肩書の長い偉い人
キバを貰えなかったショックから動けずにいたが、日が沈み、あたりが一気に暗くなったところで、我に返る。
「さてと」
ここからが本番だ。先ほどのキバなど気にならないくらい素材が集まるに違いない。だから気にしない。気にしない。欲しかったけど。
祭りの会場である広場には、それなりに人が集まってきている。
出店は串肉もあるが、基本は団子や汁物が多い。この辺りは穀物を主に育てているので、その影響だろう。様々な匂いが空きっ腹を刺激する。
食べ物以外だと、生地だったり装飾品の店を見かける。毎年の光景だ。
ちなみに、未だ客はゼロだ。
誰も来そうにないので、一旦店を離れて、団子屋で軽食を買った。
この町の食事は全部美味い。この祭りには他の町からも食べ物を求めて人が来る。それもあっての、この盛り上がりだ。
「今年も店を出してるみたいだな」
店の椅子に座って買った団子を食べていると、正面に人がやって来た。もちろん姿は見えていたが、話しかけられていなかったので、気づいていないフリをしていた。だが、話しかけられてしまった。
「町長さん、いらっしゃい」
団子を飲み込み、立ち上がりながら答えた。
「去年と全く同じ店舗だな。買取だから置くものも無いし、当然か」
「そうですね。何か御用ですか?」
「いや、見かけたので声をかけただけだ。半年前のお礼も改めてと思ってな。あの時は助かった」
買取じゃ無い事がわかり、少しだけ声が低くなる。
「いえ、特に大した事もしてないので」
「謙遜するな。お前が一瞬でも土を動かしてくれたおかげで、予定通り水を引き入れることが出来た。まさか、お前が駆けつけてくるとは思わなかったぞ」
「駆けつけたわけではないです」
「そうだな。魔道具を見に来たんだったか?それでも助かったことには変わりない」
あの時は確かに町は騒ぎになりかけていた。それもそうだ。あの時期に田んぼへ水を引けなければ、稲が全滅していた。この町は多くの町の食糧生産を担っていると聞いたことがある。町長は気が気でなかっただろう。
「しかし、後から来た組の人が驚いてたぞ。いや、疑っていたかな。一度止まったら動くはずがない。きっと土を自分で掘ったんだろうって。こっちは、お前が触った途端に動いたところを目の前で見たと言っているのにな」
「きっと少しだけ動く余地があったんでしょう。叩いたら動いただけです。伝統的な修理方法の1つですよ」
「確かにな!物も人も叩けば嫌々動くもんだ!」
町長はニカっと笑い、会話の終わりを感じ取る。客じゃ無い人は去れ!と心で主張してみる。
「それはそうと、もう1つお礼を言わないとな!お前のところの宿が、急な予約を受け入れてくれて助かったぞ」
「あーあの偉い人の予約……」
言われて、母さんとの会話を思い出す。
「あの客、何者なんですか?母さんが把握してなくて。立派な肩書きみたいですけど……」
「知らないのか?第2研究所は半官半民の機関の1つだ。まぁ一般的なのは別名の方か。魔素材応用開発局だ」
「え」
驚いて言葉が出なかった。
「あの魔素研ですか?」
「そうだ。有名なのは、第1や第3かもしれないが、よく略称まで知ってるな」
当たり前だ。魔素研は魔道具を生み出している研究所だ。
「な、な、なんで」
「来ているのはそこのトップである木蓮所長と部下の方々だ」
「ほ、本当に偉い人じゃないですか!」
「偉い人ってお前な……。宿泊を頼んだとき、ちゃんと伝えただろうが」
きっと母さんは途中から聞き流していた事が容易に想像できる。晩御飯の献立でも考えていたに違いない。
「そうなんですか。でも、どうしてそんな人がこんな辺境の町に?」
「……確か監査に来るという話だったな。農作物関連魔道具の確認と言っていたな」
あ、嘘だな。お釣りを誤魔化そうとしている客と同じ目をしている。
「所長自らが監査?」
「一応ここは有数の農産地をまとめている町だからな。そういうこともあるんだろう。いつもは町外れの祠あたりの宿屋に泊まって町の中央までは来ないんだが、あの宿屋は閉じてしまったからな」
誤魔化そうとしているなとは思うが後半は本当だろう。その宿屋が閉じたのは本当だ。
偉い人なわけだから、話せない事もあるんだろうと理解して、意識を切り替える。
「そうなんですね。じゃあおもてなしをしないと。」
「そうだぞ。無礼があったとなれば町の面目、ひいては町長の面目が丸潰れだ。くれぐれも失礼のないように頼むぞ」
「もちろんです。あー木蓮所長かぁ。そんな人なら珍しい魔道具いっぱい持ってるんだろうなー。……もしかしたら持って来てるかも?え?可能性あるよな……。聞けば教えてくれる?掃除のフリすれば触れるのでは……!?」
話が変わってホッとしたのも束の間、ブツブツと独り言のように怖いこと言い始めたおれを見て、町長が青ざめる。
「おい、本当に無礼だけはするなよ!ダメだからな!聞いてるのか⁈」




