反響
◇◇
今日で要街の任務も終わりか。
日も落ちて、賑やかになった店で一人の時間を過ごすのが、この街での過ごし方だ。
湯呑みに入った酒を呑む。
酒精が強く、喉が熱くなる感覚を楽しむ。
「お。太刀戌。やっぱりいたな」
「白夜隊長」
「元な。いまは統括長だ」
後ろから、白夜隊長に話しかけられた。この街で今回任務について二回目だ。
白夜隊長は、私の横に座って、酒を店員に頼む。
「今回は助かったぜ。補給任務の同行を許してもらって」
「はい。まぁ、面白ぇことが起きるから連れていけって言われた時は、上をどう説得しようかと思いましたが」
「でも、面白かっただろ」
「まぁ、そうですね」
白夜隊長がニヤッと笑う。昔からそうだ、この人は。
成果主義というか、結果良ければ全てよしというか。
「月燈の報告書読んだぜ。まさか、魔物がくるとはな。迷惑かけたな」
「いえ。月燈たちはいてもいなくても魔物は出てましたからね。それに彼らにはむしろ助けられましたから」
「飛脚靴だな」
「ええ」
魔力を補充していた道具を思いだす。
「あの道具はなんなんですか?」
「まだ、言えないなぁ。この報告書は、閲覧制限が出た。研究所以外はまだ読めない」
「そうですか。それで確信しましたよ。普通は魔力補充は中級素材ですが、明らかに普通の補充じゃなかった。あれは、下級素材で作られているんですね」
「どうだろうなぁ」
「もちろん追求しません。部下達も言わないでしょう。ただ私たちは期待せざるを得ない。あの道具が使えたら、飛脚靴どころじゃない」
「だろうな。魔物との戦線を押し上げるくらいの影響は出るな」
白夜隊長は、出てきた酒を一気に飲みほして、笑みを消す。おそらく、私同様、影響の大きさは分かっているんだろう。
「ひとつだけ教えてください。討伐隊にもあの魔道具は回ってくるんですか?」
「回ると思うぞ。何せ、開発者のシルベが討伐隊に使って欲しいと報告書に書いていたからな。その方向で進めるつもりだろう」
あの日、足を痙攣させながらも、飛脚靴に魔力を補充してみせた姿を思いだす。
「彼は、新人ですか?珍しい考え方をしていました」
「あぁ。少し珍しい経緯で研究所に入ったばかりだ。そんなに気になったか?」
「ええ。彼は魔力補充を足を痙攣させながらも完了させました。私はその姿に戦慄しましたから。非戦闘員の彼があれほどの気概を見せたことに」
「おぉ。今や『雷光』の二つ名を付けられた太刀戌をビビらせたのか、あいつは!」
ガハハと白夜隊長は笑う。相変わらず耳の早い人だ。
「どこで聞いたんですか……。二つ名持ちなんて畏れ多いですよ。私はあなたを含め、二つ名持ちの人たちの化け物さを知ってますから」
「そういうなよ。元部下の活躍は嬉しいものだからな!」
そこで、白夜隊長は声のトーンをひとつ落とす。この人が聞きたい事を聞く前の癖だ。気が引き締まる。
「ところでよ。蛍火猪が20頭で突っ込んで来るなんて聞いた事ないよなぁ」
「はい。私も聞いた事がありません」
「そうだよな。ところで、猪が来る前に聞こえたって言う遠吠えはどんな鳴き声だったんだ?」
白夜隊長が気にしている事が、自分と同じだったということに、自身の成長を感じながら、そのまま遠吠えについて夜通し話すことになった、
◇◇
「二人の報告書は読みましたか?」
部屋に入って早々、木蓮さんに問いかけられた。
俺は、促された椅子に座る。
「読みましたよ。魔包のやつと、新測定器の報告書のことでしたらね」
「はい。その二つです。率直にどうでしたか?」
「面白いですね。最近は、効果の改良や素材の節約など、その方向の開発がどこの研究所もほとんどでした。そこにきて、新しい効果を持った新開発品と新しい使い方の提案ですからね。見栄えがよかった」
「評価が高いですね。影響は大きいと思いますか?」
「それは聞くまでもないでしょう。一室だけじゃない、第2研の各部屋がこの魔包について、研究開発に取り組んでますよ」
「そうですね。他の研究所からも色々来てますから」
木蓮さんが目を向けた方には、手紙がいくつも積まれていた。
「皆さん、使ってみたいようでして。中には、今ある試作品全部よこせって言うのもありましたね」
「……それ、第1研究所ですか?」
「さすが。よくわかりますね」
「そういう場所ですから、あそこは。」
気分が悪い。一年経っても、あそこは何も変わってないみたいだ。
「もちろん断りますが、それでもある程度は出さないといけないでしょう。そうなると……」
「次の月燈の課題は決まりですね」
「そう。あなたが今動いてくれてることが活かせますね」
「……ご存知でしたか」
「なんのことですか?」
木蓮さんが笑顔でとぼける。どこからバレたのか皆目見当がつかない。
「まずいですか?」
「いえ?悪いことではないのでしょ?」
「それは、まぁ」
グレーかもしれないが……。
「そのまま続けてください。ただしそれに関係して、あなたには課題を出します」
