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剣なき英雄譚 〜魔道具研究開発録〜  作者: 博雅
第四章 量産編 -風工場-
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木香牙羅

 一室に戻ると、ユウガオと達じいがお菓子を食べていた。よく見る光景だ。


「あ。戻ってきた」


 ユウガオに声をかけられたので、そちらを向く。


「なんだったの?」

「次の課題の話だったぞ」

「やっぱり。そろそろ次の課題だと思ったんだよね。どんな課題?」

「魔包魔道具の量産化だ」

「量産化……ね。工場に行くってこと?」

「そうみたいだ」

「展開が早いね。普通はもう少し後なんだけど。まぁ理由はわからなくもないか。明日から?」

「そうらしい」

「そっか。じゃあ準備しないとね」

「いや、なんかユウガオは別の課題らしいぞ」

「え?」


 目を見開いて、ユウガオがこっちを見る。予想してなかったみたいだ。


「まだ聞いてなかったか?じゃあそろそろ呼ばれるかもな。トラオさんも別らしい」

「……そうなんだ。って、いつから火花野さんのこと、名前で呼び出したの?」

「補給同行の後だな。尊敬の念が爆発して、気がついたら呼んでた」

「火花野さん、よく了承したね」

「いや。やめろって言われたぞ。ただ、何回も呼んでたら途中からため息つきながら、返事してくれるようになったな」

「そう。火花野さんの顔が目に浮かぶね。とにかく、それなら確かに呼ばれるかも。準備しないと!」


 ユウガオは焦って立ち上がる。

 

「何を準備するんだ?」

「え?……何だろう?まぁ特に準備はないかも」


 もう一度座って、お茶を飲む。

 いつも通りのユウガオだ。最近は新型測定器の報告書で大変そうな姿ばかり見ていたので安心した。


 一区切りのところで、横で話を聞いていた達じいがこちらを見る。


「それなら月燈は今回ひとりなのか?」

「いえ。木香牙羅さんと一緒に行動するみたいです」

「なるほどな。牙羅と行動するのか」

「え?そうなんだ!牙羅さんと一緒なんだね」


 ユウガオと達じいが同じような反応をする。


「そうなんですけど、まだ会ったことなくて。明日管理棟で集合なんですけど、合流できるんですかね」

「問題ない」「大丈夫だと思う」


 二人は、またしても同じような反応をする。


「え?なんで大丈夫?」

「わかりやすいからだよ。集合場所で赤い女の人がいたら、その人だから」

「赤い人?」

「そう。基本的に赤い服しか着ない人だから、間違えないよ」

「なんか個性強そうな人だな……。どんな人なんだ?」

「うーん。少し変わってるかも?なんていうか……見た目に厳しい人かな。でもいい人だよ」

「見た目?それってどういう……うわっ!」


 ガラガラガラ


 おれが前のめりになったところで、机に手がぶつかって、机の上に置いてあったおれの大事なものが床に落ちる。


「あぁ!動かないでくれ!踏んだら壊れる!」

「あのさ。ずっと気になってたんだけど、今落ちた牙とかツノとか爪とか。なんで机に素材並べてるの?」


 屈んで素材を拾いながら傷ついてないか確認していると、ユウガオの呆れた声が聞こえてきた。


「別に問題ないって言われてるぞ?」

「問題どうこうじゃなくて、なんで並べてるのか聞いてるの?」

「なんでって、素材が綺麗だから」

「え?」

「加工室の素材置き場で見つけたんだ。見てくれよ、この牙。こんなに綺麗な形で残ってるし、先端なんてまだ刺さるってくらい尖っていて凛々しい。あと、この爪。魔力の赤色がまるで模様みたいになっていて、もはや作品だ」

「……」

「長年素材を探してきたからわかる。こいつらがどれだけ貴重かということがな」


 おれはニヤリと笑う。ユウガオの目は冷たい。


「ということで、机に飾ってたんだ」

「そうなんだね。そういう人だったね。まぁ、数個くらい飾っておくのは問題ないと思うよ」

「だよな」

「うん。あと、牙羅さんの話だけど、変わってるからって言ったけど、多分大丈夫だね。月燈くんも変わってるから。ちょうどいいよ」


 机に素材を並べ終わり、ユウガオの方を向く。


「なんか失礼なことを言われてる気がするな。因みに牙羅さんはどう変わってる——」

「夕顔さん。ちょっといいですか?」

「あ!はい!木蓮さん、大丈夫です!」


 牙羅さんについて更に聞こうと思ったところで、ユウガオは木蓮さんと部屋を出ていってしまった。

 達じいがお茶を飲みながら、ククっと、笑う。


「どんな人かなど会ってみないとわからん。気にせず臨むといい」

「……そうですね。ありがとうございます」


 おれはとりあえず考えるのをやめて、明日に備えた。


 そして、次の日——


 管理棟を目指す道で不安にかられることになった。


 よく考えたら赤い服しか聞いてない!本当に合流できるのか不安だ!


