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剣なき英雄譚 〜魔道具研究開発録〜  作者: 博雅
第三章 粉実証試験編 -監視所の異変-
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補給任務同行(2)

「二人とも、監視所が見えたよ」


 花籠の言葉で、前に見える建物が監視所だとわかった。 

 ようやく着いた。討伐隊三人の歩くペースが山道に入っても落ちず、後半はついていくのに必死になった。

 横ではユウガオも安堵の表情をしている。


「特にペースに気を遣わなかったが、よくついてきた。流石に話す余裕は無さそうだな」

「はい……、ふぅ……、ご迷惑かけずに済んで……、よかったです」


 太刀戌さんに話しかけられたが、喋ると息が乱れて、喋り方が辿々しくなった。

 前を見ると、監視所から討伐隊らしき人が出てきて、手を振っている。太刀戌さんが手を振りかえす。


 そのまま、森を抜けた。

 視界が開けると、草原が広がっており、向かいの山の麓まで広がっていた。その草原に少し入ったあたりで、管理棟のように白い石でできた家が立っており、その家の横に高い櫓があった。


 監視所に到着すると、太刀戌さんが監視所から出てきた三人と挨拶をしていた。

 おれとユウガオは、梁と花籠に近寄る。


「補給の様子を見させて。というか手伝うから、指示を頂戴」

「ほんと?じゃあ、まずは監視所から、夏物の備品や古い道具が搬出されるから、それらを馬に載せられるようにまとめてくれる?」

「わかった」


 ユウガオと花籠でやることが決まった。おれは建物の入り口で荷物を外に出している人に近づいた。


「この辺のものは回収していいですか?」

「よろしく。ここに置いたやつは、全部持っていってくれ」

「分かりました」


 おれは、地面に乱雑に置かれた布団をまとめて、花籠たちのいるところへ運ぶ。

 その布団の様子をみて、花籠が肩を落とす。


「このままだと馬で運べないから丸めてって毎回言ってるのに、またこんな状態で……はぁ」

「確かに、このままじゃ運べないな。まとめて丸めていいか?」

「ありがとう。なるべく均等になるように二つに分けて丸めて」

「わかった」


 おれは、おおよそで二つに分けて、布団を縦に二つ折りにする。その上に乗り、空気を抜きながら布団を丸める。そのまま、紐で結べば持ち運びやすいくらいのサイズで丸めることができた。これと同じ要領でもう一つも丸めて、花籠に見せる。


「おー!うまいね!ちゃんと空気も抜いてくれてるし」

「実家の宿屋でよくやってたから」

「宿屋出身か!それは布団の扱いは得意な訳だね」


 そのまま、布団の塊二つを花籠に渡して、監視所に戻る。

 大きな箱が置いてあり、上が空いていた。その中には水差しの取手のようなものが大量に入れてあった。


「おぉ。これは流水瓶の取手か?」


 流水瓶は水を出す魔道具だ。うちにもあるし、研究所にもある。一般的な魔道具だ。しかし、取手だけの状態は初めて見た。

 その一つを手に取る。


 流水瓶は取手に素材が使われていて、注ぐ時に起動することで、水が出てくる仕組みだ。この取手にも既に色が失われているが、魔物素材が使われていた。

 違うのは水差しと取手を繋いでいた箇所。ここがネジ穴になっている。


「もしかして、水差し部分と取手が取り外し可能で、取手を変えればまた使えるという方式なのか……」


 面白い。見たことがないが、合理的だ。水差し自体は大きいので、毎度入れ替えていたら大変だ。


 そのまま、荷解きを手伝っていたユウガオに持っていった。


「ユウガオ、これ見てくれ」

「これは、水差しの取手?」

「こうやって運用してるらしい」

「……なるほどね。取手だけ補充してるんだ」

「多分な。空になった取手が200以上はあった」

「おそらく、180本だ」


 梁が横から教えてくれた。


「なんでわかるんだ?」

「一人につき、一ヶ月三十本と決まっているからだ。今回は三人が駐在していて、二ヶ月ぶりの補給だからそれくらいはあるはずだ」

「そんなにあるのか。でも全部使ってるとは限らないだろ?」

「いや、おそらく全部使っている。ただでさえ川や雨の水を活用するくらいギリギリなんだ。補給の前日には、みんな浴びるように水を使ってストレス発散するのが通例だ」

 

