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ダンジョン配信で死んだことになっている俺、仲間たちが曇っているとは知らない  作者: 座間あぜん


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第1話 伝説の死亡配信

俺が死んだことになったのは、1年前のことだ。しかも、そのときのダンジョン配信が伝説になっているらしい。


いや、待ってくれ。


俺はちゃんと生きている。


ちょっと右腕をなくして、帰るのに1年かかっただけだ。


それなのに、どうしてこんな大騒ぎになっているんだ?


話は1年前にさかのぼる。






「みんな、今日も配信を見に来てくれてありがとう。これから第45階層の攻略を始めるわ」


白銀の長い髪を揺らしながら、レイナが配信ドローンに向かって話していた。


御影院レイナ。23歳。


俺たちのパーティーをまとめるリーダーだ。


背が高く、青い目をした美人で、いつも白い探索服を着ている。ダンジョンの地図やモンスターの情報を覚えるのが得意で、戦闘中も仲間に細かく指示を出してくれる。ただし、予定どおりに進まないと、すぐに眉をつり上げる。


「朔斗。あなたも挨拶なさい」

「おう。みんな、こんにちは。鳴瀬朔斗です。今日も楽しくやっていこうぜ」

「遊びに来たわけではないのよ」

「分かってるって」

「本当に分かっているのかしら。あなた、昨日も装備の確認を忘れていたでしょう」

「あれは忘れたんじゃなくて、確認する前に寝ちゃったんだよ」

「同じことでしょう!」


俺が笑うと、レイナは額に手を当てた。まあ、いつものことだ。俺たちは4人組のダンジョン探索者パーティー『月虹クロニカ』だ。


日本にダンジョンが現れてから、探索者は人気の職業になった。モンスターを倒して素材を売り、攻略の様子を配信してお金を稼ぐ。


俺たちもその1つだ。


レイナが指揮を担当し、いぶきが盾で仲間を守る。こはくは罠の発見や応急処置を担当している。


俺は剣を使う前衛だ。強いモンスターを倒すのが仕事なので、結構気に入っている。


「朔斗くーん! こっち向いてぇ!」


後ろから元気な声がした。振り返ると、桃色のツインテールを揺らした小柄な少女が走ってきた。


小鳥遊こはく。19歳。

大きな黄緑色の目と、笑うと見える八重歯が特徴だ。大きなリュックには救急用品や探知機が詰まっている。こはくは罠の発見が得意な支援担当で、応急処置の訓練も受けている。普段は甘えん坊だが、怪我人が出ると誰よりも早く動いてくれる。


「はい、あーん!」

「ん?」


こはくが差し出してきたのは、小さなクッキーだった。


「新しく作ったのぉ。朔斗くんに最初に食べてほしくてぇ」

「おっ、うまそう」


俺はクッキーを口に入れた。甘くて、サクサクしている。


「うまい! こはく、上手になったな」

「えへへぇ。朔斗くんに褒められちゃったぁ」


こはくは頬を赤くして、嬉しそうに笑った。


「こはく。探索中のお菓子は禁止したはずよ」

「えぇ? まだ戦ってないもん。レイナちゃん、厳しすぎるよぉ」

「規則は規則よ」

「まあまあ。腹が減ってたら戦えないだろ?」

「朔斗。あなたはこはくを甘やかしすぎなのよ」


また怒られた。


「朔斗」


今度は低い声がした。黒い戦闘服を着た長身の少女が、俺の隣に立っていた。


黒鉄いぶき。22歳。


紺色の短い髪に、赤い目。左の頬には古い傷がある。俺たちのパーティーで盾役を務める探索者だ。背中には大きな剣を背負い、左腕には分厚い金属製の盾をつけている。鍛えた体は俺よりも大きく、腕にも筋肉がついていた。


