表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
9/25

異変

 祠は特に大きなものじゃなかった。高さは私と同じくらいで、子ども一人が入れそうな大きさしかない。

 周囲には立入禁止を示す札が立てられている。


 私は所長から鍵を受け取り、観音開きの扉を開いた。そこには、結界核らしき大きな球状の石があった。全体は黒く、その奥にほんのりと赤色が残っている。


「なぜ……⁉︎」


 後ろから所長の声が聞こえた。その声の大きさに驚いて後ろをみると、所長が手を口元に寄せて、目を見開いて結界核を見ていた。


「所長?」

「……っ⁈夕顔さん、急いで準備を。私も手伝います」

「は、はい!」


 予定では私一人で作業するはずだったが、声をかけた所長は我に返ると自分もやるといった。つまり、何か予期せぬことが起こっているに違いない。

 とにかく、急いでいるのはわかる。鞄を引き寄せ、急いで紐を取り出す。


 すると、その様子を後ろから見ていた討伐隊長が事態を飲み込めず、声をかけてくる。


「なあ。何かあったのか?」

「……結界核の魔力が異常なほど減っています。このままでは、結界が消えてもおかしくありません」

「なっ⁈」


 隊長に続き、私も驚いて手を止めそうになったが、なんとか立て直す。確かに、あの結界核は最高品質にしては色がない。中級素材でも鮮やかな赤色をしているのに。目の前の結界核は、それこそ粗悪品のような色だ。


「いつ結界が消えるんだ⁈」

「わかりません。今かもしれないし、半日後かもしれません」

「半日……?とてもじゃないが応援を呼ぶ時間がないぞ!」

「はい。そのために急いで魔力補充を始めます」

「それよりも応援を頼む方が先だろう!」

「隊長さん!落ち着いてください!」


 焦る隊長のおかげで、ある程度落ち着いて様子を見ていたが、隊長が所長に詰め寄ろうとしたので、二人の間へ割って入る。怯んだ隊長が、キッとこちらに目を向けた。

 こ、怖い。でも、言わなきゃ。私も第2研だ!


「まずは補充優先です!応援はお任せします!」

「うっ」


 怯まずに言えた。逆に隊長は狼狽したが、すぐに立て直す。

 

「承知した。おい!大急ぎで……」

「隊長!隊長ーー!!」


 突然、遠くから声が聞こえたため、声のした方を隊長と私が振り向く。蛍火街灯に照らされて誰かが凄い速さで走って来ていた。


「お前は、見回りに行っていた……何処に行っていたん……」

「報告!結界の端を見回り中、西部側に異常あり!魔物が結界の外でこちらを威嚇していました。その数、約三十!」

「魔物⁈三十だと!なぜ結界の近くに来ているんだ!」


 私も魔物が来ているという言葉に、口に手を当てて驚く。

 すると後ろで黙々と準備をしていた所長が口を開く。


「おそらく結界が弱まっているからです。強い結界には近寄りませんが、弱くなったことで近寄ることができたのでしょう」


 話しながらも素材に糸を巻き終え、所長は立ち上がり、その素材を結界核に触れるように置いた。

 すると、触れている場所が少しだけ赤くなる。


「私たちは少しでも早く結界を強くするために作業を進めます。ここはいいので隊長殿は万が一に備えて魔物の方へ」


 所長はこちらを見ることなく次の素材と糸を手に取り、元の場所に座ると作業を再開する。

 私も続けて作業を再開すると、隊長が所長へ向き直る。


「結界核がここまで弱った原因については、事が済んだ後で説明を頼む。しかし、今は木蓮殿の言う通りだ。魔物の対処にあたらせてもらう。おい、まだ走れるな。案内しろ!お前は宿に戻り待機!おれの合図があった場所に全員を連れてこい!いくぞ!」

「「はっ!」」

「待ってください!あなた!水を飲んでいってください!汗が凄いです」


 私は先ほど走って来た隊員に水の魔道具を投げる。隊員は受け取ると魔道具を起動し、出てきた水を一気に飲み干す。


「助かる。よし、では向かうぞ!」

「「は!」」


 今度こそ、一人は宿の方向へ、隊長と見回りの隊員は西へ向かって走り出した。その様子を見送るやいなや、作業に戻る。

 所長と黙々と作業を進め、持って来た素材は全て結界核の周りに置いた。素材と核の接触部分が淡く光っているが、全体の色合いは変わらない。


「やはり速度が遅いのですぐには貯まらないですね。夕顔さん、あの街灯の先端の紐を外してこちらへ持ってきてください」

「え?はい!」


 急いで言われた通り蛍火街灯の紐を外して持っていく。


「持って来ました!」

「それを結界核に触れさせてください」

「はい!」


 紐が結界核に触れるように固定すると、紐の触れた箇所が淡く光る。他の素材よりも光が強い。


「そうか……蛍火街灯は火属性だからこれでも補充できるんだ」

「そうですね。うまくいきましたが、これでもやはり遅いですね。間に合えばいいのですが」


 今できることは終わった。私と所長は座ったまま結界核を見つめていた。


「夕顔さん。先ほどは素晴らしい働きでした」

「え?」

「隊員のために水をあげたでしょう。今は一刻も早く魔物の対処をしてもらうためにも、万全な態勢で討伐隊にはいてもらわないと困る。あなたの気遣いは完璧でした」

「いえ、あれは……汗だくの隊員を見て咄嗟に……」

「ふふふ。その冷静に状況が見えていたのが素晴らしいのですよ。私なんて、原因の説明を求められて、責任を追及されることばかり考えてしまいました。私も冷静ではありませんでしたね」


 所長でも、腹の立つことがあるのかと、意外な一面を見た気がして、少し気が緩んだその時。

 結界核が目に見えて色を失った。


「あ!」

「これは……もうもたなさそうですね……一度宿に戻って対策を……」

「まだです!街灯の紐がまだあるはず……!取って来ます!」

「夕顔さん!」


 このままでは、町に魔物が入ってくる。まだ広場には人がいるはずだ。

 さっきゴヘイモチを売ってくれた人も、野菜汁をオススメしてくれたあの女の子もいるかもしれない。

 魔物に襲われる人を想像して、泣きそうになる。

 

 いやだ!ぜったいにいやだ!なんとかしないと!


 他の街灯からも紐を取ろうと走り出した瞬間、目の前に人がいることに気づいた。


「あなたは……素材買取屋の……」


 その素材買取屋は、真剣な面持ちで、汗だくになりながら袋を抱えてこちらを見ていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