 なるほど。確かに三十個の替えがあるとしても、所詮水差しだ。水が全然足りないことは容易に想像できる。


 その後も、ユウガオとどんな備品が搬入されているのかを一緒に見学した。


 そして、最後に搬出されてきたものが目に入った途端、テンションが上がった。


「あ!飛脚靴!それが5足も!見てみろよ、ユウガオ!前もらったやつと形が違うぞ!」


 統括長からもらった飛脚靴よりも新しくデザインがカッコいい。何というか、シンプルなフォルムをしている。

 ユウガオが横で呟く。


「かっこいい?」

「あぁ!見た目はただの革靴なのに、高性能な魔道具なんだ。しかも、見た目に一切の無駄がなく、かといってしっかりと革靴特有の味がある。まさに機能美だ!」

「そう。なんか、久しぶりにその状態をみたよ」

「その状態?」

「魔道具見て騒いでる状態。飛脚靴はもらってたでしょ?」

「そうだけど、見てみろよ。デザインが全然違う」


 ユウガオと二人で話していると、搬出された飛脚靴を梁が回収し始めた。急いで梁に近づく。


「おーい。それも補給なのか?」

「そうだ。これも交換する」

「これは素材部分だけの交換じゃないんだな」

「靴ごと交換だな。流石にさっきの取手のようにはいかない」

「そうなんだ。これはもう使わないのか?」

「そうなるな。廃棄だ」

「履いていいか?」

「は?」


 梁が、こちらに変なものを見る目を向ける。ちなみに、ユウガオはだいぶ早めに同じ目をおれに向けている。


「なんでだ?」

「ちゃんと履いたことがないんだ。一個持ってるんだが、サイズが合わなくて履けないんだ」


 統括長からもらった靴は、履いてみたが靴のサイズが大きすぎてうまく履けなかった。統括長とおれの身長差から考えれば当たり前だ。


「そうじゃなくて、なんのために履くんだ?」

「履きたいからだ。履いてみたいんだ」

「……まぁ、履くくらいならいいんじゃないか」


 はぁとため息をつく梁をよそ目に、おれは早速履いてみた。


「おぉー。少し重いな」


 靴を履いた足で軽く歩いて見る。少し歩きにくいくらいだが、もっと気になることがある。


「土踏まずあたりになんか出っ張りがあるな」

「魔道具の木堅板よ。それが靴の中の柔らかい木の板を鉄くらい硬くすることで、バネのようにして加速するの。コツがいるけどね」

「なるほどな……これ魔力補充してみたらダメかな」

「……捨てるらしいし、補充ならいいんじゃない?」


 さっそく、履いていた飛脚靴を脱いで、手のひらに粉を準備する。靴の中の底部分に手のひらをつけないといけないので、だいぶ手間取ったが、補充することはできた。

 さっそく履いてみる。


「魔道具を使って……、ほんとだ!靴底が硬くなった!」


 初めての感覚が面白い。

 少し走ってみる。


「……走ると足が痛いな。特に速くならないし」

「ずっと硬くするんじゃないよ。走ってる時の足を踏み込んだ時だけ硬くして反発させるんだよ」


 花籠が荷物を持って、こちらに近づきながら教えてくれた。


「タイミングが難しいな。というかできる気がしない」

「討伐隊でも練習しないと出来ないから。むしろ最初からできるって言われたらショックだよ」


 花籠は肩をすくめる。おれは飛脚靴を脱ぐ。


「というか、本当にその靴に魔力が補充できたんだね」

「そうだな。補充はできそうだ」

「それ画期的。飛脚靴は汎用的に使うけど、使う場面が多いから、交換頻度が高くて。でも、そんなに多く出回ってる訳でもないから、みんな節約して使うの」

「それなら役に立てそうだ」

「そうだ。試しにその五足全部魔力を補充してよ。そしたら、ここの監視所の人も助かると思う」


 補給部隊からの要望だ!こういう状況が欲しかったんだ!

