めて大事そうに抱えていた。
「よし、こんなもんかな?ほら、レジで会計済ませるぞ」
と、やる気のなさそうな店員のいるレジを指さしそこへ誘導する。
「了解なのじゃ」
と、コンは素直に付き従う。
とてとてと可愛らしい足取りで、レジ前に立つとやはりコンの身長では台の部分には届かない様子で、必然的に上目遣いになってしまう。
見上げる形でやる気のない店員と対峙するコン。
じーっと店員を見つめながら、どうしていいか分からず、結局こちらに振り返り助け舟を求めていた。
「のう、四季よ…して、どうすれば、あいすくりーむとやらを交換できるのじゃ?」
目を真ん丸くして、首を傾げるコンは期待の眼差しでこちらを見つめていた。
「ほら、さっき渡しただろ?お金を渡してそれと交換するんだ」
そう説明するとコンはポチ丸に突っ込んであったお札を取り出し、レジの上にバンッと、叩きつけた。
「ほれ、これでよいのか?あいすくりーむ貰ってもよいのか?」
「ああ、確認作業があるからちょっと待ってな」
「あいっ!」
と、尋ねるとやる気のなさそうな店員は明らかに面倒くさそうな顔をして機械的にレジに商品を通していく。
「六十六円が一点、百二十二円が一点…二千六百円が一点…袋要りますか?」
「お願いします」
「袋代頂きましてお会計三千九百八十三円です。四千円お預かりいたします…お返し十七円です…あざっしたー」
と、やる気はなさそうだがごく普通の接客だった。
コンは商品の入った袋を受け取ると、ポリ袋の感触に驚いていた。
「うわっ!なんじゃこれ、がさごそと変な音が鳴っておるぞ!草むらみたいな音じゃ!」
「草むらじゃなくて、それはポリ袋。簡易的に商品を持ち運ぶのに使う袋だ。あまり強く振り回すと千切れるから気を付けるように!」
と、注意するとコンは「わかったのじゃ!」と、ニコリと笑って頷くとすぐにブンブンと振りまわしていた。
「ホントにわかってんのか…?」
と、半分諦めつつコンビニを後にする。
「ほら、コン行くぞ?」
「あいなのじゃ!」
と、二人してコンビニの外へ出ると、何やら見覚えのあるシルエットが通りかかった。
身長百八十センチはある巨体が一人と、百四十センチ程の一般的な身長の髪型と髪色が特徴的なお団子ヘアーの女性。
樹と花奈が丁度コンビニに入る所だった。
「あ…」
「うぉ!」
コンは樹の姿を確認すると、すぐに俺の後ろに隠れてしまった。
樹もコンの姿を確認すると、一瞬はっとした表情をしたかと思えば、申し訳なさそうに眉をひそめた。
「その、遅くなってごめんなさい。ちょっとそこの公園で一休みしてたの。今から飲み物買う所だったんだけど…もう買っちゃった?」
樹がそう尋ねると、コンは首を横に振る。
「そう、それならちょっと待ってて頂戴ね。今買ってくるから。何かリクエストはあるかしら?」
樹は努めて冷静に、落ち着いた口調で訪ねる。
「…何でもよい、それより樹…話があるのじゃが…」
と、コンは蚊の鳴くような小さな声でボソッと言う。
「そうね。あたしも話しがあるわ。とりあえず歩きながら話しましょう?飲み物買ってくるから少し待っててね?」
「わかったのじゃ…」
そう言うと、樹はコンビニの中へと入っていく。
軽快な入店BGMとやる気のなさそうな気だるげな声で「らっしゃせ~」と、聞こえてきた。
「その、四季っち…」
と、花奈が何やら真面目な顔をして、コンと俺の方を見て何かを伝えたそうにしていたが、俺は敢えてそれを静止する。
「大丈夫、なるようになるさ」
「そだね…」
と、短く会話すると花奈はいつもの調子に戻っていた。
「てか、コンちゃんその首にかけてるやつ可愛い―!ナニコレ?写真とろ?ぱしゃ!」
と、スマホを取り出してコンの横に立つと、インカメにして自撮りする花奈。
「な、なんじゃ!?」
ぴろりんと、軽快な音とともにファインダーが切られた。
スマホの画面には、サラサラの黒髪ロングヘアーの美幼女が、首からポメラニアンの小物入れを下げて、恥ずかしそうにハニカム姿と、口元に右手でピースサインを作り、顎のラインを隠し、左目をウィンクしたギャルが映っていた。
「あ~ちゃんと撮れてるじゃん!あーしらには金髪に見えてるけど、写真で撮ると黒髪じゃん!?こっちの姿も可愛いね~!」
と、妙にじゃれつく花奈。
だが写真を撮ったらすぐに店内へ入って樹を追っかけていき、一緒に商品を物色している様だった。
写真を撮られた当の本人のコンはというと、何やら理解できていないらしく顔いっぱいにクエスチョンマークを浮かべ、首を傾げていた。
「なんじゃ?なんじゃ!?」
と、翻弄されるがままコンも写真に写った自分の姿に驚いたのか「おお…ぅ…」と、少し及び腰になっていた。
さて、樹が戻ってきたら本番だ…できる事なら、仲直りして欲しいところである。
俺は買ってきたエナジードリンクを開け、口をつける。
プシュっと炭酸の抜ける音がして、エナジードリンク特有の酸味を含んだ甘い香りがした。
一息吐いて、缶を煽る。
喉の奥に焼けるような炭酸の強い刺激と、フルーツや甘味料の身体に悪そうな甘みが口に広がる。
ゴクゴクとそれを勢いよく飲み干し、外のゴミ箱に飲んだ缶を捨てると、丁度樹が袋を下げて出てきた所だった。
「お待たせ。さ、行きましょうか?」
樹がそう言うと、花奈も「そだね」と、歩き始める。
コンは相変わらず警戒したような表情を浮かべているが、何かを決意したかのように、後から着いてくるのだった。
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