火花野の再会と夕顔の奮闘
2話連続投稿の2話目です
◇◇◇
面倒なことになったな。
火花野はそんなことを考えながら、外を歩いていた。
第1研で腐っていたところを木蓮さんに拾われて第2研に移って約一年。その間、ほとんど魔道具開発から離れていたが、月燈や夕顔が色々やっているのを見て興味をもった。そして、首を突っ込んだら、まさかこんなに関わることになるとは思わなかった。
「飛脚靴か。第1研なら持ってると思うが、頼るとしたら……やっぱアイツだよな」
一人の女性の「とらおくーん」という間延びした声を思い出す。
「第1研辞めるときも連絡もなく辞めちまったからな。怒ってる……ってことはないと思うが、やりにくいな」
アイツの性格なら多分怒ってない。ただ、都合のいいときだけ使うことに気が引ける。まぁ、実際その通りなのだが。
ただ、手に入れると宣言したからには、手に入れないと。まさか、おれが足を引っ張るわけにもいかないからな。
「広場にいるといいが……」
アイツは考え事をするとき、いつも中央広場のベンチに座って、ぼーっとする癖があった
足取りは重く、いて欲しいといないで欲しいと両方の気持ちで広場に着く。
「やっぱいるよな」
視線の先には、広場の真ん中にあるベンチに座る白衣姿で髪の長いおっとりした女性と、その隣には、黒い服を着た男性が立っていた。両手に一本ずつ傘を持ち、一方を女性に、もう一方を自分に差している。
広場に入って近づくと、女性もこちらに気がつく。
「え!?とらおくーん」
女性はこちらに凄い速さで近づいてくる。第1研のやつはほとんどが飛脚靴の仕組みを取り込んだ靴を履いている。
「やっぱりとらおくんだ!久しぶりだね!一年ぶりなんだよ」
「あぁ、このみ。久しぶりだな」
このみは、一年ぶりにも関わらず、昔と同じ雰囲気で話しかけてきた。横を見ると既に定位置につき、傘をさしているおじさんがいた。おじさんは優しそうに目を細めると、俺まで日陰に入るように傘の位置を調整した。
二人とも、あいかわらずお人好しだ。
「よかったー。話しかけて来てくれたってことは、わたしが嫌いになって辞めたわけじゃないんだねー。ほんの少しだけその可能性が残ってたから、怖くて話しかけられなかったんだよー」
「そうだな。俺が辞めたことに関して、このみは関係ない」
「みたいだねー。ということは、何かお願いごとかなー?」
相変わらず、鋭い。このみはゆったりしているが頭はキレる。この歳で第1研の第三室室長を担っているのは伊達じゃない。
「そうだ。話が早くて助かるよ。実は魔力が抜けた飛脚靴が欲しくて探してるんだ」
「なんで?」
「後輩の開発に必要なんだよ。融通してくれないか」
「……その後輩は女の子?」
「いや、男だ」
「全然いーよー」
「助かる!」
よし。これで検証が進められそうだ。
「いくつ、いつまでに必要なのー?」
「明日朝取りに行く」
「んー……明日の昼にしてくれるー?ほら、準備とかあるからさー」
「そうか。悪いな。じゃあ昼頃取りにくるわ。助かったぜー!また明日な!」
「あ……!はーい。また明日ねー」
後は、補充方法だな。それぞれ考えてくるって言ってたが、さて……。
「全く面倒なことになったぜ」
自分が笑顔になっていることは、気が付かなかった。
◇◇◇
「くっ……」
「このみ様、突然膝をついて、大丈夫ですか?」
「大丈夫。久しぶりにとらおくんと話してあてられただけよ。相変わらず、なんてカッコいいの……」
「えぇ。しかし嫌われていませんでしたな」
「そうよ!ようやく確信が得られたわ!明日の朝の予定は?」
「部下の方から魔道具の形状について相談と……」
「延期よ、延期!まずは服!あと……えーと……とにかくまずは飛脚靴を集めるわ」
「承知しました、このみ様」
◇◇◇
夕顔は、一室で測定器を見つめていた。
「これが活かせる可能性がある。ついに……」
