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剣なき英雄譚 〜魔道具研究開発録〜  作者: 博雅
第三章 粉実証試験編 -監視所の異変-
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補給任務再同行(2)赤い煙

「それじゃあ、次の監視所に向かうぞ」


 太刀戌隊長から号令がかかり、監視所前に集まる。弱い雨が降り始めたため、帽子付きの羽織を着た。


「これ以上雨が強くならないうちに出発する。この道沿いに進めば、次の監視所に到着する。途中に木の目印が立っているところを越えると結界の外だ」


 結界の外……あまり実感はないが、ここもまだ結界に守られてる場所だ。


「見晴らしも良くこの辺りには魔物は寄り付かないと考えられるが、雨で音も聞きにくい。警戒は怠らないように」

「質問いいでしょうか!」


 おれは手を挙げる。


「どうした?」

「もし魔物が出た場合、自分とユウガオはどうするべきでしょうか。魔物を見たことがなくて、対処がわからないです」

「それなら単純だ。おれたち討伐隊から離れるな。それだけでいい」

「わかりました」

「では、出発だ!」


 おれたちは、監視所を後にして、次の監視所へ移動を開始した。雨のせいで、足元がとられて歩きにくい。


「ユウガオは魔物を見たことがあるのか?」

「あるよ。素材を定期的に集めるために、魔物を育てている牧場があるの。そこで見たわ」

「そんな場所があるのか!?」

「ええ。第4研究所の施設ね」

「行きたい!」

「そんな焦らなくてもそのうち行けると思うよ」


 もしかしたら、おれの知らない効果をもった素材がいっぱいあるかも。

 魔物の牧場かぁ。


「なんか、だいぶ余裕ね」

「荷羽ちゃん、ごめんね。月燈くん、どちらかというとこっちが素なの」


 二人の会話が聞こえて焦る。


 そうだ。まだ補給任務は終わってないんだ。しかも結界から出るんだ。気を引き締めないとダメだ。

 おれは、自分の両ほっぺをバシーンと叩く。

 梁がその音に振り向いて苦笑する。


「お前、何考えてるかわかりやすいよな」

「そうか?気をつけるよ」

「別に治さなくていい。ある意味、褒めてるんだからな」


 しばらく歩くと、道の横に木でできた看板が立っていた。特に文字は書いていない。


「なんだあれ?」

「結界の目印だよ。あそこを通り過ぎると結界の外だ」

「あれが……」


 梁が目印の先を指差す。

 特に景色が変わってる訳ではないが、なぜか不気味に見える。

 そのまま、結界の外に出た。

 特に変わりはないが、少しだけ緊張してあたりを見渡した。


「あと、30分も歩けば到着だ。緊張するなとは言わないが、少し肩の力を抜いたらどうだ、二人とも」


 梁に二人ともと言われて、ユウガオを見ると、ユウガオもこちらを見ていた。

 ふふっと笑う。


「灯火ちゃんも月燈も初々しいねー。私と梁にもそんな時期あったよね」

「覚えてないな」

「二人は今から行く監視所に行ったことあるのか?」

「二回あるな。今回で三回目だ」

「へぇーそうなの……」


 

 オォーン



 鳴き声がした。

 太刀戌隊長が立ち止まり、腰を落として警戒する。

 梁と花籠も腰につけている刀に手を当てている。

 おれは突然のことに心臓がバクバクしていた。


 

 …………


 

 …………



 何も起きない。見える範囲にも特に異常はなかった。

 太刀戌隊長が警戒を解除したことで、空気が弛緩する。

 おれはふーっと息を吐き出した。どうやら息を止めていたみたいだ。


「ただの動物の鳴き声みたいだな」

「犬っぽい鳴き声だったよ。遠くから聞こえてたみたい」

「あぁ、何も起きてなくてよかった」


 梁と花籠が話している。太刀戌隊長だけは周りをまだ警戒しているが、腰の刀からは手を離していた。


「ユウガオ、大丈夫か?」

「うん。大丈夫。でも、まだ心臓がドキドキしてる」


 両手で胸の辺りを抑えている。


「おれもだ。心臓に悪いよな」


 それから、再度歩き始める。心なしか少しだけ早足だ。太刀戌隊長だけは、声のした方向を見ながら歩いていた。

 

「ただの動物の鳴き声でも驚くな」

「結界の外だからね。警戒し過ぎるくらいでちょうどいいからね」

「にしても、梁も花籠も人が変わったみたいだったよ」


 花籠は刀に手を乗せる。


「補給部隊も討伐隊だからね。何度か戦った事もあるよ。だから、怖さもわかってるつもり」

「荷羽ちゃん……」

「大丈夫!灯火ちゃんは私が守るからね」

「ありがとう」


 ユウガオ、花籠と話をする一方、梁と太刀戌隊長が前方で話しており、その声も聞こえていた。


「太刀戌隊長、さっきの鳴き声がまだ気になるんですか?」

「ん?ああ。あまり聞いた事ない鳴き声だったからな。あんな風に鳴く魔物は聞いた事ないから、動物なんだろうとは思うがな」

「では、何を気にしているのですか?」

「勘でしかないのだが……先ほどの鳴き声には戦意を感じた」

「戦意ですか?」

「あぁ。感覚でしか無いんだがな」


 太刀戌隊長が梁の方をみる。

 すると、梁は目を見開いていた。


「どうした?」

「隊長……正面です!監視所の方向!」


 二人の話を聞いていたおれも、前を見る。

 すると、木の上から赤い煙が上り始めているのが見えた。


「赤い……煙?」


 ユウガオが呟くと同時に太刀戌隊長から指示が飛ぶ。


「ここからは全員私の指揮下に入る!急ぎ監視所に向かう。月燈と夕顔はできるだけ急いで監視所に入れ!フォローは花籠だ。梁!私と先行するぞ!」

「了解!」

「了解です!」


 花籠は梁から馬を預かる。

 太刀戌隊長と梁は、飛脚靴で前方に走って行った。


「花籠?いったい……」

「まずは走って私についてきて!」


 花籠は馬を連れて走り出した。

 おれとユウガオもそれに続く。


「待ってくれ!何が起きてるんだ!」

「——さっきの赤い煙見えたでしょ?あれは討伐隊の合図よ。赤い煙は魔物を確認したときの合図。でも見て!」


 前方の煙をよく見ると、赤い煙は二本あった。


「一本だと魔物発生!二本だと襲撃!二本同時ってことは、監視所に魔物が迫ってる!」

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