 はぁぁと、ため息がでる。

 ただ、今日は初めて工場街に行く。さらに魔道具工場での活動だ。足取り自体は軽かった。


 管理棟に着いたが、誰もいなかった。少し拍子抜けして管理棟の前で待つことにした。


 飛脚靴も慣れてきたなー

 

 軽く起動して飛んでみる。だいぶタイミングが掴めてきた。この分なら、二階くらいの高さまでなら跳べるようになりそうだなと、頬が緩む。早く跳んでみたいものだ。


 ふと、視界の端に違和感を覚え、道の方を見る。


 あ、絶対あれだ。


 要街方面から、真っ赤な白衣を羽織った女性が歩いてきていた。この距離でもわかる。冬が近づいて、色がなくなってきた景色の中で、赤色の服が凄く見栄えがよかった。

 管理棟に近づいてくるにつれて、その女性がしっかり見えてきた。多分、身長はおれより少し高い。短い黒髪で耳飾りが揺れている。そして、恐ろしく美人だ。赤い服が似合う、大人の女性。まさにそういう印象だった。


 そしてその人は、管理棟に近づいてきて、


 おれの前を通り過ぎていった。


「ちょ!ちょっとすみません!」


 女性が止まって振り向く。


「あの!木香牙羅さんですよね?おれは第2研究所一室の月燈シルベです。今日工場に同行します!お願いします!」


 おれの話を聞いた女性は黙っておれをみていた。そして、おもむろに口を開く。


「いや、ない」

「え?」


 聞き取れなかった。


「どうしたの、その格好!上が甚平で、下がズボン?伝統的な甚平と、新しいズボンのそれぞれはいいのに、何故組み見合わせちゃったの?!前衛的にもほどがあるでしょ!」

「格好のことですか?そう、ですか?」


 あまり意識してないので、返事に困る。


「まだそこまではいいわ。靴に比べたらね!それ!なんで飛脚靴履いてんのよ!第1研じゃあるまいし。そのせいで、とんでもない全体感になってんのよ。畑にあるカカシの方が統一感があるでしょ」

「カカシ……それはないでしょう!一応好きで着てるんですから!」

「あーあ。少ない可能性を信じて通り過ぎてみたけど、やっぱり引き留められたし。ないわー」


 なんか、めちゃくちゃ失礼なんだが!?


 挨拶してから、マイナスなことしか言われていない。そんなにお洒落に気を遣ってる訳ではないけど!

 知らずと口調が荒くなる。


「別にいいでしょ!昔からこの格好してるんです!憧れてた親父がよく着ていた組み合わせなんで!」


 そう。おれは大体この組み合わせだ。親父に近づける気がして着続けている。


「……待って。ということは、いつもその格好にこだわっているってこと?」

「えっ!まぁ……そうですけど」


 木香牙羅さんの声のトーンが急に落ち着いたので、面食らった。おのずと、肩に入っていた力が抜けた。


「なるほどね。今日だけその格好って訳じゃなくて、理由があってその格好にこだわってるわけなのね。それなら……」


 急に頭を下げる。


「そのこだわりを傷つけたことに謝罪するわ。その人の個性、こだわりは尊重されるべきよ。それをあまりにも衝撃的だったからとはいえ、頭ごなしに否定してしまい、ごめんなさい」


