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剣なき英雄譚 〜魔道具研究開発録〜  作者: 博雅
第三章 粉実証試験編 -監視所の異変-
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再同行前日

 次の日、一室を訪れると、木蓮さんに呼び出されて、さっそく補給への同行が認められたと教えられた。


 木蓮さんの仕事が早過ぎて恐ろしい。


 一室に戻ると、ノッポさんが既に来ており、こちらを向く。

 

「月燈くん。また同行が決まったらしいね」

「おはようございます、ノッポさん。三日後だそうです。ただいくつか条件が付けられたみたいです」

「条件かい?」


 おれは指を一つたてる。


「一つ目は、出発前に前回持ち帰った五つの飛脚靴のうち三つで補充できるか確認すること」


 二本目の指をたてる。

 

「二つ目は、補充できた場合は、一つ先の補給先である結界を少し出た監視所にも同行し、魔力の補給を行うこと」

「結界外に行くのかい?」

「みたいです。そっちの方が物資が厳しくて。魔道具も足りてないから補充できるならしてほしいみたいです。結界出て一時間も無い場所で魔物はいないらしいです」

「そうなんだ。二箇所回るとなると泊まり?」

「ですね。一泊だそうです」


 ノッポさんがおでこに手を当てる。


「月燈くんも研究所に来て早々大変だね」

「いえ。やってて楽しいので大丈夫です」

「楽しいんだ!月燈くんはきっと大物になるよ」

「まぁ大変なのは、あっちでして……」


 二人は示し合わせたようにユウガオを見る。


 ユウガオは半分泣きそうな顔で、測定しては数値を書き込むという一連の動作を昨日から繰り返してる。


「今から報告書だもんね……。ぼくもあまり聞いたことない、中々な納期だよ」

「さすがに申し訳ないので、準備はこっちで進めることにしたんです」

「そうなるよね」


 そこからおれは、同行に備えて、手袋と足袋を粉が入った状態で20ずつ作成することにした。

 達じいには、もう一つ精度のよい測定器を作ってもらっている。

 準備するものは多いが、三日あるのでそこまで急く必要はないため、ゆっくり作ることにした。


 加工室からは、朝にもかかわらず、既に誰かが作業しているだろう音が聞こえてくる。

 涼しくなったからかと思っていたが、ノッポさんが言うには、報告書の提出期限はどこの研究室も一緒なので、この時期はいつもこんな感じらしい。


 黙々と作業をしていると、昼を過ぎた頃に火花野さんがやってきた。


「月燈ー。いくつできたよ?」

「手袋が七つです」

「いいペースだな。明日にはノルマ達成だな」

「ですね。あの、一つ聞きたいことがあって、工場での飛脚靴の検査って左右差の確認だけですか?」

「ん?なんでだ?」

「前に失敗したのは、検査を知らなかったからです。昨日寝る時に色々考えていたら、他にも何かある可能性があるなって」

「びびった訳だ。いい心構えだな。他の検査か……あぁぁ!ある!あるぜ!」

「やっぱりですか!なんですか?」


 おれは立ち上がって火花野さんに詰め寄る。


「靴の中の木の強度だ。あの靴は、木のしなりを魔道具で上げたことによる反発力を利用してる。だから、木のしなり、つまり反発力がちゃんとあるかを確認するんだ」

「えぇ!そんなの魔力補充でなんともならないじゃないですか!どうすれば……!」


 全く予想していなかった検査に焦る。


「いや、大丈夫だ。検査自体は靴を履いた後に、10秒以内に元の形に戻るかと言う簡易的なものだし。ダメだった場合は木を交換すればいいだけだ」

「でも、そんな木の部品について、おれ知らないし……」

「木の部品はおれが作れるし、交換は誰でもできる。木の部品をおれが作っておくから、同行前日に検査方法と交換作業の練習をするぞ」

「ほんとですか!よかった……」

「いや、ほんとよくそこまで頭が回ったな。正直おれはもう安心しきってた」


 褒めてもらったが、自分としては情けない話なので、気まずくて頭をかく。


「いや。失敗するのが怖くて。重箱の隅を突くように色々考えていたのが、偶然当たっただけです」

「そこまで考え続けることができるのは、一種の才能だ。誇っていいぜ」

「考え続ける才能……才能ですか、それ?」

「さーな。まぁいーじゃねーか。悪いことじゃねーからな」

 

