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剣なき英雄譚 〜魔道具研究開発録〜  作者: 博雅
第四章 量産編 -風工場-
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第2研究所内会議

 会議室は、異様な空気に包まれていた。

 

 「それで、なぜこの魔包に関する情報を、報告書が提出されるまで我々にも隠していたのですかな」


 片手で長い白髭をいじりながら、もう片方の手で木蓮所長を指さす。


 木蓮所長を指さすとは、何様ですかアイツ。


 心の中で毒づく。書記で呼ばれてるだけなので、意見を出すべきではない。ただ、思うことは自由だ。

 質問内容は正確に書き留める。書記の仕事を任されたのだから奥隠紫陽の名に懸けて、中途半端な仕事はできない。


「何度説明しても同じ回答ですよ、蓮池さん」

「偶然彼を見つけて、偶然この時期に発表したと?」

「はい。その通りです」

「それでは納得できないと言っておるのですよ」


 バン!と蓮池副所長が机をたたく。

 他にも数名の室長が「そうだ、そうだ」「副所長の言うとおりだ!」と声を上げる。

 この第2研究所内会議には、一人を除きすべての室長が出席している。そのうち、木蓮所長になんとか汚点を付けたい奴らが騒ぐ。


 どうしようもない方たちです。特にあの蓮池二室室長!副所長になったことをまだ気にしてるんでしょう。逆恨みも甚だしいですね。


 今声を上げているやつを全員名前入りで議事録へ記載するためにメモを取っていると、会議室の扉が開いた。紫色の長髪を片側にまとめた女性が入ってくる。


「ここだったね。久しぶりだから場所を忘れてたよ」

「7室長!」


 予定外の人物が登場したことで、会議室内にざわめきが起きる。私も驚いた。久しぶりに顔を見た。


「藤園《ふじぞの》さん。今日は参加されるのですね」

「ええ、木蓮所長。本日は参加させていただきます」

「普段会議に出ないやつが偉そうにするでないわ」

「あら、蓮池副所長。ご無沙汰ですね。出ない理由がありましたから」

「理由だと?」

「ええ。あなたと木蓮所長の猿芝居は見るに堪えないので」


 うわー、相変わらずきれいな顔でとんでもなく口が悪いですね。わたしとは違います。


 周りの室長たちは、その態度を咎める言葉をまくし立てるが、藤園室長は我関せずの姿勢で席に座る。

 その姿を木蓮所長と蓮池副所長は黙ってみていた。


「まあよい。とりあえず魔包魔道具については、また議論させてもらおう。それよりも成果発表会だ」

「あら。まだその話が終わっていないのですね。皆さんお暇そうで何よりです」

「黙れ、7室長」

「もちろんです、”副”所長」


 沈黙が走る。

 先ほどまで騒いでいた他室長も言葉が出ない。

 

「まだ始まってそれほど時間が経っていませんから。それよりも蓮池さんの言う通り、話を成果発表会に戻しますね」


 木蓮所長が沈黙を破る。

 蓮池副所長が、髭を触りながら、息を大きく吸う。


「……そうだな。成果発表会の発表内容についてだ。予定通り2室の内容で進めていくことになるが、異論ないだろうか」

「それについてですが、第2研究所の発表は予定を変更して、先ほど話にでた魔包魔道具の発表へ変更します」

「な!今回は2室の担当だったはずだろう」


 木蓮所長の言葉に、蓮池副所長は何も言わないが、周りの室長が口々に反対する。


 なぜあなた方が怒るのでしょうか。さっきメモした人とほとんど同じですね。こちらもメモしておきましょう。

 

「理由は教えてもらえるのだろうな」

「もちろんです、蓮池さん。大きな理由は注目度の高さゆえです。今回の魔包魔道具に関する報告書は閲覧制限がついたのはご存じですね。これは統括長含めたすべての研究所長が同意しています。私もです。と言いますか、私の発案です」

 