この魔力測定器は、昔から注目していた。他の人は、この測定器は結界の魔力で常に動いているので、精度も低く使い道は無いと見限っていた。でも、わたしはこの魔力を可視化できることに可能性を感じていた。だからこそ、達じいに無理言って作ってもらったり、私の課題にしてもらっていた。
そして、ついに活用の具体的な可能性が見えた。この機会はなんとか活かしたい。
「問題は靴の中に入らないことよね。小型化は前に達じいが無理って言ってたしなぁ」
うーん、うーん、と唸っていると、紫陽ちゃんが横に座った。手には報告書らしき束を持っている。
「灯火先輩。そういう時は後輩を頼るべき。あまり力にはなれないかもしれないですけど」
「そんなことないよ!確かに一人で抱え込むべきじゃないよね!ありがとう」
「どうでしょう。灯火先輩でも無理なのに小生が力になるか。とりあえずこれ……」
紫陽ちゃんは、机に紙の束を置く。
「これは……測定器開発の報告書!残ってたの?」
「はい。ずっと見つめてるし、これのことで悩んでるかなって。発明書は書庫にありました。結構前に見つけたのを思い出して。まずは仕組みを知れば何か変わるかなと……」
「凄いよ、紫陽ちゃん!設計図は見たことあるけど、発明の報告書は初めてみたよ!一緒に見てくれない?」
紫陽ちゃんはさっきまで下を向いて喋っていたが、私の言葉を聞いて顔をばっと上げる。
「そうでしょう!小生は役立つんです!一緒に見てあげますよ!」
さっきまで周りの音が聞こえていなかったが、紫陽ちゃんのお陰で、周りが見えてきた。
軽い心持ちとなり、二人で肩を寄せ合うようにして、報告書を読み始めた。
「測定器の測定部分って素材じゃないんですね……」
「そう。特殊な鉱石なの。原理は知らなかったけど、ここに書いてあるね。……この鉱石が魔力によって一定の大きさで振動する。その振動した鉱石数で魔力を測ってるみたい」
この測定機は厳密には魔物素材を使っていないため、魔道具ではないらしい。知らなかった。
「この鉱石部分を測定器に当てる必要があるみたいだね」
「それなら小型化はできないんでしょうか?」
「前に達じいに石が入らないから無理って言われた。その時は意味がわからなかったけど、今やっとわかった。この鉱石をいくつも並べないといけないから無理ってことね」
その中で気になる記述を見つける。
「ここ……少し気になるね」
「ここですか?……『この鉱石は自身が吸いきれない魔力を別の鉱石に伝播させている』、つまり吸収しきれなかった魔力を次の鉱石に移しているわけですね」
「そう。そしていくつの鉱石が吸収したかで魔力を測ってる。という事は、伝播させるだけでいいなら、間に鉱石以外が入ってもいいと思わない?」
「魔力を伝播させるもの…………あっ!魔力線!」
「そうなの!ちょっと試したい!」
さっそく測定器を分解しようと後ろに向けるが、手が止まる。流石に達じいの特注を分解するわけにはいかない。
紫陽ちゃんを見ると、すでに測定器二つと魔力線を持って来てくれていた。
「さすが!ありがと!」
「後輩として当然です!」
胸を張っている紫陽ちゃんを横目に、測定器を分解する。その測定を行う部分にはまっている鉱石を外して、次の鉱石と魔力線で繋いでみる。
その状態で、切り離した方の鉱石を、さっき作った粉の入った包みに当ててみる。
くいっ
「動いた!今明らかに当てた瞬間だけ、結界の魔力より高くなった!やった!すごい!」
「さすが先輩です!」
紫陽ちゃんと両手を合わせて喜ぶ。この測定器を調べてて、初めての手応えだった。
いける!これ本当に新しい使い方ができる!
ある程度喜んでから、あらためて測定器を見る。針は動くがさっき粉の包みを測った時に比べると、振れ幅が狭い。
「なんか、さっきより魔力が弱いかも?」
「……やっぱりダメってことですか?」
「いや……」
ダメなんかじゃない……!初めて手応えを感じた。この方向性でいけるはず!
「絶対いける!諦めないよ!よーし、じゃあ魔力線で魔力が弱まっちゃう可能性を考えよう!会議だよ!紫陽ちゃん」
「はい。小生も手伝いますよー」
壁が見つかったのに絶対なんとかなる。こんな気持ちは初めてだった。




