夜に咲く花
「なんなの、あの人は!」
買った団子や串肉を入れた袋をブンブン振りながら、月光亭への帰路を歩く。
素材を買い取るという珍しいことが書いてあったので、何をするつもりなのか聞こうと思ったら、最後はこちらが質問されるばかりだった。
それに、あの男は監査と宿のことを知っていた。町長くらいしか知らないはずなのに。その上で所長に会いたいだなんて怪しすぎる。
放っておいたら会いに来てしまいそうな勢いだったから、思わず所長の外見について嘘をついた。嘘つくのに罪悪感はあったが、あんな人を所長に会わせる訳にはいかない。
宿に向かって歩き始めたころは、先ほどのやり取りで頭がいっぱいだった。しかし、祭りの喧騒が遠のいていくにつれ、気持ちが落ち着いてきて、ふと手元の食べ物を見る。
「美味しいなぁ、ここのご飯」
改めて、先ほど買ってすぐに食べた料理を思い出す。お米はないわけではないが、研究所ではパンが主流だ。そのため、お米をふんだんに使った料理には心踊った。特に、お米を焼いたゴヘイモチという料理は美味しかった。二本その場で食べてから、持ち帰り用として五本買った。それ以外にも、串肉や団子など袋に入るだけ買って、最後に美味しそうだった野菜のスープを買った。
「足りるかなぁ。もう少し必要だったかなぁ」
所長が自分と同じくらい食べたら足りないなぁと考えていると、月光亭が見えてきた。
夜だと白い石が所々青く光り、まるで本当の波のように見え、夕方にみた整然とした美しさから、幻想的な美しさに変わっていた。
「すごいなぁ枯山水」
と言いながら、そういえばと思い、遠くの青い光源をじっと見つめた。
「あー蛍火蝋燭に青くて薄い布を巻いているんだ」
来た時に疑問だった事が一つ分かり、スッキリした気持ちで宿の引き戸を開ける。途中で食べたゴヘイモチの串をゴミ箱に入れて、部屋に向かう。
部屋に着いて戸を叩くと、所長が顔を出した。
「お帰りなさい。いい匂いですね」
「はい、どれも美味しいですよ、きっと。好きなのを選んでください」
部屋に入って、買ってきた料理を並べる。
「いっぱい買ってきましたね」
「そ、そうですか?さぁ、このゴヘイモチは特に美味しいですよ」
「これですね。食べた事あります。二本あるから、一本はあなたのですか?」
「いえ……あのー、歩きながら途中で食べたので……」
「そうでしたか。では二本もらいますね」
ここに来るまでに食べた合計が五本であることは言わない。なんか恥ずかしいし。
「あとは、その野菜汁をもら……ふふふ、お団子をもらいますね」
食べたいなーと思ってたお汁を所長が取りそうになったが、途中で何故か笑いながら団子に変えてくれたみたいだ。よかった。
取り分けが終わったので、二人で食事を始める。食事は冷えてしまっているが、団子などは柔らかいままで、噛めば噛むほど甘くなってくる。
「ここのご飯は美味しいですね。特にお米が」
「そうですね。わたしもこの辺りに来たらお米を頂く事が多いです」
「素材がいいんでしょうか」
「そうでしょう。この辺りは第3も関与している指定農業区域ですから。土壌も環境も共に良いはずです」
「第3……農土研ですか」
「そう、だからこそ、この町には結界があるのです」
結界と言われ、窓から外を見る。夜の闇が深くなり、外は何も見えない。
「もうそろそろ結界核の魔力補充に行く時間でしょうか」
「そうですね。そろそろ準備しましょうか」
「補充に使うのは中級品質である火山猪の素材。ここの核は炎属性なのですね」
「そうです。品質は太陽ですが」
「太陽……炎属性の最高品質ですね」
「ええ」
袋の中をみると、キバや骨、爪などが詰め込まれている。どの素材も赤色であり、濁りはほとんどない。
素材を確認して、作業工程を声に出して反芻する。
「この素材に、魔力を通す糸を巻きつけ、核に直接触れさせるように配置する」
「そうです。何故糸を巻くか分かりますね」
「核に魔力を移すのは、媒体がないといけないから。そして魔力の移動には時間がかかるからです」
「はい。よく学んでいます」
袋を閉めて、糸を入れた鞄を背負い、気を引き締めて外を見る。
初めて補充作業を任されたんだ。失敗はできない。
「さて、それでは護衛の討伐隊員を呼んできて下さい。二名来ていただく予定なので」
「分かりました」
私は部屋を出て、入り口のホールに向かう。心なしか鼓動が速い。
落ち着いて。所長も一緒なんだから。
ふぅっと短く息を吐いて落ちつかせる。ホールに入ると、ちょうど入り口の前に討伐隊員が二人、引き戸を開けて外を見ていた。
「あ。お待たせしました。……どうかしました?」
振り向いた顔に焦りが見えたことから、思わず問いかける。
「あぁ、助手さんか。いや、大したことではないんだが、結界の縁を見回りに行ったやつが戻らなくてね。帰りなら祭りに寄る事を許可していたから、それで遅れているだけだと思うが……」
「そうなんですね。それは心配ですね」
「いや、心配というよりは腑に落ちなくてな。それより、もう出発するのか?」
「えぇ。ですので、同行する二人をお願いしたいのですが……」
「いや問題ない。私とこいつの二人で同行予定だ。遅れてるやつは、まぁそのうち来るだろう」
確かこの人は隊長だったはず。この人が大丈夫というのであれば、大丈夫なんだろう。
外の暗闇を一瞬見るも、気にしないことにする。
「分かりました。それでは、所長を呼んできますので、揃いましたら出発しましょう」
「承知した」
隊長さんの言葉を聞き、所長を呼びに行く。
「所長。準備できているようです」
扉を叩いてから声をかけると、所長が顔を出す。
「ありがとうございます。それでは初の補充作業に行きましょうか」
所長から袋を受け取り、予想以上の重さに腕が下がりそうになるが、負けじと手を胸まで押し上げて、返事をする。
「はい!第2研究所の研究員として、この夕顔 灯花がやり遂げてみせます!」




