補給任務同行(1)
翌日の朝、第2研究所の前でユウガオと合流した。ユウガオはいつもより大きい鞄を背負って、動きやすい格好で帽子をかぶっていた。
「おはよう。帽子を被ってるの珍しいな」
「おはよう。まぁ、一応ね。ここから長距離歩くのよ?髪がボサボサになるのも嫌だし」
「他の人は、髪を気にしないと思うけど」
「他の人からどう見られるかというか、私が嫌なの。この辺はたぶん分かり合えないわ。他の人は気にしてないとか言える、デリカシーの無いあなたとは特にね!」
怒らせたみたいだ。原因がわからん。分かり合えないのは間違いなさそうだ。
「忘れ物はないよね」
「とりあえず、食べ物と水はある。これがあれば、とりあえず迷惑はかけないだろ」
カバンの中をガサゴソと探りながら答える。
「じゃあ行きましょう」と、ユウガオと共に出発した。
集合場所は森側の門。つまり、おれがここに入った時の門だ。
門は歩いてすぐなので、少し歩いただけで、討伐隊の人達が目に入る。
荷物を積んだ馬一頭と討伐隊の服を着た三人が見えた。事前連絡によると、これで全員だったはずだ。
三人もこちらに気づき、こちらを見ていたので、早足で近づく。ある程度近づいたところで、ユウガオが一歩前に出る。
「おはようございます。第2研究所の夕顔です。こちらは同じく第2研究所の月燈です。本日はよろしくお願いします」
「おはようございます。月燈です。本日はご同行の許可を頂き、ありがとうございます。よろしくお願いします」
ユウガオに続いて挨拶した。すると、三人の討伐隊のうち、最も年上と思われる人物が、前に出てきて手を差し出す。
「おはよう。私は今回の補給任務の護衛兼指揮を務める、討伐部隊の太刀戌だ。よろしく」
ユウガオと握手をしたあと、おれとも握手をした。背が高く、年は四十から五十くらいだろうか。短髪の中に白髪が混ざっているが、体付きがよく、圧力がある。その割には話し方が柔らかく、なんとなく喋りやすそうな印象を受けた。
太刀戌さんは後ろを振り向いて、残りの二人に前へ出るように促す。
「こちらの二人は、補給部隊だ」
「補給部隊の梁です」
「同じく補給部隊の花籠です。よろしくね」
残りの男女も紹介を受け、挨拶する。
男性の梁さんは、同い年くらいの男の人だ。ただし、おれとは体つきが違う。さすが討伐隊だ。
女性の花籠さんは、活発な女性といったイメージだ。短髪の髪で褐色に焼けた肌だから、そう見えるのかもしれないが。
ただ、全員が腰に帯刀していた。遠目でしか討伐隊を見たことがなかったけど、いざ刀を持っている人が近くにいるだけで、圧迫感を感じた。
挨拶も早々に、太刀戌さんが取り仕切る。
「今回のリーダーは私が務める。第2の二人は、今日の予定は聞いているか?」
「はい。目的は、結界縁部にある監視所での監視任務隊員の夏用備品回収と冬用備品搬入です。徒歩にて片道約二時間と聞いています」
ユウガオがスラスラと答える。おぉカッコいいと、心の中で拍手する。
「その通りだ。第2の二人の目的も共有しておこう。一応聞いているが、二人から説明を頼む」
ユウガオが答える。
「はい。私たちの同行目的は、魔道具がどのように活用できるのかを調査することです。討伐隊の負担となっている作業があれば、そこを軽減できるような魔道具開発をできないかと考えています」
ユウガオが目的を述べる。その話を聞いて、太刀戌さんの表情は変わらないが、補給隊二人が怪訝な表情を浮かべる。何かおかしなことをいっただろうか。
「概ね、私もそう聞いている。それでは細かい話は移動しながらしよう。少し早いが出発する。二人は荷駄馬の準備を。第2の二人は、私と共に馬の前を歩いてくれ」
「わかりました」
「不測の事態が起きたら、私の命令に従うように。それでは出発する」
梁さんが馬を連れてきたので、そのまま歩きだす。
初めての討伐隊同行は、こうして始まった。
門を出ると、久しぶりに視界いっぱいの自然が広がった。研究所は塀に囲まれているので、この景色に少しだけ実家を思い出す。
少し前を歩く太刀戌さんが、振り向かずに話しかけてくる。
「このまま、川にそう方向で北にむかう。そのまま森にはいり、森の終わるところに目的の監視所がある」
その言葉を聞きながら、今歩いている道に見覚えがあることに気がついた。
「もしかして、あの丘を超えたところにある町に寄るんですか?」
「いや、あそこまでは行かないな。あの町をよく知っているな」
「おれは、北にある結界の町出身なので、ここに来る時に通りました」
「あぁ。米の町出身なのか?」
「米の町?」
「あぁ。あの町は討伐隊では米の町と呼んでいる。米が美味しいし、豊富だからな」
知らなかった。でも、確かにわかりやすいし、米が美味しいと思われてることは嬉しいから、いい名前だと思った。
「いい呼び方ですね。おれも使います」
「そうね。あの第三なんとかって言う固い名前より私も好きだな。お米も本当に美味しいし!第2では、そっちで呼びましょう」
すると、すこし後ろを歩いていた花籠さんが声を掛けてくる。
「美味しいよねー。あの町のゴヘイモチ」
ユウガオが反応する。
「そうですよね!美味しいです!花籠さんも行ったことあるんですか?」