普段は無口で、笑うことも少ない。ただ、強い敵の話になると目が輝く。


「どうした、いぶき?」

「自分とも、あとで手合わせをしてくれ」

「おう。攻略が終わったらな」

「約束だ」


いぶきは満足そうにうなずいた。こいつは戦うことが大好きだ。俺も強敵と戦うのは好きなので、よく2人で模擬戦をしている。


そんな俺たちのやり取りに、配信コメントが流れていた。


【今日も平和だな】

【レイナ様、今日もお怒りで草】

【こはくちゃんの手作りクッキー食べたい】

【いぶきちゃん、朔斗と戦うことしか考えてねえw】

【この4人、ずっと見てられる】


いつもどおりの配信だった。


俺は3人と一緒にダンジョンを攻略する時間が好きだった。レイナに怒られたり、こはくのお菓子を食べたり、いぶきと戦ったり。


そんな毎日が楽しかった。


だから、この日も4人で地上に帰って、いつものように飯を食うつもりだった。





「おかしいわね」


第45階層を進んでいたレイナが足を止めた。白銀の長い髪を後ろで結び直し、手に持っていた地図を確認している。


「どうした?」

「モンスターが少なすぎるのよ。ここまで来る間に、3匹しか遭遇していないわ」


言われてみれば、確かにそうだ。


この階層には、普段なら大量のモンスターがいる。なのに、今日はほとんど姿を見かけない。


「みんな、少し待ってちょうだい」


レイナが地図を広げた。


その間に、こはくもリュックから小型の探知機を取り出す。いつも笑っているこはくが、画面を見て首をかしげた。


「あれぇ? これ、壊れちゃったかなぁ」

「どうした?」

「前のほうに、すっごく大きな反応があるの。でも、こんな数字、見たことないよぉ」


こはくが探知機をこちらへ向けた。


画面の真ん中で、赤い光が何度も点滅している。反応が大きすぎて、モンスターの数すら分からないらしい。


「レイナちゃん、戻ったほうがいいかもぉ」

「そうね。ここは一度……」


レイナが言い終える前に、地面が大きく揺れた。


「きゃあっ!」


こはくがよろけたので、俺はその体を支えた。


「大丈夫か?」

「う、うん。ありがとぉ……」


天井から細かい石が落ちてくる。その奥から、大きな足音が聞こえてきた。ドン、ドン、と重い音が近づいてくる。


「来る」


短い声とともに、いぶきが大きな盾を構えた。


その先に、巨大な影が現れた。そいつは天井に頭が届きそうなほど大きかった。黒い鎧のような皮膚に覆われ、頭には角が4本。両手には、俺の体よりも大きな斧を持っている。


「そんな……」


レイナの顔から血の気が引いた。


「知ってるモンスターなのか?」

「ええ。第90階層より深い場所でしか確認されていない、災厄級のモンスターよ」

「へえ。そんな強いのか」

「朔斗! 感心している場合ではないでしょう!」


怒られてしまった。とはいえ、俺も目の前のモンスターが強いことくらい分かる。今まで戦った敵とは比べ物にならない。こいつは楽しめそうだ。


「全員、撤退するわ。来た道を戻りなさい!」


レイナの指示で、俺たちは後ろへ走り出した。ところが、モンスターが斧を床へ叩きつけた。ものすごい音がして、天井から大きな石が落ちてくる。俺たちが通ってきた道が、大量の石で塞がってしまった。


「うわっ、帰り道が!」

「右よ! 右の通路から回り込めば、別の階段へ出られるわ!」


地図を確認したレイナが走り出す。俺たちもあとに続いた。しかし、通路の先にあったのは、大きな石の壁だった。行き止まりだ。


「……え?」


レイナが足を止めた。手元の地図を何度も見直している。


「おかしいわ。ここには通路があるはずなのに……」


俺も地図をのぞき込んだ。確かに、この先には道が描かれている。しかし、目の前にあるのは壁だ。レイナが画面を切り替え、地図の更新日を確認した。


「そんな……。最新の地図に切り替わっていなかったなんて……」


ダンジョンは、たまに地形が変わる。レイナはそれを知っていたのに、古い地図を使ってしまったらしい。


「私の確認不足だわ。ごめんなさい、私が……」

「いいって。まだ別の道があるかもしれないだろ?」

「でも、この道を選ばなければ……」

「レイナ、今は反省会をしてる場合じゃないぞ」


後ろから足音が聞こえてきた。振り返ると、巨大なモンスターが通路の入口を塞いでいた。あいつがいる限り、元の道へは戻れない。


「仕方ないな。ちょっと倒してくるわ」

「待ちなさい! 相手は災厄級なのよ!」

「みんなは下がっててくれ」


俺は腰の剣を抜いた。レイナが俺の服をつかむ。


「朔斗、無理はしないでちょうだい」

「分かってるって。任せとけ」


俺が笑うと、レイナは少し困った顔をした。その手を離したところで、モンスターが斧を振り上げた。





最初の攻撃は、いぶきが盾で受け止めた。


「ぐっ!」


金属が大きな音を立てる。盾がへこみ、いぶきの足が床を滑った。


「いぶき!」


俺は横から剣を差し込み、斧の向きを変えた。敵の斧が床に当たる。そのすきに、いぶきが後ろへ下がった。


「大丈夫か?」

「すまない。自分の盾では受けきれなかった」

「そりゃあんな大きな斧だしな。次は俺も手伝うよ」

「……承知した」


いぶきは盾のへこんだ部分を見つめ、歯を食いしばっていた。強い敵と戦えるのに、ちっとも嬉しそうじゃない。


「朔斗! 敵の右側へ回って!」


レイナが声を上げた。手にはモンスターの情報が表示された端末を持っている。


「左の斧を振り下ろしたあと、右側に大きな隙ができるはずよ!」

「了解!」


俺は敵の右側へ走り込んだ。モンスターが左の斧を振り上げる。


よし、情報どおりだ。


俺は剣を構えた。だが、モンスターは斧を振り下ろさなかった。途中で斧の向きを変え、俺の頭を狙って横に振ってきた。


「おっと!」


俺は剣で斧を受け止めた。金属がぶつかる音が響き、手に強い力がかかる。そのまま剣を横へ動かし、斧の向きを変えた。しかし、今度は剣のほうが耐えられなかった。刃が途中から折れ、床に転がった。


