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剣なき英雄譚 〜魔道具研究開発録〜  作者: 博雅
第三章 粉実証試験編 -監視所の異変-
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補給任務再同行(5)実証

 雨が強くなって来た。

 木を叩く雨音が大きくなる。

 

 おれはとにかく走った。

 雨が顔にあたり、顏をしかめる。ただ、それどころじゃない。


 怖い。

 

 どうしても振り返って、蛍火猪が来ていないか確認してしまう。

 今、魔物が人を襲っている。

 その中を生身で走っていることを意識すると、足が止まりそうになる。その度に、自らを奮い立たせる。


 まだか!看板までこんなに遠かったか?!


 一本道だ。道はあっているはず。そのはずなのに、いつまでたっても不安が拭えない。


 ただ、こうしている最中にも討伐隊がやられてしまうかもしれない。その思いだけで走っていた。


「……あ、あった!看板だ!よかった……」


 結界を示す看板が視界に入る。

 あそこまで行けばまず魔物は入ってこれない。


 残っていた体力を全て込めて走る。


 バシャッ!!


 看板を通り過ぎたところに、おれは倒れ込み、仰向けになる。


「……っく!はぁ、はぁ……」


 肺が痛い。

 思い切り息を吸いたいが、痛くて大きく吸えない。

 苦しみながら上体を起こして、走って来た道の方を見る。


「魔物は……はぁはぁ、来てないな……はぁはぁ」


 魔物がいないことに安堵し、あらためて呼吸を整える。

 周りを見渡して、雨を避けるために大きい木の下に移動するが、足がもつれて何度か転びそうになった。


「よし……」


 飛脚靴や足袋をだす。

 準備が整い、足袋を履いて、足を飛脚靴に入れる。

 光は見えない。祈るような気持ちで測定器の針を見つめる。

 

 動いてくれ!頼むっ!



 

 動かない。



 まだ動かない。ダメなのか。



 ——っ!



「動いた!」

 

 さらに見ていると、針はゆっくりと動き出しており、魔力の補充が出来ていることを示した。


 正解だった。

 やっぱり結界が原因だった。

 


「こんなのっ!わかるわけないだろっ!!」


 

 思わず、叫んでいた。

 ようやく解決したことよりも、太刀戌隊長達が命の危険に晒されていることを考えると、怒りが込み上げた。

 ただ、この怒りは、自然や摂理に対してなのか、この原因を見つけられなかった自身に対してなのか、自分でもよくわからなかった。


「急がないと……」


 おれは、急いで補充を進めた。

 補充を終えて、最後に木の部品に異常がないか、確認する。


「よし……問題ない。これで補充完了だ」


 飛脚靴を全て袋に戻して、測定器と鞄に入れる。


「よし。戻るぞ」


 補充が完了したことで、気持ちが軽くなる。後は急いで戻るだけだ。

 おれは走ろうとした。


 

 何故か歩くことしかできない。


「あれ?おかしいな」


 もう一度走ろうとするが、足が上がらなかった。

 何度か試した挙句、遂に足がもつれて転んでしまった。


「……っつ。なんで……」


 足を見ると、両足が痙攣していた。とうに限界だったのだろう。止めようとしても、足が言うことを聞かない。

 見たことない足の状態に、恐怖と痛みが込み上げる。おれは足を抑える。


「なんだよ、これ!?止まれ、止まれって。行かないと行けないんだよ!」


 ——ダダダッダダダッ


 おれは動きを止める。

 

 今のは雨音じゃない。


 足音が聞こえた。

 明らかに人のものではない足音が。

 その音は、おれが走って来た道から聞こえてくる。


 おれは、その方向をとっさに見ることができなかった。

二話連続投稿の1話目です。

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