試行錯誤
火花野さんが観念したことで、周りに集まっていた一室の面々は、自分の仕事に戻っていった。
おれたち三人は、報告書を取り囲むように机に座る。
「はい。じゃあ第一回飛脚靴魔力補充会議を始めます」
「おう」
「なんだ?ずいぶん固いな」
「は、じ、め、ま、す!!」
「あ、あぁ。進めてくれ」
ユウガオがいつも通り仕切りはじめ、紙やら書くものを準備し始めた。
火花野さんは面食らってるようだ。
「なぁ、いつもこんな感じか?」
「?はい。報告書の製造部分を書くときもやりましたね。確か、第三回の会議までいったかな……」
「……報告書っておまえら二人で作ってたよな?」
「そうですね。いつもユウガオに会議よ!って言われてやってましたね。もしかして普通やらないんですか?」
「やらないだろ……二人で会議って」
「……形から入るのが好きなのかもしれないです。自分は慣れたんで、慣れてください」
「まぁいいけどな」
火花野さんと声を潜めて話していると、ユウガオが準備を終えたようで、あらためてこちらをみる。
「じゃあ、一旦現状をまとめてみるよ」
「頼む」
ユウガオは紙に文字を書き始める。
「今回実施したのは、飛脚靴の魔力補充。それで結果がダメだった」
「そのダメだった理由を掘り下げるしかねーな。そうしたら問題が見えてくるだろうしな」
「火花野さん、失敗して当然って言ってませんでした?もう原因がわかっているんですか?」
おれは思わず聞いた。朝言われて気になっていたことだ。
「なんとなくだがな。ただそれは間接的なことで、直接の理由がわかってるわけじゃねー。俺が言ったことについては後で話す。今は直接の原因究明に集中すれば良い」
「わかりました」
紙に視線を戻す。
「……いい?じゃあまずは起きた現象をまとめると……。魔力の補充は出来た。でも、その補充出来た量がバラバラだった」
「バラバラになった理由はおれがわかっている。補充の仕方だ。靴の中という都合上、手のひらにつけた粉が、ちゃんと素材部分に触れることができなかったからだ」
「補充の目安としていた光が見えなかったのも原因だよね。ただ見えていたとしても、左右のバランスが悪かったことには気が付かなかっただろうね」
一度おれは顔を上げる。
「じゃあ、ちゃんと手で触れる方法と魔力補充の確認方法、この二つの課題をなんとかすればいいってことか?」
「多分ね」
ユウガオが横目で火花野さんの顔をみる。
「まずはそれでいいんじゃないか?その上で、まず絶対に直さないといけない点はここだ」
火花野さんが、報告書を開いて、製造方法の箇所に指を当てる。
「正直、作り方についても改良の余地があるが、それはまだいい。問題なのはここだ」
指をそのまま、手のひらに付けると記載している箇所に滑らせる。
「手のひらにつけて……使い方の部分ですか?」
「そうだ。そこが一番よくない。人の手なんか千差万別で、手にどれだけ粉が付着するかなんて、湿気で変わる。安定なんかする訳ないんだよ」
「でも、素手で触らないと補充できなくて」
「本当にそうなのか?魔道具も厚みがあるものだとダメだが、薄い革や布くらいなら使えるものが多い。粉はあるか?」
おれは、机の引き出しから粉の入った瓶を取り出して、火花野さんに渡す。
火花野さんは辺りを見渡して、魔力の抜けた風鈴羽と薄い布を机の上に持ってくる。
その布を机に広げて、粉をその上にだす。そして布をたたむことで、粉が入った包みができる。その包みを風鈴羽に押し当てると、風鈴羽が緑に淡く光った。
「あれ!?補充できた!?」
「いけそうだな」
なぜかできないと思い込んでいたみたいだ。ユウガオも納得いかないような顔を浮かべたが、すぐに表情を切り替える。
「補充の速度は落ちているみたいですね」
「あぁ。その辺は普通の魔道具と一緒だな」
「ただ、この方法なら一定量の魔力を送り込める」
「その通りだ」
火花野さんは、あっさりと新しい使い方を示した。
昔から手につけて使っていたせいか、他の方法なんて考えてもいなかった。
おれは肩を落とす。
「何でこんな簡単なこと思い付かなかったかな……」
火花野さんがおれの肩を叩く。
「終わってみれば単純だけど、やってる最中ってのは案外思い付かねーからな。それくらい思い込みってのは根深い。まぁ、次に気が付けるようになればそれでいいってことだろ」
「……そうですね。次は気づく様にします!ありがとうございます」
さらにトントンと肩を叩くと、火花野さんは粉を包んだ布に視線を移す。
いい人だ。
「後は、魔力がどれくらい入ったかの確認方法なんだけど、これ使えないかな」
ユウガオが自分の机から何かを持ってきた。
「魔力測定器か」
「そうです。粉の形状だと測定は難しいかなと思ってたけど、包んだ状態なら行けるかもと思って」
「ただ、その測定器は結界の魔力で常に微妙に動いてるから難しいんじゃないか?」
「大丈夫です。ほら」
