若竹工場緊急会議
夜の作業場。
普段、この時間この場所は締め切られている。
その中の、比較的大きな作業台で、
ユウガオがいそいそと紙に文字を書き始める。
「それじゃあ、魔包魔道具生産を取り戻すための会議を始めます」
「え?会議?」
「はい。どうしました藤園室長?」
「ん……。まぁいいや」
きっと、そんなことを改めて言うのは何故かと思ったんだろう。初見の一般的な反応だ。
「まずは……何を話します?」
「そうだな……何をしたらいいかとか?」
オレが悩みながら答えると、「違うだろ」と声がかかる。
トラオさんが別の作業台に座りながら、木堅持手で紙を指し示す。
「まずは、目的をはっきりさせることだ。そこを共有しろ」
「目的……若竹工場で魔包魔道具を作ることです」
「そうなんだけどな」
よっ、と作業机から降りて、紙に文字を書く。
「明確にしておく。若竹工場で魔包魔道具を作ってもらうことで、若竹工場の仕事を増やしたい。これが目的だろう。そして、もう一つ。俺たちの目的も入れないと、だ。魔包魔道具を大量に生産すること。目的はこの二つだ」
確かに。オレたちが魔包魔道具を大量に得ることが出来なければ、意味がない。
「ふっ」
吹き出したような笑いが聞こえた。
楽しそうな藤園室長が椅子に深く腰掛けながら、足を組む。
「1室は面白い開発の進め方をするね。察するに、次は現状の整理からの課題抽出ってところかな?」
「そうですね。俺の出る幕じゃないかな。藤園室長にお任せしますよ」
「あくまでも今回は協力するだけだからね。火花野くんに任せるよ」
藤園室長が笑みを深める。トラオさんが肩をすくめる。
ユウガオが二人の様子を見ながら、おれに話しかける。
「えーと。それじゃあ、次は現状整理ってことで。任せていい?」
「あぁ。現状は、弁柄組に魔包魔道具を量産する権利を取られている。ですよね?」
「そう。だから、取り返す。そのための課題はとなると、弁柄組がどういう理由で四組会に申請したのかが重要。それを若竹組でも問題ないと主張すること。それが一つ目」
一つ目?
おれは、机の横で仁王立ちしている牙羅さんへ体を向ける。
「牙羅さん。その一つ目が上手くいけばいいんじゃないですか?」
「ダメ」
…………。
教えてくれない。
「なぜですか?」
牙羅さんが横目でおれを見る。
「はぁ。それだけなら、どっちで作ってもいいって状態。ちゃんと取り返すなら、若竹組で作ることの利点を示さないと」
ため息をつかれたことに傷ついたことを代償にして、言われた意味を理解した。
確かに、それがないとまた他の工場から横槍を入れられかねない。
「ありがとうございます。ユウガオ」
「そうだね。とりあえず課題は二つ。一つは弁柄組が示した利点を潰すこと。二つ目は、若竹組で作ることの利点を示すこと」
「この二つをなんとかすれば、若竹組で量産ができるってことだな」
「おそらくね」
とりあえず目標は決まった。あとは動くだけだ。
トラオさんがさっそく紙に書かれた一つ目の課題を指し示す。
「この弁柄組が示した利点ってのは、原材料確保の話か?」
ここまで黙って話を聞いていた草分工場長が前に出る。
「それだけじゃない。炒木は、大量生産のための規模にも難癖をつけていた。俺の工場だと手狭だってな」
「そっか。なぁ草分さん。今、若竹工場では原材料はどうやって確保しているんだ?四組会による配布以外に何かあるか?」
「ない。配布だけだ」
「なるほどな」
トラオさんが、一つ目の課題の横に自分の名前を書く。
「こっちは俺とユウガオでなんとかする」
「私?」
ユウガオが首を傾げる。
「羽の羽毛部分だよ。そもそも、今日はそのために来たんだろうが」
「あ、そうでした!わかりました!じゃあ、一つ目の課題は私と火花野さんが担当します」
トラオさんがそのままユウガオの名前も紙に書く。
「ちなみに工場の規模の件は、何か目処がついてるんですか?」
「いや。それはこれからだ」
「えー……」
ユウガオとトラオさんが一つ目の課題を担当することになった。
「そうすると、おれと牙羅さんは二つ目の方。若竹工場で作る利点を考える担当ですね」
「難しい方だけど、まぁ仕方ない。いいよ、それで」
おれは紙に書かれた二つ目の課題の横に、月燈と牙羅担当と書き込む。
「それじゃあ、トラオさんの班と牙羅さんの班で……」
「夕顔班と月燈班だ」
「そうね。指揮するのは二人でやって」
トラオさんと牙羅さんから同時に指摘される。
「それじゃあ改めて、夕顔班と月燈班でそれぞれ課題の解決を目指しましょう。あとは……いつまでにってとこですね……」
「そう」
牙羅さんが草分工場長を見る。
「前提として、権利を取り返すことを四組会が許してくれることが大事よ。だから、草分工場長には、明日朝一で四組会に行って、量産したいと意志表示してきてくれる?」
「それはいいが……意思表示だけでいいのか?」
「ダメ。意志表示と一緒に、若竹工場で量産する利点を示す準備をしているから、機会を作ってきてほしいわ」
「利点を示す機会……」
「そう。企画紹介ってやつね。その予定を四組会となんとかして組んできてほしいの」
草分工場長は下を向いている。
手を握ったり、開いたりを繰り返す。
「炒木が来た時、俺はまたかと思って諦めた。ナタはそんな俺にガッカリしたんだろうな。情けねぇ」
握っていた手を開いて、自分の両頬をバシーンと叩く。
「俺はもう諦めねぇぞ!皆さん方に頼り切りで申し訳ねぇが、絶対折れねぇぞ!そのぷれぜんってやつは俺が絶対に勝ちとるから任せてくれ!」
「まだ勝ち取るって段階じゃないけど。まぁよろしくね」
牙羅さんが呆れながらも、笑顔で草分工場長に声をかける。
「じゃあ、明日の昼にまたここに集まって、草分工場長に話を聞こう。もし企画紹介を勝ち取れてたら、それぞれの班で行動開始ってことで!」
この日は一度解散となった。
帰り道は、それぞれが課題のことを考えていたからか、ほとんど会話がなかった。
——次の日
「勝ったぜ!一週間後だ!」
部屋に入ってくると同時に、草分工場長が自慢げにそう言った!
「おー!やりましたね!」
「おう!」
「とりあえず場は得られたわね。それにしても一週間か。意外と時間がもらえたわね」
草分工場長は頭を掻く。
「それが、弁柄組が正式に器具を発注するのが、その日みたいでな。それまでならご自由にって感じらしい。一週間後に、弁柄組とうちと四組会で顔を合わせて企画紹介をさせてもらえるってことだ。構えて行ったんだけど、拍子抜けだったぜ」
「だとしても話が早い気がするけどね」
「四組会の担当者なんか、頑張ってくださいって言ってくれたぞ。意外と人情があるやつだったぜ」
「ふーん……」
牙羅さんは腑に落ちてないみたいだ。
ただ、ぐずぐずしていられない。
「いいじゃないですか、牙羅さん!一週間後の企画紹介までに、課題を解決しないと」
「うるさっ!わかってるから耳元で大きな声出さないでよ」
また、耳を掴まれて、引っ張られる。
「イテェ!とにかく、行動開始しましょ……イデテテ、は、離してください!」
「締まらねぇなぁ」
「ふぅ。なんで耳ばっかり掴むんですか……。じゃあ、行動開始!」




