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剣なき英雄譚 〜魔道具研究開発録〜  作者: 博雅
第三章 粉実証試験編 -監視所の異変-
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補給任務再同行(1)改善の証明

 再同行当日になった。

 第2研の前には既に準備を終えたユウガオがいた。今回は泊まりのため、前回よりもお互いに荷物は多い。


「よく休めたようだな。顔色が戻ってる」

「ええ。昨日は久しぶりに寝た気がするよ。いつ寝たか覚えてないけど」


 眼鏡を上げながら、答える。とにかく体調万全で迎えられてよかった。


「魔道具は持った?」

「あぁ、手袋と足袋を20ずつと飛脚靴の木の部品を10個、あとは交換のための工具と予備の粉も持ってる。手袋と足袋は半分渡しておくよ」


 おれはカバンから手袋と足袋を10ずつ渡す。ユウガオはカバンに入れて、代わりに測定器を取り出す。


「ありがと。私も測定器が2つあるから、一つ渡しとく」


 測定器を受け取る。ユウガオが開発した新しい魔道具だ。

 測定器を観察する。即席で作ったにも関わらず、針は一切動いていない。

 

「達じいにもお礼言わないとな」

「そうだね。甘いものいっぱい買わないと」

「帰ってきたらな。じゃあ、行くか!」

「ええ。頑張りましょう」


 測定器をしまって、門の方へ歩き出した。


 少し歩くと、前回と同じ場所に、前と同じメンツが揃っていた。


「あ、灯火ちゃーん」

「荷羽ちゃん!」


 花籠が手を振っている。

 ユウガオは笑顔になっているものの、駆け寄ったりはしなかった。花籠の横の人物にまず挨拶してからだと思っているのだろう。


「太刀戌隊長。おはようございます。

「あぁ。おはよう」


 ユウガオが太刀戌さんの前に立ち挨拶する。

 一瞬の沈黙が流れる。

 気まずい空気が流れかけるが、おれはどうしてもお礼を言いたかったので、沈黙を破る。


「太刀戌隊長。おはようございます。今回は前回あんなことがあったにも関わらず、同行の話を聞いてくださりありがとうございました」

「……ああ。ただまだ同行を許した訳ではない。条件は聞いているな」

「はい。今ここで実施してもいいですか?」

「ああ。梁、飛脚靴を三組出してくれ」

「わかりました」


 梁が持っていた袋から、3組6足の飛脚靴を出して、地面に置いた。

 おれはカバンから測定器を出す。

 ユウガオは紙を取り出した。


「説明しながらやらせていただいても?」

「構わない」


 太刀戌隊長から許可を貰う。花籠と梁もおれたちの作業が見える位置に移動していた。


 よし。やろう。


「まず、各靴の現在の魔力を測定します。左から——」


 ユウガオに現在の魔力をメモしてもらう。

 同じ組み合わせで片方は必ず魔力がなくなっていたが、片側には少し残っているものがほとんどだった。


「片方には結構残ってるんだな」

「みたいだね。片方無くなったら使えない同然だからね」


 梁と花籠が聞こえてきた魔力量を聞いて、会話しているのが聞こえる。太刀戌隊長は、真剣に全体を見ていた。


「次に、この足袋を使って魔力を補充します」


 おれはカバンから足袋を出して、片足の靴を脱ぎ、足袋を履いた。


「手でやらないんだね」


 花籠がこっちをジト目で見ている。


「手だと難しいことがわかったし、蹴られるわけにも行かないからな」

「ふん」

 

