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剣なき英雄譚 〜魔道具研究開発録〜  作者: 博雅
第四章 量産編 -風工場-
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落水

「ナター!」

「ナタくーん!」


 工場地区の中心部を声を張りながら駆け回る。

 ナタがいなくなり、工場にいた作業員30名ほどと、研究所メンバーで探しに行くこととなった。

 藤園室長は、工場で待機だ。戻ってくる可能性もある。


 牙羅さんがまず飛び出してしまったため、虎雄さんが追いかけている。おれはユウガオと一緒に探すことにした。


「やっぱりいない。私たちも弁柄組の工場方面を探した方がよくない?」

「いや。そっちの方は皆が向かってるから、俺たちは最後に目撃された中央部辺りをもう一度探そう」

「わかった」


 ナタを最後に見た大通りにいた工場の門番は、ナタはトボトボと足を庇うように歩いていたと言っていた。

 みんなは材料を取り返しに行ったとか、文句を言いに行ったと考え、弁柄組の方へ探しに行っている。

 ただ、ナタの歩いている様子を聞いた時、直感的に違う気がした。


 しかし、大通りを更に一往復しても、ナタどころか目撃情報すらもなかった。

 気づくと、遠くの空が朱色に染まり始め、工場の人が続々と帰路につきはじめ、道は人で埋まり始めていた。


「シルベ!」


 振り向くと牙羅さんと虎雄さんが走ってくる。その顔から、現状を察する。


「いた?!」

「いないです。目撃情報すらない」

「こっちも。しかも、どの弁柄組の工場に聞いても来てないって……」

「でもここまで来ていて弁柄組まで行ってないならどこに?」


 ユウガオの呟きに皆が黙り込む。おれはなんとなく水路を見ていた。

 特に意識していたわけではないが、おれの目線を見た牙羅さんが気がついたように塀から水路を見下ろす。


「まさか……水路に……?くそっ!」


 牙羅さんは水路の流れ方向に走り出す。


「おい!落ちたなら流石にこの通りだと誰か気がつく……あぁ、くそ!シルベ!牙羅にはおれがついていくから頼む!」


 虎雄さんも同じ方向へ走っていく。

 その様子を見送って、ナタがどこに行くかをまた考える。


 ユウガオが、あーっと頭を抱える。

 

「どうしよう!私まで悪い考えに持っていかれるようになっちゃったよ!」

「おれもだ!でも、やっぱり弁柄組じゃなかった。じゃあ何だ?ナタは何をしたいんだ……?」


 ナタは賢い子だ。工場の現状を分かってて、自分にできることをやろうとして、綺麗な素材を飾ったり、ホウキを作っていた。

 なら、今回はどうする……。素材が無くて、こうなってるってことは……素材を探しにいく?


「もしかしたら……素材を探しているのか?」

「素材を?足りなかった分を探しにってこと?」

「そうだ。今回の発端はそこだ。だから素材があればって考えたかもしれない」

「でも、素材なんて色々ある……ちがう。ナタくんにとって、素材は」

「そう。羽だ。草分組にいるナタにとっては羽こそが素材だ」

「……そうだ!要川に繋がる水路で土手沿いに鳥が集まる有名な場所がある!そこには羽が散らばってるからいらない羽が捨てられることもある!この大通りの先だよ!」

「行こう!」


 おれとユウガオは走り出した。人が多くなって来て、まっすぐに走れない。さらに、空はかろうじて朱色に染まっているが、すぐに暗くなる。急がなければより見つけにくくなる。


 しかし、目的地に着いた時、空はほとんど暗くなってしまった。


「はぁ、はぁ、着いた……。この土手沿い、だよ……」

「はぁ、はぁ。……ふぅ。今は鳥はいないな……まだギリギリ遠くが見える……」

「ね!ねぇ!あそこ!あの土手の先!」

「……!いた!!ナタだ!!」


 呼吸を整える間もなく、ナタの方に駆け寄る。

 よかった!暗くなる前に見つけられた!

 ナタは腰を屈めて、物を探すようにウロウロしている。


「ナター!!」

「えっ!シルベにいちゃん!」

「無事でよかっ……」

「来ないでー!」


 おれは思わず、立ち止まる。その後ろにユウガオも追いつく。

 ナタは水路を背にこちらを睨みつけている。


「ど、どうしたんだよ、ナタ」

「シルベにいちゃんもダメ!」

「ダメってなんだよ」

「あきらめた!とうちゃんと一緒!だから、ナタが素材を集める!」

「わ、わかった!ここから動かないから、落ち着こう」


 

 そんなに動かないでくれっ!


