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剣なき英雄譚 〜魔道具研究開発録〜  作者: 博雅
第三章 粉実証試験編 -監視所の異変-
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報告書完成

月燈視点です。

「やっと普通歩けるようになったな」


 朝、一室へ行く途中で呟く。

 昨日まで筋肉痛で歩くのも大変だったが、三日目にしてようやく回復してきた。


「いたた、階段は少し辛いな」


 第2研究所の階段を登りながら、足の太ももを抑える。


「おはようございます」


 一室に入る。


「あー!月燈くん!もう足は大丈夫なの!?」

「ノッポさん。はい!歩けるようになりました!」

「すれ違ってて会えなかったから心配してたんだよ!何があったのかは、奥隠ちゃんが連日話してるから知ってたけどね」

「奥隠先輩がですか。確かに、最初に戻った時にいましたね。そんなに興味なさそうでしたが」

「そうなの?大興奮してたよ?どちらかと言うと夕顔ちゃんの活躍がメインだったけどね。特に魔物を追い払ったところとかね」

「……そんな場面ないですよ?」

「……やっぱり?なんか奥隠ちゃんの話って聞くたびに内容が変わるんだよね。実際どうだったの?」

「えっと。あの日は——」


——————

 

 おれとユウガオが、補充した飛脚靴を持って監視所に戻ると、既に魔物をすべて倒した後だった。太刀戌隊長の大立ち回りだったらしい。


「俺たちは一度要街に戻る。すぐに補給体制を整えて、もう一度来ることになるがな」


 太刀戌隊長の判断により、おれとユウガオもその日のうちに帰ることになった。


 第二研に到着して、部屋に入ると木蓮さんと奥隠先輩がいた。木蓮さんは、おれとユウガオがボロボロなのを見て流石に驚き、話を聞いた結果、二日休むように指示を出した。

——————

 

「——ってことで、久しぶりに一室に来たところです」

「そうだったんだ!やっぱり内容結構違ってたよ。とにかく、お疲れ様だよ」

「ありがとうございます」

「でも、帰ってきてから今までってことは、報告書急がないとだね。間に合うの?」

「それは、大丈夫です」


 おれは鞄から書き終えた報告書の束を出して、机に置く。


「あれ?報告書?まさか部屋で書いてたの?」

「はい。休みもらった時に、木蓮さんに怪我が手じゃなくてよかった。家でも報告書かけますねって……」

「……木蓮所長は効率重視みたいなところがあるからね……」

「言われたときは流石に驚きましたが。ただ、確かに暇だったからちょうどよかったです」

「それなら。何はともあれ、あの粉の報告書がついにできたんだね!それを読むのが僕も楽しみだよ!」

「ノッポさんが楽しみなんですか?」


 そんな素振りがなかったから、思わず聞き返す。


「それはもう!最初にその粉を見せてもらってから、それがあれば、どんなことができるかずっと考えてたよ!報告書を出せば、正式に月燈くんの開発と認められるから、他の人も応用の検討ができるんだ」

「そうなんですか。そんな風には見えませんでした」

「急かしても悪いからね。一室のみんなは、全員この粉を使った開発をやるんじゃないかな」

「全員ですか!?」


 おれは目を丸くした。

 ノッポさんは、目を細めて笑う。


「これはそのくらいの発明ってことだよ!さぁ、木蓮所長は部屋にいるから、報告してきなよ」

「わかりました!」


 この粉はそんなに期待されてたのか……。


 おれは、痛みを忘れて、木蓮さんの部屋に向かった。


「失礼します」

「はい。身体はどうですか?」

「完全ではないですけど、問題ありません」

「それはなによりです。さて、その持っているものを見ると、それだけじゃないですね」

「はい。ようやく報告書が出来ました」


 おれは、完成した報告書を木蓮さんに渡す。

 木蓮さんは笑顔で受け取る。

 

「夕顔さんと持ってくると思ってました」

「ユウガオは、測定器の報告書に集中してもらうことになりました。もはや、ユウガオの方がギリギリだったので……」

「確かにそうかもしれないですね」


 木蓮さんが指示した短納期のせいだと思うが、そんなことは言わない。


 木蓮さんは、おれの報告書に目を通し始める。


「データをこのように、線というか絵でまとめたんですね……。この方法は月燈さんが?」

「はい。実家で使ってた方法です」

「月光亭で……。結果が非常に見やすいですね。参考になります。お父様の発案ですか?」

「……はい。そうです」

「なるほど。本当に一度話してみたかったです」

「ありがとうございます」


 素直に言葉がでた。木蓮さんと親父が話していたら、親父も開発者になっていたのだろうか。


 あったかも知れない未来を考えていると、さらに報告書を読み進めていた木蓮さんが呟く。 


「ふふふ。水の魔道具への補充から飛脚靴までちゃんと全部入れてくれましたね。お疲れ様です」

「はい。全部書きました」

「監視所の部分は、まるで物語みたいですね」

「あったことを書こうとするとどうしてもそうなってしまって。書き直しですか?」

「いや。実証試験部分はそうなるものです。それに今回は想定外が多かったようなので、文章が長くなるのは仕方ないでしょう」


 木蓮さんはその後は黙り込み、紙をめくる音だけが部屋に響く。

 見直しも何回もした。


 他にも追加で何か書いてって言われたらどうしよう。

 通ってくれ。

 

「——はい。よく書けています。これで行きましょう」

「よし!終わったー!あっ!すみません」


 木蓮さんが突然のおれの声に、ビクッとした。

 ようやく完成した気持ちが出てしまった。


「——ふふ。初めての報告書ですからね。混乱するところもあったでしょう」

「いえ。勉強になりました。魔道具の品質について、学べたと思います」

「それはいいことですね。ところで……」


 木蓮さんは、報告書のあるページを開く。


「ここだけ確認させてください。この手袋と足袋の魔道具の名前ですが、なんと読むのですか?」

「はい。魔力を包んだものと言う意味をこめて、魔包《まほう》。魔道具名は、魔包手袋と魔包足袋です。今後、この粉を使うものを、魔包《まほう》系統魔道具と呼称します!これが、おれの魔道具です!」

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