ユウガオが持っていた測定器を渡す。
「普通の測定器……じゃないな。結界の魔力の影響を受けていない」
「はい。達じいに作ってもらいました」
「達さんの作品か……相変わらずとんでもない腕だな。量産できるのか?」
「……無理です。特注って言われました」
「だろうな。まぁ今はそこは関係ねーな。試してみるか」
測定器を火花野さんから渡される。ユウガオをみると頷いたので、手元の包みに当ててみる。
「おお!」
思わず声が出た。
手元の測定器の針が確かに動いていた。
「やった!いけそう!」
「そうだな。そのまま魔力補充できるか?」
「やってみます!」
包みを持った状態で測定器をあてるのは難しいが、なんとか補充を試みる。
先ほど同様に風鈴羽が緑の光を放ちだす。すぐには測定器の針は動かず、覗き込んでいた三人がさらに顔を測定器に近づける。
「いま、うごかなかった?」
「いや、そう見えただけじゃないか?」
「なんか動いてる気もするが、どうだ……」
そのまま様子を見続ける。
「……やっぱり動いてる!さっき針はこの細かい傷のあたりにあったけど、今はここまで来てる」
「確かに動いてるな!ちゃんと補充された分だけ包みの魔力が減ってそうだ!」
針が止まったところで、包みから粉を取り出して手で直接補充を試みても、同様に光ることはなかった。
「確定だな。その特注の測定器を使えば補充量を明確にできる。結界の魔力が影響しないなら、飛脚靴側の魔力も確認することで、バランス調整できるだろう」
「因みに、魔力も測定せず、飛脚靴はどうやって最初に左右の魔力を揃えてるんですか?」
火花野さんに気になって聞いてみる。
「素材を削ったりして大きさを揃えているな。大きさと色がある程度魔力総量に関係しているのはわかっているからな」
確かにその方法なら最初は揃えることが出来そうだ。魔道具は色々考えられているんだと、勉強になる。
ユウガオは、手を一度パンっと叩いて、顔を上げる。
「これで二つの課題は解決の目処がたったね」
「そうだな。だけど一度飛脚靴で試してみたいな……」
「確かにね……」
「そうだ!おれの部屋にある統括長からもらったやつで試してみよう!取ってくるから待っててくれ!」
ユウガオに許可をもらって、おれは一室を飛び出した。朝とは全然気分が違う。部屋に戻って、靴を回収し、走ってすぐに一室に戻る。肩の痛みはあるはずだけど、全く感じなかった。
「はぁはぁ……お待たせ……」
「はや!そんな急がなくてもいいのに」
ユウガオがクスクスと笑う。
「早く試したかったんだよ。それよりこれ」
持ってきた靴を机にだす。
「おぉ!古い飛脚靴だな!懐かしい!」
火花野さんが靴を手に取り、靴を色々な角度から眺める。
「あの……」
「あぁ。悪い。久しぶりに見て嬉しくなっちまった。この型式なら今と構成はそんなに変わらないはずだから、試すには十分だ」
「よし、やってみよう」
靴を返してもらい、新しい包みを持つ。
測定器を当てながら靴の中に手を入れるのは無理そうなので、包みの魔力を測定してから、靴底に入れて手を触れる。
「補充しやすいな。包みは成功だ!ただ手を押し付け続けるのは少し辛いな。あと、測定器が入らないから、どれだけ補充したかわからない」
包みを取り出して、測定してみる。
「補充は出来てるな。魔力が減ってる」
「それなら、反対の靴も同じだけ補充すれば、バランスは取れるかな」
反対の靴にも同様に補充してみる。同じくらいの時間で補充をやめて量を確認する。
「うーん。補充量が少し違うな……。手の当たり方が少し違ってたから、その差が出たのかな」
「かもな。厳密には当たる場所で差が出てるのかもしれない」
「うーん。そうだ!それなら包みの重さを揃えて、一つ一つ補充し切ることにすれば良いんじゃない」
「ダメだな」
靴を見ながら火花野さんが割って入る。
「そもそも、最初から飛脚靴に残っていた魔力がズレてた場合、どうするんだ?」
「あ」
「あと、その方法だとしても手の当たり方が変わってしまう問題は解決してない」
考えれば考えるほど、新しい課題が出てくる。ただ補充するだけじゃダメということが、身に染みる。
「火花野さん、何か方法思いつきますか」
「うーん。今はまだ。とりあえず検証の為には、もういくつかの靴が必要そうだな」
「そうですよね。ただ持ってなくて。討伐隊でも足りないと言っていたから手に入るかどうか……」
「……わかった。とりあえず、今日はここまでにして、お互いに方法を考えてきてくれ。おれは飛脚靴を手に入れてくる」
「手に入るんですか?!」
「まだわかんねーな。まぁ、試してみるさ」
火花野さんが頼もしい。
おれたちは一度解散となり、火花野さんは外へ、ユウガオはそのまま一室で測定器を見つめており、おれは加工室へ、それぞれ動き出した。
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