再挑戦と協力者
食堂で花籠と別れて、ユウガオと一室まで戻った。
一室に入ると、知っているメンバーは全員部屋にいた。火花野さんは加工室にいた時のように、木堅持手を手元でクルクル回していた。
机から報告書を出して、実証試験部分を開く。ユウガオが近づいてくると、報告書を見る。
「それじゃあ、水の魔道具の現状と実証試験の結果を書こうか」
「……ユウガオさ。さっきの花籠の話聞いただろ」
「……そうだね。太刀戌さんが期待してくれてたみたいだね」
「正直さ。おれはびびってるんだよ。あの時、花籠や太刀戌さんの期待を裏切ってしまったという無力感が忘れられない。例えどんなに準備したとしても、また昨日みたいになるんじゃないかってな」
自分でもなんであそこまで焦ったのか、初めはわからなかった。それでも、あの時のことを思いだすと、決まって心苦しくなるのは、魔力補充できたんじゃなかったのか?と、太刀戌さんから言われた時めの顔だ。
あの顔は、怒りではなく落胆だった。
「そうだね。わたしもできれば、飛脚靴の方が書いて見たいなって思う。でも書くには成功例がないし……」
「びびってるだって!いいじゃねーか!」
窓際に座っていた火花野さんが、手を叩きながらおれらに近づいてくる。
「真剣に悩んでる人を馬鹿にしないで下さい!」
「いやいや。バカにしてねーよ」
ユウガオか珍しく声を荒げる。
その勢いに、おれはむしろ冷静になる。
この人は、今朝も嫌味と思われる言葉を、当たり前かの様に言っていた。
もしかして、この人……
「びびってるのがいいって言うのはどういうことですか?」
ユウガオを落ち着かせながら、話を促す。
「お。おまえは今度は落ち着いているな。いいぜ、教えるよ。だが、ほとんどそのままの意味だがな」
「そのまま?」
「そうだ。びびってるってことは、失敗を想定しているってことだ。開発品なんて失敗するもんだ。それに対して自信満々のやつの方が信用できないね。びびって、対策して、さらにびびって、また改良して。そして、いい魔道具が生まれるんだ。だからこそ、びびってるくらいがちょーどいいんだよ」
その説明は、腑に落ちるものだった。
ユウガオも納得しているようで、目を丸くしながら黙って聞いていた。
そして、さっき思いついたことが確信に変わった。
火花野さんは悪い人でも、嫌味を言う人でもない。言い方が直線的過ぎるだけで、教えてくれようとしているんだ。
「確かに……そうかも知れないです。昨日のおれは、同行に対して、楽観的だった。むしろ、何ができるのか楽しみで、びびる気持ちなんかありませんでした」
「別にそれは悪くない。楽しむことも必要なんだよ。楽しさ半分ビビり半分。要はバランスが大事って話だ」
そう言いながら、火花野さんは木堅持手を指先で器用に支え、落ちないように揺らしながら笑った。
器用だと思っていると、持手を握り直して、火花野さんは、ユウガオとおれに持手の先端を向ける。
「さっき夕顔も言っていたが、飛脚靴の補充をやりたいんだろ?」
「はい。やりたいです」
結局、この結論だ。だからこそ、女々しくも誰かに否定してほしいと思っていた。
「ただ、じゃあどう書けばいいかってことがわからなくて。実証試験は失敗したので」
「そもそもまだ試験中なんじゃないのか?」
「え?」
「考え方だよ。一回失敗して、次の挑戦が許されないなら、開発なんて進まねーよ。失敗した時、まずやることはなんだ?」
「……なんで失敗したかを考えることですか?」
「わかってんじゃねーか。じゃあうだうだ悩んでないで、それをやるんだな。そっからどうするか考えろよ」
そうだ。とにかく、やってみる。おれはそんな考え方をしていたはずだ。今回の失敗でその部分も気づかず無くしてしまってたみたいだ。
火花野さんの話で、ようやく自分を取り戻した。
「ありがとうございます!やってみます!ユウガオ?報告書は後だ。まずは、飛脚靴の補充が本当に難しいのかをやって見たい。どうだ?」
ユウガオを見る。
「そんなキラキラした顔されたら仕方ないね。じゃあ、1週間!その期間やって見て、ダメそうなら水の魔道具だけにしましょう」
「……だけ?うまくいったら飛脚靴のことを書くんじゃないのか?」
「何言ってるの?二つとも書くよ!どうせなら全部書かないと!この一週間は、水の魔道具についての報告をまとめながら、飛脚靴の検討をするからね!」
ユウガオがおれ以上にやる気に満ちていた。ユウガオも悩んでいたみたいだし、よかった。
「美味しいとこ全取りか!いいじゃねーか。開発者はそうでないとな!」
「……火花野さん。第1にいたんですよね?」
急にユウガオが火花野さんに顔を向ける。その目は、獲物を見つけた猫のように鋭い。
「ん?そうだな。それがどうした?」
「飛脚靴について、詳しいですよね?」
そういうことか!おれはユウガオの考えを察して、後退りしている火花野さんの後ろに回り込む。
下がっていた火花野さんが、おれとぶつかりギョッとする。
「いや。おれも忙しくてな……」
「加工室にいますよね?」
「ぐっ?」
物理的だけでなく、言い訳の逃げ道も塞ぐ。
「いや、でも俺は……え?」
火花野さんが、おれやユウガオの後ろを見て驚く。つられておれも後ろをみると、一室のみんなに取り囲まれていた。
「火花野くん、手伝ってあげなよ。後輩が困ってるでしょ」
「手伝うべき。名誉挽回……取り戻す程の名誉を持っていませんでしたね。汚名返上してください」
「新人の手伝いが、勘を取り戻すのにちょうどいいだろう」
それぞれが火花野さんに手伝うようプレッシャーを与える。
「お願いします!手伝ってください!」
おれからも正面からお願いした。
「わ、わかったよ!手伝うから、取り囲まないでくれ」
火花野さんは降参だと両手を挙げていたが、その顔が少し楽しそうに見えた。




