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剣なき英雄譚 〜魔道具研究開発録〜  作者: 博雅
第三章 粉実証試験編 -監視所の異変-
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月燈の魔道具開発

 加工室で、おれはさっき作った包みをお手玉のように投げながら考えていた。


 軽く上に投げて、取る。

 ぽーん。ぽす。


 魔力の粉を包みにしたことは大きな前進だと思う。

 実際に魔力補充は格段にしやすくなり、魔力量まで測定できた。ただ、それでも別の問題が発生した。


 ぽーん。ぽす。


 どうすれば、あの細い靴の中に包みと手を入れられるんだろうか。

 何か致命的に前提を間違えているのか。

 そんなことも思い始めていた。


 ぽーん。


「あ」


 考えがまとまらずにいると、手元が狂い、包みを下に落とす。

 椅子から立ち上がり、包みを拾って、顔を上げた。


 加工室では、他研究室の開発者が、素材を削ったり、組み合わせたりしていた。

 その手には安全のため手袋がはめられており、木堅持手が握られていた。


「そういえば、使ったことなかったな」


 各机に常設されている木堅持手を手に取った。

 この魔道具は、加工室に初めて訪れた際、達じいに教えてもらった魔道具だ。

 非常に面白い仕組みで使ってみたいと思っていた。


 壁に掛かっている木でできたノコギリのような形をした部品を持ってくる。

「このノコギリ型部品を、この持手の穴に差し込んで……」

 

 カチッと何かがはまる音がする。

 

「よし。そうしたら持手に魔力を通して……おおお!」


 持手が黄色く光った瞬間、木のノコギリ部分の色が変わる。

 軽くノコギリ部分を叩くと、木の乾いた音ではなく、鉄のような重い音がなる。


「これで鉄製のノコギリみたいに使えるのか。すごいな」


 壁を見るとノコギリの他に、ナイフやキリ、槌型など様々な木の部品が掛けられている。

 これらはすべて木堅持手用の部品で、部品を変えることで様々な工具に姿を変える。


 この魔道具自体も面白かったが、生まれた理由の方が感動したのを覚えている。


 あの時、達じいは木堅持手を優しい顔で見ながら話していた。

「初めて木を固くする魔道具ができたときに、世の中では木細工の需要が高まった。木細工は鉄と違い容易なことから、子供や老人の手仕事として木材加工は広まった。ただ、そこで問題が起きた。子どもにケガ人が多発したんだ」

 達じいは顔を強張らせる。

「木を加工するためには重い金属のノコギリ等を使うからな。子どもが工具の扱いを間違えると怪我してしまうんだ」

 続けて、表情を緩める。

「そこで作られたのがこの木堅持手だ。金属の工具より軽く扱える。さらに、魔力を流していないときは普通の木だ。尖っている部分じゃなければぶつけても問題ない。この魔道具によって子どものケガ人はほとんどいなくなった」

 最後に達じいは自慢げに木堅持手をこちらに向ける。

「こんなに目的を忠実に果たしている道具は他にない。だからわしはこの魔道具を好んでいる。これこそ理想的な道具だ」

 

 この話を聞いて、自分もそんな道具が作りたいなと思ったんだ。

 なんか既に懐かしいな。

 手元の持手からノコギリ部品を外して、元に戻す。


 それにしても、目的を忠実に果たす道具か……。

 確かにこの木堅持手は、工具として使うことが目的ではない。

 子供が容易に使えて、尚且つ工具としても優秀なんだ。

 複数の目的を同時にこなしている。改めて考えるとすごいなと思い、持手を見る。

 ふと、火花野さんの「それは魔道具じゃない」という指摘を思い出す。

 

 ……そうか。そういう意味だったのか!