「うわっ、マジかよ!」

「朔斗!」


レイナが叫んだ。


「気にすんな。予備の短剣があるし」


俺は腰から短剣を抜いた。レイナは端末を握ったまま、俺の折れた剣を見つめていた。いつもなら、すぐに次の指示が飛んでくるはずだ。


「レイナ、次はどうする?」

「……っ! そうね、まずは敵の足を狙ってちょうだい!」

「了解!」


俺は敵の足元へ走り込んだ。モンスターの動きを見ながら、短剣を振る。黒い皮膚に傷がついた。浅いが、ちゃんと刃は通る。これなら倒せそうだ。


「朔斗、下がれ!」


いぶきが飛び出してきた。黒い戦闘服を着た長身の盾役は、俺に向かって振られた斧を止めようとしていた。しかし、いぶきは俺の位置を確認する前に盾を出してしまった。盾の端が、俺の短剣にぶつかる。


「おっと!」


俺は手を引いた。その間に、モンスターがもう1本の斧を振り上げた。狙いはいぶきだ。盾を前に出しすぎたせいで、体の横ががら空きになっている。


「いぶき、危ない!」


俺は左手でいぶきの背中を押した。大きな体が横へ動く。その代わり、俺は逃げ遅れた。斧の刃が背中をかすめる。


「ぐっ……!」


背中に熱いものが走った。服が破れ、血が流れてくる。


「朔斗!」


いぶきが振り返った。俺の背中を見ると、赤い目を大きく開いた。


「自分が……盾を出す位置を間違えた」

「ちょっと斬られただけだって。まだ動けるし」

「自分は盾役だ。お前を守るのが仕事なのに……」


いぶきは自分の盾を見た。何度も敵の攻撃を受けた盾には、大きなへこみができている。


「自分のミスで、お前に怪我を負わせてしまった……」

「次は頼むぞ。俺もまだ戦えるからさ」


俺は短剣を持ち直した。背中は痛いが、動けないほどじゃない。それより、そろそろ敵を倒したいところだ。長期戦になるほどこちらが不利だ。俺がモンスターへ向き直ったときだった。


「きゃあっ!」


後ろから悲鳴が聞こえた。桃色のツインテールを揺らした小柄な支援役が、床に倒れていた。こはくだ。足元には、彼女が持っていた探知機が転がっている。


「こはく!」


俺はすぐに走った。こはくの右足には、床から飛び出した金属の棒が刺さっていた。罠だ。探知機の画面には警告が表示されている。どうやら、こはくはモンスターの動きを調べることに集中しすぎて、足元の罠を見落としてしまったらしい。