 内心喜んでいると、ユウガオが顔を曇らせる。


「うーん。それは厳しいかも。まだ飛脚靴での検証が……」

「何言ってんだよ、ユウガオ!まさに、こういう話を聞くために来たんだろ!」

「そうだけど、調査に来たんだよ。実際にやりに来たんじゃない」

「でも、補充自体はさっきできたじゃないか!しかも、補充すれば助かるって。誰も損しないだろ」


 自分の作ったものが評価されて、使ってみたいと言ってくれている。しかも、使ったら助かるって。

 自分の生み出したものが喜ばれることを初めて実感して、嬉しくなり、必死でユウガオを説得した。

 

「……わかった。確かに補充はできてたし。ただ、使う前にちゃんと太刀戌さんに――」

「ありがとう!じゃあ他のもやってみるか!」


 善は急げだ。

 残りの靴も魔力補充をする。靴の中に補充する場所があるため、やはり補充しづらい。魔力補充ができた目安としていた素材の光が見にくいため、補充後の色を見て魔力がはいったことを判断した。


「ちょっと!もう!」


 ユウガオは諦めたように肩を落とした後、特におれを止めることなく補充作業を見ていた。

 その後は、やりやすい方法を考えながら、全ての補充を終えた。


「花籠。終わったぞ」

「お!全部魔力戻ったの?」


 花籠が靴の中を覗く。


「おー。ちゃんと色が戻ってる!やるじゃん!」

「おう。ありがとな」

「こっちこそだよ!早くそれ実用化してよ」

「だな!頑張るよ」

「じゃあ私、この補充したやつ持っていくよ」

「あ!花籠!私たちも連れて行って!太刀戌さんに話しておきたいから」

「わかった!じゃあ行こうか」


 三人で監視所の前に行くと、駐在していた討伐隊と太刀戌さんが話しているところだった。


「太刀戌隊長!飛脚靴についてご報告があります」


 花籠が良い話ですよーとニコニコしながら、靴を出す。


「今回、飛脚靴は在庫がなく廃棄分を持ち帰るだけとなっていましたが、五足補給できそうです」

「どういうことだ?」

「第2研の二人の協力です」

「どういう……なるほど、あの開発品を使ったのか」

「はい」


 太刀戌は花籠から靴を覗き込み、素材部分を確認する。


「確かに色が戻っているな。補充できたと考えていいのか?」


 太刀戌さんは視線をこちらに移す。


「はい。補充できていて、起動することも確認しました」

「なるほど。いや、それなら助かる。飛脚靴は監視所では在庫しておきたかったからな」

「隊長。靴の補給がきたのですか?」


 さっきまで太刀戌さんと話していた隊員が太刀戌さんに問いかけていた。その目は期待に満ちている。


「そのようだな」

「やった!それならずっと治したかった櫓の補強ができる。節約してたから出来なかったんですよ。一足いいですか?」

「どうぞ」


 花籠が靴を渡す。早速履いて、感触を確かめる。


「よし。じゃあ、自分は作業します」

「わかった。行っていい」


 許可とともに、隊員は後ろを振り向く。ググッと膝を曲げると、一気に家の屋根まで飛びあがった。


「すごっ」


 思わず、感想が漏れる。


「飛脚靴はあんな使い方ができるのね……」


 ユウガオもぽかーんと飛びあがった隊員を見ていた。

 その隊員はよろめきながらも、屋根の上に着地し、さらに上に登っていった。


「さて、これで補給作業は終わりだな。俺は隊員とまだ話すことがあるから、昼食をとってきてくれ」

「わかりました」


 それから、監視所から少し離れた開けた場所で、ユウガオ、花籠、梁とおれの四人で昼食をとることにした。

 各々持ってきたものを出して、地面に座る。


「なぁ。梁と花籠も飛脚靴使えるのか?」

「使えるは使えるよ。討伐隊は部隊に関わらず、みんな使い方を習うから」

「いいなぁ。おれも履きたい……あんな風に跳びたい」

「今は、飛脚靴自体手に入れるのも難しいと思うよ」

「そんなぁ」

「じゃあもし手に入ったら言いなよ。使い方教えてあげるからさ」

「ほんとか!それなら絶対手に入れないと……」


「第2の二人!!こっちにこい!!」


 大きな声がした方を見ると、太刀戌さんが睨みつけるような顔でこちらを見ていた。

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