素材加工
次の日、朝食を食べてから、第2研究所へ向かう。
研究所の休みは週に一日。好きなタイミングでとっていいこととなっている。
そのため、休みをつなげても2日なので、実家の宿には帰れそうにない。
母さんとの約束があるので、帰れない間は、約束どおり手紙を書かないとな。
外は昨日よりも涼しくなっていた。暑かった季節も終わりかなと思う。
細い近道の方はまだ正しい道を覚えていないので、直線になっている大通りを通って研究所に向かうことにした。
中央にある管理棟を経由する時に、大きい荷物を台車に載せた管理部門の人とすれ違う。
昨日管理室にいた人のひとりだ。足を引きずっている。怪我だろうか。
そのまま何事もなく、研究所に着いた。
扉を開けると、昨日とは違い、静まり返っており、匂いもなかった。
そのまま、2階に上がり一室に入る。
「おはようございます」
入ると同時に挨拶をすると、ユウガオと達じいさんが既に座っており、お菓子を食べているところだった。
「あ。おはよう」
「おはよう」
二人と挨拶をかわし、自分の席に座る。
その際、二人が食べているお菓子が目に入る。
「お。うちのお菓子だ。買ってたのか」
「そう。試しにって一つ貰ったら美味しくて」
「うまいよなそれ。うちの人気商品だ。達じいさんもお菓子が好きなんですか?」
食べていた手を止める。
「達じいでいい。皆そう呼んでいる。お菓子は特に甘いものが好きだ」
「そうなんですね」
そのまま、お菓子を見ると、塩味と砂糖味しかない。
「あれ?味噌味が無いな。買ってないのか?」
ユウガオが目を見開く。
「何それ?」
迫力がある。
「いや、そのお菓子の一番人気は、味噌味なんだよ。ゴヘイモチ食べてたろ?あの味噌が付いてる」
「……そんなのなかった」
「売り切れてたんだろうな。人気だから」
「次は買うわ」
燃えている。頑張ってくれ。
「ときに月燈よ。今日はやる事が決まっているのか?」
「いや?決まってはないです。そうだよな、ユウガオ」
「ええ。そうね」
「自分は加工室で作業をする。昨日の粉を作らないといけないだろう。素材や道具の場所を覚えるためにも、一緒にくるといい」
「いいですね!じゃあ昼までは達じいについていって。午後から、報告書作成の作業をしましょう」
「わかった。よろしくお願いします、達じい」
「うむ」
ちらほらと他の研究員が集まり始めたころ、達じいに「そろそろ行くぞ」と声をかけられ、加工室に向かった。
「達じい。今日はなにをする予定なんですか?」
「他室の開発品の手伝いだ。使いやすい形状に素材を加工して欲しいらしい」
「他の部屋の開発を手伝う事もあるんですね」
「……あまりない。自分が珍しい部類だ。加工担当として古株だからな。頼られると断りにくい」
いい人なんだなと思う。それに他室から頼られるくらいに凄い技術を持っているのだろう。
開発者というよりも、職人って感じがする。
加工室は、朝と言う事もあり、誰もいなかった。素材置き場の近い机に手荷物を置く。
「まずは見ていろ」
「わかりました」
達じいは、素材置き場から土属性の素材を手に取る。角のようだ。
角を三本選ぶと、奥にある竈へ向かった。竈に火をつけ、鍋に水を張って温める。その鍋に角を3個入れて、戻ってきた。
「角を煮ているんですか?」
「あぁ。角は一度煮る事で加工しやすくなる」
「へぇ。知りませんでした。角は固い上、叩いてもなかなか割れないので、苦労しました」
「だろうな。ただし、角は煮た後に叩くと潰れるだけだ。粉にするなら、一度煮た後に削って、その削りカスから作る方がいい」
「なるほど」
素材によって、粉を作るために適した方法があるのか。
「ちなみに、骨ならどうしますか?」
「骨か……。普通に砕いてもいいが、火に入れてもいいのか?」
「火ですか……?やったことないです」
「水気があると砕きにくくなる。だから、乾燥、もしくは焼けば砕きやすくなるだろう」
考えたことがなかった。でも確かに、料理で焼けた後の骨は割れやすかった気がする。
少し相談しただけで、加工の改良点が見えてくる。頼られるだけあって凄い人だ。
話を聞いていると、達じいが手袋をはめた手で、煮えた角を持ってきた。角は綺麗になり、湯気が出ている。
達じいは角を固定し、ノミで削りだした。刃がスルッと入っている様に見える。本当に加工しやすそうだ。
シュッ、シュッと音を立てて、角をどんどん削っていく。削りカスがだんだん山のように溜まってきた。
「達じい、その削りカス貰っていいですか?」
「ん。いいぞ。持っていけ」
「やった」
削りカスを回収して、近くの箱に入れる。結構な量になりそうだし、この状態からなら粉にしやすいだろう。
「これからは、加工で出たカスは素材別で取っておく。その方が良いだろう」
「ありがとうございます!助かります」
やっぱりいい人だ。
多分、これから粉を大量に使うことになるだろう。粉にしやすいカスは、いくらあっても困らない。
大まかに削り終わると、削った角を持って場所を移し、紙やすりで磨き始めた。
シャカシャカと削る音が部屋に響く。
削りながら達じいが口を開く。
「後は魔力線を粉にするんだったな。あれは粉にしにくいだろう」
突然声をかけられたので、反応が遅れる。
「は、はい!そうなんです!すり鉢であまり早くすってしまうと、すり鉢にくっついてしまって……」
「だろうな。あれには蜜蝋が薄く塗られている。その蝋が溶けるのだろう」
「蝋?そんなものが塗ってあったんですか」
全く知らなかった。確かに魔力線の方は、粉にしにくいため、ハサミでできるだけ細かく切って、叩く様にして粉にしていた。少量ずつじゃないと上手くできず、時間がかかる作業となっていた。
「何かやりやすい方法ありますか?」
「そうだな……冷やしながら砕くのもいいが、その段階で素材の粉を混ぜると、上手くいくかもしれん」
「魔力線を粉にしながら、素材の粉を入れるんですか?」
「そうだ。そうすると、すり鉢につきにくくなるはずだ」
そんな方法があるなんて!おれは、試したくなってウズウズしてきた。
思わず素材をチラチラと見てしまう。
そんなおれの気持ちを見越して、達じいが待ったをかける。
「新しい方法を試したいのは分かるが、午前は自分の加工作業見学だ。疎かにするな」
「……すみません」
そうだ。今は教えてもらってるんだ。宿屋で、説明中によそ見している新人がいたら、普通にクビだ。気をつけないと。
それからは、達じいが他室の人と開発品について意見交換したり、加工室にある器具の使い方を教えて貰った。特に『木堅持手』という、加工に使う魔道具は非常に面白かった。今は使わないが、そのうち絶対に使うつもりだ。
そうしていると、外から鐘の音が聞こえた。どうやら、お昼のようだ。
おれは達じいにお礼を言って、管理棟へ向かう。そこでパンバサミを二つ買って、さっき教えてもらった加工を試すべく、走って第2研究所に戻った。