「ごめんねぇ……。あたし、ちゃんと確認しなきゃいけなかったのに……!」


こはくが泣きそうな顔で言った。いつもはニコニコしているのに、今は唇まで震えている。


「動くなよ。今助けるから」


俺は短剣で金属の棒を切った。こはくを抱き上げ、レイナたちのいる場所へ運ぼうとする。しかし、モンスターがこちらを見ていた。巨大な斧が持ち上がる。


「朔斗くん……?」


こはくも斧に気づいたらしい。俺の服を強くつかんできた。このままでは、2人とも斧を食らってしまう。俺はこはくをレイナのほうへ投げた。


「受け止めろ!」

「朔斗!」


レイナが両腕を広げ、こはくを受け止めた。


よし、これで大丈夫だ。


俺も斧を避けようとした。だが、背中の傷が痛み、体を動かすのが少し遅れた。左足で床を蹴る。斧がすぐ横まで迫っていた。短剣で受けるには大きすぎる。


「……あっ」


右肩に強い衝撃が走った。体が横へ飛ばされ、床に叩きつけられる。ゴロゴロと転がって、壁にぶつかった。


「ぐっ……!」


痛ってえ。こいつ、本当に力が強いな。俺は右手を床につき、立ち上がろうとした。しかし、手が動かない。


「あれ?」


右腕がなかった。肩の少し下からなくなっている。床には血が広がり、俺の右側の服も真っ赤になっていた。


「……おいおい、マジかよ」


これは困った。右腕がなくなったら、剣を持てないじゃん。


いや、左手があるな。よし、なんとかなるか。


「朔斗……?」


レイナが俺を見ていた。青い目を大きく開き、口元を押さえている。


「あなた……右腕が……」

「ああ、なくなったな」

「そんな……」


レイナは俺の右肩を見たまま、動かなくなった。


「……あたしが」


こはくのいつもの甘えた声が出てこない。


「あたしが罠を見落としたから……」

「こはく、今はそれより……」

「あたしの足を助けてくれたから、朔斗くんの腕が……!」


こはくが立ち上がろうとした。足の傷が痛んだらしく、その場でよろける。それでも彼女は、リュックから救急用品を取り出し、俺のところへ来た。


「動かないで。お願い、動かないでねぇ……!」


こはくは残っている右腕の上の部分に止血帯を巻いた。強く締めると、俺の肩に痛みが走る。


「いってえ!」

「我慢してぇ……! 今、血を止めるからぁ……!」


傷が肩に近いため、止血帯を十分に締められない。こはくはすぐに止血用のガーゼを取り出し、出血している部分に押し当てた。その上から体重をかけるようにして、強く押さえる。小さな手が血で赤くなっていく。


「お願い……止まってぇ……」


こはくの額から汗が落ちた。いつもなら応急処置の手順を迷わず説明してくれるのに、今日は何度も俺の顔を見ている。


「朔斗くん、ちゃんとあたしの声聞こえてる?」

「聞こえてるって。そんな大声出さなくても平気だぞ」

「だったら、ずっとお話ししててねぇ……。目を閉じちゃ駄目だよぉ……」

「分かった、分かった」


俺が返事をすると、こはくは小さくうなずいた。傷口を押さえ続けているうちに、血の流れが少なくなってきた。


その間、いぶきが盾を構え、モンスターの攻撃を防いでいた。しかし、その盾も限界らしい。金属が割れる音が聞こえてくる。


「こはく、もういいぞ。助かった」

「よくないよぉ……」


こはくは首を横に振った。黄緑色の目から涙がこぼれる。


「あたしがちゃんと罠を見てたら、朔斗くんはこんなことにならなかったのに……」

「俺が勝手に助けたんだって。お前が無事でよかったよ」

「……っ!」


こはくは俺の右肩を見た。それから、包帯を持ったまま下を向いた。


「そんなこと言われたら……あたし、どうしたらいいのぉ……」


困ったな。別に怒ってないのに。俺としては、こはくが助かってよかったんだけどな。


「朔斗!」


大きな音とともに、いぶきが後ろへ飛ばされた。黒い戦闘服の肩が破れ、頬の傷から血が流れている。いつも俺の前で盾を構えてくれる長身の剣士が、今日は床に片膝をついていた。


「自分が……敵を止める」

「もういいって。盾も壊れてるだろ?」

「自分は盾役だ。お前を守るためにいる。それなのに……!」


いぶきは俺の右肩を見た。何か言おうとして、口を閉じる。その目から涙が落ちた。


「自分が、もっと早くあの斧を止めていれば……」

「いぶき?」

「お前の背中も、右腕も……」


いぶきは大きな盾を床に置いた。両手で顔を覆い、何度も首を横に振る。


「自分は……盾役失格だ」

「そんなことないって。さっきから何回も助けてもらってるぞ」

「……お前は、まだ自分を仲間だと言ってくれるのか」

「当たり前だろ?」


俺が笑うと、いぶきは下を向いたまま動かなくなった。どうしたんだろう。いつもなら、こんなところで泣くような奴じゃないのに。


「朔斗、もう戦わなくていいわ」


レイナが近づいてきた。白い探索服には血がつき、白銀の長い髪も乱れている。普段は冷静に指示を出してくれるリーダーが、今は地図を持つ手を震わせていた。


「私が道を間違えた。敵の攻撃も読み違えた。あなたの剣を折らせて、背中まで斬らせてしまった……」

「いや、誰だって間違えるだろ?」

「私はリーダーなのよ。みんなを守る責任があるのに……」


レイナは俺の右肩へ目を向けた。


「こんなことになるまで、あなたに戦わせてしまった……」

「俺も戦うのは好きだし、そんなに気にしなくていいって」

「……あなたは、まだ私を責めないのね」

「責める理由がないだろ?」


レイナは唇を噛んだ。そのまま俺から顔を背け、両手を強く握った。なんだか、3人とも様子がおかしいな。まあ、無理もないか。こんな強いモンスターと戦うのは初めてだし、みんな疲れているんだろう。


それなら、さっさと帰したほうがいい。


「3人とも、ここから逃げてくれ」


俺がそう言うと、レイナが顔を上げた。


「……何を言っているの?」

「俺が時間を稼ぐ。その間に地上へ戻ってくれ」

「それでは、あなたが……」

「俺はまだ戦えるからさ」


左手を動かしてみせる。こっちは問題なく動く。剣は右手で使っていたけど、左手でも戦えないことはない。


「でも……」

「レイナ、こはくは足を怪我してる。いぶきも盾が壊れた。これ以上みんなで戦ったら、本当に危ないぞ」


レイナは何も言わなかった。リーダーとして、怪我人を逃がす必要があることは分かっているはずだ。


俺は通路の奥を見た。ここから少し戻った先に、地上へ帰るための転移装置がある。ダンジョンの中には、探索者が地上へ戻るための装置が何か所か設置されている。装置の中央に立ち、操作盤のボタンを押せば、地上の帰還地点まで運んでくれる。