 適当だなぁと思うと同時に、救われたようにも思い、笑みが溢れる。


「じゃあおれは木の部品をいくつか作る。前日にまでにそっちも終わらせとけよ」

「わかりました!」


 そこからおれは魔道具を作り続けた。

 昼に補給隊の二人に会えるかと食堂でご飯を食べる様にしていたが、結局会うことはなかった。


 ——そして、再同行の前日となった。


 天気はあいにくの雨だったが、最近まで暑かったため、過ごしやすい一日だと思っていた。

 そんな中、ユウガオの顔は一目見てわかるくらいやつれていた。


「おい……ユウガオ顔色わるいぞ。大丈夫か?」

「え?大丈夫だよ?昨日の昼あたりから何故か調子が良くてね!昨日結構進んだから大丈夫!」


 バサっと報告書の最後のページをおれに見せつける。


「……ここ、文字が違うぞ?」

「え?あれ?ほんとだ。おかしいな?」

「というか、この三行、上の三行とまるごと同じこと書いてるぞ……?」

「ん?あれー?おかしいなぁ。なんでこんなことしてるの?」

「とりあえず、大丈夫じゃないのはわかった。今日は早めに帰って明日に備えよう。おれもそうするから」

「そうだね……そうするよ」


 明日が本番だからな。体調は整えておきたい。

 すると、火花野さんが歩いてくる。


「二人とも揃ってるな……うおっ!夕顔、お前とんでもない顔してるぞっ!?」

「そ、そんなにですか。月燈くんにも言われました……早めに休みます」

「そうしろ。体調不良とか笑えないからな。それよりもこれだ」


 火花野さんは、袋に入れていたものを出す。それは、木の板をくの字に曲げたものだった。


「これが飛脚靴の中に入ってる木の部品だ」


 おれは木の部品を受け取る。


「結構、単純なものですね」

「あぁ。曲げるのにはコツがいるけどな。あとはこの部品の検査と交換方法だ。さっそくやるから、まずは見ておけ」


 火花野さんが、先日もらった飛脚靴をとりだす。


「検査は簡単だ。靴を履くと、ほら、靴底が沈んだだろ」


 おれとユウガオは、屈んで靴底を見る。


「……はい。沈みました」

「そのまま見ておけ。靴を脱ぐと沈んだ分だけ戻る。10秒以内に戻れば合格だ」


 火花野さんが見ると、すぐに元に戻った。これは合格ってことだろう。


「10秒って言ってるが、基本的には大丈夫なやつはすぐに戻るし、だめなやつは全く戻らないから、判定は簡単だ。次は交換だが、月燈。靴の中の踵部分に短いヒモがあるだろ。それを引っ張ってみろ」


 中を見ると確かにヒモが見える。それを引っ張ると靴の中が剥がれて、木の部品がはまって見えた。


「そのまま木の部品を上げれば取れる。入れ替えは同じ場所に入れるだけだ。その位置にしか入らないようになってるから、取り付けるのは簡単なはずだ」


 言われた通りに木の部品を付け替える。確かに意外と簡単にできた。


「どうですか?」

「……よし。問題なしだ。木の向きだけ間違えなければ大丈夫だ。もういくつかやってみろ」

「わかりました。ユウガオ、半分ずつやろうぜ」

「そうね」


 特に問題なく、おれもユウガオも検査と交換作業を終えた。


「ありがとうございます。この作業はもう大丈夫そうです」

「よし。これで準備完了だな」

「はい。あの、明日はやっぱり火花野さんは同行できないんですか」


 おれはこの三日間何度か聞いていたことを再度聞いた。


「いかねぇよ。これはお前たちの課題だ。自分たちだけでなんとかしてこい。おれがいなくても、大丈夫だろ。それに——」


 火花野さんはおれの報告書を指差す。


「この報告書が提出されるってことは、少なくとも他の部屋の人間には、この開発が公開されるってことだ。その影響は想定しているか?」

「影響?なにか起きるってことですか?」

「あぁ。間違いなくな。色々想定して対策しておくべきだ。おれはその為に動いておくつもりだ」


 色々想定して、何かしてくれるらしい。

 どんなことを懸念しているんだろうか。


「わかりました。それじゃあ、明日は俺とユウガオで行ってきます」

「そうだね!準備万端だよ」

「ああ!次こそは成功させてみせる!」

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