プレゼン開始
——七日後
「くそぅ。はえぇよ。もう一週間なんてよぅ」
草分工場長は、いつもの作業服ではなく、若竹色の羽織に身を包んでいる。そのため、いつもよりも爽やかで仕事が出来そうな雰囲気を出しているのだが、部屋を行ったり来たりしていて落ち着きがない。
「大丈夫ですよ。ちゃんと俺たちはやることやりましたから、後はちゃんとぶつけるだけです」
「だけどよぅ。まだアレ届いてないだろ?」
「そうですが。おれはアイツを信じてますから」
「そうか……。強ぇなーお前たちは。今回、お前たち開発者を何もわかってなかったと改めて痛感したぜ。控えめに言って頭おかしいぜ、お前ら」
「そんな人達に全て委ねた人は、果たしてどちらが頭がおかしいんでしょうか?」
足をぴたりと止めて、草分工場長がククッと笑う。
「そりゃそうだ。よし!ここまで来て何を戸惑うことがあるか!後は押し切るのみ!行くか!月燈さんよ!」
「いきましょう!決着をつけに!」
おれは草分工場長に続いて、四組会の建屋に足を踏み入れた。
四組会の建物は、研究所の管理棟に似ており、白い壁で作られていた。おそらく漆喰だろう。
壁一面が白いため、建物内部がやけに明るい。さらに、工場地区内にも関わらず、音も匂いも感じない。
一言で言うなら無機質な建物だった。
草分工場長が入った部屋に後から入ると、そこには四人の人物が座っていた。一人は黒い羽織を身に纏っている真面目そうな人だ。
もう三人は弁柄色の羽織を纏った見たことのある顔だ。
「炒木……」
見覚えのある三人の真ん中の人物に声をかける。
「あぁ。どうも月燈さん。一週間ぶりでしょうか?再びお会いできて光栄ですよ」
「ええ。こんにちは」
「水臭いですね。これからの仕事仲間に」
草分工場長が割って入る。
「それを今から決めるんだろうが!」
「あぁ。そうでした、そうでした。いや、気がはやりました。ところで、月燈さんは本日はなぜここに?」
「草分工場長にご助力するためです」
炒木は目を細める。
「開発者の方がこんなことにまで参加してくるんですか?」
「くっ」
「月燈さん?どうしました——」
草分工場長が間に入る。
「そりゃあよ。俺が頼んだんだよ。それを月燈さんが了承して来てくれた。それだけだ」
「なるほど、なるほど。よくわかりました」
牙羅さん作製の、『炒木のウザ絡み想定集』に載っていた言葉がそのままでてきて、笑いそうになった。さすが、牙羅さんだ。同じく想定集を見ていた草分工場長が想定通りの解答をしてくれた。
危なかった。
「それでは私からもいいでしょうか?」
部屋にいた黒羽織の人物が近づく。
「私の名前は場樽といいます。四組会の人間として、最終的には私が判断します。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
この人が四組会の担当者か。それなら、この人を納得させられるかというプレゼンなわけだ。
狙いは絞れた。
後はやるだけだ。
それではと、バタルさんは座るように促す。
おれと草分工場長は、炒木の対面に座り、場樽さんは中央に座ったことで、三つ巴のような状態になる。
「それでは、若竹組の草分工場長。今回、弁柄組で製造することになった魔道具の製造場所に関する報告を——」
「はっ!我々弁柄組以上に適した場所は無い——」
「静かに!私は草分工場長に聞いています!」
炒木がギョッとした表情を浮かべる。
「失礼しました」
「……改めて、草分工場長。お願いします」
「わかった」
草分工場長がおれに頷いたため、頷き返す。
さぁ。取り返す戦いを始めるか!
「若竹工場は、新しい素材を使った新魔道具製造のため、新たな工場を稼働させる準備が出来た。よって、魔包魔道具の製造を弁柄組同等以上の規模で実施可能だ。ご再考をお願いする」
「な、な、な、何ぃーー!!?」
炒木を含めた弁柄組三人がそれぞれ驚愕の声を上げた。
おれは下を向き、溢れる笑みが見られないようにした。
——プレゼン七日前 月燈班
「行動開始って言ったけど、みんなここにいるんだな」
トラオさんが肩をすくめる。
「こっちは約束の時間までやることは無いからな。一旦そっちの課題に力貸すぜ」
「ありがとうございます。じゃあ牙羅さん、始めましょうか」
「ん?んーまぁ始めるって言ってもね。若竹工場で作る利点を思いつくことができるかどうかって話だからね。まぁ雑談しながらだね」
牙羅さんは、工場でもらったパンをかじる。
おれもひとかじりしながら、案を切り出す。
「草分工場長が雇用を増やしてるって話は利点になるんじゃないですか?」
「手袋や足袋、後は魔包源の袋を作ってもらえればね。ただ、それはどの工場でもできるでしょ」
「そっか。弁柄組で同じようにすればいいだけか……」
うーんと、改めて考えにふける。
「やっぱり風属性の素材や魔道具みたいに、風属性に由来することじゃ無いと独自性は出しにくいんじゃないかな?」
「……そうだね。夕顔ちゃんの言う通り、それがやっぱり妥当かな」
牙羅さんがユウガオの意見に賛同する。
それを聞いて一つの案を思い付く。
「そうすると……」
「いっそのこと、風属性の新しい工場建てちゃうとか?」
「は?」
牙羅さんに射抜くような視線を向けられる。あまりにも唐突過ぎただろうか?
「いや。弁柄組は絶対に規模のことを言ってくるじゃないですか?それなら、それくらいのことすれば、規模に関しては何も言わせないことができるかもなって……」
「それにしても新しい工場って……」
「案外良いんじゃないか、その案」
トラオさんが賛同する。
「トラオさん!」
「お前、本当にその呼び方どうにかしてほしいんだが……。まぁいい。新しい工場の件だ。例えば、粉の製造なら場所はそんなにいらないだろ。それなら、狭い空き倉庫とかで十分だ。そんな場所いくらでもあるだろ?」
「あ、あるぞ!この近くにも、空き倉庫みたいな場所はある」
草分工場長が鼻息を荒くして答える。
なんだ、なんだ?なんでこの人テンションこんなに上がってるんだ?
「ただ、粉のためだけだと、どの工場でもできる。つまり、若竹工場は増設する必要があるという前提にしないといけない」
「というと?」
「風属性魔道具の製造が間に合わないって状況だ」
「それは……」
今は、むしろ暇なくらいの状態だ。とてもじゃないが、風鈴羽の製造でそんな状況には持っていけない。
「新しい風属性魔道具を作らないといけないってことね。しかも、売れまくって製造が間に合わなくなるくらいの大作。それを一週間で作り上げる」
しばらく沈黙が流れた後に、切り裂くような牙羅さんの一言が工場内に響き渡った。
「無理ね」
早くも絶望感が工場内に漂い始めた。