 おれは自分の尻をさする。今日は蹴られずに済むはずだ。


 足袋を履いた足を飛脚靴に入れて、測定器をあてたあと、魔力を補充する。


「この測定器で、どのくらい魔力が入ったか確認します。ユウガオ、一つ分、全部入った」


 足を抜いて、別の足袋に履き替える。

 もう一方の飛脚靴を持ってユウガオのメモを見る。


「こっちは一目盛分元々魔力が残ってたから……月燈くん。魔力を補充して、一目盛り分だけ残して」

「わかった」


 おれは同じ容量で魔力を補充し、一目盛分残ったところで、補充を終える。

 補充を終えた靴を並べて、それぞれの魔力を測定する。


「魔力は……揃っているな。よし、これで左右均等に魔力を補充できました」

「凄いじゃん!これで元通りなの?」

「いや、まだだ。これで魔力は半分補充できたくらいだから、もうひとつの足袋で満タンまで入れれば、魔力補充完了だ」


 そのまま、同じことを繰り返し、魔力を補充し終える。

 

「それで補充は終わりか?」

「はい。ただ、今から中の木の強度を調べます。中の木が痛んでいると、使えないので」


 立ち上がって靴を履いて、元に戻す。この二つは、足を離すとすぐに元の形に戻った。


「これで終わりです。性能だけで言えば、新品とほとんど変わらないはずです。確認してください」

「……わかった」


 太刀戌隊長が今補充した飛脚靴に履き替えて、周辺を走り始めた。最初は普通の速さでだったが、みるみる速くなっていく。


「は、速ぁ」

「そうだね……あんな早いの今まで見たことないよ」


 ユウガオも目を丸くしている。

 見ていると太刀戌隊長がこちらに戻ってくる。猛スピードで近づいてきたので、自然とおののいてしまう。


「少し長めに使ってみる。その間に、他の4足も補充してくれ」


 そう言い残すと、太刀戌隊長は、またしても目に止まらぬ速さで遠くへ走っていった。


 おれとユウガオは残りの飛脚靴にも魔力を補充して、梁と花籠にも試してもらった。


 梁はニ階に届きそうな勢いでジャンプを繰り返し、花籠はとんでもない速さでスキップしている。


「おぉ!本当に使えるようになった」

「月燈ー。灯火ちゃーん。違和感も全くないよー」


 おれは二人に手を挙げる。


「二人とも補給部隊っていっても討伐隊だね。凄い動き」

「あぁ。飛脚靴も問題なさそうだし、とりあえず補充は成功だな。それにしても……」


 花籠と梁はまだ戻ってこないので、ユウガオと二人でその様子を目で追う。


「……ずるい」

「え?」

「なんで、なんであんなに簡単に使えるんだ?!あれめちゃくちゃ難しいんだぞ!しかもスキップとか……。どのタイミングで魔道具を起動してるのか検討もつかない」


 おれもあんな風に動きたい!