ただし、ここから転移装置までは少し距離がある。しかも、目の前の巨大なモンスターが通路を塞いでいた。あいつをどうにかしないと、3人が逃げることもできない。


「レイナ。ここから1番近い転移装置はどこだ?」


白銀の長い髪を乱したレイナが、急いで地図を開いた。


「来た道を戻って、左の通路を進んだ先よ。でも、あのモンスターが道を塞いでいるわ」

「よし。じゃあ、俺が道を開けるから、3人はそこまで走ってくれ」

「……あなたは?」

「俺はあいつを引きつける。3人が逃げたら、あとから追いかけるよ」

「そんなの認められないわ!」


レイナが俺の左腕をつかんだ。


「あなたは右腕を失っているのよ! これ以上、あなたに戦わせるわけにはいかないでしょう!」

「まだ左腕があるし、なんとかなるって。大丈夫、大丈夫」

「大丈夫なわけがないでしょう……」


レイナは俺の右肩を見た。白い探索服についた血を見て、唇を強く噛んでいる。


「朔斗くん、あたしも残るよぉ……」


今度は、桃色のツインテールを揺らしたこはくが、俺の服を握ってきた。右足には罠で負った傷があり、立っているのもつらそうだ。


「朔斗くんの怪我、あたしが見てないと……。また怪我しちゃったら、どうするのぉ……?」

「こはくは病院に行かないと駄目だろ。足の傷、まだ痛むんじゃないか?」

「平気だもん……。あたし、ちゃんと歩けるもん……」


こはくは俺から離れようとしたが、足に力が入らず、体が横へ傾いた。俺は左手で支えた。


「ほら、無理するなって」

「……あたし、もう必要ないのぉ?」

「えっ?」


こはくが俺の服を握り直した。


「あたしがちゃんと怪我を治せなかったから、もうそばにいないほうがいいのかなぁ……?」

「いやいや、そういう意味じゃないって!」


なんでそんな話になるんだよ。俺はただ、こはくの足が心配なだけなんだけどな。


「朔斗。自分も残る」


黒い戦闘服を着たいぶきが、俺たちの前に立った。大きな盾は壊れかけているが、腰にはまだ剣が残っている。


「自分が敵を引きつける。お前は2人を連れて逃げてくれ」

「いぶきも怪我してるだろ?」

「問題ない」

「いや、その盾でさっきの斧を受けたら、今度こそ壊れるぞ」


いぶきは自分の盾を見た。金属には大きなひびが入り、端の部分が曲がっている。


「今度こそ、自分に任せてくれ」


いぶきは剣を抜き、モンスターへ向き直った。その手が震えている。いつもなら強い敵を見ると嬉しそうにするのに、今はそんな顔をしていない。


「いぶきには2人を守ってほしいんだよ。転移装置まで無事に連れていってくれ」

「……自分は、もうお前の盾にはなれないのか」

「そうじゃなくて!」


参ったな。みんな、どうして自分を責めるんだろう。俺としては、3人が無事ならそれで十分なんだけど。そうこうしている間にも、モンスターが近づいてきた。


巨大な斧が床を引きずり、石を削る音が聞こえてくる。これ以上、話している時間はないな。


「お前ら、この中で一番強いのは誰だ? 俺だろ。文句は言わせねえぞ。つまり一番生き残る確率が高いのも俺だ。心配すんな。死ぬつもりなんざ、さらさらねえよ」


俺は左手で短剣を握った。


「3人とも、俺を信じろ。俺があいつを引きつけて、逃げ道を作る。だから、転移装置まで走ってくれ」


レイナは俺の右肩を見たあと、ゆっくりとうなずいた。


「……分かったわ。でも、必ず追いかけてきなさい。約束よ」

「おう!」

「朔斗くん……絶対だよぉ……?」

「分かってるって」


いぶきは何も言わず、俺を見つめていた。俺は笑って、左手を上げた。


「帰ったら、祝勝会しようぜ?」


いぶきは剣を握り締めたまま、小さくうなずいた。


よし、これで決まりだ。俺はモンスターに向かって走り出した。


巨大な斧が振り下ろされる。俺は横へ飛び、敵の足元へ潜り込んだ。左手の短剣を、モンスターの膝に突き刺す。


「よっと!」


刃が黒い皮膚を切り、モンスターが大きくよろけた。俺は短剣を引き抜き、反対側の足にも斬りつけた。敵の巨体が傾き、通路の壁にぶつかる。さっきまでモンスターが塞いでいた道が開いた。


