ナタの発明
——プレゼン七日前 月燈班
「そんなバッサリ言わなくても……」
「無理でしょ。風属性の新魔道具とか。風ホロ羽しか素材がなくて、風鈴羽以外に開発されてないのに。どうやって今から開発するの?」
「それは……思いつかないです」
涼しい程度の風を起こすこと自体は風鈴羽で出来ている。これを束ねて風圧上げてもただの風鈴羽だ。
別の方法を探した方がいいな……。
そう考えたおれは、ふと工場の壁側から視線を感じた。
目を向けると、ナタがこちらを見ていた。
「おーい。ナタ!どうしたー?」
「……」
何か言おうとしている気配がしたが、何も言わない。まぁいいかと思ったその時、赤い服を着た影がカツカツとナタに近づく。
一瞬だけ見えた表情は、少しだけ緊張しているように見えた。
ナタの前に着くや否や、牙羅さんはその場にしゃがんで、ナタと同じ目線の高さになる。
「ナタ。何か言いたいことがあるの?」
「……」
牙羅さんはナタの目を見て尋ねたが、ナタは左右に目を逸らすだけで何も言わない。
牙羅さんは、同じ姿勢のまま動かなかった。
草分工場長が近づこうとするのを、肩を掴んで静止する。
「……」
ナタは何も言わない。牙羅さんは、目を逸らさない。
長くなるかなと思い始めた時だった。
「うん。ある」
時間がかかったが、しっかりとした返事だった。牙羅さんは表情を緩める。
「そうなんだね。なに?」
牙羅さんは、ぎこちなくナタを促す。
頑張っている牙羅さんを心の中で応援しながら、ナタの言葉を待った。
「あのね。この箒を使っていいよ!」
ナタは掃除に使っていた羽毛部分を集めた箒をぐっと前に突き出す。
牙羅さんは箒を受け取りながら、笑顔で応える。
「ありがとう、ナタ。でもこれはナタが作った魔道具じゃないの?」
「そうだよ!でも、シルベもお姉ちゃんもお父ちゃんの為にがんばってるんでしょ?だからいいの!」
牙羅さんが口を押さえる。顔がニヤけるのを抑えているのだろう。
「それじゃあ、この箒もいっぱい作れるようにしないとね」
「うん。みんな掃除がうまくなる箒だからね」
来た時から感じていたが、違和感を覚えるほど工場内は綺麗だった。
頭の中で色々な出来事がつながる感覚がする。
「上手くなるんだ。凄いね。どんな風になるの?」
「ホコリが上手に取れるの!」
「へー。凄い!」
牙羅さんが楽しそうにパチパチと手を叩く。
ただ、おれは別の結論が見えてきていた。
「ナタ。少しいいか?」
「なにー?」
「ホコリが上手に取れるのって、ホコリが舞わないってことか?」
「そうだよー。思いっきり箒で掃いても、ホコリが舞わないのー」
おれとナタの会話を聞いて、目を見開いた牙羅さんと目が合う。牙羅さんも気がついたみたいだ。
「牙羅さん!」
「わかってる!やってみるから……」
おれたちの会話を聞いていたユウガオとトラオさんも焦って近くに寄ってくる。草分工場長は机の前で首を傾げている。
「いくよ……」
牙羅さんがナタから受け取った箒を床に向ける。特に光ったりはしない。
そのまま、箒で勢いよく地面をはく。すると、箒はわずかに緑色に発光し、砂埃は一切たたなかった。
「おいおい。マジかよ……」
トラオさんのつぶやきが聞こえる。
「牙羅さん。おれに向かって、その箒であおいでください」
「わかった」
うちわであおぐ要領で、おれに向かってパタパタと箒であおぐ。
すると、箒はまた淡く緑色に発光した。
そして、予想通りの結果が起こる。
「やっぱり……風が起きていません」
「しかも、風が起きない時だけ、緑色に光った」
ユウガオが羽にグッと顔を近づける。
「つまり、羽毛の部分に効果があったってことだね……」
「そういうことだな」
ユウガオが両手を頬に当てる。
「うわー!わかんないよーそんな効果!」
「七室で色々試した時は風がどう起こるかを見てた
からな。ハッ!まさか逆に風が起きないとはな」
トラオさんも、片手を頭に乗せながら、天井を見上げる。
「ナタ!凄いよ!」
牙羅さんがナタを頭より高く持ち上げる。
「うわわ!たかーい!凄いでしょ!」
「凄い!教えてくれてありがとね!」
牙羅さんはナタをそのまま下ろして、しゃがんで目線を合わせる。
「ありがたく使わせて貰うね。これで若竹工場が助かるかも」
「やったー!お姉ちゃん頑張ってね」
満面の笑みで牙羅さんはナタの頭を乱暴に撫でる。
そして、その様子をニヤニヤと見ているおれたちに気がついた。
「な、なに!シルベ!さっさと羽毛部分の正確な効果を調べるから!」
「……おれたちで調べるんで、もう少しナタと話しててもいいですよ?」
「うるさい!」
「まったく……」と言いながらもニヤけ顔が残る牙羅さんと一緒に作業机に戻った。
——そして数分の検証後。
「だいたいこんなところでしょ」
「ですね。吸収する限界はありそうですが、風が吹いている中にこの羽毛を入れることで、羽毛から後ろに風を通さないみたいです」
「羽毛自身に当たる風を吸ってしまうから、うちわみたいに動かしても風が起きないんだね」
「風を弱める。それに風の抵抗を減らすって使い方ができそうだな」
おおよそ、この羽毛の効果は確認できた。机の上は検証結果を書きなぐった紙でぐちゃぐちゃになっていた。
この数分間の間、おれたちの勢いに押されて、少し離れたところでナタと座っていた草分工場長が、机に戻ってきた。
「開発者ってのは全員アンタらみたいなのか?打ち合わせもせずにドンドン進めていってるのに、なんで意見がこんなにまとまるんだ。意味わかんねーよ」
「わりーな、草分さん。開発者はこういう新しいものを見つけた瞬間が一番楽しくてな。夢中になってた」
「別にいいんだけどよ。それでこの箒で行けそうなのか?」
トラオさんは牙羅さんをみる。
続けて、牙羅さんがおれとユウガオを見る。
みな、自信に満ち溢れている。
「草分工場長。ここからはおれとユウガオの二手に分かれて行動することになります。けど、大丈夫。このナタに譲って貰った羽で、なんとかしてみせます!」
「頼もしいな。それなら、羽の材料だけは切らさないようにしておくから、好きに使ってくれ」
おれは草分工場長にお礼を言い、ユウガオと向き合う。
「それじゃあここからは別行動だ。毎日研究所で進捗を朝一に共有しよう」
「そうだね。ここからはお互い時間との勝負になるね」
「だけど、きっと大丈夫だ。今回はこんなに味方がいるからな」
周りを見ると、牙羅さんやトラオさん、草分工場長がそれぞれ動き出している。
「じゃあ、ユウガオは原材料、おれたちは新魔道具。七日後楽しみにしてるぞ」
「そっちもね!」
おれとユウガオはお互いに背中合わせとなり、歩き出した。