 ざわめきが起きる。私も驚いた。


「まぁ、英断でしょう。あの内容を公表すると、世間はちょっとした混乱が起こることは間違いないですから」

「ええ。藤園さんの言う通りです。ただし、どこからか情報は洩れるものです。遅かれ早かれ、この発表内容は広がるでしょう」

「その通り。閲覧制限なんてただの時間稼ぎでしょう」

「はい。なので、下手な情報だけが広がる前に、こちらで状況を制御した上で公開します」

「なるほど。もちろんその制御とやらは、すでに動いているのですか?」

「一部は。ただ、本格的に動くのはこれからです」

「ずいぶんとゆっくりですね。木蓮所長にしては珍しい」

「開発者の皆さんの仕事が早くて。私はついていくだけで必死ですよ」


 藤園室長と所長の話に、全員が耳を傾ける。


 混乱や制御とは何でしょうか。というかこの会話は議事録に残していいのか悩みますね。


 一応メモは取っておくが、後ほど消すことになるかもと考える。

 ふと、副所長の様子が気になり目を向けると、意外なことに副所長は目をとじて静かにしていた。


 「その公開の場として、成果発表会が適していると?」


 副所長が声を低くして質問する。

 その開いた目で、木蓮所長を睨みつけている。

 

 あ。怒ってますね。さっきよりもずっと。


「ええ。成果発表会には研究所だけではなく、要街の代表者や各工場長、組合も参加します。同じ情報を、同じタイミングで出すのにうってつけです」

「それでは、2室が準備していた発表はどうなる」

「次回に持ち越し、もしくは中止ですね」

「納得できん!開発者は発表のために準備を進めておる。急に横から出てきたものに発表の機会を奪われたとなれば、開発者のためにならん!」


 副所長が机をたたきながら、叫ぶように主張した。

 副所長が言い終わると、他の室長も副所長に賛同し、声を上げる。

 ただ、この意見に関しては、私も副所長と同意見だ。


「……確かにそうですね。それでは私から、発表内容を増やすことを打診しておきます」

「その打診する際は、同行させてもらう。もちろんよいな」

「はい。それでは日程は後ほど連絡します」


 あっけなく問題が収まったため、一瞬メモすることを忘れていた。慌てて、今決まった内容を書き残す。


「ふう。やっぱり見てられないね。問題が収まったところで、私からも質問していい?」

「どうぞ、藤園さん」

「魔包魔道具についてなのだけど、開発者の月燈くんを7室に異動させて、7室で開発させてほしいのだけど、ダメかしら」

「……何故でしょうか?藤園さんは開発にはあまり興味がなかったと記憶していますが」

「確かに7室が興味あるのは素材だけ。素材の研究こそが私のやりたいことだから。ただ今回の報告書に書かれた開発品はただの開発品じゃない。あれは素材の可能性を広げた。そういう開発品よ。7室こそうってつけじゃない?」

「研究はしても問題ないです。何故月燈さんの異動まで望むのですか?」

「どうやってその発見に至ったのか聞きたいからよ。あと、彼が開発者でしょ?開発権は彼にあるから、彼がいた方がやりやすいの」

「意見が聞きたいだけであれば、月燈さんにそのうち7室に顔を出すよう伝えますね」

「すぐにでも話が聞きたいところなんだけど?」

「……月燈さんは課題で手一杯になると思います。それであれば、共同報告者の夕顔さんに先行して行ってもらいますので、話を聞いてください」

「あら?夕顔ちゃんを出してくれるの?ありがとうございます。これを機にいろいろお話してみますね」

「……それでは今日の会議はこれで終わりましょうか。解散でお願いします」


 解散となり、各室長が部屋から出ていく。

 三枚になった議事録の紙をみる。

 

 ようやく会議が終わりました。今日は長かったです。


 議事録に誤字がないか確認していると、後ろから肩を叩かれた。


「奥隠さん。とりあえず、一室に戻りましょう」

「あ、はい。わかりました」


 議事録の紙を持って、木蓮さんに続いて部屋を出た。

 部屋の外は、お腹の減りを意識させるくらい、いい匂いが漂っていた。

 朝一に始まった会議だったが、既に昼近くになっていたらしい。管理棟にある会議室を使っていたため、食堂は真横だ。そのまま食事に向かう人もいるみたいだ。


 食堂を横目に見ながら、木蓮所長と管理棟を後にした。


「書記のお仕事ありがとうございました。今日は会議が長くて大変でしたね」

「そうですね。それにしても月燈後輩の報告書は色々な影響を与えてるみたいです」

「そうですね。他の研究所からも様々な話が来ていますから」

「小生を含む一室全員が、魔包魔道具に関する開発にテーマを変えたくらいですから。さもありなんです」

「ですね。これは、早めに手を打たなければいけませんね」

 木蓮所長の呟きに、あの二人はまた忙しくなるんだろうなと気の毒になり、静かに手を合わせた。

 

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