「レイナ! 今だ!」


白銀の髪を揺らしながら、レイナがこはくの体を支えた。


「いぶき、先頭をお願い! こはくは私につかまって!」

「了解した」


いぶきが剣を構え、通路へ走り出す。こはくもレイナの肩につかまりながら、怪我をした足を引きずって進んでいった。


しかし、モンスターが3人に気づいた。巨大な斧を持ち上げ、逃げる3人の背中を狙う。


「おっと、お前の相手はこっちだ!」


俺はモンスターの腕へ短剣を投げつけた。刃が手首に刺さり、斧の向きが変わる。大きな刃は3人の頭上を通り過ぎ、通路の壁を壊した。


危ねえ。


俺は床に落ちていた石を拾い、モンスターの顔へ投げつけた。石が目の近くに当たる。モンスターは大きな声を上げ、俺へ向き直った。


よし、こっちを見たな。


俺は敵から距離を取りながら、3人の様子を確認した。レイナたちは通路の奥へ進んでいる。こはくの足が心配だったが、いぶきが途中から彼女を背負って走り始めた。これなら大丈夫そうだ。


「朔斗!」


レイナが振り返った。いつも冷静なリーダーが、今は泣きそうな顔をしている。


「必ず帰ってきなさい! 私たち、待っているから!」

「おう! 任せとけ!」

「朔斗くん! ちゃんと病院に行こうねぇ!」

「分かってるって!」


いぶきも足を止め、こちらを見た。


「朔斗! お前を信じている!」

「ありがとな! 2人を頼んだぞ!」


いぶきは大きくうなずき、こはくを背負い直して走り出した。3人の姿が通路の奥へ消えていく。


「よし、これで安心だな」


俺は左手を握り直し、目の前のモンスターを見上げた。


「さて、と」


モンスターが斧を構えた。俺も落ちていた別の短剣を拾い、左手に持った。


「悪いけど、もう少し付き合ってもらうぜ」


まだ、配信ドローンが飛んでいる。画面には大量のコメントが流れていた。


【朔斗の右腕、マジでなくなってる……】

【誰か救助隊を呼んでくれ】

【もう逃げろよ!】

【3人は帰れたんだろ? お前も帰ってくれ!】

【頼むから死ぬな】


みんな心配してくれているらしい。ありがたいな。


「大丈夫、大丈夫。ちょっと片腕なくしたけど、まだ戦えるからさ」


【ちょっとじゃねえよ!】

【笑ってる場合じゃないだろ】

【お願いだから生きて帰ってきて】


「なんだろうな。俺はずっと、こんな時を待っていたような気がするんだ」


俺はモンスターへ走り出した。




どれだけ戦ったのか分からない。体中が痛い。頭から血が流れ、足もまともに動かなくなっていた。右肩の傷も痛むが、こはくが処置してくれたおかげで、さっきより出血は少なくなっている。それでも、目の前のモンスターは立っていた。


「ったく、しぶといな」


俺は左手の短剣を構え直した。強い敵と戦うのは楽しい。でも、さすがに今回はちょっと疲れた。


【もう十分だろ!】

【誰か助けに行ってくれよ!】

【こんなの見てられない】

【朔斗、死ぬな】

【逃げろって言ってんだろバカやろう】


でも、あのモンスターを倒しておかないと、あとから来る探索者が危ない。


「もう少し頑張ってみっか」


俺は短剣を握り直した。モンスターが斧を振り上げる。大きな刃が、俺の頭を狙って落ちてきた。俺は横へ飛ぼうとした。だが、左足に力が入らなかった。


「あ、やべ」


斧が体に当たった。俺は大きく吹き飛ばされ、壁にぶつかった。


口から血が出る。床に落ちたところで、体が動かなくなった。モンスターが近づいてくる。こいつ、まだ元気なのかよ。


俺も負けてられないな。


左手を伸ばし、短剣を拾おうとする。しかし、指先に力が入らない。


【朔斗!】

【起きろ!】

【もうやめてくれ!】

【誰か助けてよ!】

【死なないでくれ……】


俺はなんとか笑った。


「悪いな、みんな。ちょっと休憩するわ」


モンスターが斧を振り上げた。俺の目の前に、大きな刃が迫る。しかし刃は、俺に当たる前に配信ドローンを切り裂いた。






「……嘘よ」


地上へ戻ったレイナは、スマートフォンを握り締めていた。白銀の長い髪は乱れ、いつもきれいに整えている白い探索服も泥だらけになっている。


画面には、配信が終了したことを知らせる文字が表示されていた。


「嘘……。朔斗が……」


レイナは何度も画面を押した。しかし、配信は再開されない。


「私が……道を間違えなければ……」


レイナはその場に座り込んだ。自分が選んだ道で、仲間を全滅の危機にさらした。さらに、モンスターの攻撃まで読み違え、朔斗の剣を折らせてしまった。


あのとき、朔斗は笑っていた。自分の失敗なのに、責めることもなく、いつもどおりに笑ってくれた。


「……私は、また同じ失敗をしたのね」


レイナは自分の手を見つめた。17歳のときも、父親と一緒にダンジョンへ入った。近道を選んだのは自分だった。その道に罠があり、父親はレイナをかばって死んだ。それ以来、二度と判断を間違えないように、何度も地図を確認してきた。モンスターの動きも調べ、攻略計画を立ててきた。それなのに、また大切な人を危険な目に遭わせてしまった。