 

 ナタが感情に任せて、身体ごとブンブンと横に振る。


 

 立ち上がったそのすぐ後ろは、水路へ続く斜面だ。


 

「ダメ!みんなあきらめてるから、ダメなの!!」

「ナタ!落ち着いてくれ!まず、座ろう!なっ!」


 

 その時、足の怪我のせいで、ナタの片足がカクンと曲がる。

 


 目をつぶって首を振っていたナタの顔が驚いた表情を浮かべると、

 


 

 ナタは、おれたちから見えなくなった。


 


「ナタぁぁー!!」

「ダメぇ!!」


 

 急いで川沿いに駆け寄る。

 水路には波紋が広がり、流れの先ではナタが手を出して、必死でバタバタとしている。

 そのまま、流れに飲まれて流されている。


 

「ナタ!!」

 

 

 おれは水路沿いを走って追いかける。


 水路の流れは速く、少しずつ離されていく。

 おれは飛脚靴を起動して、ナタの横まで追いつく。


 

「ナタ!泳げるか!こっちだ!」


 声をかけるが、ナタはパニックになっている。

 とてもじゃないが泳ぐのは無理だ。


 急がないと!


 おれは甚平を脱いで、幅跳びのようにナタの前に飛び込んだ。

 

「月燈くん!!」


 飛んだ瞬間、ユウガオの声が聞こえた。


 バシャン


 水路の流れは凄まじかった。まずは体を浮かべてナタを探す。ちょうど真後ろにナタの手が見えた。


「ナタ!!」


 そのまま潜って、ナタの身体を手探りで探す。暴れるナタの体に手が当たり、そのまま引き寄せてナタに自分の体を掴ませて、呼吸させる。


「ナタ!落ち着け!もう大丈夫だ!シルベだ!」

「ゴボッ、ゴホッっ!ゴホッゴホッ……シルベにいちゃん……」

「よく頑張った!……ゴボッ」


 流れが速く、水が口に入る。ドンドンと流されている。土手から離されていく。


 ナタを掴まらせたまま泳ぐが、全く近づけない。

 魔道具が壁についていると確か言っていた。それが邪魔している。


 それなら!


「ナタ!一度潜るぞ!息を止められるか!」

「うん!」

「よし!捕まれ!いち、に、さん!」


 水路の底まで潜る。底は意外と流れが弱くてある程度泳げたが、暗くて何も見えず、魔道具を探すが見つからない。

 一度水面に戻る。


「ぷはぁ!」

「はぁ、はぁ。くそ!暗くて見えない!」


 何か明かりは……。


 ……いや!大丈夫なはず!


「ナタ!もう一度だ!頑張れ!」

「うん!」

「いち、に、さん!」


 また一気に潜る。水路の底に着いたと同時に飛脚靴を起動する。すると、起動したことで飛脚靴がうっすらと光る。

 その明かりを頼りに周りを見ると、青く光っている場所を見つける。

 ちょうど川下側で魔道具『流水廻』が起動していて、青く光っていた。

 

 その魔道具の固定具を外して、水面に上がる。


「ぷはぁ!よし!これで!」

 

 流水廻を自分の後ろに向ける。

 魔道具から出る水流の勢いを利用して泳いだ。


 必死で泳ぎ続け、土手までナタと共に戻ることができた。


 ナタを土手にあげる。そこにはユウガオも追いついて来ており、手を借りる。


「二人とも!大丈夫!?」

「ナタを先に上げてくれ!多分水を結構飲んでる」


 ユウガオにナタが引き上げられる。

 

「ナタ!大丈夫か!」

「うん。大丈夫」


 ナタは受け答えができるようになっていた。よかった。


「月燈くんも!掴まって!」

「あぁ!助かる」


 そのまま引き上げられ、地面に倒れ込む。


「よかったけど!危なかったからね!」

「あぁ。ありがとう」

「ありがとう、シルベにいちゃん……。ナタは、」


 ナタがこっちを見て話しかける。

 ただ、体が小刻みに震えている。

 その様子におれは立ち上がる。

 

「ナタ。話は後だ」


 ユウガオが白衣をナタに被せる。

 そのまま、ナタを抱える。

 

 

「帰るぞ。若竹工場に。みんな待ってるから」

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