補給任務再同行(2)赤い煙
「それじゃあ、次の監視所に向かうぞ」
太刀戌隊長から号令がかかり、監視所前に集まる。弱い雨が降り始めたため、帽子付きの羽織を着た。
「これ以上雨が強くならないうちに出発する。この道沿いに進めば、次の監視所に到着する。途中に木の目印が立っているところを越えると結界の外だ」
結界の外……あまり実感はないが、ここもまだ結界に守られてる場所だ。
「見晴らしも良くこの辺りには魔物は寄り付かないと考えられるが、雨で音も聞きにくい。警戒は怠らないように」
「質問いいでしょうか!」
おれは手を挙げる。
「どうした?」
「もし魔物が出た場合、自分とユウガオはどうするべきでしょうか。魔物を見たことがなくて、対処がわからないです」
「それなら単純だ。おれたち討伐隊から離れるな。それだけでいい」
「わかりました」
「では、出発だ!」
おれたちは、監視所を後にして、次の監視所へ移動を開始した。雨のせいで、足元がとられて歩きにくい。
「ユウガオは魔物を見たことがあるのか?」
「あるよ。素材を定期的に集めるために、魔物を育てている牧場があるの。そこで見たわ」
「そんな場所があるのか!?」
「ええ。第4研究所の施設ね」
「行きたい!」
「そんな焦らなくてもそのうち行けると思うよ」
もしかしたら、おれの知らない効果をもった素材がいっぱいあるかも。
魔物の牧場かぁ。
「なんか、だいぶ余裕ね」
「荷羽ちゃん、ごめんね。月燈くん、どちらかというとこっちが素なの」
二人の会話が聞こえて焦る。
そうだ。まだ補給任務は終わってないんだ。しかも結界から出るんだ。気を引き締めないとダメだ。
おれは、自分の両ほっぺをバシーンと叩く。
梁がその音に振り向いて苦笑する。
「お前、何考えてるかわかりやすいよな」
「そうか?気をつけるよ」
「別に治さなくていい。ある意味、褒めてるんだからな」
しばらく歩くと、道の横に木でできた看板が立っていた。特に文字は書いていない。
「なんだあれ?」
「結界の目印だよ。あそこを通り過ぎると結界の外だ」
「あれが……」
梁が目印の先を指差す。
特に景色が変わってる訳ではないが、なぜか不気味に見える。
そのまま、結界の外に出た。
特に変わりはないが、少しだけ緊張してあたりを見渡した。
「あと、30分も歩けば到着だ。緊張するなとは言わないが、少し肩の力を抜いたらどうだ、二人とも」
梁に二人ともと言われて、ユウガオを見ると、ユウガオもこちらを見ていた。
ふふっと笑う。
「灯火ちゃんも月燈も初々しいねー。私と梁にもそんな時期あったよね」
「覚えてないな」
「二人は今から行く監視所に行ったことあるのか?」
「二回あるな。今回で三回目だ」
「へぇーそうなの……」
オォーン
鳴き声がした。
太刀戌隊長が立ち止まり、腰を落として警戒する。
梁と花籠も腰につけている刀に手を当てている。
おれは突然のことに心臓がバクバクしていた。
…………
…………
何も起きない。見える範囲にも特に異常はなかった。
太刀戌隊長が警戒を解除したことで、空気が弛緩する。
おれはふーっと息を吐き出した。どうやら息を止めていたみたいだ。
「ただの動物の鳴き声みたいだな」
「犬っぽい鳴き声だったよ。遠くから聞こえてたみたい」
「あぁ、何も起きてなくてよかった」
梁と花籠が話している。太刀戌隊長だけは周りをまだ警戒しているが、腰の刀からは手を離していた。
「ユウガオ、大丈夫か?」
「うん。大丈夫。でも、まだ心臓がドキドキしてる」
両手で胸の辺りを抑えている。
「おれもだ。心臓に悪いよな」
それから、再度歩き始める。心なしか少しだけ早足だ。太刀戌隊長だけは、声のした方向を見ながら歩いていた。
「ただの動物の鳴き声でも驚くな」
「結界の外だからね。警戒し過ぎるくらいでちょうどいいからね」
「にしても、梁も花籠も人が変わったみたいだったよ」
花籠は刀に手を乗せる。
「補給部隊も討伐隊だからね。何度か戦った事もあるよ。だから、怖さもわかってるつもり」
「荷羽ちゃん……」
「大丈夫!灯火ちゃんは私が守るからね」
「ありがとう」
ユウガオ、花籠と話をする一方、梁と太刀戌隊長が前方で話しており、その声も聞こえていた。
「太刀戌隊長、さっきの鳴き声がまだ気になるんですか?」
「ん?ああ。あまり聞いた事ない鳴き声だったからな。あんな風に鳴く魔物は聞いた事ないから、動物なんだろうとは思うがな」
「では、何を気にしているのですか?」
「勘でしかないのだが……先ほどの鳴き声には戦意を感じた」
「戦意ですか?」
「あぁ。感覚でしか無いんだがな」
太刀戌隊長が梁の方をみる。
すると、梁は目を見開いていた。
「どうした?」
「隊長……正面です!監視所の方向!」
二人の話を聞いていたおれも、前を見る。
すると、木の上から赤い煙が上り始めているのが見えた。
「赤い……煙?」
ユウガオが呟くと同時に太刀戌隊長から指示が飛ぶ。
「ここからは全員私の指揮下に入る!急ぎ監視所に向かう。月燈と夕顔はできるだけ急いで監視所に入れ!フォローは花籠だ。梁!私と先行するぞ!」
「了解!」
「了解です!」
花籠は梁から馬を預かる。
太刀戌隊長と梁は、飛脚靴で前方に走って行った。
「花籠?いったい……」
「まずは走って私についてきて!」
花籠は馬を連れて走り出した。
おれとユウガオもそれに続く。
「待ってくれ!何が起きてるんだ!」
「——さっきの赤い煙見えたでしょ?あれは討伐隊の合図よ。赤い煙は魔物を確認したときの合図。でも見て!」
前方の煙をよく見ると、赤い煙は二本あった。
「一本だと魔物発生!二本だと襲撃!二本同時ってことは、監視所に魔物が迫ってる!」