「私には……リーダーを名乗る資格なんてなかったのよ……」


レイナはスマートフォンを胸に抱えた。画面には、配信が終了したことを知らせる文字が残っている。


「朔斗……。お願い、帰ってきて……」


その隣では、桃色のツインテールの少女が泣きじゃくっていた。


「やだぁ……。朔斗くん、帰ってきてよぉ……」


こはくは自分の両手を見つめた。朔斗の血が、まだ指の間についている。彼女は罠の発見と応急処置を担当する探索者だった。なのに、罠を見落として足を怪我し、朔斗に助けられた。自分が怪我をしなければ、朔斗はあの場所へ来なかった。自分が逃げ遅れなければ、朔斗は右腕を失わなかった。そのことが、頭から離れない。


「あたしが……あたしがちゃんと見ていれば……」


こはくは何度も首を横に振った。12歳のとき、母親が倒れた。こはくは救急車を呼ぶより先に、自分で助けようとした。しかし、何もできないまま時間が過ぎてしまった。救急車が到着したときには、母親はもう助からなかった。


それ以来、こはくは人を助ける仕事に憧れ、救急救命の勉強を続けてきた。でも、また大切な人を救えなかった。


「あたし、なんのために勉強してきたのぉ……」


こはくは両手を握り締めた。朔斗の右腕を失わせたのは、自分のせいだ。そう考えるほど、涙が止まらなくなった。


少し離れた場所では、いぶきが立っていた。紺色の短髪に、黒い戦闘服。大きな盾を持ったまま、動かない。


「……自分が弱かった」


いぶきは盾を見つめていた。何度も斧を受けた盾は、大きくへこんでいる。自分が敵の攻撃を止められなかったせいで、朔斗は背中を斬られた。その傷がなければ、こはくを助けたあとも、もっと早く動けたかもしれない。朔斗が右腕を失ったのは、自分が盾役として失敗したからだ。


「自分が……お前を守るはずだったのに……」


いぶきは15歳のとき、弟をダンジョンで死なせている。自分の力を過信して、危険なモンスターに挑んでしまった。弟を守ることよりも、敵を倒すことを優先してしまったのだ。だから、二度と同じ失敗をしないと誓った。盾を持ち、仲間を守る役割を選んだのも、そのためだった。


それなのに、今度は朔斗を守れなかった。しかも、朔斗は最後まで自分を責めなかった。盾が壊れても、怪我をしても、笑って励ましてくれた。


「……自分には、仲間を守る資格がない」


いぶきは盾を床に置いた。両手で顔を覆い、何度も首を横に振った。


3人はすぐに救助を求めた。探索者協会は大規模な救助隊を派遣した。しかし、第45階層への通路は崩落していた。救助隊が通れるようになるまで数日かかり、朔斗は発見されなかった。


やがて、探索者協会は鳴瀬朔斗の死亡を発表した。


彼が仲間を守って戦った配信は、世界中に広まった。再生回数は増え続け、ニュースでも何度も取り上げられた。やがて、その映像は『伝説の死亡配信』と呼ばれるようになった。しかし、助けられた3人の少女は、その映像を見ることができなかった。


自分たちを守るために、朔斗が右腕を失った姿。それでも笑って戦い続けた姿。最後に、血だらけになって倒れた姿。そのすべてが、3人の心に残っていた。










それから1年が経った。


レイナは探索者を引退した。今はダンジョン事故対策会社を経営している。危険な探索を少しでも減らすため、毎日仕事を続けていた。しかし、彼女が笑うことはなくなった。


こはくは救急医療の研究所に入った。大きな怪我を負った探索者を救うため、新しい医療器具の開発に協力している。食事も睡眠も忘れ、研究に没頭する日々だった。


いぶきは1人でダンジョンへ潜り続けていた。朔斗を殺したモンスターを倒すためだ。3人の生活は、あの日から大きく変わってしまった。


それでも、朔斗が帰ってくることはなかった。少なくとも、3人はそう思っていた。




「……おお、明るい」


俺は久しぶりに太陽を見上げた。まぶしい。いやあ、やっぱり地上はいいな。ダンジョンの中で1年間も過ごすことになるとは思わなかった。


あのモンスターとの戦いでは、本当に死ぬかと思った。でも、色々と予想外の出来事があってなんとか倒せた。ある種、あの出来事のおかげで俺はもっと強くなれた。そういう意味では、あのモンスターにも感謝だな。