「花籠でいいよ。年近そうだし。あの町は補給部隊なら一度は行ったことあるよ。食糧の補給場所で、こっち方面に行くとなると、ほとんどの場合、あの町で調達するからね」
「じゃあわたしも夕顔で。確かにあの規模の田畑ですからね」
「そうそう。みんな行ったことあるよ。ハーリーもあるよね?」
花籠さんが梁さんのことをハーリーと呼んだ。梁さんの顔が歪む。
「初対面の人の前でその名で呼ぶなよ」
「みんなから呼ばれてるし、いいじゃん。恥ずかしいの?」
「そうじゃない。米の町だったな。おれも行ったことあるな」
梁さんが話題を変える。強引だ。
ただ、少し気になることがあったので、そのままさらに話題を変えることにする。
「そういえば、花籠さんは補給部隊で、太刀戌さんは討伐部隊って言っていましたけど、任務の内容は全然違うのですか?」
「月燈も花籠でいいよ。てか、全然違うよ!えっとね。討伐隊は役割で5つの部隊に別れてる。太刀戌隊長の討伐部隊は魔物討伐。物資補給や補給線維持の補給部隊。あとは、治安維持と調査、新人指導の役割を担っている部隊がそれぞれいる」
「おれは既に月燈呼びなんだな。いいけど。そうだとすると、魔道具の管理や運用とかは、補給部隊の仕事なのか?」
「主にはそう。ただ魔道具以外も当然扱ってるし、防衛兵器や武器の一部は討伐隊で管理してたりしてて、全部じゃないから」
役割がみんな違うんだなと思った。ただそうなると、粉を活用するのは、もしかしたら補給部隊がいいかもしれない。補給の二人の仕事をよく見ておこうと、紙を取り出して今聞いた話をメモした。
「うわっ!研究所の人っぽいね!メモ!」
「おい。からかうなよ」
花籠の発言を梁さんが咎める。全く気にしていないが、梁さんは気を遣ってくれたのだろう。
「梁さん、全く気にしてないから大丈夫です」
「そうか。あと、おれも梁でいい。花籠と同じ年だからな」
「わかった。ありがとう、梁」
その後も、補給隊の二人から色々なことを聞いていると、森が近づいてきた。
「ここからは森に入る。魔物はいないが、野生の動物にも注意が必要だ。その為、森に入ってからは監視所まで休憩しないので、ここで少し休憩する」
大きな木の下で、みんなで休憩する。夏も終わり涼しくなってきたため、風が心地いい。
梁は馬に水をあげながらブラシで撫でている。太刀戌さんは森側を監視しており、ユウガオとおれは水を飲んでいた。
水を飲みながら、花籠がこちらに歩いてきた。
おれたちの前に座る。
「そういえば、二人はどんな魔道具を作ってるの?」
おれはユウガオをみる。
「この人たちは今日の検証協力者だから、見せて大丈夫。ただ、情報が漏れるリスクもあるから、素材は話さず粉を使うだけでいいと思うよ」
「わかった」
おれは自分のカバンを開けて、瓶を探す。
花籠はぐいっと身を乗り出し興味津々だ。太刀戌さんと梁も気がつくと近くまで来ていた。
「まだ報告前なので内密でお願いします。これです」
粉の入った瓶をだす。
「瓶?これが魔道具?」
「厳密には粉の方だ。ここに魔力の切れた水の魔道具がある。これをこうすると……」
おれは粉を手につけて、魔道具に魔力を補充する。魔道具が光ったことで、討伐隊三人がおぉと声をだす。
色の戻った魔道具を起動すると、水が出てきた。
「こんな感じで魔力を補充することができるんです」
「へぇ!すごい補充速度だね!中級素材から補充する時は一日くらいかかるのに」
結界核でやっていた従来の補充方法を知っているんだな。さすが補給隊だ。
「そうですね。その速さと属性を選ばない性質が新しいと思います」
原材料の話はあえて避けておいた。一応だ。
「属性選ばないの?えーそれはすごいね!いろいろ使えそうじゃん」
「属性選ばないってのはいいな。属性によっては入手しにくいからな」
花籠と梁が属性の部分に食い付く。やはり属性を選ばない汎用性は価値がありそうだ。
「ただ、よく考えたら速さも魅力的じゃない?その速さなら補給する時間が大幅に減りそう。え?それ欲しいかも!」
花籠が盛り上がり始める。
「そうなんだ!だから、どういう使い方ができるかをこの同行で考えたいんだよ!」
「そういうことね!いいよ!考えてあげるよ!いいよね、ハーリー」
「あぁ。確かに補給隊にとって有用そうだ。おれも考えてみる」
「ありがとう、二人とも!」
ユウガオも笑顔になる。おれも早くも来てよかったと思い始めていた。
すると、口を閉じていた太刀戌さんがおもむろに口を開く。
「その粉、何でできてるんだ?」
おれとユウガオが止まる。なんで答えようか迷うところだ。
「すみません。まだそこは外部に言ってはダメなことになっていまして……」
「そうか。それなら仕方がないな」
すぐに引いてくれて助かった。追求されたらどうしようかと思った。
「そろそろ出発するか。一気に行くぞ」
太刀戌さんの号令で森に入って行った。
森の中で、先ほどの続きで、いろいろ聞きたかったが、山道を歩くのは楽ではなく、話す余裕はなかった。
無我夢中で歩き続け、気がつくと遠くに森の切れ目が見えた。そこには、石でできた四角い家と、木で組まれた櫓が見えていた。




