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剣なき英雄譚 〜魔道具研究開発録〜  作者: 博雅
第四章 量産編 -風工場-
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夕顔班 二つの交渉

 ——プレゼン当日 月燈班


「新しい魔道具に、新しい工場だって……!何を言ってるんですか!?そんな話あるわけない!」


 炒木が草分工場長にくってかかる。

 草分工場長は、弁柄組とは対照的に冷静だ。


「この場で嘘なんてつくわけないだろう。事実だ」

「馬鹿な……!そんなすぐに、新しい工場なんて建てられるわけない!」

「準備ができていると言っただろう。既に建屋もある」

「ありえないっ!工場なんて建物があればいいというわけじゃ……そうだ!そもそも原材料はどうするのですか!どんな魔道具で量を増やそうとしているか知りませんが、原材料は確保できてるんですか!」


 炒木は、立ち上がって草分工場長を睨む。

 続けて、左右に座っている炒木の部下もヤジを飛ばす。


「まさか工場を増やすから原材料を回せなんて甘いこと言わないですよね?!今はどこも原材料不足です!我が工場では普段から原材料を多く購入しているため、魔包手袋等の製造が可能なんです!あなた方は、そんなに原材料を集められますか?」


 冷静さを取り戻した炒木は、椅子に座りながら草分工場長をあざ笑う。

 七日前なら掴みかかっていたかもしれない。


「もちろんだぜ。月燈。あの紙を見せてやってくれ」

「わかりました」


 カバンから一枚の書類を出して、まずは四組会の場樽さんに手渡す。


「これは、これは……」

 

 書類を受け取った場樽さんは、目を通しながら呟く。


「これは炒木様に見せてもいいですか?」

「かまわねぇ」

「わかりました」


 場樽さんが書面を机の上を滑らす。

 炒木は書面に目を通すと、みるみるうちに顔が赤くなる。


「まさか……!なんで……?」

「そういうこった。若竹組は、大手商会である山野商店と独占契約を結んだ。これによって原材料を優先して入手可能だ。山野商店は……もちろん知ってるよな?」

「くっ……!」


 草分工場長は、挑発するように炒木に声をかけた。


 

 

 ——プレゼン六日前 夕顔班


 

 

「これは……流石に驚いたね……」


 藤園室長は、机の上に広げられた羽毛と殴り書きのメモを見比べて、椅子にポスンと座る。

 私と火花野さんは、昨日の羽毛についての発見を関係者である藤園室長へ共有に来ていた。

 羽毛の効果がわかったと伝えた時は、興奮した様子で立ち上がった。それが今では、一通り説明を聞き終えて放心している。


「アンタの表情がこんなにも変わるのを初めて見たぜ」

「そういうなよ、火花野くん。君だって分かるだろ?新しい素材が見つかるなんて、そうそうあることじゃない」

「まぁ、昨日はおれたちも夢中で検証したから、分からなくはないな」

「あぁ。こんなことなら昨日も若竹工場に顔を出すべきだったよ。それにしても、このタイミングで新素材か……。何かお願いでもあるのかな?」

「話が早くて助かるぜ」


 火花野さんが、一歩下がった。ここからは私がやれということだろう。藤園室長の前に出る。


「この素材発見に関する報告書を、七室と共同で作成しませんか?」

「共同で?この件に関しては、夕顔ちゃんの新型測定器を使って、一室で効果を見つけた。あなた達の発見のはず。もちろん共同にできれば私たちにも優先開発権が回ってくるからありがたいけど……なぜ?」

「この素材を一刻も早く正式な素材として登録するためです」


 藤園室長は、背もたれに寄りかかる。

 

「……なるほどね。若竹工場で正式に活用するためには必要な手順だ。それに、七室なら素材の報告書作成は慣れてるからってところかな」

「はい。私たちは素材の報告に慣れてないので時間がかかってしまう。今は時間との勝負なので」

「納期は?」

「六日後には登録完了したいです」

「ふう。中々刺激的な納期だね。つまり私たちは、それに間に合わせるために報告書作成を手伝うわけだ。うーん。それだと少しこちらの荷が重いようにも思っちゃうな」


 藤園室長は前髪をかき上げながら、不敵な笑みをこぼす。

 ただ、見返りを求めてくることなんて想定内なんだから。


「もちろんです。新型測定器を七室の人数分提供します。まずは今ある三つを先にお渡しします」

「いつまでに?」


 藤園室長が試すように質問を重ねる。

 私はカバンから新型測定器を三つ机の上に置く。


「既に三つ準備してきました。残りは六日後までには全て渡せるよう手配済みです」

「……うん」


 藤園室長は、椅子から立ち上がると、机を回り込んで私に近づく。

 そして、がばっと抱き寄せられた。


「わわっ!?」

「さすが夕顔ちゃんだ!わかってるね!しかも、三つの先行見本付きだなんて!」


 スタイルの良い藤園室長に抱き付かれて恥ずかしい。


「は、離して下さい」

「あー。ごめんよ。嬉しくてね」


 パッと離れると、藤園室長は満面の笑みを浮かべていた。


「もちろん共同での報告書作成、受けさせてもらうよ!おーい!ハカセくん!」


 藤園室長は、部屋の奥から一人の研究者を呼ぶ。


 うわっ!あの質問ばかりしてきた細い人だ!


「彼は葉風(ハカゼ)。通称ハカセだ。私と彼で報告書作成を手伝うよ。ほら。挨拶だ」

「夕顔氏!改めまして、葉風と申します。ハカセと呼んでくれていいですぞ!」

「あ、はい。ハカセさん。よろしくお願いします」


 ハカセさんがぐいっと顔を近づけてきた。

 

「一緒に作業できるとは心躍る!またいろいろと聞かせてもらいたいですな!」

「ひぃ」

「ちょっと、ちょっと。あまり淑女に不用意に近づくものじゃないからね。まあまあ。彼は好奇心が強いだけで悪いやつじゃないから。それじゃあ六日間楽しもうじゃないか!」


 藤園室長とハカセさんは、楽しそうに笑っていた。


 ——数分後


 私と火花野さんは、街の方へ向かって、外を歩いていた。


「よかったな。とりあえず、一つ目の交渉完了だ」

「はい。予想通り見返りを求められましたね」

「仕事をお願いするんだ。当たり前だな。まぁ、それでもこちらの案に乗ってくれたんだ。成功といっていいぜ」


 そう。成功だ。羽毛部分を素材として扱うためには、正式に素材であることを示さないといけない。そのために七室の協力は必須だった。


「これで、原材料問題の半分は解決ですね」

「半分というか、原材料の必要量を考えると4分の1くらいだな。本丸は次だ」

「見えてきましたね。うぅ。仕事で来たのは初めてです。お客で来る時より緊張します」


 街の入り口近くという好立地に建てられた綺麗な建物が見えてきた。

 大きなガラス越しに見える店舗内には、豪華に飾り付けられた流水瓶や大型冷却用の流水籠、綺麗なガラス細工に包まれた蛍火ロウソクが置かれていた。

 それぞれに値札がついており、とてもじゃないが買う気にならない金額が書いてある。


 先に行ってきたって月燈くんに自慢しよう。いや、めちゃくちゃ文句言ってくるかもな……。


 ガラスの前でうーんと悩んでいると、見た事がある黒い人がお店の扉を中から開けた。

 そのまま扉を押さえるように立つ。

 そして、中から一人の女性が歩いてきた。


「山野商店へようこそー。初めましてー、夕顔灯火さん。山野このみですー。今日は有意義な話し合いを期待していますー」


 本日最も重要な交渉相手は、目が笑っていなかった。

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