問題は、そのあとだ。


戦いのせいでダンジョンの通路が崩れ、帰り道が分からなくなってしまった。でも俺はダンジョンの奥にあった探索者用の避難所を見つけた。


そこには食料や水、医療用品が残されていた。しかも、探索者が使うための救急箱まであった。こいつには助けられたな。右腕の傷はかなりひどかったので、毎日ガーゼを取り替え、傷を清潔に保つようにした。


痛みが強いときは、避難所に残っていた薬を使った。最初は熱が出て、まともに歩くこともできなかった。正直、かなり危なかったと思う。でも、なんとか生き延びた。ずっとダンジョンの中を放浪してたようなもんだ。モンスターと戦って、料理して食って、ガチのサバイバル生活だった。


「それにしても、1年かあ……」


俺は右肩を見た。


そこには、もう腕がない。まあ、なくなったものは仕方ない。左手だけでも十分戦えるし、生活だってなんとかなるだろう。


「さて、みんな元気にしてるかな」


レイナは相変わらず怒っているだろうか。こはくは、またお菓子を作ってくれるかな。いぶきとは、約束していた模擬戦をしないとな。


久しぶりに会うのが楽しみだ。


俺は地上の街へ向かって歩き出した。






その日のニュースは、朝から大騒ぎになった。


『1年前に死亡したとされていた探索者、鳴瀬朔斗さんが生存していたことが確認されました』

『鳴瀬さんは右腕を失っていますが、意識ははっきりしており、自力でダンジョンから帰還したということです』

『1年前の死亡配信は世界中で話題となり、現在も数億回再生されています』


そのニュースを見たレイナは、持っていたカップを床に落とした。


「……朔斗?」


こはくは研究室で立ち上がった。


「うそ……。朔斗くん……?」


いぶきはダンジョンの入口で足を止めた。


「……生きている?」


3人が、同じニュースを見ていた。そして、3人とも走り出した。





「朔斗!」


突然、名前を呼ばれた。振り返ると、銀髪の女性がこちらへ走ってきた。


「おっ、レイナじゃん。久しぶり!」

「……っ!」


レイナが俺に抱きついた。ものすごい力だった。


「お、おい。どうしたんだよ?」


「生きて……」


レイナの声が震えている。


「生きていたのね……」

「そりゃそうだろ。ちゃんと帰ってきたじゃん」

「朔斗……!」


レイナが俺の胸に顔を押しつけた。肩が小さく震えている。


「朔斗くううん!」


今度は桃色の髪が見えた。小さな体に大きなリュックを背負ったこはくが、泣きながら走ってくる。


「うわっ!」


勢いよく抱きつかれた。


「生きてたぁ……! 生きてたよぉ……!」

「お、おう。久しぶりだな、こはく」

「もう会えないと思ってたぁ……!」


こはくが俺の服を握り締める。その後ろから、いぶきが歩いてきた。紺色の短髪に、黒い戦闘服。大きな盾は持っていなかったが、背中にはいつもの剣を背負っていた。


「朔斗……」

「おっ、いぶき。元気だったか?」


いぶきは何も言わなかった。ただ、俺の顔を見つめている。


「どうした?」

「……本当に、お前なのか」

「何言ってんだよ。俺に決まってるだろ」


俺が笑うと、いぶきの目から涙が落ちた。


「……よかった」


いぶきは俺の前で膝をついた。


「本当に……よかった……」


3人とも泣いている。いや、なんでだよ。せっかく久しぶりに会えたんだから、笑ってくれよ。


「ほら、みんな。俺は元気だって。道に迷って、遅くなっちまった。わりぃ」


俺は左腕を上げて笑った。


「ほら、もう終わったことだろ? せっかく帰ってきたんだし、みんなで飯でも食いに行こうぜ」


しかし、3人は泣くばかりだった。






俺は久しぶりに自分の配信チャンネルを開いた。


「……ん?」


画面を見て、首をかしげる。登録者数が、とんでもないことになっていた。


「えっ、何これ?」


動画の再生回数もおかしい。1年前に配信した動画が、数億回も再生されている。しかも、切り抜き動画まで大量に回っていて、ほとんどのタイトルにはこんな文字が並んでいた。


【伝説の死亡配信】


「……死亡?」


俺は思わず笑ってしまった。


「おいおい、誰が死んだんだよ」


動画を開く。そこには、1年前の俺が映っていた。右腕を失い、血だらけになりながら戦っている。最後には突然、配信が途切れていた。


「なつかしー。まあ、俺が死んだことになってたんなら、大騒ぎにもなるわけだ」


俺は笑いながら動画を閉じた。そして、隣にいた3人へ話しかける。


「なあ、せっかく帰ってきたんだし、また配信しようぜ」


レイナの肩が震えた。


「……あなた、まだダンジョンに行くつもりなの?」

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