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剣なき英雄譚 〜魔道具研究開発録〜  作者: 博雅
第三章 粉実証試験編 -監視所の異変-
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製造方法

 パンばさみを持って第2研究所に戻ってくると、前を歩いているノッポさんを見かけた。


「ノッポさん!」

「お、月燈くんは食堂に行ってたんだね。それ、パンばさみ?」

「はい。そうです!他にも気になるものはありましたが、持ち帰り可能な食事がこれだけだったので」

「ゆっくり食べればいいのに」

「いえ!早くいろいろ試したくって!」


 談笑しながら、第2研究所に入る。朝と違い、素材加工の音が聞こえる。


 一室に着き、自分の席に座った。パンばさみを包み紙から出す。今日も昨日と同じ魚が挟んであった。肉の挟まった当たりはいつだろうか。


 しょっぱいパンばさみを食べながら、今日の予定を考える。さっき素材加工のやり方を教えてもらった。素材によって加工を変える。やった事がない。

 ただ、そのやり方を今から始めると、この短期間では間に合わない。


 だから、まずは自分のやり方をまとめる。これでいいはずだ。


 考えがまとまり、残りのパンを口に詰め込む。


 食事を終えて、準備を始める。素材は午前中に運んでおいたので、すり鉢や秤、あとは記録用の紙で、準備完了となる。

 素材や魔力線を粉にする工程は、基本的に問題なく報告書に書けると、昨日の夜ユウガオと話した。

 だから、今日は素材と魔力線の比率を調べる予定だ。その後はすぐに報告書作成に入ることになっている。

 

 比率を調べるために、まずはそれぞれの粉を準備する。素材は粉にしやすいキバ中心だが、もらった角の削りカスもある。まずは削りカスを試してみることにした。


「やり易い!こんな変わるんだ」


 削りカスをすり鉢で一分くらい擦るだけで、粉ができた。今後はこの方法一択かもしれない。それくらい作業性が改善していた。


「魔力線もやってみるか……」


 まずは、いつもの方法で魔力線の粉を今日の検証分作った。

 その後に、さっき聞いたことを試すことにした。


 細かく切った魔力線をすり鉢へ入れる。いつもなら少量ずつ叩いていくところだが、今回は多めに入れてみた。


「それから、素材の粉を混ぜるんだったな。……一応、量っておくか」


 机を叩いて怒っていたユウガオを思い出し、秤を取り出す。魔力線の重さに対して、一割ほどの素材の粉を加えた。その状態で、すり鉢ですり始める。


「どうだ?お?ちょっとやり易い?変わらない?うーん」


 やりやすくなっている気もするが、なってない気もする。すり鉢の壁面をよく見たりしていた。


「何してるの?」


 ユウガオが、真横からにょきっと顔を出してこちらを見ながら話しかけてきた。

 集中していて気がつかなかったため、ギョッとする。


「うぉ!いたのか。気がつかなかった」

「集中してたみたいだったからね」


 ユウガオがクスクス笑う。驚かせようとしていたみたいだ。


「で、何してるの?」

「さっき達じいに加工の仕方を教えてもらって、試してたんだ。結構効率が変わって面白くてさ」

「なるほどね。まさか、このあと試す粉は、今までと全然違う作り方で作ってないよね?」

「大丈夫だ。いつも通りで作った粉は別に出来てる。今やっているのは検証には使わない」

「よろしい」


 疑っていたユウガオが、おれの話を聞いて笑顔になると、指を立てながら背筋を伸ばす。


「じゃあ始めようか」


 ユウガオが、昨日名前を教えてもらった魔力計を取り出す。続いて、魔力の切れた蛍火ロウソクをいくつか机の上に置いた。


「素材と魔力線の粉を混ぜてみて、この魔道具に魔力を入れる。その後、この魔道具の魔力を測って、その値を記録する。これを繰り返して、粉の比率別で魔力の補充能力を確認します」

「わかった。じゃあ、まずいつも通り手で取って、重さを測る」


 右手で素材の粉を握り、そのまま秤に乗せて重さを記録する。次に、左手で魔力線の粉を、いつも通りの量を握って、秤で重さを測る。


「どうだ?」

「だいたい素材7に対して、魔力線3ってところね」

「7:3か。数字にすると、一気に開発感がでるな」

「何よ……開発感って」


 ユウガオに呆れたような表情を向けられる。なんとなくそう思ったんだけどな。


「じゃあ、この7:3の粉を混ぜたものを手に塗って補充しようか」

「あ、手に塗る分も測ってね。こぼしちゃだめだよ!」


 確かに、この量も一定にしないとダメか。

 

 量った粉を、こぼさないよう慎重に手のひらへ載せる。指先で均一に広げてから、蛍火蝋燭の核を握った。

 力を込めると、核が淡く光り始める。その光が消えるまで握り続けた。


 結構神経を使う作業で、疲れるな。


「それで、魔力計をこの魔道具を起動してから付ければ良いのか?」

「そう。それで今の値から増えた分だけ記録して」


 魔力計を手に取ると、既に数値が出ている。これは結界の分だろう。そのまま魔道具に魔力計を当ててみる。


「お!針が動いた」

「止まったところで、針の位置を記録して。その値から結界分を引いた値が補充量よ」


 数値を紙にメモする。


「ふう。できた……」


 初めての実験らしい実験に緊張していたみたいだ。思わず、言葉に出ていた。


「そうね。これが一回。この条件を最低五回やって、平均値をだすの」

「五回か……大変だな」

「まあね。ただ、粉の作り方と、一回に使う量まではこの工程でまとめられるはず。補充量の結果は、効果の方にも使えるわね。だから、後はやるだけよ」

「……そうだな!やるだけだ!」


 やることの目処がたち、やる気が出てきた。


「じゃあ私は自分の課題を進めるから、ここからは別行動しましょう。わからないことは聞いて」

「おう!一日で終わらせるぜ!」

「……できるといいわね。夜の一人作業は原則禁止だから、暗くなったら終わりだからね」

「わかった。ありがとう!」


 おれはとにかくやる気に満ちていた。


 ―――五日後―――


「ユウガオさん、終わりました……」

「もう?結構早かったわね。……一日以上はかかったみたいだけど」


 おれは、開発の大変さの片鱗を見たのであった。

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