所長の助手
視点変更です。
さっきまでの田園風景が終わり、民家が増えてきた。目的の宿屋も近づいているのだろう。日が暮れる前に着きそうだ。
「それにしても、圧巻の畑と田園の広さでしたね。流石はここ一帯の食糧を賄っているだけありますね」
「そうですね。何度見ても気持ちのいい風景でしたね」
馬車から外を見ながら木蓮所長に話しかける。長い移動の終わりが見えて、安堵しているように見える。六十を越える所長には、少々つらかっただろう。
「お水飲みますか?まだまだ余裕があるので、たっぷり出せますよ」
「さっき飲んだばかりですよ。そんなに気を使わなくてもいいですから。」
「そ、そうですか。失礼しました。」
またやってしまった。どうも手持ち無沙汰になると、お節介してしまう。所長に面倒だと思われただろうか。あぁーもう。
やがて、炭や肉の焼ける匂いが空気に混ざり始めた。
「女性二人旅も終わりが見えてきましたね。護衛もいますが。今までの旅は男性所員の同行しかなかったので、新鮮で楽しかったですよ」
憧れの所長に楽しかったと言われ、気持ちが上がる。私も楽しかったと伝えなければ!
「は、はい!私も初めての魔力補充をお供できて嬉しいです!次が最後ですが、終わるのが寂しいくらいで……」
くぅぅぅぅ
「⁉︎」
咄嗟にお腹を押さえたことで、何の音だったかがバレてしまう。思わず動きが止まる。
「ふふふ。お祭りですからね。きっと美味しいものもあるでしょう。楽しみですね」
恥ずかしい!こんないい匂いがしてきたせいだ!あぁー!所長に食いしん坊だと思われる!いやぁ!
「はい……楽しみです」
所長は赤面している私をニコニコしながら眺めたあと、ふふふと笑いながら、外に目をやる。
私も釣られて外を見る。
風景が民家に変わっている。
木造建築がほとんどだ。
「この辺りは昔の建築ばかりです」
「そうですね。この辺りは特に強い結界の中ですからね」
「中央ではあまり見ないです」
「おそらく全て人の手で建てたのだと思いますよ」
木で出来ているにもかかわらず、脆そうには見えない。中央の建築は、土の魔道具を動かすことで基礎が出来上がり、壁も床も作ることができる。だから、どうやって木だけで作られてるか想像できない。生えている木を削って、そのまま柱にしているのだろうか。
「ただの飾りに見えている部分にも細かい工夫があるのです。魔道具無しでも、いろいろとできるものですよ」
「そうなのですね」
所長は魔道具に頼り過ぎないよう、よく所員に話している。ただ、正直あまり実感がない。道具が魔道具の代わりになるなんて、とても想像出来ない。
そんな話をしていると道が広くなり、『蛍火街灯』が真っ直ぐ整列していた。
「あ、これが噂の蛍道ですね。綺麗……」
「ええ。風情がありますね。昔使われていた提灯という灯りを参考にしたらしいですね」
「ちょーちん……ですか?」
「ええ、祭りといえばこれがないと始まらない道具だったみたいですね」
いつもながら、よく知っているなと思う。所長は歴史、特に魔物が現れる以前、いわゆる『日本時代』と呼ばれている時代が好きで、時々こういう話を聞く。
「さて、宿屋に着いたらあまり話せなくなるので確認しましょう」
「はい」
「宿についたら暫くは待機です」
「すぐに祠に行かないわけですね」
「ええ。出発は深夜です」
これまでの場所とは全く違う。
やはりここは特別だ。
「やはり結界魔道具は違いますね」
「結界魔道具だからというわけではないですよ。作業を見られたくないですからね。」
「あ、はい。そうですよね。」
そう。今回の作業は見られてはいけない。というより、あの祠の意味を知られてはいけない。
「町の人は魔道具のことを誰も知らないんですか?」
「いえ、歴代の町長だけは知っています。撤去なんてされたら大変ですからね。」
「確かに。では私たちの訪問目的も……?」
「知っています。ただし、町の人には監査と言ってもらっています。」
「監査ですか?」
私たちの目的が言えないことは分かるが、監査で通じるんだろうか。
「そうです。収穫量についてですね。ただあくまで建前ですから何もしなくていいですよ」
「それだと怪しまれませんか?」
「私たちの動向を気にする人なんていません。今日は祭りですから」
そのタイミングで護衛の討伐隊員から着きましたと声がかかる。
馬車から降りると、目の前に目的の宿屋があった。
その宿の前には一人の女性が私たちを待っていた。
「お待ちしておりました。月光亭へようこそ」