「粉やこの包みは、魔力の補充はできても、補充を目的とした形状になってないんだ!」

 

 やりたいことがあって、道具はそのやりたいことをするために使うものだ。

 ただ、おれの粉や包みは、魔力の補充ができるからそのまま補充しているだけだ。


「つまり、どうやって手で補充するかじゃない。どうしたら補充しやすい形なのかを考えるんだ」


 今の問題は、粉と包みの両方に共通している。


「問題は手にあたる部分が安定しないことだ……。なら、手に固定すればいい。粉はダメだから包みを手に固定する……。手に固定といったら……」


 さっき作業していた開発者の手元が思い浮かぶ。


「手袋だ……!手袋の手のひら部分にポケットを作って、そこに粉を入れれば……!」


 備品の箱から一番薄い生地の手袋を一枚取り出す。手袋の手のひら部分に、包みを作った布と糊でポケットを作る。

 粉をポケットに入れてから、糊で蓋をする。

 その手袋を手にはめると、ちょうど手のひらの部分にしっかりと粉を入れた部分が来ていた。

 

「きたぁ!ぴったりだ!」


 そのまま、手元にあった木堅持手を手に取り、魔力補充を試みる。すると、持手は淡く光りだした。


「できた!しかもこれまでみたいに押し付けたりしなくても、持ってるだけで補充できる。これなら位置がずれたりしない」


 間違いなくこれまでで一番補充がしやすい。

 手で魔力を補充するという目的に対して、これ以上ない形状だ。


 この手袋なら飛脚靴も安定して補充できるかもしれない。

 そう考えるとすぐに試したくなった。


 立ち上がり、ふと外を見ると、偶然歩いている花籠を見つけた。

 そして、その足にはしっかりと飛脚靴が履かれていた。


 最新の型式の飛脚靴!あの靴で補充できれば間違いない!


 おれは加工室を飛び出して、花籠の元へ走る。


「おーい!花籠ー」

「んー?あー月燈じゃん!どうしたのー?」

「研究所から花籠が見えてなー。飛び出して来たんだ」

「わぁ。いつの間にそんな積極的になったの?困るわー」

「いや、そういう意味じゃないんだ。お願いがあって」


 花籠は、はぁとため息をつく。


「もう少しこのノリに合わせてくれでもいいと思うけどねー。で?なに?」

「飛脚靴を少し見せてくれないか?」

「これ?あぁ、もしかしてまだ諦めずに開発してるの?」

「もちろんだ」


 嬉しそうに飛び跳ねて、おれに顔を近づける!


「いいじゃん!頑張ってんだね!しかもいい顔してる。補充を失敗する前の表情だ。立ち直れたんだね!」

「いや、まだだな。補充ができるようになれば完全に立ち直る。そのために飛脚靴を見せてほしいんだ」

「そうなんだね!えっと……でもこの靴はずっと履いてるから汚いと思うんだけど……。見るだけだからね」


 花籠は片方の靴を脱いで、渡してくれた。


「わかってる!ありがとう!じゃあさっそく……」


 おれはかがんで、靴を地面において手袋をした手を飛脚靴に入れる。


「な!ちょっと!」


 補充をしてしまうとバランスが崩れてしまうので、手を広げて補充ができるかを確かめる。

 ただ、手袋にしても、やはり手が広げられないため、素材部分にうまく触れられないことがわかった。


「見るだけじゃなかったの!?なにしてんの!」


 これでもダメなのか。

 心が折れそうになる。ただ、ここで諦めるわけにはいかない。何か方法は他にないのか……。


「何してんのって……言ってるでしょ!」

「痛ぁ!」


 花籠にお尻を蹴られて、そのまま前のめりで倒れる。


「ったく、いつまで手を突っ込んでるのよ。靴は足を入れるものでしょ。もういいでしょ!私行くからね」


 蹴られた痛みなど、花籠の言葉を聞いて吹き飛んでいた。

 

「その通りだ!靴は足を入れるんだ」

「え?当たり前でしょ、そんなの」

「当たり前だよな!やっぱり思い込みって怖いな。おれは手じゃないといけないと思ってた!」


 おれは、お尻の痛みなど気にせず、がばっと立ち上がる。


「頼む花籠!あと一回だけ検証に付き合ってくれ」

「いやだ。もう私は行く」

「お願いだ!多分次で上手くいくんだ」

「いや!また手を入れるつもりでしょ!さいてー」

「今度は違うから、なぁ頼むよー」


 結局この日一番大変だったのは、花籠へのお願いだった。


 そして明日は、皆でもう一度集まる日だ。明日はきっといい日になる。そんな予感がしていた。

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