 補充の合間に、何度か履いてみたが、使いこなせる気がしなかったことを思い出し、余計に羨ましくなる。


「まぁ。訓練してるって言ってたからね」

「この前教えてくれるって言ってたよな。絶対教えてもらおうぜ」

「わたしはいいよ。あんな風に動くの怖いし」

「くそー……いいなぁ……」


 しばらくすると、太刀戌隊長も戻ってきて、飛脚靴を返してくれた。


「試させてもらった。申し分ない使い心地だ。それこそ、正規品よりも魔力の左右差がないくらいだ。その測定器を使ったからか」

「多分そうだと思います」

「見事だ。これなら十分に使える。監視所にこの飛脚靴を使わせてやってくれ」

「それじゃあ、同行は……」

「もちろん問題ない。ここから2日間よろしく頼む」


 おれと、ユウガオと、花籠がよしっと握り拳を握る。

 なんで花籠もやってるんだよと思ったが、色々思うところもあったんだろう。ありがたい。


「それではまずは前回いった監視所に向かう。飛脚靴を届けたら、その次は結界外の監視所だ。では、出発する」


 おれとユウガオも三人に続いて歩きだした。道は前回と同じなので、前回よりは余裕があった。


 昨日に続き暑くないが、あいにくの曇り空で、今にも雨が降ってきそうだった。


 行きの道中では、開発品について話した。前回は具体的なことは話せなかったが、この三人は信頼できるし、報告書の提出も近いことから、もう少し具体的に話した。


「え?それじゃあ、この魔力を補充する手袋って、そのうち私も使えるかもしれないの?」

「そうだな。そんなすぐではないと思うけど、そこまでかからないと思う」

「えー、凄い!てっきり高品質な素材を使ってて、限定的な使い方になると思ってた」

「おれもだ。そんなこと話していいのか?」


 花籠が素直に喜び、梁が懸念する。


「原材料や製法はまだ話せないけどな。そうなるんじゃないかと思ってる」

「そうだね。同行から戻ったらすぐに報告書を出すから、ある程度は広まると思うし。でも正式に話がくるまでは内緒にしててね」

「わかってるよ!秘密は守らないとね!うわー楽しみだなー。補給のやり方が絶対変わるよ!」


 花籠が近い将来に思いを馳せていると、話を聞いていただけだった太刀戌隊長がこちらをみる。


「本当に討伐隊にも回ってくるのか?それだけの開発、研究所内だけでも、色々と使いようがあるだろう」


 太刀戌隊長が目を細める。ただ、おれはまっすぐに見返す。


「確かに、おれはこの開発品の使い方を考えた時に身近な研究所内での活用を考えました。ただ、その人達は口を揃えて討伐隊に使って欲しいと言っていました。今ではおれもそうなるといいと思います」

「皆がそうとは、限らないだろう」

「これはおれたちの開発品です!周りがなんと言おうと討伐隊にもちゃんと使ってもらいます!任せてください!」


 太刀戌隊長は、目を見開いた後、フッと口角を上げる。


「わかった。期待している」


 太刀戌隊長は前に向き直り、また歩き出す。

 

 期待していると直接言われた……

 よし、次こそは、と思ったときだった。

 

 横から花籠が「カッコいいー」とおれの左肩をばーんと叩いた。


「あぁっ!!?何すんだ!!」


 おれの治ってない怪我に直撃し、おれは悶絶する。


「あ!そうだった!ごめん!」


 花籠が焦って近寄ってくる。

 梁は呆れており、ユウガオは笑っていた。

 

 ——その後森に入ったが、慣れや涼しさもあって前回ほどの辛さはなく、梁と花籠からこの開発品が何に活かせるかと話しながら進んだ。


「見えたぞ」


 しばらく歩いた後に、太刀戌さんの言葉で顔を上げると、前回見た監視所が見えた。

 見覚えのある建物に、前回の苦い記憶が蘇るが、首を振って気持ちを切り替える。


 到着して部屋に入ると、前回怪我をした隊員がいた。


「先日はすみませんでした!」

「あぁ。あれは俺も着地ミスってな。もう普通に働けるくらいに回復したから大丈夫だ」

「それならよかったです」


 普通に歩いているのを見て、ようやく安心した。


「それじゃあ、さっそく補充作業を初めてもいいですか?」

「うん?まだ着いたばかりだが?」

「……うまくいくと思っていますが、何か起きても対応できるように早めにやりたいです」

「なるほどな。いいだろう。頼む」

 

 おれは残りの2組の飛脚靴に補充を行う。一足だけ中の木が折れていたため部品を交換して、補充作業を完了した。


「……五組全ての魔力補充が完了しました。木の部品も折れていたものを交換したので、問題ありません」

「飛脚靴の木の部品交換なんて初めて見たよ。これで使えるのか?」

 

 太刀戌隊長が答える。

 

「出発前に私も確認した。問題なく使えるはずだ」

「それなら!いやー飛脚靴の予備無しで駐屯するのは怖かったから、助かるよ!ありがとな、第2研の人」

「……っ!いえ!役に立ってよかったです」


 思わず、顔を逸らす。

 逸らした先にいたユウガオを見ると、目が潤んでいた。

 わかる。おれも泣きそうだ。

 最初に怪我してる隊員を見たときの場面がよぎる。

 あそこからここまで来た。

 何気なく言われた感謝の言葉に感情が抑えられない。


「これで……リベンジできたね」

「ああ……やっと……自分を取り戻した気分だ」


 外では、雨が降り始めていた。

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