 突然の態度の変化についていけない。


「いや、まぁ全然いいんですけど。そんなにおかしいですかね?」


 気になってしまい、聞いてみた。


「ん。そうだね。できればそのこだわりができる前に会いたかったよね。改めて見ると上下はまあいいとして、飛脚靴がね。何というか……しんどいね!」


 凄い笑顔だ。美人の華やかな笑顔でしんどいとか言われた。さっきボコボコに言われた時より傷ついた。


「まぁ、この飛脚靴は服装のこだわりとか関係ないですけど。便利だし、できるだけ使って慣れたいってこともあるから、履いてるだけなので」

「え?普段は何履いてたの?」

「普通の靴ですけど」

「それならお願い!そのスネまである部分って、討伐隊用の防具としての役割なの。その部分だけ切らせてくれない?」

「ええ?!切るんですか?まぁ、その部分なら魔力補充にも影響しないし……。履きにくいと思ってましたし……。いいですよ」


 おれは靴を脱ごうとした。


「そのままでいいから。ちょっと待ってて」


 木香さんは鞄から道具を取り出す。それは木でできたハサミだ。鞘がついていて、その鞘を握る。すると、鞘が黄色に淡く光る。


「魔道具!土属性だから、木堅持手の応用?」

「さすが開発者ね。そう。持手を少し改造して鞘にしたの。短時間の作業なら、一瞬固くするだけで十分」


 説明しながら、ハサミで靴の上部を手際よく切っていく。


「持手だとダメなんですか?」

「持手はずっと起動させている状態だから無駄が多いの。硬くした木は一定時間は固いまま。だったら、短時間なら持ち手にわざわざ使う必要ない。この方がずっと長持ちするわ」


 その通りだ。持ち手の魔力も無限じゃない。必要最低限の魔力消費にすることで、長持ちさせる。まさに運用を考えた改造だ。たしか、加工担当だったはず。形状と使い方を変えただけで、魔力消費を抑えたのか……。


「凄いですね!」

「っ!ちょっと!急におっきな声出さないでよ!危ないでしょ」

「あ!ごめんなさい」


 そんなこと言ってるうちに、飛脚靴の改造が終わった。スネまであった部分がごっそりなくなり、くるぶしくらいまでになった。

 歩いてみると、格段に歩きやすい。


「まぁ、見た目も及第点ね」

「うわ。全然違いますね。まず軽いし、何より足が楽です!」

「それはそうでしょう。移動用の靴なんだから、歩きやすくないと。飛脚靴は作業や戦闘用の形状だから使いにくいのは当たり前」


 やっぱりこの人も1室の開発者だと再認識した。


「ありがとうございます、木香さん!」

「牙羅さんにしてくれる?あまり苗字で呼ばれるの好きじゃないの」

「わかりました牙羅さん!」

「それでいいわ」

「あの……そのハサミ見せてください!」

「これ?いいわよ」


 ハサミを受け取る。鞘を見る。花の絵が描かれていて、艶があって、見た目も工芸品みたいだ。

 魔力をこめる。すると、花の絵の部分だけ黄色く光る。


「うわっ……すげぇ」

「まぁ、そこが光るのはただの趣味ね。綺麗でしょ?特に意味はないけどね」

「このハサミって、加工室にあるんですか?」

「ないわよ。私用に私が作ったんだから」

「えぇぇ!自分で作った!?おれのも欲しいです!」

「欲しいですって言われてもね……」


 私用!一個しかない魔道具ってことかよ!欲しい!


「ダメ」

「何でですか!」

「私に得が何もないじゃない。作るの面倒だし」

「そんな……!」


 何かあげられるものはあるだろうか。


「じゃあ返してね」

「っあぁぁ!」


 持っていたハサミを素早く取り上げられた。

 まだ、試し切りもしてないのに!


「まぁ、そんな話は後よ。そろそろ工場に向かいましょう。魔包手袋は持ってるの?」

「うぅ……ハサミ。手袋は、これです」


 おれは、鞄から魔包手袋を取り出して、牙羅さんに渡す。


「これが噂のねぇ」

 

 牙羅さんは魔包手袋を右手につけると、先ほどのハサミの鞘を握る。すると、鞘部分が黄色く光った。


「なるほどね……これで魔力が補充されるわけね。不思議。これもらっていい?」

「はいどうぞ!代わりと言っては……」

「ハサミはダメ。手袋はいっぱいあるでしょ?」

「うぅ。どうぞ」


 とりつく島もない。

 

 仕方ない。また別の機会に聞いてみるか。

 両頬を両手で叩く。


「ちなみに魔包手袋使ってみて気になるところありますか」

「あるわ。結構まずいわね」

「え?」


 最初は変な人だと思ったが、さっきの飛脚靴の例もあり認識は改めている。どんな指摘をされるかわからない。一気に緊張感が走る。


「それは、どこですか?」

「致命的に見た目がダサいわ。つけたいと思わない。これは問題よ。デザインは見直すから」


 やっぱり変な人だった。


 ◇◇

「ハサミはダメ。手袋はいっぱいあるでしょ?」

「うぅ。どうぞ」

 

 手袋を受け取って、目の前の月燈を観察する。

 報告書を読んだ時から思ってたけど。


 月燈は、じぃーと私のハサミを見ている。

 

 変な子ね。私とは大違い。

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