「課題ですか?」
木蓮さんから課題を聞かされて、焦る。
「いや、待ってください。そもそもどうして急に課題なんか……」
「急ですか?一年経ってますよ」
「確かにそうですが……、でもその課題だと今やってることは……」
「それは続けてください。ただし、その件はある程度目処がついてから月燈さん本人に伝えてくださいね」
「ただ、それがなくても月燈の次の課題はおれの力が必要だと思いますが」
「そうですね。火花野さんがいれば解決するでしょう。ただこちらよりも、もう一つの懸念の方が難易度が高いです。だからこそ、あなたに担当してほしいんです」
「……わかりました。じゃあ俺は自分の課題をこなしながら、月燈の手伝いを外れて、夕顔の手伝いをします」
「はい。よろしくお願いします」
◇◇
「第2研から返事はきたか?」
「まだのようですねぇ」
「そうか」
軍服を着た女性が返事が無いことを、まるで興味がないかのように答える。その横では、同じように軍服を着たお婆さんが相槌を打つ。
「こうなると、お前の意見を呑むのが正しいということかな、山野室長」
「そうですねー。この報告書には、とら……火花野さんが関与していますからねー。私が窓口になれば、幼馴染ですから少しは融通してくれると思いますー。し、か、た、ないから、私が火花野さんと取次役になっても構いませんよ〜」
山野室長は、面倒そうな表情を作る。横に立つ黒い服の男性の表情は変わらない。
「ならば、山野室長に任せよう。あの魔道具……効果が本当ならばその価値は高い。何としても先行して研究したい」
「わかりましたー。任せてくださーい。それでは失礼します〜」
山野室長は第1研究所の所長室から退室する。そのまま、自分の三室へ向かう。周りを確認し、黒服の男性が頷く。
「来た……来たわよ!ついに、公式にとらおくんと話せるわ」
「見事に面倒そうな表情を作っていましたよ、このみ様」
「そうでしょう!私はとらおさんとの関係を一切バラしてませんから!でも、これで……」
「どれだけ二人きりで話しても、さらに一緒に出張したとしても違和感ありませんな」
「ふ、ふ、二人きりで出張!?流石に泊まりは早過ぎない?!」
「誰も泊まりとは言っておりませんな、このみ様」
「…………まぁいいわ。これは研究面でも、重要な役割よ。飛脚靴は魔包魔道具の効果検証のためだったわけね」
「おそらく」
「あの魔道具は運用を変えるわ。いち早く性能を確認しないと」
「それでは、早速動きますか?」
「もちろん。まずは、美容室よ!」
「わかりました、このみ様。予約いたします!」
◇◇
「できた!梁!今加速したぞ!」
「ばか!前をみろ月燈!今振り向くと……」
ずしゃぁぁ
「うわぁ……痛そう、今の」
「そうだねー」
私は広場で荷羽ちゃんと、お菓子を食べながら、飛脚靴の練習をしている月燈くんを見ていた。
梁くんが焦って月燈くんを起こしているが、当の本人はニッコニコだ。大丈夫そう。
「灯火ちゃんも報告書終わってよかったね」
「1週間前だけどね。ありがとう。ほんとうによかった」
月燈くんに遅れること一日、私も新測定器の報告書を提出して受理された。
今日は、そろそろ二人が中枢にある討伐隊本部へ帰るらしくて、約束していた飛脚靴の使い方を教えてもらっている。
「でも、よく飛脚靴手に入ったよね。今足りないくらいなのに」
「うん。太刀戌さんがお礼ってことで持って来てくれた日の月燈くんは興奮して凄かったよ」
「でも、結局月燈の報告書は閲覧制限ついたらしいね」
「そうなの。とりあえず全研究所だけ配布らしいね」
「あーあ。残念。これで飛脚不足が解決だと思ったんだけどなー」
「私たちもあきらめてないよ。そのうち絶対届けるからね」
月燈くんの報告書は、今は研究所外に出さないことになった。私たちも口外しないよう厳命されている。
「でも、二人とも出世しちゃうんじゃない?」
「え?」
「だって閲覧制限が出るくらいの開発だよ?室長とかになっちゃうんじゃない?」
「どうだろう。今回の補給任務は結局ミスとか、できないことの連続だったし。事前確認不足とか言われる気がするけど……」
「えぇ!?そんなことないでしょ」
「いやー。おれもそっちな気がするけどな」
後ろを振り向くと、転びすぎて服のそこかしらに草がついた月燈くんがいた。
「今回、検証不足を思い知ったからな。反省して、しばらくは魔道具のデータ取りを進めることになるんじゃないかな。おれもそれでいいと思うし」
「そうだね。わたしもそれくらいになると思う」
「だよな。お、その菓子一つもらうぞ」
「ちょっと汚い手で触らないで。はい!」
「おい!投げるなよ!」
◇◇
「ねぇ、梁。あの二人ってこのままデータ取りでぬくぬく研究できると思う?」
「無理だろ。討伐隊でも話題なんだ。色々巻き込まれる未来しか見えないな」
「そうだよね。でも私たちは二人に助けられた。どこかで恩返ししないとね」
「そうだな」




