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出会い

「ありがとうございましたー!」


 割れてしまった蛍火蝋燭を五個売ってくれた人に丁寧なお礼をする。

 ただし、どうしても顔がニヤけてしまう。

 普段自分で拾うか、家の回収箱に誰かが入れてくれるくらいしか集める方法がないので、一気にいくつも手に入ると気持ちが上がる。


 出費は痛いが、一つ一円くらいでも文句なく持ち込んでくれるため、最低限で済んでいる。


 それに今ので既に七個だ。去年の十五を超えるペースで、二十超えも夢じゃない。


「しかも羽より石が多い。種類も豊富だ。ククッ。クククッ」


 変な笑い声が出たが、気にならない。どんな検証ができるか楽しみでしかない。


 そんなことを考え、足元の袋を見ていると、ふと手元に人影が落ちたので、慌てて前を見る。


「あー今年もやってたね!ここは素材を買い取る店で合ってるかい?」

「はい。そうです」

「やっぱり!よかったよ!一か月くらい前に月光亭の子がゴミ屋をやってるって聞いて溜めてたんだ!やってなかったらどうしようかと思ったよ!」

「はい、合ってますが、一応ゴミ屋ではなく、素材買取屋でして……」


 やはりその名前で広まってるのか。去年誰かが呼び始めたらしい。初めて正面から言われたが、なかなか心に来るものがあるな。


「ん?あぁ、ごめんよ。それでこれなんだけど、こんなものでもいいのかい?」


 そう言った恰幅のいいおばさんは、袋を取り出して机に置いた。

 おれは中身を机の上に出し、ヒュッと息を吸い込む。


「これは……蛍火猪のキバ……しかも綺麗なものが十個⁈ど、どこでこれを?」


 努めて冷静に、裏声になってしまった声で質問する。


「うちは食肉加工してるんだけど、珍しく蛍火猪が混ざっていてね。持ち込んだ狩人はいなくなっていたし、最低品質だから別に売れないしと思っていたら、あんたの事思い出してね。取っておいたのさ。」

「奥様!なんて記憶力をお持ちなのか!わたくしめのゴミ屋を覚えていてくださり、ありがとうございました!」


 ビシっとお辞儀を決める。


「奥様ってなんだい気持ち悪いね。変わってるって方の噂も当たってるね。それで、これが売れるならいくらになるんだい」

「そうですね……最低品質とは言え状態が素晴らしいので、一つ四円、合わせて四十円でどうですか?」

「おや?そんなくれるのかい?てっきり十円くらいかと思ったよ。いいね、串が1本は買える。売ったよ!」

「ありがとうございます!お金を出すので少々お待ちください!」


 どうだ、さっきの子どもめ。キバ持ってどっか行きやがって。全く気にしてなかったけどな!

 予想外の素材にウキウキでお金を準備する。


「それにしても、なんでこんなもの買い取るんだい?」

「んー、素材でいろいろ試して見るのが好きでして。検証のため粉にしたりするので、すぐになくなってしまうんです」

「粉に?小さいだけで品質が落ちて使えなくなるってのに、さらに小さくするのかい?」

「まぁそれ自体は使えなくなるんですけどね。……おっ、あったあった」


 最後の小銭を見つけ、奥様に四十円を渡す。


「四十円……確かに!助かったよ!友達にも紹介しておくからさ!月光亭の女将にもよろしくね!」

「なんと!ありがとうございましたー!」


 立ち去っていく常連候補に、心から礼を言って見送る。


「ふー、今まで頑張ってきた甲斐があったな。と言ってもまだ三回目だけど」


 鼻歌を歌いながら机の上の素材を袋にしまう。適当な歌だがなんでもいい。とにかく気分がいいからだ。


「あのー。少しよろしいでしょうか」


 と、声をかけられる。しかし、鼻歌を歌いながら、この素材で何をしようか考えてたため、無視してしまう。


「少しよろしいでしょうかー!」

「おぉっ!はい!すみません!何かご用でしょうか?」


 人がいることに全く気がついてなかったから、驚いた。

 そこには、この辺では見慣れない仕立ての良い服を着た眼鏡の女が立っていた。同じ年くらいだろうか。


「粗悪素材買取って、何を買い取っているんですか?」

「はい。例えば、品質が『蛍火』の素材またはそれを使用した魔道具とか。普段捨てている素材関係全般です」

「なぜ?」

「え?」

「なぜそんなものを集めてるのですか?」

「なぜと言われましても、趣味みたいなもので……」

「それでもお金がかかると思います」


 こいつ、客じゃないな……。

 じゃあ丁寧じゃなくていいか。


「集めるのが好きなだけだよ。売りたいものでもあるのか?」


 急に口調を変えたため、眼鏡っ子はたじろいだ。


「え?いや、珍しいお店だから気になっただけで、売るものは何も」

「それなら、理由もわかったし、どいてくれないか。そこにいると他の客が来られない」


 手で端の方にどくよう促す。

 

「な!誰もいないからいいでしょう!」

「あんたのせいで来られないだけかもしれないだろ!」


 ああでもないこうでもないと言っていると、その女が持っている物が気になった。出店の団子や串肉のパンパンに入った袋を腕にぶら下げながら、野菜汁を手に持っている。


「その手に持っているものでも、食べてこいよ。というか、凄い量だな⁈」

「私一人で食べないから!宿で連れの人と食べるんです!」

「宿……?」


 宿という言葉に引っかかった。この辺だと、宿と言えば、うちのことだ。

 ここで、ふと町長や母さんとなら会話を思い出す。

 うちに泊まっていて、珍しい服装といえば、まさか……!


「もしかして、あんたは監査の関係者か?」

「え、監査?あぁ……監査!そう!関係者です」

「やっぱり!なぁ、所長ってどんな人なんだ?」

「え?急に何ですか?」

「いや、偉い人なんだろ。何か凄い魔道具とか持ってないの?」

「だから、何なのよ急に」

「いいなー。色々持ってるんだろうなー。なぁ、あんたも関係者なら珍しい魔道具持ってないの?」

「何なのよ!持ってないし、持っていてもあなたみたいな変な人に見せないから!」

「そっかー。じゃあ所長と話させてくれよ。そうだ!紹介してくれないか」


 ぐいっと身を乗り出し、眼鏡っ子が怯む。


「な!話してみてほしいくらいでいいから」

「何で私が!しかもあなたを!嫌に決まってるでしょ!」

「頼むよー。じゃあどんな人かだけ教えてくれよ!」

「……所長はこわーい見た目の男よ!これでいい⁈じゃあそういう事で!さよなら!」


 眼鏡っ子がサッと振り返り立ち去る。

 なにやら嘘の気配を感じたが、早々に立ち去ってしまったので、確認ができない。


「あ、ちょっと待って……」

「あのーこれ売りたいんですけどー」


 タイミング悪く本当にお客さんが来てしまう。所長も気になるが、新たに持ち込まれた素材も気になる。

 心残りはあるが、お客さん対応に意識を切り替えた。


「はいー、どんな物をお持ちでしょうかー」

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